紅い髪の友人
小さい頃、僕は交通事故に遇って運命の出会いをしたんだ。
それは僕が小学二年生の時、僕と両親は祝日を利用してテーマパークへ遊びに行こうとしていた。
当時そのテーマパークへ行ったと言う友達が羨ましくて、両親へねだったなぁ。
そうして車で移動する僕等。
渋滞によって動けなくなった車の中でも、テーマパークへ行くんだと思うと楽しい。
「 おかぁさん。僕ね、グルグルーって回るやつに乗るの!」
「 グルグルに乗るの?」
「 うんっ!それでね、お馬さんにも乗るの!」
「 そっかぁ、お馬さんにも乗るのね」
多分グルグルはコーヒーカップで、お馬さんはメリーゴーランドだと思う。
それでねと話し続ける僕に母はニコニコ笑って、それが僕も嬉しくてニコニコ笑ってた。
「 なぁ。渋滞がまだ続くけど、一旦パーキングエリアで休憩するか?」
「 うん、そうね。私も丁度喉が渇いてたし、飲み物買おうかしら」
「 貴志はおトイレ行くか?」
「 うん、行くー!」
「 じゃあ、決まりだな。そこのパーキングエリアで休憩しよう」
渋滞の中、チラリと見えたパーキングエリア。
僕等はそこで休憩して、それからまたテーマパークへ向かうつもりだった。その時までは。
パッパーっと聞こえたクラクション。
ふと不思議に思いそちらを向けば、反対車線からガードレールを突っ切って、こちらへ突進して来る大型トラックがいた。
「 え?」
誰かが漏らしたそんな声が妙に響くと、鈍い衝突音が辺り一面に響き渡り、グラリと車体が揺れる。
「 うわぁぁああああっ!」
まるで絶叫アトラクションの様に揺れる車体に幼い僕は振り回され、両親は必死に僕の名前を呼んだ。
交通事故と言うものを知らない僕でも、これは危ないと本能的に分かったんだ。
横に倒れ、逆さまになり、もう一度横に倒れて、また逆さまになる。
グルングルンと回る中だ、当然掴む物を探す暇もない。
「 あぅっ!」
やがて頭に殴られたような衝撃を僕は受けた。
ゆっくりと視界が暗くなって、意識が遠のいて行く。
しかし、そんな時に彼はいた。
やっと止まって、歪んだ車体から見えたのは足。
誰がいるの?助けて。
口でそう言いたいのに、声が出てくれなくて、泣きそうになった。
「 なぁ、お前はきっとまだ死なねぇよ」
うん、僕も死にたくなんかない。
その足の主はゆっくりとしゃがんで僕に、否僕の血に手を伸ばす。
「 だからさ、お前の物語をくれよ。そしたら特別に助けてやらない事もない」
僕は知らない。この時微笑み返した事で運命が決まるなんて、僕はまだ知らない。
紅い髪をした彼は、そんな僕を見てニヤリと口角を上げた。
「 餓鬼の癖して賢いヤツだな。いいよ、助けてやる」
「 おかぁ…さん……お、とぉ…さん……は」
「 安心しな、両親も死なねぇよ。軽い脳震盪起こしてるくらいだ」
「 のー……し、んとー……」
脳震盪が何かは分からなかったけれど、取り敢えず両親が死んでないと分かってホッとした。
安心して気が抜けてしまったからか、急に瞼が重くなる。
「 …そうだな、今はちょっと眠っとけ」
完全に意識がなくなる前に見聞きしたのは、そんな声と胸元に付けた何かに血を塗る彼だった。
それから早六年、僕は定期検診をしに病院へ来ていた。あの事故に遇って足に障害を持ってしまったのだ。なんでも、両足を切断しないといけない状況だったらしい。
病院で意識を取り戻した後、足が無い事に気が付いた時は物凄くショックで悲しかったけれど、今は事故をきっかけに友達が出来たからそこまで悲しくはない。
たまに不自由には思えるけど。
キコキコと車椅子を押して向かう先は談話室。
そこに友達、彼はいる。
「 やぁ、久し振りだね!」
「 ……よぉ」
紅いその髪を隠すかのようにハンチング帽を被り、白いシャツに黒のパンツと言うお坊ちゃんの様な格好の彼はリオン。
そう、あの時僕を助けてくれた彼だ。
椅子に座って頬杖をついていた彼に僕は車椅子で近寄った。
「 リオン、今日は何を話そうか?」
「 さぁな。それにしてもお前、俺の元に来るなんてよっぽどの暇人なんだな」
「 ……君が僕の元に来てるって方が正しいんだけどな」
「 はぁ?誰がお前なんかの元に行くか!バーカ」
君はツンデレか!
僕は定期検診があるからここに来ないといけないけれど、彼は健康体だからここに来る理由がない。
つまりそれは僕に会いに来てくれているって事なんだけどなぁ。
可笑しいなぁ。
「 何笑ってるんだよ、気色悪りぃ」
「 君って何気にとことん酷いよね。僕じゃなかったら心挫けてるよ」
相当ニヤニヤしていたのか、彼が身を引いている。
本当、彼の毒舌はどうにかならないのだろうか。
僕は心が鉄のように硬いから大丈夫だけど、きっとこの調子じゃ彼に友達は出来にくいだろうな。
「 あ、そう言えば。あの金髪の子は今回来てないの?」
「 金髪ってアスターシャか?あいつは今回来てねぇよ。……まさかお前、あいつに気があるとか言うんじゃ…?」
「 いやいや、違うからね!」
「 そうか。あいつだけは止めとけよ。おっかねぇからな」
彼女に前会った時は優雅なお嬢様みたいに見えたが、それは違うと言う事らしい。
大人しい人程裏表があるって聞いた事があるけれど、本当の事だったのかもしれない。
それにしても、こうして会話しているとふと思い出す。
最初は彼と会話さえもろくに出来ず、ギスギスした空気が漂っていた。勿論今は穏やかな空気の中話せれる。
僕も彼も中々に長い付き合いだからなぁ。
思い出すと懐かしい。
「 君と出会えたのは本当運命だよねぇ」
しみじみ僕が呟くと彼は勢いよく立ち上がり、壁際まで凄いスピードで後退りして行った。
え?どうしたの?
まるで彼の表情は、生理的に受け付けられないモノを見てしまった時のように引き攣って、青ざめている。
「 お、お前っ!だから俺に会いに来てたのかっ!?」
「 え?」
「 俺はそんな気全っっ然ないからなっ!」
「 え?ゴメン、話が見えないよ」
「 え?」
「 え?」
どうやら今日の彼は少し変みたいだ。
こうして僕等の穏やかな一日は過ぎていった。




