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まばたきの中の永遠

作者: 忘れん坊

 

                 第一章 山の村


ふと目が覚めると、真っ暗な全く知らない所の村人になっていました。

 名前も家も全く分からない。山の麓でどうしたらいいのか考えていると、「どうしたんじゃ?」と後ろから声がしました。振り返るとそこには提灯を持った老婆が立っており、優しく笑みを浮かべていました。

「私のことをご存知ですか?」と尋ねると、「まだ何も思い出せないんだね。あなたは私の息子だよ。」

「私はどうしたのですか?」

「海の村に行こうとして峠を越していた時、石が落ちてきて頭に当たってしまったらしい。一緒にいた二人も石が当たったらしく、お前と同じように何も思い出せないらしいよ」

 鉄晴は他に二人いる事を知り、何をすればいいのか分からないが、とりあえず峠を登ってみようと思って道を尋ねました。

 峠に着いた時、二人の人影を見つけたので、ゆっくり近づいて行って声を掛けました。

「あの~、少し変な事を伺いますが、いいですか?」と言うと、二人の内の一人が言いました。

「君も違う世界から来たのかな?」鉄晴はびっくりしながら、少し安心しました。

「二人とも、ここの人じゃないのですか?」

「うん、違うよ。たぶん別の世界から来たみたいだ!」と涼太が答えました。

「何故、私達はここに来たのでしょうか?」と美香が尋ねました。

「僕は前に一度同じような経験をした事があるけど、その時は僕一人だけの経験だったけど、今回は三人だよね」

「わたしも、前に経験した物語は一人でした」

「僕もだよ」

 三人はいろいろな考えを話し合い、今回は三人で協力しないとクリアする事が出来ない無いのじゃないかと言う結論はでましたが、その理由と何をすれば良いのかが全く分かりませんでした。ただ、共通点といえば三人共この場所で事故に遭ったことと、全員がこうゆう世界の経験者である事でした。

 そして、三人の意見が合ったのは、この峠に元の世界に戻る為に必要な解決のカギがあると言う事でした。

 各々は家に帰って、この峠について出来る限りの情報を集めて再び明日の昼過ぎに集合することにして帰りました。

 翌日、三人は約束通り色々な情報を持ち寄りました。

「この峠は、海の村につながる唯一の道である事」、「この峠を越えようとして何人も亡くなっている事」、「今度の地震で大岩が道を塞いでしまったので全く行き来が出来ないので、村人が非常に困っている事」でした。

 三人は、これらの情報を元に推測して一つの答えを出しました。

「たぶん、私達三人にこの峠を安全に通れるようにしなさい。」と言う事だろう。

 しかし、道を塞いでいるのは大きな岩です。

「この大きい岩を壊せ」と言う事なのかな?

「これを壊すのにどれくらいの時間が掛かるのかな?」

「この村の道具を見ると、鉄は貴重品のようだ。だからそれ以上の物は期待出来無いと思うので、軽く10年は掛かるじゃないかな。」

「長いわね。他になにかいい方法はないかしら?」

「う~ん、この道を通るためにはこの岩を壊すしか無いと思うけどな?」

「そうだ!この岩を埋めて道にしたらどうだろう?」

「なるほど。壊すより早く出来そうだ。その方法でやってみようか?」

「そうだね、私も賛成だわ」と全員の意見が合いました。

 三人共道を造るのは初めての事なので、何をどうすればいいのか話し合いました。

「どうする?」

「とにかく邪魔な木や草を抜いちゃえば、どうにかなんじゃない」

「私達三人だけで、道を造れるかしら?」

「そうだな、三人だけではかなり時間が掛かるだろうなぁー。村の人たちにも手伝ってもらえるように話をしよう!」


 早速、三人は山の村に戻って村長さんを訪ね、道を造る為に協力をお願いしました。

 すると、暫く考えてから村長さんが言いました。

「わかっとると思うが、村の者は田畑の世話をするのが精一杯じゃろう!とても手伝える時間は無いじゃろうな」

「海の村に行けなくてもいいのですか?」

「良くは無いが、田畑の方が大切じゃ。」

「それじゃ、何も協力をして貰えないのですか?」

「人手を貸す事は出来ないが、すきくわなどの道具を貸してあげることは出来るぞ」と村長が言うと、三人は顔を見合わせて沈黙しました。

 三人の心の内は「何故三人だけで道を造らなければならないのか?必要なのは誰なの?」でした。

 萎えそうになる気持ちを懸命に奮い起たせ、怒りを押し殺してやっとの思いで言いました。

「解りました。僕達が道を造りますので、必要な物の調達をお願いできますか?」

「分かった。何がいるのかな?」

「よし!すぐに用意しよう。金槌とのみと鍬と鋤と馬を貸してあげよう。」

 三人は、荷物を馬に積んで村長の家を出て、取りあえず荷物を降ろす為に峠に向かいました。

 峠に着いた三人は、馬から荷物を降ろしながら今後をどうしたらいいのか話ました。

「この岩を馬で引っ張ったら動かないかな?」

「うーん。無理だと思うけどやってみるか」

 三人は、大岩に縄を架けて馬と一緒に引っ張ったけれどビクともしません。

「やっぱり駄目だわ。」

「仕方がない! じゃ、今度は岩を砕けないかやってみよう。」と言うと鐫と金槌で叩きました。

 数十回叩きましたが、岩を砕くどころか、手が痺れてしまいました。

「これも駄目だ。」三人は、顔を見合わせてため息を吐きました。

「仕方がない!最初の計画通り、新しい道を造ろう!」

 三人は、朝は日が昇る頃から沈むまで毎日山肌を削っては岩の横に土を積んでいきました。

 ようやく一月程経った時、非常に大きな台風がやって来ました。二日後に台風が去っていきましたので、三人は早速峠に行き、思わずその場に立ちすくみました。

「なんでー!」

 三人で積んだ土は、ほとんど雨で流されていたのでです。

「やってられないな!」

「ここで諦めても、元の世界に帰れない事は解っているわよね?」

「ああ、解っている!だけど、どうする?」

「みんな!ちょっとこっちに来て!」二人がやって来ると地面を指して

「ここを見て。この辺りはあんまり流されてないぞ!」

「本当だわ!でも、何故かしら?」

「小石ばっかりだ。ここは土が少なかったのかな?」

「そんな事は無いわ。ちゃんと土はあったわよ」

「そうか!小石で土があまり流されなかったんだ。ほら、小石の間に土が残っているだろ。」

 三人は僅かな知識しか無いけれど話し合いの結果、小石を混ぜた土で道を造ると雨に強い道になる言う結論が出ました。

 三人は、この日から一人は岩を砕いて小石を作り、あとの二人が土に小石を混ぜて道を造っていきました。


 ある時、三人が作業していると岩の向こう側から声を掛けられました。

「ここは、いつ通れるようになりそうじゃ?」

 突然の事にびっくりした三人でしたが、海の村の人と分かったので村の様子を聞く事ができると思い、岩越しに話をしました。

 僕達三人だけなので、それはわかりません。やはり、この道が通れないと困りますか?」

「そりゃ困るよ。海の村には穀物が無いんじゃ。魚だけでは力が出ないからの」

「わかりました。何かあったらすぐに連絡しますので、お名前を教えて下さい」

「わしは、南の漁太だ。連絡を待っとるからな」と言って引き返して行きました。

 この道を待っている人がいる事を実感した三人は、あまりにも進まない作業に対しての嫌気を吹き飛ばしました。

 その夜は、久しぶりにぐっすりと眠る事が出来ました。そして、三人は夢で初めて数字の存在を知りました。鉄晴は25、涼太は40、美香は50でした。

 翌朝、三人が顔を合わせると鉄晴は疑問を口にしました。

「みんなは前も数字が現れたの?」

「いいえ。数字は出てこなかったわ!」「僕もだよ。」

「じゃ、何故今度は出て来たんだろう?何か意味があると思うんだけど。」

「多分だけど、今回の場合は何をすれば終わりなのか分からないだろう。だから、達成度を示していると思うんだ!」

「なるほどな!それじゃ、みんな100になれば終わりなんだ。でも、みんな同じ作業をしているのに、どうして数字が違うのかな?」

「そうよね!私達の前の経験に関係しているのかしら?」

「そうかもしれないな?みんなの経験を話し合ってヒントを見つけよう!」


                 第二章 三人の経験


 まず最初に鉄晴が話を始めました。

 僕は、自分の思い通りにならない時にはすぐに不機嫌になって、両親や友達にも八つ当たりをしていました。そして、自分勝手な理屈を考えては反抗して“自分の主張”が正しいと思い込んで、他人の意見を全く聞けない時期にその出来事は、起きました。

 鉄晴が小学校5年生の春休みの宿題で読書感想文を書くために、桃太郎の童話を読んでいる時でした。

 机の上に本を開き読み始めると、フワッとした気持ちになりふと目が覚めたら、僕が童話の主人公である桃太郎だったのです。桃から生まれたばかりの僕は、初めて見るおじいさんとおばあさんに育ててもらいました。体は赤ちゃんの桃太郎でも、意識は鉄晴でした。家は貧しく、毎日の食事にも苦労していましたが、桃太郎にはちゃんと食事を与えて一生懸命に育ててくれました。自分達はほとんど食べずに‥

