閑話.少女の物語は
ある空間に少女と少年が向かい合っている。
温かい紅茶に、数々の甘くて絶品のお菓子。
しかし、二人を包む空間は異様に冷たいものだった。
動作一つ一つが優雅でどこか儚い少女と、一つの行動は荒っぽいものの、根は優しい少年。
二人はこのお茶会が始まってから今まで、一度も口を開いていなかった。
しかし少女は紅茶のカップを音も立てずに置いてから、重たい口を開いた。
「 恋愛だとか。
ファンタジーだとか。
SFだとか。
私は映画やドラマが大嫌い。
それと同じくらい、本も大嫌い。
だって物語は続いてるのに、映画やドラマ、本は勝手に終わらせてしまうもの。
嗚呼、嫌いよ、大嫌い。
私の物語も、いつかは終わらされしまうのかしら?
恐いわ。
何よりも、終焉してしまうのが怖いわ。
終焉が恐くて怖くて。
けれど、物語は増えるのね。
映画やドラマ、本は語り継がれて行くわ。
けれど、他の物語は?
例えば、ある青年の結婚までの物語は?
例えば、少女の日々の物語は?
例えば、ペットの人生の物語は?
タイトルがある物語は語られるけれど、タイトルのついていない物語は、知ってるようできっと誰も知らないのね。
私の物語も、きっと誰も知らないんだわ。
なんて可哀想なのかしら。
なんて理不尽なのかしら。
なんて、なんて恐ろしいのかしら」
まるで独り言のようなその言葉を聞いた少年は眉を潜める。
コイツはこんなに弱々しい奴だったかと。
少女とは対に、カチャンと音を立ててカップを置いた少年は面倒くさそうに口を開いた。
「 バカなんじゃねぇの?
そんなの分かりきってた事だろうが。
語り継がれる物語なんざ、所詮作り話さ。
俺等の、住民達の物語を他の奴には作らせねぇ。
一つきりのオーダーメイドの物語だ。
ったく、シッカリしようぜ。
お前がそんなツラしてると、他の住民達がソワソワして鬱陶しいんだよ。
それに知りたかった訳じゃねぇが、お前の物語は俺が知ってる。
そう簡単に忘れるかよ、あんな面白い物語。」
フンッと鼻で笑う少年に少女は数回瞬き、嬉しそうに微笑む。
「 面白いなんて、言ってくれるじゃない」
「 誤解すんなよ。俺は暇が嫌いだ。暇にならなそうな物語だったから、面白いって言ってやったんだ」
「 私としては、貴方の物語に興味があるわね」
そんな言葉は予想外だったのか、ピクリと片眉を上げて顔を歪めた。
それでも一回カップを持ち上げ紅茶を飲むと、先程よりも大きな音を立てて雑に置く。
その際に多少紅茶が零れたが少年としては問題ないのだろう。
「 だーれが教えるか。バーカ!俺の物語は俺だけのモンだっての」
「 独占欲が強いのね」
「 言ってろ!」
顔を背ける少年に、優雅に笑う少女。
なんだかんだ言って今日もお茶会は賑やかに過ぎて行ったのだった。




