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死神少女の図書館  作者: 黒いもふもふ
あなたは図書館へ迷い込む
8/15

愛の叫び

俺が初恋をしたのは、小学二年生の時だった。相手は近所に住んでいた六つ上のお姉さん。


当時親が共働きをして帰りが遅く、鍵を忘れて家の中に入れない、なんて事がよくあった。そんな時に自分の家に招いて遊んでくれたのがお姉さんだったのだ。

当然のように俺はお姉さんに初恋をし、そして俺が中学に上がった時に振られた。


あの時は悲しくて何故振られたのか分からなかったが、今考えれば簡単な事だ。

中学に上がった俺、つまり十三歳の俺に比べてお姉さんは十九歳の大学生。

年の差からして振られて当然だ。


それから弟も産まれて、俺は高校生になったが恋をあれ以来していなかった。


けれど彼女はそんな俺の心を掴んだのだ。


最初に会ったのは、幼稚園。

弟を迎えに来た俺は、沢山の園児が遊んでる園庭で弟を探していた。


そして見つけたんだ、君を。


園庭達に囲まれ、優しい笑みを浮かべる君に俺は思わず釘付けになった。

まるでお湯が湧くかのように、どんどん熱を帯びていく顔に、脈打つのが速くなる心音。

それは紛う事なく、一目惚れだった。


「 ぁ、あの………」


緊張からか、掠れた声しか出なかったが、それでも君には届いたようだった。


「 はい?」


こちらに振り向くと、後ろで一つに縛った髪が揺れ、甘い微かな香りが俺の鼻腔をくすぐる。

いや、そんな事よりも声を掛けたがどうしようと言う緊張でパニックになった。目を不自然に泳がせー………弟が君の手を繋いでるのに気が付いた。


少し胸がズキリと痛くなったのは、どうしてだろうか。


「 お、弟を、迎えに………」

「 あ、和也君のお兄さんですね?」


何で知ってるんだと、唖然とする俺に君は静かに笑う。


「 和也君、いつもお兄さんの事話してるから……」


納得すると共に羞恥心で俯く。

これ以上この場に居たら、俺がどうにかなってしまいそうだ。

弟の手を取ると、君に軽く頭を下げてその場から逃げた。


その次の日も、君はやはり居た。

昨日とは違い肩近くで横に結んだ姿も、とても可愛らしいと思ってしまうのは重症だろうか。

ふとこちらを向いた君は、俺に気が付くと微笑んだ。


あの笑みは、俺に向けられたもの。

そう思うと、カッと身体が熱くなった。いや、それ以上に顔も熱い。


「 和也君ー。お兄さんが迎えに来たよー?」


奥の教室に向かって声を張り上げると、弟が出て来た。

あ、これで帰るのか。


少し残念な感じがした。


次の日も、またその次の日も。

俺は弟を迎えに行った。

迎えに行こうとする母を無理矢理説得してまでだ。

最初はあんな会話しか出来なかったが、通いに通いつめて、なんとか普通に会話出来るようになった。

チキンとかヘタレとか言われようが、俺には会話で精一杯なのだ。

で、デートに誘うとか、こ、告白だとかそんなの出来る訳がない。


そしていつものように、弟を迎えに行った帰りの事だった。

弟が俺の服をグイグイ引っ張るものだからそちらを見ると、憎たらしい程ニヤニヤした顔があった。


「 ねぇ、おにぃちゃんってさぁ。先生の事好きなんでしょ!」


どうだと言わんばかりに胸を張る弟に、先生とは誰か数秒考えて……

あんぐりと口と目を見開いたまま、顔を染める羽目になった。

しまったと思った時にはもう遅く、「やっぱり!」と笑う弟に俺の気持ちが見透かされてしまった後だった。


「 告白しないのー?」

「 出来るか、阿保ぅ!」

「 何でー!?告白しよーよ!」


ちょっ、もう少しは俺の気持ちを察してくれよ!

周りの人が温かい目で見てるから!!


そんな心の叫びが届く訳もなく、家に着いた頃には心身共に疲れきり、母に心配される程だった。


「 告白かぁ………」


いや、まずはもっと親交を深めるべきでは無いだろうか。

そもそも、俺の事を相手はどう思っているのだろうか。


そんな事を考えても、どうしても嫌な方向にしか考えられない。気がつけば、髪がボサボサになるまでベッドの上をゴロゴロゴロゴロ………もしかして、禿げないよな?


そんなくだらない事も考えつつ、奥歯をギリッと噛み締めると覚悟を決めた俺は叫んだ。


「 ファイト、俺ぇーーーー!!!!」


日常と化した、弟を迎えに行くというイベント。

俺はこの日、そのイベントに今までにないくらい緊張していた。気分は正に、戦に挑む将軍のようだ。いや、俺からすると本当に戦なんだが。


園内に入って、不自然なくらい周りを見渡す。

すると弟ともう一人、男の子と手を繋いで廊下を歩く君を見つけた。


い、行くぞ、俺!

今までの努力を実らせるんだ!!


と、心の中で応援団長になった俺が何か言ってる幻覚も見つつ、君の元へ歩みを進めた。


「 あ、あのっっ!!」


手を繋いだいる子供がビックリする程の声。そんな声に俺自身もビックリしつつ、君が振り向くのを待つ。


何秒経ったか、君は此方に振り返って、いつものように微笑んだ。

身体も心も熱くなるのを感じつつ、俺は心の想いを叫ぶ。


「 あ、貴女の事が!す、す好きです!!!!!」






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