 そんなおじいさん達のところにも、鬼達は一年に数回やって来て食べ物を奪っていきました。けっして裕福ではないおじいさん達から食べ物を奪っていく鬼達に対して怒りを感じた桃太郎は、鬼から奪われた物を取り返す事を決心し、剣術の修業を始めました。

 毎日の修業は朝早くから日が沈むまで行い、手には豆ができ、身体全体が痛かった。今まで、大して運動をしてこなかった鉄晴にとっては非常に辛く、最初に感じた怒りも数日間で薄れて行き、逃げ出したい気持ちが心を支配し始め、心の底から嫌だと思った瞬間、一面真っ白になって、桃太郎が生まれた時に戻ってしまったのです。

 鉄晴は、また同じ事をするのかと思い、絶望しかない心で「もう嫌だ!助けて」と叫んだと同時に桃太郎の童話の上で目が覚めました。

 鉄晴は、単なる夢だと思いほっとして顔を洗いに行くために立ち上がろうとすると、なんと全身が痛くて動けないではありませんか。

「痛っ!」と思わず鉄晴は叫んだ。「これはどうしたんだ」と思い、机に手を付いて立とうとすると激痛が走ったので手を見ると、なんと豆だらけだった。

「もしかしたら桃太郎は夢じゃ無かったのかな?・・」と思い始めました。

「そんな馬鹿な事あるわけないよな」と自分に言い聞かせながら、童話の桃太郎を見てびっくりしました。

 なんと、修業不足の桃太郎は鬼達にやられてしまっていたのです。

「そんな事あるわけない」と鉄晴は心の中で否定しました。

 冷静になろうとするのですが、頭が混乱して考えが纏まりません。

 ただ、桃太郎が鬼達に負けて泣いている絵が凄く悲しく写りました。

「僕のせいじゃない!関係ない!」と何度も何度も繰返しましたが心は全く晴れません。

 自分の気持ちを整理する為に数日間考え、やっと考えを2つに絞る事が出来ました。

 1つ目は、このまま放って置く。

 2つ目は、凄く嫌だけれど戻って修業をやり直す。

 今までの鉄晴だったら、何の迷いも無く1つ目を選んでいたはずであったのですが、何故迷っているのかの理由が分かりません。

 確かに桃太郎が負けているのもショックだったのですが、自分達の食事を減らして育ててくれたおじいさん達の事を思えば、やりきれない辛さが鉄晴をおそっていたのでした。

 鉄晴は、“初めて人の為に何かをしたい”という感情に戸惑いながらも、もう一度やる気になった鉄晴は童話に入るために桃太郎を読み始めました。

すると、目が一瞬見えなくなり、次の瞬間には生まれたばかりの桃太郎になっていました。そして、修業を始めた鉄晴は、前には気付かなかった桃太郎の能力に驚かされました。

 動体視力は、ツバメの動きがスローモーションのよう見え、瞬発力は獲物を見つけたチーターのようであり、腕力は熊並であり、持久力はラクダのようでした。

 毎日、キジやサルやイヌに手伝ってもらいながら修業をしてあっという間に2年が経ちました。

 もう、森の中の動物では桃太郎に触れることさえ出来なくなりました。

 桃太郎は、「よし、鬼退治に行こう」と決意しておじいさんとおばあさんに言いました。

「えっ、鬼退治に行くのかい」とおじいさん達が言ってから暫く沈黙があり、おばあさんは涙を流しながら言いました。

「鬼達は凄く強いんだよ。おまえが負けて帰ってこなかったらと思うと心配でしかたないから、このまま一緒に暮らしてはどうじゃ?」

 鉄晴は戸惑いました。童話では、二人とも喜んで見送ってくれていたので、当然そうだと思っていたからです。

 しかしながら、凄く嬉しくなった鉄晴は、自分の気持ちを素直に話しました。

「おばあさん、実は僕も本当は怖いのです。でも、おじいさん達から大切な食べ物を奪っていく鬼達を許せないのです。絶対に勝てるとは言いませんが、修行の結果は出せると思います。だから、そんなに心配しないで僕を信じて待っていてください。」

 おばあさんは、桃太郎の決意の固さを知り、だったら気持ちよく見送ってあげようと思いました。

「わかったよ。桃太郎がそんなに私達の事を思っていてくれたなんて---。それじゃ、お腹が減らないように吉備団子きびだんごを作ってあげるよ」

 そう言って、おばあさんは台所に行きました。

 翌日の朝、桃太郎が出発する時、おばあさんが吉備団子をくれました。これを受け取り、桃太郎は言いました。

「僕が鬼達に負けそうになった時には、この吉備団子を食べておじいさん達のチカラをもらって必ず勝って帰って来るから心配しなくていいよ」

「いつまでも待っているからね」とおばあさんが言いました。

「じゃ、行ってきます」と桃太郎は精一杯の声で言うと意気揚々と出発しました。

 

さてその頃、サルとイヌとキジは集まって相談をしていました。

「今日、桃太郎さんが鬼退治に出発するそうだけど、どうする?」とサルが言いました。

 するとイヌが「僕は、桃太郎さんと一緒に行こうと思います」と言いました。

「一緒に行きたいけれど、桃太郎さんから何か言ってくれないかな」とキジが言いました。

「そうだよな。何かないきっかけないと一緒に行けないよな!」とサルが言いました。

 3匹とも、一緒に行きたいけれども、“連れて行って”と素直に言えない葛藤かっとうがあり、もやもやした気持ちが心を支配していました。

 そんな話し合いをしている内、桃太郎がやって来ました。サルが桃太郎を見て、「そうだ!桃太郎さんから吉備団子をもらって一緒に行こう!」と言いました。

 みんなも、一緒に行く口実こうじつが欲しかっただけなのですぐに賛成しました。

「桃太郎さん、どこに行くのですか?」と三匹が聞くと、「悪い鬼達をやっつけに行くんだ。」と答えました。

「鬼はたくさんいるのですか?」と尋ねると「多分たくさんいると思うよ」と答えたので三匹は目を合わして頷き、「じゃ、僕たちも一緒にいってあげましょうか?ただし、その吉備団子をくれたらね」と言うと桃太郎は、すこし考えこみました。

 考えている桃太郎を見て、三匹は「ちょっと偉そうに言い過ぎたかな?」と思い始めた時、桃太郎は言いました。

「吉備団子をあげるのはいいけど、すごく危険な所なんだよ。やられてしまうかもしれないんだ。それでもいいのかい?」

 三匹はほっとして「なんだ、そんなことか。問題なしだ!」と笑いながら答えました。吉備団子を貰った三匹は、桃太郎と共に晴れ晴れとした気持ちで鬼退治に行きました。

 鬼ヶ島に着いた桃太郎達は、まずは話し合いで解決するために鬼の頭領に会いたいと思い大声で言いました。

「頭領に話がある。ここに来てくれ!」

 あまりに大きな声でしたので、島全体が震えました。鬼の頭領は、この声にビックリしましたが相手は桃太郎と三匹の動物なので子分達に言いました。

「うるさい奴だ。やっつけてこい!」

 子分の鬼達が一斉に襲ってきました。その数は、およそ100匹でした。

 子分の鬼と言っても鬼ですのでかなり強く、修行を積んだサル・キジ・イヌと同じぐらいの強さでしたので、30匹程の鬼をやっつけた時の桃太郎たちは非常に疲れていたので、サルが言いました。

「桃太郎さん、もう疲れて思うように動けないよ。」

 桃太郎は、動きの遅くなった三匹をみて言いました。

「一旦、後ろの岩陰に隠れて体力を回復しよう」

 桃太郎たちは、岩陰に行きました。

「強いな。勝てないかもしれない」と三匹が呟きました。

 桃太郎は弱気になっている三匹に吉備団子を渡して、“考える前にまず食べよう”と三匹に勧めて食べ始めました。三匹も食べ始めと、何故か苦しい修行の日々やおじいさん達の顔が思い出されてきました。そして、食べ終わる頃には相手の強さによる戸惑いから出る弱気を、苦しい修行をやり通した自信で追い出しました。

「頭領をやっつけないと終わらないから、イヌ・サル・キジは力を合わして頭領への道を作ってくれ!」と桃太郎は言いました。自信を取り戻した三匹は、「よし!道を作るから桃太郎さんは後から付いてきてください!」と言うと勢いよく飛び出して行きました。イヌは足を・キジはくちばしで頭を・サルは爪で目を歯で足を攻撃し、頭領への道を作りました。

 頭領の所に辿り着いた桃太郎は言いました。

「一対一の勝負をしよう!」

「生意気な小僧だ。よし勝負をしてやろう」と言うと子分達を引き上げさせました。

 二人は睨み合いながら少しづつ移動し、頭領が先に動きを止めて足場を決めた瞬間に跳躍して金棒を振りおろしてきました。桃太郎が思っていた能力を超えていたので、もう金棒は頭に向かってきていました。しかし桃太郎も一瞬で回避する方法を考え、金棒を刀で受けながら横に跳んでいました。

「キーン・ドーン」とすごい音と共に島が揺れました。間髪を入れずに頭領が跳躍して、今度は金棒を右から左に払ってきたのを見て、桃太郎は頭領の頭上に向かって跳躍し刀を振り下ろしました。

