石畳みの道
これはある青年視点のお話
都市伝説、七不思議。
それ等は興味の無い人間にとって‘ 所詮 ’で片付けられてしまうモノ。
ある時はあの有名なアニメや映画が、またある時は知っている学校が舞台となるそれ等は、人から人へと広まって後を絶たない。
だからと言って‘ 所詮 ’だからと甘く見てはいけない。
静かに音を立てず、けれども確かにそれ等は存在しているのだ。
そして、今も人を待ち続ける都市伝説がまた一つ。
(オカルトページ、「家心」より一部抜擢)
俺は今、何も持たず手ぶら状態で森を歩いていた。
もうすぐ春になるから外は暖かいだろうと思っていたが案外寒く、着てきたパーカーでは若干心ない。
時々体を摩りながら土を踏みしめ、草を掻き分け、木々の間を縫うようにして歩くも、微かに見える空が赤く染まっていくだけだ。
もしかしたら行方不明になった生徒達も、こんな風に歩いていたのかもしれない。
そんな風に考え、ため息を吐いて足元を何気無く見下ろした時だった。
「 石…畳み?」
ここは森の中だ。当然地面は土や腐った木、木の葉などが普通なのだが、そこにあったのは何故か石畳みだった。
つまりそれは人が居る、もしくは人が居た事になる。
「 って事はオカルトページに載ってたのは本当の事って訳か?」
それは当然そう考えられる訳で。
今までは普通の森だったのに、どうしてか不気味に思えて手が自然と震え、冷や汗がどっと出た。
恐怖。まさにその言葉が今の心情には当てはまるのだろう。
さらに震えてきた足で後ずさりする。
「 かっ、帰ろう……!」
本当は自殺するつもりで来たのに、実際死ぬかもしれなくなったら怖くて恐ろしくなったのだ。
仕方ない。そんな言葉を言い訳に踵を返して走り出す。
きっとこの方向に走っていけば帰れる筈。
そう信じて。
時々転びそうになりながらも走る。
けれどもどんなに走っても、走っても、走っても走っても走っても走っても、森から出られる気配がしない。
それどころか前は細い石畳みの道だったのに、今では下を見下ろせば石畳みしか見えない。それなのに木々は生えていると言う不思議な光景が目の前には広がっていた。
こっちから来たんだ、きっと帰れる。
死ぬ筈がない。
きっと、きっと大丈夫。
そう自分を奮い立たせ、荒い息を吐きながら走り続ける。
もう目の前は涙でボヤけ、握り締め過ぎた拳は白くなってきていた。
それでも自分には走るしかないのだ。
やがて走り疲れた頃、ソレは見えた。
落ち葉が所々に落ちている灰色の屋根に薄汚れたレンガの壁。
まごうことなくコレは建物だ。しかも相当な大きさの。
門が大きく開いているのを見た瞬間、ガクリと膝から崩れ落ちた。
俺は、もう帰れないのかもしれない。
中学の時、もう少し真面に勉強していれば。
高校の時、もう少し真面に進路について考えていれば。
あの時、両親と喧嘩しなければ。
沢山の人が、沢山の事が、次から次へと思い出されては頭の中を流れていく。
これが走馬灯と言うのだろうか。
「 母さんっ、ごめん俺っ……!」
そして目の前が真っ暗になった。