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死神少女の図書館  作者: 黒いもふもふ
あなたは図書館へ迷い込む
6/15

彼女の幸せ

ふふっ、はじめまして。

ようこそ図書館へ。


私の名前はアスターシャ。

ねぇ、ゲームをしましょう?

これから私が物語達を話すわ。

聞いてね。

母は美しく、それでいて可愛らしさがあった。決して大柄とは言えないその体型だが、それでも私を含め六もの子供を産んだ、すごい母。

昔、お乳を飲んでは寝る私達に母はいつも言っていた。


「 いつかあなた達は私の元を離れて行くわ。それでも、あなた達が私の子供だって事には変わらないから」


よく分からなかったその話を、子供の頃の私は軽い気持ちで聞いていた。

いつまでも一緒の母と兄妹。

やんちゃな兄達に、どこまでもマイペースな妹達。しっかりしていたのは私だけだった気がする。

そんな家族が離れ離れになるなんて、思ってもみなかったのだ。


けれど、離れ離れになる悲しみを知ったのは九歳の頃。

大きな手をしていてよく遊んでもらったおじさんに、兄妹は捕まって連れていかれた。


「 待ってよ!ヤダよぉ!」


泣き叫ぶ兄妹、悲しそうに顔を伏せる母。

幸せなんてない。

そう思ってしまう程に悲しかった。

次々に兄妹は連れて行かれて、残ったのは母と私だけ。

何日と二人の日々は続いた。


「 お母さん。お母さんは行かないよね?」

「 行かないわよ。貴女を置いて行けるもんですか」


思わず母も私を置いて行ってしまうのではと心配になった私に頬ずりしてくれた母。

えへへとこしょぐったくて笑った。

それから二日経った、そんな時だった。


ガチャンと扉が開けられて、おじさんの手が入って来たのだ。

青ざめて立ち竦む私はあっさり捕まった。

外に出された先には、おじさんと一人の男。


「 怖い、怖いよぉ!お母さん!」


怖くってめちゃくちゃに暴れても逃げれない。

それどころか、おじさんから手渡しされ私を抱きかかえた人は顔を緩ませた。


「 可愛いなぁ、この子がウチの子になるのか。菜々子も喜ぶよ!」


それはもう、デレッデレに顔を緩ませただらしの無い男。

そんな顔に唖然とした私はすぐに車に乗せられたのだった。

今でも車の中で叫び続けていたのを覚える。


そうしてやって来たのがこの家。

正直怖かった。

どこに行くのかも分からないし、どうなるのかも分からない。

精々体をうずくまらせるしかなかったのだ。

それでも、そんな怖い思いをしたのも懐かしく、笑えてしまえる程今はとても楽しい。


私の妹になった、今年高校生になる菜々子。

昔は彼女によくイタズラされたし、イタズラ仕返したものだ。

そして第一印象がだらしの無い顔だった、義父。

よく「内緒だぞ」って言ってお菓子をくれた。太り始めた時は焦ったけど。

最初から優しくしてくれていた義母。

服やアクセサリーを買って来ては着せ替え人形にされたなぁ。


「 花ー、ごはんだよー!」


私の名前を呼ぶ義母。

そうそう、連れて来られたあの後私は花と名付けられた。今ではとても気に入っている。

呼ばれたので、歩いて向かった先には私の昼食が。

今日のごはんも美味しそうだ。

ゆっくりとごはんを食べる。


「 お父さん。花がね、この前降ってた雪を食べてたんだよ」

「 え?食べちゃったのか?駄目じゃないか、花。食べちゃ駄目だぞ」


菜々子が義父にそう告げ口をした。

いやぁ、だって美味しそうだったし。

気まずくなって目を逸らしながら食事をする私の頭をポンポンと義母は撫でた。

優しい目でこちらを見て、まるで大丈夫と言っているかのよう。

やはり優しい人だ。

その優しい手に鼻を押し付け、ペロリと舐めた。

ここに来てから早十一年。

私はもう、六十歳になる。

随分歳を取って、後先もう短いこの体。


散歩も最近はヨタヨタと歩く事が多くなったし、食事も柔らかい物が多い。今食べているごはんだって、わざわざ柔らかく作ってくれた物だ。

前は産んでくれた母に似た黒毛がフサフサと体を覆っていたのに、ここのところは白髪が増えているし。

こんなお婆ちゃんになってしまった私だけど、せめて菜々子の入学式までは生きたい。

生きて、最後は元気に走ってやろう。

それが私のせめてもの意地。

食事の終わった私は食事を続ける菜々子をじっと見てそう決意して眠った。


夢の中、若い私が若い義父と一緒に散歩している。それはもう、楽しそうだ。

この頃はまだまだ全然走る事が出来て、走るのが大好きだったっけ。

だからこんな夢を見ているのか。

そして夢の中で私達はいつものお散歩コースの階段に差し掛かった。

何だっけ、この先に行ってはいけない気がする。何でだっけ。

そう思考するも、結局分からずに私は義父から離れて行って勢い良く階段を駆け下りた。


そこで目が覚める。

結局思い出せないままだ。


「 花ー、お散歩行こうか!」

「 ワンッ!」


まぁ、いっか。





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