 刀は頭領の角に当たり、角は粉々に砕け散りました。角が無くなった頭領は力が入らなくなり、「俺の負けだ!どうとでも好きにしろ!」と言って座り込みました。


 桃太郎も刀を鞘に納めて頭領の前に座り、「僕は、君たちを殺しに来たのじゃないんだ。村の人たちをいじめない約束をして貰いに来たんだ」と言うと、「じゃ、なぜ刀を持って来たのだ。話し合いに武器は要らないんじゃないのか?」

「確かに話し合いに武器は要らない。しかし、君たちの解決方法は力だろう?自分より弱い相手の話を聞くのかい?」

「いいや、聞かないな。俺達の正義は力なんだ。強い奴が上に立ち、弱い奴を支配する。そして、自分が衰えれば次の奴が上に立つ。それが鬼の世界!修羅の世界だ。お前は俺より強かったから、力で支配すればいいだけだ。話し合いなど必要は無い!」と言われて即答は出来ませんでした。

 桃太郎は暫く考え込んでから、すっと立ち上がり鬼達に向かって大声で言いました。

「今から俺がお前たちの頭領だ!文句のある奴はここにきて俺と戦え!」桃太郎の強さを知っている鬼達は誰も出てきません。

 それを見て、「俺が頭領でいいんだな!」と言い放つと「オオッーー」と歓声が上がった。

「俺はお前たちが暮らせるようにする責任がある。だが、俺はここで一緒に住む事はできない。だから、この島を俺の代理で前の頭領に管理して貰う事にする。俺は、人間の村に行ってお前たちが暮らせる分だけ食料を貰う事にする。どーだ!」と言うと、より一層の歓声が上がった。

 桃太郎は、今までおじいさん達から奪った分と村人から奪った分の中から鬼達が生きていける分を差し引いて持って帰ることしました。鬼達は、桃太郎の強さと優しさに感謝し、村まで宝物を運んで行きました。桃太郎と鬼達を見た村人たちは大騒ぎになり、村の長老がやってきて言いました。

「これはどうした事じゃ?」

「僕が鬼達の頭領になりました。」と言うとみんなびっくりして動揺しました。続けて桃太郎は言いました。

「鬼達と共存しましょう!」この言葉には長老もびっくりして、「共存もなにも、鬼達は村から物を奪っていくだけだ。なにも助けにならんじゃないか」と言いました。

「確かに今まではそうでした。しかし、これからは鬼達の力を借りて村を災害から守ってもらい、その代わりに鬼達が暮らせる分を渡したらどうでしょう?」

 これを聞いて村人たちは顔を見合わせ、恐怖感が無くなって鬼達を見回すと子供の鬼や女の鬼もたくさん居る事に気付きました。

「そうよね!安心して暮らしていけるならそれが一番だわ。」

 村人たちはみんな納得して桃太郎達にお礼を言い、桃太郎達は宝物をおじいさん達に渡し、みんなが幸せに暮らしました。

「これで終わりだよ、何か気付いた事あった?」と鉄晴は言いました。

「特に今回の数字には関係が無いように思うわ」


 じゃ、次は僕の話をします。」と言って涼太が話し始めました。

 僕は生まれつき免疫力が弱く病弱でした。学校に行く事があまり出来ないので、友達がいませんでした。だから、何を話していいのか分からないので、人付き合いが非常に苦手でした。僕は、出来ればいつも一人でいたいと思っていました。

 そんな僕が「うさぎとかめ」の童話を読んだ時に白い閃光が走り、目を開けると「かめ」になっていました。

 当然、理解するのに多少の時間が必要でした。自分が「かめ」である事を理解すると、涼太は悲しむのではなくむしろ喜びました。

「これで何時でも自由に外に出られるし、運動制限も無い!」

 ウキウキしながら歩いていると、うさぎが後ろから追い抜いて行きました。そんな事など気にしないでニコニコしながら歩いて行くと、大きな木の下でさっきのうさぎが待っていました。

「やぁ~カメ君、どうしてそんなにニコニコしているの?何か良い事でもあったの?」

「別に何もないよ。ただ自由に歩けるのが楽しいだけだよ。」

「えっ!そんなに遅いのに?」

「自由に動けるのが楽しいんだよ。」

「でも君はすごく遅いからいつも追い越されてばかりだろ?君に負けるやつなんかいないだろうな?」

 その言葉を聞いて、ムッとして思わず言ってしまいました。

「うさぎさん、私に負ける者はたくさんいますよ。ひょっとしたらあなたにでも勝つかもしれませんよ。」

「馬鹿な事を言っちゃあだめだ。君が逆立ちしたって僕には勝てないよ。なんなら競走してあげようか?結果はわかっているけどね!」

「よし!競走しよう」

「じゃ、山の頂上にある大きな木がゴールでいいね」とうさぎが言いました。

「ああ良いよ。後で言い分けは無しだよ」

「当然だよ。それじゃ、用意ドン」いよいよ競走が始まりました。

 うさぎがあっという間に山を登って行きました。

「かめ」はと言うと、いつものように一歩ずつゆっくり歩いて行きました。

 暑い夏の日差しが容赦なく「かめ」に照りつけます。

 しかし、「かめ」である涼太は、暑くて苦しい状況でも喜びを感じていました。

 何故なら、今まで病弱でしたので無理して身体を動かす事が出来ない生活だったからです。

 しかし、喜びは長くは続かず、山の1/3位登った後は、苦しさだけになってきました。

「もう駄目だ。なんで競走なんかなんでしたんだろう。負けを認めてやめようかな」と思うようになり、全く歩けなくなってきました。

 今まで運動をしていなかったので、初めて味わう苦しさで涼太は混乱してしまい、

「もう嫌だ!もう歩きたく無い」と今の苦しさから逃れたい為に心から思いました。


 すると、目の前が真っ白になり、目を開けると現実に戻っていました。

「今のは、夢だったの?」時計を見ると、数秒しか経っていませんでした。

「そうだ!童話を読んでいる内に、一瞬眠ってしまったんだ。」

 そして、周りを見回してみましたが、本は見当たりません。

「おかしいな?確かに本を読んでいたはずなのに何故無いんだろう?」

 たいして動けない涼太は、本を探す為に少し動いただけで疲れてしまい、少し休む事にしました。

 そして目を閉じると本棚があり、その中に一冊の本がありました。

「こんな所にあったのか。」と思い、手に取ろうとしましたが本を掴めません。

 なんと、手が本をすり抜けてしまうのです。

「おかしいな?どうして取れないんだろう?」暫く考えている内に、涼太は完全に眠ってしまいました。

 やがて、目を覚ました涼太は、眠る前の事を思い出しました。

「おかしいな!どうしたら本を取れるのだろう?」と思い、目を閉じるとそこに本があります。でも手をどんな風に伸ばしても、やはり取れません。

「そうか!これは手で取るんじゃ無いんだな!きっとイメージで取るんだ」と思い、いろんな事を思い浮かべましたが全く効果はありませんでした。

そして、数日間ベッドの上で過ごしている内に、又自由に動けない自分が嫌になり、「かめ」になった時の事を思い出して自分の心の弱さに気付きました。

「そうなんだよな。自分が動けない時には動ける人を羨ましいと思い、動けるようになった時は運動の辛さに弱音を吐いて逃げてしまう。

僕はなんて我儘わがままで、何かを妬んでは文句を言っているだけの情けない人間なんだ!」と思う気持ちが湧いてきて落ち込んでいる時に、ふと気付くと母が横にいました。今まで、自分自身で全部できたと思っていた事が、冷静になって良く考えてみると、苦しい時や悲しい時には必ず近くに母が居てくれて安らぎを与えてくれました。

 何を言う訳でもなく、ただ優しい眼で黙って見ているだけでしたが、それだけで心が穏やかになっていき、すごい安心感があり、何度も癒されていた事を初めて感じて涙が溢れてきました。

 今までは、自分で解決していたと思っていた事が、実は母の助けがあって出来ていた事を理解すると、より一層感謝の気持ちが湧いてきました。

 涼太は、思わず呟きました。「母さん、ありがとう。弱い僕を支えてくれて」

 その言葉を聞いたお母さんは、何も言わずににっこりと笑い両手で僕の手を包み込み、軽く握りました。

 “なんて温かくて気持ちいいんだろう”と思っている内に眠ってしまいました。

 すると、前には全く取れなかった本がなんと僕の膝の上にありました。

 本を取れた喜びと奇妙な期待感で本を開いて見ると、途中で休憩している「かめ」の場面で終わっていました。

 何故だか解らないけれど辛くなり、どうしても最後までやり遂げないと僕を応援してくれているお母さんに悪いような気がして、一度だけでも童話に戻りたいと思いました。

 すると、目の前が真っ黒になりリタイアした場面に戻り、身体の辛さも同じになりました。

「僕は一人じゃ無いんだ!お母さんも応援してくれているんだ!今度は負けないぞ!」と自分自身を励ましました。

 すると、前までは一歩も進め無かったのに少し進む事が出来ました。

 心臓が破裂しそうなぐらいの息苦しさで意識が朦朧とする中で「あと少し・あと一歩」と自分に言い聞かせて一歩づつ進んでいき、駄目だと思った時にはお母さんの手の温もりを思い出しては一歩、笑顔を思い出しては一歩と休むこと無く進んでいきました。やがてゴールが近づいてきた時、一筋の涙が頬をつたいました。

