あの子の呪い
小さい頃、私は罪を犯した。
幼馴染みで、親友の女の子をー………
殺したの。
その日は秋にしては肌寒い日で、普段重ね着をしない私も思わず上着を着る程だった。
そんな日に親友と私はデパートで遊んでいた。
部活動の無い、久しぶりの休日。
楽し過ぎて一生分笑ったんじゃないかと錯覚する程楽しんだ。
ゲームセンターに、ショッピング、お菓子を食べ歩くのも楽しかった。
そんな帰り、私達はまだ楽しさの余韻を浸りながら話して歩く。
誰と誰が付き合ってるとか、オシャレに関してとか……女の子なら誰もが感心を持つ話題を話して、二人して笑う。
こんな日がずっと続く、そう信じて疑わなかった。例え喧嘩しても仲直りすればいいから、なんて気楽な考えでいたのだ。
そしてそんな私と親友の姿は、とても平凡で日常的な光景だった。
その時までは。
当時中学生だった私達はケータイを持たせて貰う事が珍しく、私も持っていなかった。
しかし、親友は親が共働きだからと言う理由でケータイを持っていたのだ。
当然のように私は興味が湧いて、親友に見せてもらおうとした。
「 ねぇ見せてよ」
「 ごめん、流石に……。個人情報入ってるし……」
今考えれば当然な反応。
だけど、あの時の私は目の前のケータイに夢中だった。
小さい子供の目の前にオモチャをぶら下げているような状態だ、すぐに諦めろと言う方が無理な話なのだ。
どうしても見せて貰いたくて。
だから、今自分達が居る場所がどんなところか、なんて考えも出来なかったんだろう。
気が付けば「見せて」「見せない」と言う、お互い一点張りな会話はヒートアップし、そして私は何かを押すような衝撃を受けつつ、念願のケータイを親友の手から奪い取った。
やったあと嬉しく思ったのもつかの間。
「 あっ………………」
短い言葉。
グチャッ!と何かが潰れるような、そんな音。
私は、突然の事に理解出来なかった。
何が何だかサッパリ分からなくて、目の前がグルグル回る。
それでも真っ白だった頭の中はどんどん冷静になっていき、その現実をまざまざと見せつけた。
私の随分下、小さく見える影。
それは真っ赤に染まった親友だった。
「 ひィっ……っ!」
喉が引き攣り、掠れた高い音が口から零れる。体の中に棒が入っているかのように硬直した。
やっと動くようになってカタカタと震える手からケータイはいつの間にか落ちて、ガチャンと音を立てる。
だが、そんな事よりもこの光景が信じられない。
「 イッ……ャッ!」
私はこんな事をしたかった訳じゃない。
私じゃない。
私は悪くない。
そんな考えが渦巻き、ボロボロと涙が流れてきて。
「 イヤァアアアアアアアア!!!!!」
私の甲高い悲鳴が響く中、こうして親友は死んだ。
親友が“事故”と言う形で亡くなってから七年。
私は中学生から会社に勤める、立派な社会人になった。
今でもあの時の光景は夢に出て、私を苦しめている。
でも、それ以上に親友を失った事が辛かった。
あの時、私の諦めがよかったら。
そう思った事は一度や二度ではない。
そんなネガティブな考えを飲み込むように口に小さく千切ったパンを放り込み、飲み込む。左手にぶら下げる袋の中身を確認すると、苦い気持ちになった。
今日は親友が亡くなったあの階段に来ている。勿論、お参りをしにだ。
袋の中には親友の好きだったお菓子。昔はよく二人で買ったものだ。
このお菓子を巡って喧嘩をした事だってある。
思い出し笑いをしていると、スーツのポケットが振動し始めた。
「 あー、そう言えばコーヒー買って来いって頼まれてたっけ?」
上司からのメールに返信すべく、スマートフォンを弄る。
そんな時だった。
「 あ!ちょっとっ……」
渋い男性の声がしたと思うと、自分に向かって走ってくる犬。そのリードは手放しにされていた。
そして、犬はの足元スレスレを勢い良く走って行き。
「 ………えっ?」
バランスを崩した私は、親友が落ちたあの階段の同じ段数で、落ちて死んだ。
「 ……ユルセナイ」
目の前が真っ暗になる前にそんな声が聞こえたのは、きっと気のせいではないだろう。
マッキー>ねぇ、またあそこの階段で人が死んだんだって。
あいこ>え?それ本当!?
マッキー>本当、本当。
パンダ>それ呪われてんじゃねぇの?
あいこ>怖ー!
番犬>近寄らない方がいいよな?
あいこ>当たり前だよ!
マッキー>近寄ったらあかん。
パンダ>死ぬぞ?
「親友」さんが入室しました
あいこ>こんにちはー
マッキー>こんにちは、親友さん!
親友>アイツハシンデトウゼン
「親友」さんが退室しました
パンダ>は?
あいこ>え?何?
マッキー>荒らしじゃ?
番犬>こわっ
「番犬」さんが退室しました
「パンダ」さんが退室しました
あいこ>えー?じゃぁわたしも落ちるー
「あいこ」さんが退室しました
マッキー>皆落ちた!?
「マッキー」さんが退室しました
「社会人」さんが入室しました
社会人>あの時はごめんね。
「親友」さんが入室しました
親友>
親友>うん、こっちこそごめんね。