エピソード10:さらば、部長
「ヒッ…………!?」
―――恐怖。
目の前にあらわれたのは幾人もの血しぶきによって彩られた鉄の棺桶であった。
人型の鉄の棺桶は、扉を開き、針という名の腸を見せつけて、罪人を待ち構える。
本能が。
警鐘を打ち鳴らす。
あれは、だめだ。
理屈では説明できないが。
あれに囚われたら最後。
それだけは理解できる。
寒気が背筋を伝い、猫背の体がまっすぐになりそうだった。
「大丈夫だよ、米倉くん」
「部長……?」
何かを悟ったような、優しい顔で部長は俺に語りかける。
「あの拷問器具が捕らえられるのは一人までなんだ」
「えっ? どういうことですか」
「僕は君を信頼している。必ず裏ミス鷺森のパンツをそのフィルムに焼きつけてくれると」
「……ッ! まさか、部長」
「私がもし死んでしまったら女房に伝えてくれ。『お前を世界で一番愛している』と」
「部長に女房なんていないじゃないですか! 絶対言ってみたかっただけですよね、それ! ちょっと待ってください!」
しかし、部長は止まらない。
すべてを覚悟して。
部長は満面の笑みを浮かべる。
「アディオス、米倉くん!」
その姿は伝承の英雄に負けじ劣らず。
誰よりも勇ましい。
「写真愛好部に栄光あれ!」
部長はアイアン・メイデンに飛び込んだ。
聖母は、何もかもを受け入れ。
何もかもを戒める。
部長がアイアンメイデンの内部に到達したと同時に。
開かれた扉が勢いおいよく閉められた。
瞬間。
肉をつき刺す不快な音が。
骨を穿つ歪な音が。
血をまき散らす残酷な音が。
音が。
聖母の中で反響する。
「ぶ、ちょう……!?」
「んぎもぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
あ、無事っぽいですねー。
心配した俺がバカでしたー。
こうして、この世でもっとも最低な断末魔が体育館に響き渡った。




