イッツファンタジー!
中学の頃、周りの同級生は恋に興味津々だった。
今考えれば皆、ただ単に恋に恋をしていただけなのかもしれないけれど、それでも私は皆の言う恋と言うモノが理解出来なかった。
正確には三次元の恋が、だけど。
私の暮らす日本の代表的な文化、それは漫画やアニメだ。
時には海外の人達をも魅了するソレ等に、私もどっぷりとハマっていた。
暇さえあればお気に入りの漫画を読み返し、録画して録ったアニメを見る。それが私の日課なのだ。
特にハマったのが、呪いで幼くなった男の子が呪いを解くべく悪に立ち向かう、と言うアクション漫画。
女の子なんだから、恋愛やらの少女漫画を読めばいいのにと母親にはよく言われたけれどね。
そして私はその漫画を何度も何度も読み返し、その幼い主人公に恋をした。初恋にしては少し悲しい気もするけど、好きになってしまったものは仕方がない。
以上が私の自己紹介。
何気に初恋の相手が容姿端麗のハイスペックだったからか、今だに恋が出来ずに年齢=彼氏いない歴なのだ。
か、悲しすぎる!
「 ってのが私の前世です」
「 うん、平凡〜」
そんな気の抜けた話し方と台詞に私はガクリと肩を落とす。
「 てか、いきなり何なんですか?神様とか言われても……宗教勧誘ですか?」
「 違うよ〜!本当の本当に神様なんだって〜。この前なんか、とある青年を異世界に送り出したし〜」
「 知らんがな!」
神様(仮)が目の前の椅子に腰掛けてお菓子を食べている。そしてピチピチの幼児こと私はソファーに寝転がって、三歳児にしては考えられない程流暢に話し、時にはツッコミを入れていた。
はて、どうしてこうなったんだっけ?
確かあれは寒い寒い雪の日。私は橋の下でー……
「 いやいや、橋の下とか〜。産まれた時からずっとこの部屋に居たでしょ〜?」
「 うるさいな、いいじゃん雰囲気あって」
「 ダメだよ〜。それにそれじゃあご両親が悪者になっちゃう〜」
「 そもそも、そのご両親に買われた身なんだけどなぁ」
「 そこはホラ……ドンマイ〜!」
「 なんでやねん!」
思わず大阪弁でツッコミを入れてしまう程にいい加減過ぎるよ、この神様(仮)。
ふと真面目に相手しているコッチが馬鹿らしく思えて溜息を吐いた。
話を戻すが、私は人工的に造られた赤ん坊らしい。
と言うのも、今まで自我はあったものの記憶がなく、いわゆる記憶喪失みたいなモノになっていた。
そして「 あれ?私確か死んだ筈じゃ?」なんて思い出したのが今さっき。
神様(仮)曰く私は生前女子大生で、車の免許を取って直ぐに交通事故で死んだとか。居眠り運転をしていたトラック運転手に、私含め計三台の自動車が巻き込まれた交通事故。
これを聞いた時は驚き過ぎて顎が外れるんじゃないかと思った。
そんな交通事故で死んだ私の魂は成仏出来ずに、何十年も先の未来のこの身体に乗り移ったらしい。
なんてファンタジー!
だがここで誤解しないで欲しい事が幾つか。
まず、私はこんな風に転生したいと思っていた訳じゃないって事。
確かに小説で見る異世界転生とかに憧れた時期もあった。けれど私はもう大学生+aと言う大人なんです。
やっぱり異世界でサバイバルライフよりも日本で平穏な日々を過ごしたかった。
そして家庭崩壊しても可笑しくないような現状にいると言う事だ。
転生したから今度こそバッピーライフを送っているだろうと思ったそこのアナタ。それが全然違うんだな。
体質からか子供を産めなかった母は、名だけ妻で父に基本放置されている。勿論自分の子供でない私を愛せる筈などなく、子供も放置と言う育児放棄。
父も私を買っておいて、自分からは関わらず触らずの、やはりこちらも育児放棄。だったら何故買った。
そんなこんなで、子供の世話は孫が出来たと泣いて喜んだ祖母に全て任せている、と言うのが現状だ。
それで良いのか、両親よ。
「 でもまさか、男に転生するとは思わなかったなぁ」
「 うんうん〜、それはウチも想定外だったよ〜」
娘ならぬ息子に転生してしまった私は、どうやら父の跡取りとして造られ、買われたらしいのだ。
跡取りとか、生前女子大生の一般人に期待するもんじゃないよ。
「 まぁ、ウチがサポート役を見つけて来てあげるから安心して〜!」
「 サポート役?何それ?」
「 手伝ってもイイよって言ってくれる魂を見つけて、こっちに連れて来るの〜。そして転生させれば君のサポートをしてくれる筈だから〜」
「 筈!?」
「 うん〜。けど少し時間が掛かるからね〜?年齢の方は時空をちょちょいと弄れば、そのサポート役も同年齢になるから〜」
いやいや、時空とかちょちょいと弄れるモノじゃないでしょう、普通は。
あまりの規格に生返事しか出来なかったが、それでも心の中で突っ込めたので良しとしよう。
ここで一旦会話が途切れて沈黙が流れると、神様(仮)は突然立った。
「 それじゃあ、ウチはもう行くね〜。転生者君に幸あれ〜!」
「 祝福軽っ!」
そう言って神様(仮)は消えていった。お、おぉう、イッツファンタジー!
「陽ちゃん?おばあちゃんよー?」
コンコンとノック音がしてドアが開くと、シワが目立つものの、可愛らしい印象の祖母が部屋に入って来た。
因みに陽ちゃんとは今の私の名前で、本名は松本陽介。
生前は陽子って名前だったから運命を感じる。
「 おばーちゃん!」
「 陽ちゃん、今日はおばあちゃんが絵本を読んであげるわね」
「えほん!」
まぁ、三歳児だからこんな喋り方をしている訳だが、中々精神的に疲れる。けど流暢に話す三歳児は異常だし、これも我慢するしかない。
「 題名は、人生で成功する二十四の方法!」
「 ファッ!?」
え!?
それ絵本なの!?
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