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死神少女の図書館  作者: 黒いもふもふ
ゲーム=提示⇔手札
4/15

血を本に捧げましょう

とある道をある少女は歩いていた。

友人にもらった水色のお気に入りの日傘を差しながら向かう先は森の中。

森は木々が生えて光があまり入ってこないとは言え、紫外線は女にとって最敵なのだ。


暫く歩くと、日傘を持つ手とは逆の片手に抱いた本に興味を抱いたのだろう。

小鳥が木から飛び立ち、少女の肩に止まった。チラチラと興味有り気に本を見下ろしている。

そんな小鳥の可愛らしい行動に、気が付けばその小さな頭に頬ずりしていた。


「 ふふ、小鳥さんこんにちは。今日はいい日ね」


人に慣れているのか、はたまた人懐こいだけなのか、一向に逃げなくピュリリと小鳥が鳴く様子に思わず少女は微笑んだ。

もしこれを第三者が見ていたら、まるで絵画のような美しい光景だと思ってしまうだろう。


「 小鳥さん。今日はね、良いことが起こりそうな気がするのよ。だからこんなに良い天気なんだわ」


そんな小鳥に上機嫌になりつつ、カツカツとヒールを鳴らして歩くと、共に緩やかに巻かれたブロンドの髪がフワフワとなびいた。

しかし、その時間は長くは続かない。

そんな少女の髪をまるで何かを教えようとしているかのように、突然小鳥は突つき始めたのだ。

全く、女の子の髪を突つくなんて駄目ね。

そんな事を思いながら微かな痛みに顔をそちらに向けると、そこには道端に倒れる黒いパーカーを着た青年がいた。

ぷくぷくと太ったその顔はとても青白く、死んでしまっているのではないかと錯覚させる程だ。

唐突過ぎてきょとんとしたまま暫く停止してしまったのだが、流石に放って置いてはいけないと思ったのか、足速にそちらへ向かった。

近寄るとさらに彼の顔の青白さが極まって見え、慌てたように手を伸ばす。


「 ねぇ、ねぇ生きているの?」


体を屈ませて、グラグラと青年の体を揺らすも反応は無い。

もしかしたらと思い手首の脈を取ってみると、トクントクンと脈を打っていた。

どうやら気絶しているだけらしい。

その事実にホッと安堵し、長い息を吐く。

良かった、自分の知らないところで死なれては困るのだ。

少女はペチペチと平手で青年の青白い顔を軽く叩くと全く起きる気配がないのを確認し、膝下まである紅のスカートをたくし上げて、太ももに巻いたベルトからおもむろにナイフを取り出した。

今から行う行為を思うと、つい笑みが出てしまう。その笑みはまるで待ち焦がれていた恋人を見つけたかのように蕩けていた。

どこが最適かと考えていると顔同様、贅肉の付いてプクプクとした青年の手が目に映った。

その手の平にナイフを押し付けると、ゆっくりと赤い線を引いていく。

浅く斬ったとは言え傷は傷だ。血が流れ、青年の手の平を徐々に赤く染める。


「 幸運だったわね、貴方。生きたまま物語になれるんだもの」


そう言って妖美に笑う少女は片手に抱いていた本を適当に開き、そのページに青年の血を塗りたくった。

やがてその本はどう言う原理か鈍く発光し、一人でにページは閉じられた。

その様子に満足気に頷く。


「 ねぇ知ってるかしら?人の血には沢山の思い出、つまり記憶と言う名の情報が含まれているのよ」


愛おしげに本を撫でるその手は、先程人をナイフで斬りつけた人物の手とは思えない程優しげで優美だ。

しかしそんな風に話掛けても気絶している青年の反応は無く、ただ静寂が生まれるだけ。

それでも構わないのか、少女は一人話し続ける。

それはまるで人の死を知らない幼子のように。


「 この本は人の血を吸う事で、私に物語を教えてくれるの。だから貴方はたった今物語になったって事ね」


立ち上がり、その衝動で小鳥は驚いたのか何処かへと飛んで行った。

やはりこんな自分の事が嫌いなのかと少しの失望とショックでため息を吐くと、目を伏せ踵を返す。

紅のスカートがその際にフワリと広がり、花のように魅せるもそれはまるで毒花のようで、近寄った者を死へいざなってしまいそうだ。


「 ふふっ、さようなら。また何処かでお会いしましょう」


ふふっ、ふふふふふふふふふ!

森にそんな笑い声が響き渡り、益々森の不気味さが増していき、やがて少女の姿は消えた。




森の中、一人の太った青年は倒れている。

土の地面に顔をつけ、手の平から血を流しているその青年には一部分の記憶がない。

そして、そんな青年をどうしようかと見下ろす人物がいた。

血で濡れたような紅い髪に、目の釣り上がった少年。

彼はたまたまこの道を通り掛かり、そしてこの青年を見つけてしまったのだ。


「 全く。アスターシャの奴、後片付けくらいして行けよな」


端整な顔立ちを歪ませ不機嫌そうに呟き、青年をその背に嫌々担ぐ。

本来こんな事をしたりしないのだが、相手はまだ生きているのだ。仕方ない。


「 にしても、コイツ重いな…」


ズルズルと青年の足を引きずりながら向かった先は街の方。

ここは自分達の砦である森だ。どう行けばどこに出るなどは分かりきっている。

真っ直ぐ、ひたすらに真っ直ぐ進む少年。

そうすればいずれ街へと出るだろう。そこにこの青年を置いて帰ればいい。


「 可笑しいな…俺はゲームをしに来たつもりだったのに」


密かに悪態を付き続ける少年は、青年と共に森を後にしたのだった。




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