 なんだか解らない感情が湧いて、嬉しいような恥ずかしいような楽しいような妙な気持になりました。

 そして、遂にゴールした時には勝負の事など何も考えてなく、ただやり遂げた事に対する感動しか湧いて来ませんでした。

 暫くして「うさぎ」さんが居ないことに気付きました。

「あれ?うさぎさんはどうしたんだろう?・もう帰ったのかな?」

と思っている所に、慌ててうさぎがやってきました。

「どうしたんですか?・もしかして僕が勝ったんですか?」と尋ねると、

「ああそうだよ!」と不機嫌そうに言いました。

 涼太はこの時、勝った喜びよりも完走できた事の方が嬉しくて仕方ありませんでした。

 だから、「うさぎさん」が負けた事を認めた時も、勝者のような奢りは無く、今の喜びを素直に「うさぎさん」に言いました。

「うさぎさん、ありがとう。君がいなかったら、僕は一生かかっても今日の成し遂げた喜びを経験出来なかったと思います。本当にありがとう。」

 何の事だか分からない「うさぎ」でしたが、自分になぜか感謝しているので、調子に乗って言いました。

「かめさん、いいんだよ。わかってくれて僕も嬉しいよ。」

 そんな馬鹿げた言葉にも、不思議に腹は立ちませんでした。

「僕の話はこれで終わりです。どうですか?」

「そうだな。特に数字に関わる様な事は無かったと思うよ。そう言えば、確かに前は嫌だと思ったら元の世界に戻れたんだよな。今回も戻れるのかな?」と鉄晴が呟きました。

「駄目じゃないかな。だって、僕は今まで何回も帰りたいと思ったけれど、何も変わらないんだもの」と涼太が言うと、二人揃って「そうだよな!」言いました。


「今度は私の番よね。私は、なんの問題も無く・・」まで喋った瞬間に頭痛と共に閃光が走り、全てを思い出しました。

「いや!今、初めて思い出したわ!色々な問題もあったみたい。じゃ、話すわね。」

 私の名前は美香と言います。

 家は非常に大金持ちなので、なんの不自由も無い生活をしていました。しかし、私は不満を抱えて毎日を過ごしていたのです。

 欲しい物はなんでも手に入り、食べたい物はいつでも食べる事が出来ましたので、普通の人たちではなかなか手に入らない物でも、すぐに手に入れる事が出来ました。非常に恵まれている反面、何の喜びもありませんでした。「あ~退屈だ!何か面白い事はないかな~」と言う事が口癖になり、やがて無気力になっていきました。

 ある時「漫画でも読もう」と思い書斎に行き漫画本を取ろうとした時に躓き、本棚にぶつかった拍子に本が落ちてきて頭に当たった。

「痛い!なによこの本!」と言って本を睨み付けました。怒りが治まらない美香は、本を拾い上げ「何の本!シンデレラ!こんな本いらないわ!こうしてあげる」と言って本を破ろうとした瞬間、目の前が真っ白になって、やっと見えるようになった時には自分がシンデレラになっていました。


「何?どうしたの?ここは何処なの?」

 状況が解らないでじっと立っている美香に向かって、シンデレラの姉達は言いました。

「シンデレラ、何してるの!早く掃除を終わらせなさい。全く愚図なんだから!終わったら次は洗濯だよ。わかったね!」と言って出て行きました。

 今まで何も言われた事の無い美香は、「なによ偉そうに!なぜ私がしなければいけないのよ!」と思い、なにもしませんでした。やがて、母親と姉達が帰ってきました。

「シンデレラ!掃除と洗濯が出来て無いじゃない!」と言うと平手打ちをされました。

「なにもしないのなら、出て行きなさい。無駄飯は無いからね!」と言うと、シンデレラを外に放り出しました。

「別にいいわ。どうにかなるでしょう」と思って町を歩き始めましたが暫く歩いて、自分の考えの甘さを痛感しました。お金も何も無いシンデレラを助けてくれる人は誰もいませんでした。

今まで、食べ物や寝る所に困った事の無い美香は、どうしたらいいのか判らなくなり泣き出しました。

「お父さん.お母さん、助けてー」と言っても何も起きませんでした。

 ひとしきり泣いて少し落ち着いた美香は、これからの事を考え、「物語の通り行動すれば幸福になれるのよ!何も心配いらないわ。すぐにお妃様になれるわ」と自分自身に言い聞かせました。

それにはさっきの家に帰って、シンデレラを続けなくてはいけません。

「参ったな、わたしは掃除も洗濯もしたことが無いけれど出来るかな?それよりも先に、謝まって許してもらわなくっちゃいけないわね」

 美香は家に帰って、一生懸命に謝り、なんとか許してもらいました。

「晩御飯抜きか~。お腹減ったな~。少しの辛抱だ!我慢・我慢!」と生まれて初めての空腹に堪えながら眠りつきました。

「シンデレラ何時まで寝ているのよ!早くご飯の仕度をしなさい!」外は白み始めたばかりです。

「えっ!こんなに早く起きるの?毎日だよね…」と独り言をいいながら起きました。そしてキッチンに行きましたが、何を作ればいいのか分からないので突っ立ていると、

「なにをしているのよ!早く作りなさい!ほんとに愚図なんだから!」と言われてムッとしましたが、もう少しの我慢と思い、「何を作ればいいのですか?」と尋ねました。

「何を言っるの、朝ごはんはパンとスクランブルエッグに決ってるでしょ!早く作りなさい。」

美香は、それなら作れると思い調理しようとして困ってしまいました。

「火はどうしたらいいんだろう?」この時代にはコンロなどありません。

今までなにもしたことの無いので、火の起こし方が全く分からないので聞くしかありません。

「あの~、火が無いので料理が出来ないですけど、どうしたらいいですか?」

「ほんとに役に立たない娘だね!」と言いながら火をおこしてもらいました。

しかし、今まで料理を作った事が一度も無いので、味付けはとんでもない物でした。

「何これ!全く味が無いじゃない!味覚が無いのかしら?」と罵られる日々が続き、洗濯で手もひび割れだらけになりました。「もう嫌だ!」

 この日から美香は、全ての家事を少しずつ手を抜き始めました。

「あと少しで舞踏会だわ。それ迄のガマン・ガマン。」


 そして、遂に舞踏会の日が来ました。

「やった~。今日でこの生活もおしまいだわ!」

 母と姉達が出かけて行き、暫くして魔法使いが現れて舞踏会へ行けるようになり、かぼちゃの馬車に乗ってお城に向かいました。

「やった!これで終わりだわ!」いよいよお城に着き、舞踏会のホールに向かいました。喜びで胸が高鳴り、自然に顔がほころんできます。ホールに着いた美香は、辺りを見回して王子様を探して歩き回り、踊っている王子様を見つけて駆け寄りました。

「王子様、私と踊りましょう!」と言っていきなり王子様の手を取りました。

「無礼者!衛兵!この者を捕らえて牢に入れておけ!」

「なんで!私はシンデレラなのよ。私が何をしたのよ!」

 牢に入れられも、今まで好き勝手に生きてきた美香には全く分からず、逆に王子様に対して怒っていました。

 もうすぐ魔法がとける12時なろうとする時、王子様がやって来ました。

王子様が何か話そうとした時、12時鐘が鳴り魔法が切れました。

すると、シンデレラは元のみすぼらしい格好に戻ってしまいました。

驚いた王子様は、暫くシンデレラを見ていてから言いました。

「そうか、お前は魔女だったのか。私を騙してこの国を乗っ取る積もりだったのか?他にも仲間がいるのか?」

「違います。私は魔女じゃないんです。魔法使いのおばあさんに魔法を架けて貰ったのです。信じてください。」

「それでは、その魔法使いを呼んでみろ!明日までに呼ぶ事が出来たら信じよう。しかし、呼べない時はお前を魔女として火あぶりにする。」

「どうして?シンデレラはこんなお話じゃない!どうしたらいいんだろう?とにかく魔法使いのおばあさんを呼ばなければ駄目よね。」

 生まれて初めて本当の恐怖に接し、助かりたい一心で魔法使いを呼びました。

すると、目の前におばあさんが現れました。

「やった~。見て!」と言って王子様を見ると、時間が止まっていました。

「お前は、約束を守れなかったんだね。そればかりか、私の事を話して私を身代わりにしようとしたんだね。なんて馬鹿な娘なんだろうね!それじゃ、これでさようなら。」

「ちょっと待って!確かに身代わりにしようとしたけれど、他に何か良い方法があったの?」

「本当に馬鹿な娘、私を呼ぶ事が良い方法?今を見てごらん!王子様達には私がやって来て、お前と話している事を知らないんだよ。何故なら私がお前以外の時間を止めているからね!もっと良く考えるのですね。」と言うと魔法使いは消えてしまい、時は動き始めました。


美香は、無駄かもしれないと思いながらも、「今、ここに魔法使いが来たんです。王子様達の時間は止まっていたので分からないと思いますが、本当なんです。信じてください!」

「まだそんな嘘をつくのですか。もしそれが本当なら、なぜ時間が止まっている間に逃げ出さなかったのですか?」

「それは~、おばあさんが消えたら時間が動き出したからです。」

「残念ながら貴女の言ってる事は信用できません。明日、貴女を火あぶりにします。」と言うと王子様は出て行きました。牢屋の中の美香は、最初は絶望して泣いていましたが、やがて何故こうなったのかを漠然と考え始めました。

「シンデレラはハッピーエンドだったよね。なぜなの?私はシンデレラだよね。どうして牢屋なの?どうして物語と同じじゃないの?」と思わず口をついて出ました。

 その言葉に「ハァ!」としました。

 そうよ!私は物語を知っているから、必ず王子様と結婚すると思い込んでいたけど、シンデレラは全くそんな事は思っていなかったよね。気持ちが違っていたから結果が違うという事をなんだわ!

