神様はプラカードと共に
時代の中での進化と呼べるものは数え切れない程膨大にある。
例えば生物の環境へ応じた進化。
例えば各種族の文化の進化。
それ以外にも探せばもっとあるだろう。
そして、この書物もそんな時代の中生まれた。
「 あぁー、異世界へ行きてぇ……」
俺がそう嘆き手に持っているのは、主人公が異世界トリップしてしまう王道なライトノベルだ。
就職しにくいこのご時世、やはり現実逃避と言うものが必要な訳で、会社に勤めるサラリーマンな俺もライトノベルを読んで現実逃避していた。
だから少し死んだ目をしているのは許してほしい。
いや、本当上司の事とか色々でストレス溜まって仕方ないんだって。
「 突然床光って、異世界召喚とかないかなぁ…」
大学生時代からの一人暮らしで独り言が増えた俺はブツブツと呟く。
まぁ、反応してくれる人は居ないんだけどな。
逆に一人暮らしなのに反応する人がいたら恐いか。
「 うんうん、どんなホラーって感じだよね〜」
「 だよなぁ……って、ん?」
「 ん?」
は、反応見つかりました!隊長!
よし、突撃っーーー!
ってなんでやねん。よし、落ち着け俺。
急に聞こえた自分以外の声にテンパりつつ、胸に手を当てて深呼吸をする。
うん、少し落ち着いてきた。
「 それにしてもこの部屋汚いね〜」
うるせぇ、汚い言うなし。
男の一人暮らしなんだ、仕方ないだろ。
手に汗握った俺が馬鹿に思える程能天気なその声に思わず突っ込んだ。
勿論心の中でだが。
変な脱力感を感じながらも声のした方を振り向くと、そこにいたのはフワフワした緑色の髪を腰まで下ろした二十代程の女性。
ご丁寧に「 ウチは天から来ました」と書かれたプラカードを胸元に掲げている。
大阪のおばちゃん達がたまに紫色に髪を染めていたりするが、この人もそんな感じだろうか。
しかしそれよりかは、神様って感じの白い布を体に巻きつけているし、コスプレイヤー達の領域だと思う。
それなのに「 ウチは天から来ました」なんて痛いプラカードを持っているんだから、全体的に残念な気がしてならない。
「 あ、どもども〜!やっとコッチ向いてくれたね〜」
「 ど、どうも」
「 元気ないよ〜!あ、これ飲む〜?天界で今話題の栄養ドリンク(笑)〜」
「(笑)が恐いよ!?」
「 元気が出る代わりに、味が強烈なの〜。思わず周りの人も鼻を摘まんじゃう優れもの〜!」
「 それ優れてないからな!?てか天界の人それに頼るってどんだけ疲れてんだよ!そしてその栄養ドリンク(笑)どこから出した!?」
どこからか栄養ドリンク(笑)を取り出してこちらへ差し出す痛い女性。
その能天気な喋り方かコントの様な会話でなのだろうか、微かに感じていた緊張が一気に吹き飛んだ。
そしてその緊張の代わりに感じるのはやはり脱力感。
ツッコミを入れて貰えて嬉しかったのか、女性はえへへと笑う。
「 えへへ〜。あ、それでね〜!貴方さっき異世界に行きたいって言ってたでしょ〜?」
「 お、おう。まぁな」
「 そこで、貴方を異世界へ飛ばす事にしました〜!ドンドンパフパフ〜!」
「 何だって!?」
拝啓、新婚並みにラブラブな母さん、親父。
どうやら俺は怪しい宗教の勧誘に遇ってしまったそうです。
「 ど、どうしてそうなった!?」
「 どうしてと言われても〜。ダーツの旅みたいにダーツ打ってみたら、貴方になったから〜」
「 だ、ダーツ?てか今更だけどアンタ誰だよ?」
「 えぇ〜、今更過ぎるよ〜。ウチは神様って呼ばれてる存在だよ〜」
「 うえっ!?神様って、マジで!?」
確かによくある王道の異世界トリップでは、神様がよく絡んでいた。
けど、アレは死んだ後に白い空間に行ってからじゃなかったか。
なのに俺は白い空間どころか、死んですらもいない。
そこんところどうなんだろう?
「 死んでからだと体の再構築とかあって面倒なんだよね〜。流石に死体を異世界へ飛ばす訳にはいかないし〜」
「 …言われてみれば確かに」
「 でっしょ〜?だから、コッチ見て〜」
「 ん?」
考える癖で下を向いていると、そんな声が聞こえた。
思わず反射的に顔をそちらへ向けると、自称神様は例の栄養ドリンク(笑)を手に持っていた。
次に蓋へ手を掛ける。
自称神様の残虐的な笑みもあって、嫌な予感しかしない。
ま、まさか……!?
「 確か下界では萌えが流行ってたよね〜?」
「 ま、待て!早まるなっ!」
「 ぐふふ〜。それじゃあ」
怪しい笑い声にゾクッとした。
きっと今俺の顔は真っ青だろう。
そしてついにその容器は傾けられる。
「 逝ってらっしゃいませ、ご主人様〜!」
「 ぎゃぁあああああ!臭ぇええええっ!!!」
ビシャッと音がして、栄養ドリンク(笑)は俺の顔面へ掛けられた。
それと同時にこの世の物とは思えない程の臭さが鼻孔をくすぐる。
お前はメイドじゃねぇ。冥土だ!
「 うんうん、これで彼は異世界へ行ったね〜」
雑誌やらが散らかった部屋で、神は一人達成感を味わっていた。
今回彼を異世界へ飛ばした理由、それは確かにダーツの件もあるが、イレギュラーがこちらへ来た際に使用した転移魔法陣を消さなくてはいけなかったからだ。
それを消すにはその陣を往復、つまり二度使用しなければならない。
別に放っておいても神自身は困らないのだが、地球と言う世界で満足している人間がいきなり異世界へ飛んでしまうのは少し可哀想なので、今回異世界へ行きたいと願っていた人物の中から彼を選んだのだ。
きっと彼ならば大丈夫だろう。
「 あ。加護与えるの忘れてた〜!」
頭を抱えるも、異世界へ飛ばした後ではもう遅い。
自己嫌悪しつつゴロゴロと床を転がる神を、迎えに来た天使が見たのはそれから少し後だった。
評価等が話を生み出すエネルギーになってますので、感想や評価の方、よろしくお願いします。
きっと泣きながら喜びます!