 そうだとしたら、私自身がシンデレラであり、幸せになれるどうかは私の気持ちや行動で変わって行くんだわ。そんな事は常識なのに、何故解らなかったのかな?

 よく考えて見ると、物語の最後まで行くと王子様と絶対に結婚できると思い込み、とにかく最後まで行けばハッピーエンドになると思っていたからなのね。

「ハァ~、今頃気付いても駄目だよね。私って本当に馬鹿だよね。そうか!魔法使いのおばあさんが言ってた馬鹿な娘の意味はこの事だったのね。まぁ~仕方ないわね。」

 意味が分かった美香は、すごく後悔しました。いろいろ考えている内に、夜が明けて来ました。

「もうすぐ火あぶりになっちゃうのね。仕方ないかな‥」と言うとなぜか涙が頬をつたい悔しさが心の底から込み上げて来ました。

やがて朝になり、美香は広場に連れて行かれて柱に縛られて足元に油を染み込ました藁を敷き詰められ、火をつけられました。一瞬で火が回り、目に前が真っ赤になった時、恐怖と自分の浅はかさを後悔する気持ちで涙がこみ上げてきました。

「やっと分かったみたいだね。」と後ろから声がしました。驚いて振り返ると、そこには魔法使いのおばあさんが立っており、「お前は何故、涙を流したのかな?」と聞いてきました。

「はい、今まで経験した事の無い悔しさが込み上げて来たからです。ただ、私にもはっきりとした理由を説明する事ができません。」

「そうか、お前の心に変化が出て来たようだね。よし!もう一度チャンスを上げよう。」と言うと閃光が走り目を開けると最初に戻っていました。


「何?どうしたの?ここは何処なの?」そうです。

 美香は今までの記憶を消されて一番最初に戻ったのでした。しかし、何故か懐かしい気持ちになっている自分に驚きながら家事を行っていました。

 ある日のこと、いつものように家事を行っていると母が大きな肉を持って帰ってきました。

 今日は村の感謝祭だから肉を貰ってきたよ。

「シンデレレラ!これを料理して。」

 どんな料理をすれば良いのか分からないので、「どんな料理を作ればいいのですか?」と尋ねると

「その肉に塩をして、串をさして火であぶればいいんだよ!」と母が答えた瞬間、シンデレレラは恐怖の余り飛び上がりました。

「エッ!なぜ?・・」何が怖かったのか分からずに料理をして床につきました。

 その夜、自分が牢に入れられて処刑される日の朝日が昇ってくる夢を見て飛び起きました。

「嫌な夢を見ちゃったわ。そういえば、この頃自分の言動が良くないと思う時があるのよね。不思議だわ。」

 美香の記憶は僅かに残っているようです。しかし、時が経つうちにこの日の事を忘れてしまい、日々の生活を送って行き、いよいよ舞踏会に日になりました。


「やった~。今日で終わりだわ。王子様のお妃になれるんだわ!」

 夕方、母と姉たちが舞踏会に出かけたので美香はウキウキして魔法使いのおばあさんを待ちました。暫くすると魔法使いのおばあさんが現れて、12時までの魔法をシンデレレラに架けました。舞踏会場に着いた美香は、王子様とすぐに踊りたいと思いましたが何故か駆け寄ることができません。

「あれ?なぜか嫌な予感がするのよね。」

 脳裏にある僅かな記憶が美香の行動を制限したのでした。

 美香は、王子様が自分のところに来る事が当然だと思い込んでいたのですが、いくら待っても来る気配が無く、まもなく12時なろうとしていました。「どうして?」と思いながら魔法がきれるので慌てて外に出た瞬間に鐘が鳴り始め、12回目で元に戻ってしまいました。

「今日じゃなかったのかしら?まぁ、次の舞踏会でもいいわ」

 元の姿に戻った美香は、必ず王子様のお妃様になれると信じて家に帰りました。

 翌日、いつもようにパンを買いに村の中心地へ行くと大騒ぎになっていました。

「どうしたの?」

「昨日の舞踏会で王子様のお妃様が決まったらしいよ。今日、正式に申し込みがあるらしいんだ。」

 その言葉を聞いた美香は、頭が混乱しました。「えっ!今日、私の所に王子様が来るのかしら?」と思わず口から出てしまいました。すると、横にいた村人が怪訝な顔をして「何を言っているんだ。お妃様になるのは、シンディだよ。」と言いました。

 頭の中が真っ白になった美香は、何も考えられずにとぼとぼと歩いて家に帰りました。

 それから数十年が経過して、シンデレラの最期の日がきました。

 他の男性と結婚する事も無く、ただ一人でシンディと自分の違いを考えて生きてきたのでした。

そして、やっとこの頃になってぼんやりと分かってきました。

「シンディはお妃様になる為だけに舞踏会に行った訳じゃなかったのね。ただ、憧れの舞踏会に行きたかっただけだから、打算の無い綺麗な目をして踊っていられたのね。私達はお妃様になりたいだけで、全く王子様を見ていなかったからね。」と言うと静かに目を閉じました。すると、目の前が真っ白になり物語の最初に戻っていました。


 目が覚めると周囲を見回して、初めて見る光景のはずなのに何か懐かしい気がしたのでした。

また不思議な事に、我儘な性格の美香が今の不自由な生活にも大して不満を感じませんでした。

 美香は、物語のシンデレラのように日々を過ごして舞踏会の日を迎えました。魔法使いのおばあさんが現れて魔法を掛けてもらい舞踏会に出かけました。

 美香は、わくわくしながらもお妃様になりたいだけでは無く、ただ王子様と踊れれば幸せだと思っていました。初めて入った舞踏会場の広さに驚きながら辺りを見回して見ると、綺麗なドレスを着た人達が一点を見つめていました。その視線の先には王子様がおり、みんな同じ目をしていました。

「何だか恐い雰囲気だわ。私は楽しもう!」と思っている所に王子様がやってきました。

「一曲お願いします。」

「はい、喜んで。」二人は、非常に楽しく踊りました。

「もう一曲お願いできますか?」と尋ねられて「はい!」と言おうした時、時計を見てびっくりしました。魔法が切れる10分前でした。

「申し訳ありません。私は、もう帰らなくてはいけないのです。ご免なさい。」と言って走り去りました。慌てていましたので、ガラスの靴の片方を落としてしまいました。

 王子様はお城に残ったガラスの靴を見ながら、「私の妃は、この靴の持ち主とします。何としても探し出せ!」と言うと舞踏会場を立ち去りました。

 翌日から家来達は、靴の持ち主を探す為にあちこちの村を廻り、やがてシンデレラの所にもやって来ました。

「このガラスの靴を履いてみてください。」シンデレラが足を入れると、ビッタリと収まりました。「貴女が王子様のお妃様です!」と家来達が言うと、今まで曇っていた空から真っ赤なお日様が現れ、シンデレラを照らしました。

「と以上が今、私が思い出した経験の全てです。2回も失敗してたのはショックでした。」

「なるほど、三人の経験の内容に共通点も無く、数字も出てきてないみたいだな。」

「そうか!今までは一人だけでの経験だったから、自分の考えだけで行動して失敗しても自己完結が出来たけれど、今回は三人で何かをしないといけないから、方向性の目安として数字が現れているんじゃないかな?」

「きっとそうよね!みんなが100になれば良いのよ!」

 三人は、この数字は達成率を教えてくれていると思い、今まで以上に頑張りました。

 時には意見の違いでぶつかった時は美香が収め、必要な物を集める時は涼太が村に行って村長さんに話をして調達し、鉄晴は道を造る為に山肌を削っていました。

 ようやく大岩を迂回できる道が出来る頃、三人は又夢を見ました。鉄晴は50、涼太は90、美香は110でした。朝起きて三人は、この数字について話始めました。

「この数字は、何を意味しているのかな?」

「たぶん達成度だと思うだけど、100を越えてしまったよね」

「全員が、100になるまで続くと言う事かな?」

「それじゃ、110と言うのは変じゃない?100で止まっていればいいわけだろ。それに、同じように動いていて何故こんなに数字が違うんだよ?」

「何か原因があるとは思うけど、全く分からないわ。」

 この後、一番数字の低い鉄晴は、非常に鬱憤が溜まって小さな事でも二人とぶつかることが多くなってきました。


                第三章 新たな試練


 半年程経った頃、村の人たちの様子がおかしくなってきました。

 ある人は腹痛が治らず、またある人は脱力感で悩み、さまざまな症状の病気に侵されていきました。

「一体どうしたんだろう?」「風邪じゃないと思うんだけど。」

「そうね、症状がバラバラですものね。」

 三人は、原因がなにかを考えても医学的な知識が不足しているので、全く分かりません。

「この頃、何か変わった事を言い合ったら分かるかもしれないわ。」

「そうだなー。この頃みんな元気が無いし、ご飯の味が悪くなったような気がする事かな」

「そう言えば、お味噌汁が無くなったわ。でも、関係無いわね。ウイルスかしら?」

「いや、案外食事のバランスかもしれない。」

「水に、毒でも混ざっているのかな?」

「それだったら、同じ井戸の水を使っている人だけがなるんじゃないの?」

「それじゃ、魚の干物を食べてないからかな?」

「そう言えば、人間の身体には塩が必要だと聞いた事がある。」

「そうかもしれない。塩不足なのかも?村の人たちに聞いてみよう。」

 三人は、村に戻って聞いてみました。すると、村の人たちは三人が思っていた以上に塩が無い事に困っていました。

「塩が無ければ、味噌も醤油も造れないんじゃ。漬物も出来ないしのぉ。」

「今までは、どうして塩を手にいれていたのですか?」

「海の村から、米や野菜と交換していたのじゃ。」

「やっぱり塩不足の為にみんなは病気になったのだわ!」

「本当に塩だけで病気になるのかな?みんな症状が違うんだよ。」三人は、色々話し合いましたが、塩が原因なのかは分からないけれど、塩が必要である事は分かりました。

 早速、三人は村長の家に行き米と塩を交換しに行く事を提案しました。

「村長さん、まだ道は完成していませんが、僕達でしたら海の村に行く事ができます。あまり沢山の荷物を運ぶ事は出来ませんが、米と塩を交換してきましょうか?」

「そりゃ助かる!是非ともお頼みします。」

 三人は米を受け取ると山を登っていきました。大岩の所にたどり着いた三人は、僅かに出来た迂回路を通って海の村に向かおうとした時、鉄晴が言いました。

「三人揃って行っても時間の無駄だと思うんだ。ここからは僕一人で行ってくるから、二人は新しい道を造ってください。」

「わかったわ。それじゃ、気を付けてね。」

 米を担いだ鉄晴は、数時間をかけてやっと海の村に到着しました。真っ青な海を見て、なぜか心の和らぎを覚えながら歩きました。

「誰を訪ねれば良いのかな?そう言えば大岩の所で話した、南の漁太さんの所に行ってみよう。」漁太の家に着いた鉄晴は、自分が大岩の所で話をした者であることを告げ、山の村の人たちが塩が必要である事を伝えました。

「わかった!わしが村長の所に案内するから一緒に来い。」二人はすぐに村長の家に行き事情を説明しました。

「そうか、わかった。この塩を持って行きなさい。ところで、峠の道はもう出来たのかな?わし等も、米や野菜が不足しているようで身体の調子があまり良く無いんじゃ。」

「まだ完成して無いのですが、一生懸命にやっていますのでもう少し待って下さい。完成しましたら私が報告に参ります。ただ、山の村では塩がかなり不足していますので明日もお伺いしても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。わし等も待っておる。」米を渡して塩を手に入れた鉄晴は、すぐに山の村に向けて出発しました。大岩の所まで戻って来た時にはかなり疲れており、涼太が山の村に塩を持って行く事にしました。村長の家に着いた涼太は、鉄晴からの伝言を伝えて、塩を渡して米を受け取りました。

「それでは、また塩と交換して来ます。」

「よろしく頼みます。」涼太が大岩の所に着いた時には、日はかなり傾いていました。

「今から海の村に行く事は無理じゃないかしら?」

「そうだな、明日にしようか。」三人は、毎日峠に来る時間が無駄なので山小屋で暮らすようになりました。

 翌朝、鉄晴が海の村に向けて出発し、美香と涼太は道の整備を行いました。お昼位に戻って来た鉄晴が、塩を涼太に渡しながら言いました。

「何か荷物を運ぶ方法も考えたら喜んで貰えると思うけれど、どうだろう?」

「そうねぇ、かなり楽だものね。」

「それだけじゃ無くて、時間が短縮出来れば今までは食べれなかった新鮮な物も食べる事が出来るようになるんだ。」

「なるほど、確かに干物ばかりじゃ飽きてくるからな。」

「今夜にでも三人で考えよう。」と言うと涼太は、塩を持って村に向かって行きました。


 夕方に帰って来た涼太は、「かなり時間が掛かるし、重労働だな。毎日だと体がもたないかもしれないな。」と言うと座り込みました。

「私は一度も運んでいないけれど、本当に辛そうね。早く何か考えましょう!」三人は、山小屋に入って話し合いが始まりました。

「今の世界で一番楽に物を運ぶ方法を考えよう。」

「電気は無いから、人力で考えなくては駄目だな。」

「ケーブルカーの様なものを作ればいいんじゃない?」

「大体の道は出来たから作る時間はあると思うけど、作れるかな?」

「基本的には、滑車の要領で作ればいいんじゃないのかな?」

「でも、山の頂上からふもとまでの距離を考えると縄の長さは相当なものになるわよ。」

「そうだな、重さもすごいだろうなぁ。でも、何かを作って村の人たちにブレゼントしようよ!他の方法も考えようか。」と言って三人は色々と話し合い、夜中になっても他の方法が考えつきませんでした。仕方なく三人は、頭を冷やす意味でも一度寝てから話し合いをする事にしました。

 寝ようとして布団に入った美香は、目を閉じましたがなかなか眠れません。

「参ったな~。全然眠れないわ。何かもう少し簡単に出来る物があると思うだけどね…」一方、他の二人はと言うと、やはり眠れずに布団の上に座り考え込んでいました。そうこうしている間に夜が明けて来ました。三人は眠る事無く、また話し合いを始めました。

「何か良い方法を思いついた?」

「私、思ったンだけど物を運ぶだけだから、ケーブルカーのような対になってる物で無くてもいいんじゃないかしら。」

「例えば?」

「う~ん、ベルトコンベアーみたいな物でもいいんじゃないかしら?」

「それだ!そっちの方が労力も少なくて済みそうだ。ただ、どんな風に作ればいいのかが問題だな。」

それから三人は、色々なアイディアを出し合いましたが、今一つ作り方がはっきりしません。

昨日は一睡もしていない三人でしたので、昼食を摂ると睡魔に襲われ、頭が朦朧もうろうとして考えがまとまらなくなってきました。

三人は、一度寝る事にして各々の布団に入り、あっと言う間に眠りにつきました。

 翌朝、話し合いを始めた涼太は、ポケットの辺りがむずむずするので手を入れてみると、中から数枚の紙が出てきました。紙を広げて見ると、涼太の字でコンベアーの作り方で縄の弛みを少なくする方法やギヤ比を考えた歯車の作り方など重要な事が書かれていました。

「これは?どういう事?確かに僕の字だけど、全く記憶に無いぞ。」

「う~ん?どうやら寝ている時、元の世界に戻って調べて来たみたいだね。と言う事は、これもクリアする為の大事な要素なんだろうね。」

 三人は、この紙に書かれている通りに作る為に、鉄晴は海の村に、涼太は山の村に協力を頼みに行きました。

 この機械が出来れば、今まで一日仕事だった物々交換がすぐに出来るだけじゃ無く、新鮮で美味しい物を食べる事が出来る事を説明してお手伝いをお願いしました。

「村の人たちに取っても、良い話じゃ。何でも手伝おう。」と両方の村長さんが言ってくれました。三人は、村人たちの協力を得て荷物を運ぶベルトコンベアーの作成を始め、色々な失敗を重ねながら、やがて完成しました。

 その頃には、道はすっかり出来上がり、山頂にはきれいな山小屋も出来ていました。

 山小屋には美香が、海の村の麓には鉄晴が、山の村の麓には涼太が常駐しました。

 朝になって、海の村人が交換する魚や貝を麓の鉄晴の所まで持ってきて言いました。

「これを米と味噌にかえたいんだ。」

「すごく大きな鯛ですね。この貝はなんですか?」

「これか?これは鮑じゃよ。生でも焼いてもうまいんじゃ。」

「そうなんですか、きっと山の村の人たちも喜びますよ」と言って鉄晴と村人は魚の入った桶と貝殻を2枚をベルトコンベアーに載せて、ハンドルを回し始めました。

 二人は協力してハンドルを回し続けて、15分ぐらいで山頂に着きました。暫くすると、合図の紐が引っ張られました。今度は、ハンドルを反対に回し続けるとゴンドラが降りて来ました。ゴンドラの中には、米と味噌と2枚の貝殻が入っており、貝殻の裏には米と味噌の字が書かれていました。鉄晴が村人から魚を受け取り村人に品物を渡す迄の時間は、僅か1時間足らずですので、村人は喜んで帰っていきました。

 当然、山の村でも皆喜んでおり、三人に感謝しました。この生活を暫く続けていると、久しぶりに数字の出で来る夢を見ました。なんと三人共240でした。朝起きると三人は連絡を取り合って、夜に山頂で集まる事にしました。

「この数字は、いったいなんだろう?」

「そうよね、いくつが最高なのかしら?」

「何か見落としている事があると思うだけど?」

 三人で色々話している内に、なぜ三人の数字が全く一緒なのかに付いて考え始めました。

「全く同じと言う事は、貢献度も同じと言う事だよな。」

「でも、おかしくない。今は、三人共バラバラに行動しているでしょ!なのに何故同じなのよ。」

「そう言えば、三人で道を作っていた時は同じでは無かったな?一人一人が違う目的を達成する事に依って数字が上がっているのかな?」

「そうかもしれないな。今は三人の達成度が同じと言う事は、僕達の行動は間違っていない証拠だよな。」

「でも、まだ帰れないという事は、何かまだやらなきゃならない事があるってことね。」

「そうだな、その内なにか出てくると思うよ。それより、この数字について考えようよ。」

暫く沈黙したあと、美香が言いました。

「あ~分からない。早く真っ赤な太陽に包まれて、元の世界に帰りたい!」

「えっ!」二人が声を揃えて言いました。

「今何て言った?」「元の世界に帰りたい」

「違う!その前。」「早く真っ赤な太陽に包まれて・」

「君は赤に包まれたの?」「そうよ。二人は違うの?」

「ああ違うよ、僕は緑の葉っぱに包まれて元世界に戻ったんだ。」

 と涼太が言いました。

「僕は、真っ青な海のなかに吸い込まれていった。」

「そうか!赤・緑・青だから僕たち三人なんだ!」

「どうゆう事?私にも説明して!」

「つまり、光の三原色なんだ。」「だから?」

「だ~か~ら~。この三原色ですべての色を表現できるんだよ。」

「わかったわ!この数字の上限が、原色の数字と同じなのね?それで、幾つなの?」

「・・・忘れた。」「えっ!なんて?」「わ・す・れ・た!」

「もう~役に立たないわね!でも、少しもやもやが晴れた気がするわ。」

「そうだな、数字の意味も分かったから次の事を考えよう。」

 三人は、次に何を行うべきかを話し合いましたが、具体的な案は出ず、とりあえず美香は山頂、涼太は山の村、鉄晴は海の村で色々の事を試してみることにしました。


 涼太と鉄晴が、それぞれの村に帰っていくと早速美香は、山頂をきれいにすることにしました。出来るだけ平らな土地にするために、土を運んで来て山小屋の前に撒きました。

 半年ほどで、山小屋の前は平らでかなりきれいになり、広さもかなりある土地になりました。「よし!きれいになってきたわ。これから何をしようかしら?」

 暫く眺めていて、ふと思いついた事がありました。

「そうだ!この山で色々な物を作った方が良いかもね。」そして翌日から何を作るかを考え始めました。

 小屋の地盤を固めるために、小屋の裏側に竹を植えることにしました。

「これだと、春になれば筍も取れるし、地滑りも少なくなると思うからこれで良いわ。あと、栗の木もいいわね。キノコも取れればいいので、赤松も植えることにしよう~と。」

 美香は思い付くままに木を植え始めました。

 その頃鉄晴は、村長さんに村人全員を集めてもらう事をお願いしに行っていました。

「村長さん、麓にあるベルトコンベアーの使い方と修理方法を皆さんに知って貰いたいので、一度全員を集めてもらえませんか?」

「お前さんが居るから、皆が知らなくてもいいんじゃないかの~?」“自分が違う世界から来ていつ戻るか分からないから”と言えない鉄晴は、色々考えて「確かにわたしが元気な時は大丈夫ですが、いつ病気になったり事故にあったりするか分かりません。だから元気な時に皆さんに伝え、わたしに何か起こった時には皆さんで出来るようにしておきたいので、集めて貰えませんか?」

「なるほど、確かにそうじゃのう。みんなを集めよう。」

 翌日、村人たちは村長の家に集まってくれました。まず最初に、ベルトコンベアーの仕組みを説明し、修理方法と保守の仕方について話をしている時に、一人の村人が言いました。

「おらには、そんなにたくさん憶えらんねー。」すると、他の村人たちも同じことを言い始めました。これが最後のやるべき事と思っている鉄晴は、どうしても“皆に伝えなくては元の世界に帰れない”という気持ちがいっぱいで思わず自分の鬱憤うっぷんを吐き出してしまいました。

「あなた達の為でしょう!無理じゃなくて憶えてください。」

「そんな事を言われても、無理な事は無理じゃ!」と言うと村人達は次々と帰って行きました。

「ちょっと待ってください!」と言ってもみんな帰って行きました。鉄晴は、愕然がくぜんとしてその場に座り込んでしまいました。すると、ゆっくりと近づいてきた村長さんが、鉄晴の肩に手を置いて優しく話し始めました。

「お前さんの気持ちも分からん事は無いが、自分の意見だけを言えば対立するもんじゃ。今回は、お前さんへの感謝の気持ちがあるから全員おとなしく帰ったが、あんな言い方をすれば喧嘩になっても仕方ないじゃろうな」

「村長さん!僕の言ってる事は間違っていますか?」

「いいや、間違ってはおらん。しかし、話し方が間違っておる。みんなは、お前さんほど賢くないから全部を憶えられない苛立ちがあったところに、高圧的な言い方をされたので嫌になってしまったんじゃ。話し方次第で、結果は良くも悪くもなるもんじゃ」その言葉を聞いて鉄晴は“ハッ”としました。

 自分が早く元の世界に帰りたい気持ちが一杯で、口では村の為と言いながら、本当は自分の為だった事に気付きました。

「僕は、どうしたらいいですか?」

「そうじゃの~、皆が憶えれる位にやる事を細かく分けたらどうじゃろう?」

「なるほど!そうすれば、憶える事が少なくなりますね」

 それから二人は数日かけて、手先の器用さや性格面等を色々相談をしながらやっと一つの案が出来ました。

「これで皆が、納得してくれるでしょうか?」

「たぶん大丈夫じゃろう。皆も前の事を少しは反省しておる筈じゃ」

 翌日、村長さんが全員を集めてくれました。

「この前は、たいへん失礼しました。あの後、村長さんにご意見を聞きながら一つの方法を考えました。全員がすべてを憶えるのではなく、2・3人で一つの事を憶えてもらう方法です。いかがですか?」

「たとえばどんな事を憶えるんじゃ?」

「そうですね、たとえば手先の器用な人に集まって貰い、コンベアーで使う歯車だけを作って貰ったり、ベルト部分である縄だけを作って貰ったり、掃除だけをして貰ったりです。」

「それ位なら憶えられそうだ」

 話し合いは順調に進み、役割も村長さんの言った通りでみんなが納得してくれました。

 翌日から各部分の家へ行き、作り方や注意点を丁寧に教えて回りました。一通り終わった頃、久しぶりに数字が現れました。数字は、250でした。

「250か?少し上がったけれど、まだ帰れないみたいだな。ゴールの数字が分からないから、もう少しなのかどうかさっぱり分からないや」


                 第四章 最後の選択


 それから数年経ち、三人は立派な若者になりました。

 そんなある時鉄晴は、村の娘から愛の告白をされました。嬉しい反面、何時この世界から居なくなるか分からないのに受け入れて良いのか悩みました。

「これが、クリアの条件なのか?何か違う気がするんだけどなー。僕が居なくなったら、彼女はどうなるんだろう?」色々な事を考えましたが結論が出ません。

「分からん!二人に意見を聞いてみよう。」

 数日後、三人は美香の所に集まり話し合いを始めました。

「今回集まってもらったのは、村の娘から告白されたンだけど、これが元の世界に帰る為の条件だと思う?みんなの意見を聞かせて欲しいだ。」

「えっ!あなたも。」

「えっ!実は僕もなんだ。」なんと三人共告白をされていたのです。

「三人とも同じだったら、これが条件の様な気がするな。」

「私は、何か違う気がするわ。二人は、その娘に愛情があるの?私は、無いのよね。こんな気持ちで結婚するのは、絶対に違うと思うわ。」

「確かに愛情は無いなー。でも、我慢すれば帰れるかもしれないだぜ。やってみる価値はあると思うけどなー。」

「本当にそうなのかしら?私の、前の経験から考えると一回ここで失敗している気がするンだけど!」

「そうかなー、結婚すると終わりかもしれないんだぜ!」

「僕も、美香さんと同じ意見です。何か違う気がするんだ。」

「何が違うんだ?相手が求めて来ているので、それに応えるだけじゃないか。」

「確かにそうよ。でも、何か変じゃない?もし、結婚して終わりになると、相手はどうなるのかしら?いきなり、目の前から居なくなっちゃうのよ。」

「それじゃ、君たち二人は辞めればいい!僕は結婚する!」と言い張る鉄晴に困ってしまい、美香は何気なくポケットに手を入れると指先に何か当たりました。

ポケットの隅にあって取り出しにくいが、なんとか取り出すと丸まった紙でした。

かなり古いようなので、破れないように慎重に広げていきました。

「あれ、私の字で何か書いてあるわ。“0-255の変化”と書かれているわ。これって、私達の数字の事じゃないかしら?」

「そうみたいだね。でも、かなり古いな?でも、何故そんな物があるのかな?そうか!僕達も、美香さんの経験の様に繰り返しているってことか?」

「きっと、そうよ!結婚は駄目と言う事じゃないかしら?」

 今まで黙って見ていた鉄晴は、少し冷静さを取り戻して紙を手に取ってじっと見ました。

 暫くしてから、やっとこの紙の意味を受け入れる事ができ、自分のこだわりを打ち消す事が出来ました。

「そうか。そう言われると、この終わり方は少し変かもしれないな。」

と少し恥ずかしそうに言いました。

二人はホッ!として言いました。

「それじゃ何故求婚されているのか、分からないな」「そうね」

「よし!みんなで理由を探ろう。きっと何かあるはずだ。」

 二人はそれぞれの村に帰って行きました。村に着いた涼太は、娘について話を聞いてみることにしました。

 すると、娘には既に好きな人がいる事が分かりました。

“どういう事だろう?”と考えながら歩いていると、前から娘が歩いてきました。

「やぁ、少し話をしたいけれど、良いかな?」「良いですよ」

「君は、僕のことを本当に好きなの?」「はい、好きですよ」

「僕と結婚して、哀しむ人は居ないのかい?」と言うと、驚いた様な顔をして下を向いてしまいました。

「やはり誰か居るんですね?」娘は軽く頷きながら、涙がこぼれ落ちました。

「それじゃ何故、僕と結婚しようとしたの?」「村の為です」

「僕と結婚する事が、村の為なのですか?」「はい、ごめんなさい」

と言うと、娘は走り去ってしまいました。

意味が分からない涼太は、村長さんに聞けば分かるかもしれないと思い、村長さんの家に向かいました。家の近く迄来た時、先ほどの娘が家に入って行くのを見て、何か秘密があると思い、ゆっくり後を付けて行きました。

窓の下で二人の話を聞いていると、涼太の予想もしなかった理由が分かりました。

急いで山頂の美香の所に行き、鉄晴を呼んで話をしました。

「今まで気付かなかった事だけど、村の人たちは全員親戚なんだ」「だから?」

「だから、僕たちと結婚して新しい血を村に入れたかったんだ」

「なるほどね、血縁が濃くなりすぎると色々な障害がでる確率が高くなるものね。海の村も同じ?」

「僕はそこまで確かめてはいないけど、非常に村人同士が性格を含めて良く知っているとは確かだから、たぶんそうなんじゃないかな」

「ところで、美香はどっちの村から告白されたの?」

「私は、両方の村からよ」

「それじゃ、たぶん海の村も全員が親戚の可能性が高いみたいだね。やはり、僕達の結婚は根本的な解決にはならないようだね」

 三人は、この事を知ったので、前に失敗している事を確信しました。

「この問題を解決する方法は1つしかないと思うけど、違うかな?」

「私も、そう思うわ!」

「それじゃ、僕達は村に行って村長さんに相談して来るよ」

そして二人は、村長さんに1つの提案をしました。

「村長さん、山頂では春には筍が取れ、秋には栗が取れるようになりました。折角ですので、季節の恵みを祝って向こうの村の人たちと一緒にお祭りをしませんか?」

 二人の村長さんは、非常に喜んで賛成してくれました。

 いよいよ、第一回目の合同の祭が始まりました。初めの内は、同じ村人同士で話していましたが、時が立つと共に少しづつ話をするようになってきました。

最初は、男は男同士、女は女同士で話をしていましたが、どちらの村も親戚ばかりですのですぐに1つの輪になっていきました。

 暫くすると、気の合った者同士が少しづつ輪の中から外れていきました。

三人は、その光景を見て顔を見合わせて頷きました。

「これで上手くいけばいいな!」

「少し不安な事があるンだけど~」「何が不安なの?」

「私、思うンだけど~ここで好意を持っても、二人の会う場所が無いじゃない、恋に発展するかしら?」

「確かにそうだな!僕達で何か考えて、二人が会えるようにしてあげないと無理かもしれないな~」

「二つの村の真ん中はここだから、この場所で何か考えないと駄目だな!」

 三人は、色々なアイディアを出し合い、1つの結論が出ました。

 そうこうしている間に、日がかなり傾いて来ました。

三人の代表として美香が村人たちの前に立ち、二人の村長さんにお礼を言った後に1つの提案をしました。

「皆さん、私からのお願いなのですが、今の私が行っている仕事を両方の村から一人づつ来て頂いて、手伝って戴けませんか?」

「別に、今のままで良いんじゃないか?」

「私は、魚の価値や米や野菜の価値が良く分からないです。だから、価値の良く分かっている代表の二人で話をした方が良いと思うです。いかがですか?」

「なるほど、そうじゃの~。皆は、それで良いか?」

「美香さんの言う通りじゃ。明日からそうしよう」

 明日、来る人を誰にするかを決めかねている様子でしたので、鉄晴と涼太が話をしていた男女二人の所に行きそっと耳打ちしました。

すると、二人は慌てて手を上げて「おら達がやるぞー」と言って村長さんの前に行きました。

「よし!お前たちで、きまりだ!」

 明日の事も決まったので、村人たちはそれぞれの村に帰って行きました。

「ねぇ、二人に何を言ったの?」

「大して忙しく無いから、一日中二人だけでいられるよと言っただけよ」

「それじゃ、出来る限り二人だけしてあげないといけないってことね」

翌朝、二人は美香の所にやって来ました。

 美香は、二人に仕事を説明すると、あとは二人に任せて小屋の整理を始めました。

 二人は、色々な事を相談しながら仕事をしている間に、お互いの考え方や性格が分かってきました。

そして、夕方になって帰れる頃になっても、まだ話し足りない様子でした。

「今日は、お疲れさまでした。ここの仕事を少しは覚えて貰えました?」と言って二人の反応を観ました。二人は、うつむいたままで少し頷きました。

このままでは駄目だと思った美香は、「やはり、一日だけでは覚えられないよね!明日も来ない?」

と言うと、二人は目を輝かせながら「覚えられなかったので、明日も来ます」と言ってニコニコしながら帰って行きました。

 それから数日間、二人は毎日やって来ました。

そんなある日、二人が来ないので心配していると、お昼頃に二人が村長さんと一緒にやって来ました。

「どうしたのですか?」「実は、この二人が一緒になりたいと言っておるのじゃが、お互いの村が良いかどうか確かめに来たのじゃ」と言うと、四人は小屋の中に入って行きました。

暫くして、四人は小屋から出て来たので、話を聞こうと思って駆け寄りました。

 そして、二人の顔を見て、聞くまでもないと思いました。

 二人は、ずっとニコニコしているのですから…

 それから1ヶ月後、二人は山頂の小屋で婚礼を行い、海の村と山の村が抱えていた問題が解決しました。

 三人は、顔を見合わせニッコリと笑いハイタッチをしました。すると、三人の間に一つの真っ黒な球が現れゆっくりと回転を始めました。

 美香は“なんだろうこの球は?”と言ってふと視線を上げると、なんと三人の頭上に数字が現れていて、255になっていました。驚いた美香は、すぐに言葉が出ないので指で上を指して二人に伝えると、見上げた二人も固まってしまいました。

「これで終わりなのか?」「たぶん、そうだよ!」「やっと帰れるのね!」

 三人の間で回転していた球が、回転する度に少しづつ色が変わっていき、やがて真っ白になった瞬間に“パァ”と弾け飛び、白い煙が三人の周りを回り始め、それぞれが煙に包まれていきました。

「みんな、色々あったけれど、ありがとう!」と美香が言いました。

「なんか、終わりと思うと寂しいけれどホッとするよな」と鉄晴が言い、「現実の世界でも会いたいな。この事を忘れたくないね。ありがとう!」と涼太が言った瞬間、いろんな色が体を包み、まばたきをしたら元の世界に戻っていました。


 元に戻った三人は、物語は憶えているのですが二人の顔も名前も思い出せません。そして不思議な事に、この事を誰かに話そうとすると“パァ~”と忘れてしまいます。しかし、一人の時は思い出せるので、文章に書けばいいと思い、書こうと思うとまた忘れてしまうのです。

 もう一度三人で話をしたいと思っても、個人的な情報は全て忘れてしまい探す事が出来ません。三人で力を合わせて、自分の為では無く、他人の為に行動していた時の充実感や最後の達成感を語り合いたくてしかたありません。

 なんとか探す方法が無いかと考えましたが、全く思いつかないので諦めはじめましが、取り敢えず自分が出来るボランティア活動をしてみる事にしました。そして、三か月位たった頃にふと新聞を見て“これかもしれない!”と思い連絡をしました。

「もしもし、今日の新聞に載っていた崖崩れで孤立した村でのボランティア活動に応募したいのですが、どうすればいいのですか?」

「ありがとうございます。まず、お名前とご住所と年齢をお願いします。」

「寺畑 鉄晴。○○市、14歳です。」「中学生ですか?」「はい!お願いします」

「ご応募ありがとうね。でも、二十歳以上で無いと駄目なの、ごめんね。大きくなったら是非参加してね」

「是非お手伝いをしたいのです。お願いします!」「ごめんね、規則なの・・」

「そうですか。分かりました、どうもすいませんでした」

 鉄晴は前の経験で、自分の望み通りにならない時はまだ時期じゃない事を学んでいたので、二十歳まで待つ事にしました。

 一方、ボランティア団体では、受付の娘とリーダーが話をしていました。

「どう?人数は集まった?」「今、5人です」

「ちょっと少ないな~、まぁ仕方ないか、今後増えればいいけれど心配だな」

「5・6年後には、三人は増えると思うわ!」

「何故?」

「今日の応募に、中学生が三人も来たのよ!それも、みんな○○市だからきっと友達同士でボランティア活動をしようとしたんだわ。今後が楽しみでしょ?」

「確かに、楽しみだな!住所と名前を控えておこう。」


 “貴方も忘れている仲間が、すぐ近くにいるかもしれない!”









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