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魔女とカエル

作者: 栖坂月

こんなにファンタジーな感じの作品は初投稿作以来かもしれません。

あ、基本コメディなんでお気軽にどうぞ。


 中空と湖面、二つの月が湖畔の林を優しく照らしている。周囲に満ちるは虫の声と、時折吹き抜けていく涼やかな風の音のみ。そこはまるで、二人が出会い、想いを育むために用意された舞台であるかのように、何もかもが整っていた。

「約束するよ」

 湖畔に唯一、水面を覗き込むように張り出した大きな岩の上で、月を見ながら呟きが漏れる。

「約束?」

「いつかきっと迎えに行く。ボクとキミが、いつまでも共にあるために」

 見詰められる少女に言葉はない。

 いや、言葉などなくとも想いは伝わっていた。

 そう信じていたからこそ、彼女はずっと待ち続けることができたのだから。



 そして時は巡り、少女は麗しい姫となり、彼女の前には二人の王子が立っていた。いや正確には、一人の王子が二人になっていた。

「……そういうことか。なるほどね」

 煙幕と思しき紫色の気体が四散し、全ての光景が明確な輪郭を宿していく様を眺めつつ、姫は納得したように呟いた。

「ど、どういうことですか?」

「どうして私が二人にっ!」

 一方の王子達は狼狽しまくっている。とはいえ、この非常事態かつ異常事態に落ち着いていられる姫の方が、どちらかと言えば常軌を逸した存在であると言えるだろう。

「まぁまぁ落ち着いて」

 手にした棍棒、というか成長しすぎた大木の絡まった根っこの一部みたいな代物でトントンと自分の肩を叩きつつ、そんなことを言ってのける。

「落ち着いてる場合ですかっ!」

「追っ手がすぐそこまで迫っているかもしれないんですよ?」

 二人の王子が口々にもっともな主張を口にする。どちらかが本物でどちらかが偽者だとしても、表面上は姫の身を案じているようだ。

「大丈夫。この地下道は簡単には発見されないし、もし万が一見付かったとしても、すでに追っ手用の罠が発動しているハズです。連中がウロついている外へ出るくらいなら、ここにいた方がずっと安全だと思います」

「ですが……」

「このままでは……」

 事態は急務である。姫と王子は追われていた。それも賊から逃げている程度の話ではない。国を追われているのだ。

「わかっています。私とて、もうそれほど子供ではありませんよ?」

 そう言って微笑む様は、まさしく姫と呼ぶに相応しい気品と優雅さに満ちている。着ているドレスが無粋な地下通路によって薄汚れてなどいなかったなら、間違いなく王子は今という状況とここという場所を忘れてしまっていたことだろう。

「それにしてもここは……」

「ずいぶん立派な場所ですね」

 ここまで通ってきた通路が狭いやら汚いやらと散々だっただけに、余計特異な場所に映る。隣国の王子である彼は何度か城を訪れてはいるが、こんな場所があることは露ほども知らなかった。そもそも窓もない地下の空間であるというのに、壁そのものが光を放って部屋を照らしているなど、高度な技術の産物でないハズがない。それなのに、何かに使っているような気配は感じられず、高く広い円筒形の空間が存在しているだけなのだ。ある意味、気味の悪さすら覚えるほどだろう。

 そしてその何もない部屋にたった一つ置かれていた物、それが今姫の持っている棍棒であった。

「歴代の宮廷魔術師が研究を行うための部屋だったらしいけど、今は使っていないのです。場所も安全を考慮して城から離れているし、不便だったこともありますから」

「それで、その杖は?」

「何の杖なんですか?」

「もちろん、強力な魔法の杖です。我が王家に代々伝わっている由緒正しき代物ですのよ」

 杖というより棍棒を振りかざして、姫は誇らしげに述べてみたりするワケだが、物が物だけに今一つ説得力には欠けていた。というか、どちらの王子もあからさまに疑っている眼差しだ。

「……信じていませんね?」

「いえ、滅相もないっ!」

「姫を疑ったりなどいたすものですかっ!」

 慌てて頭を振る王子二人。容姿も同じだが、息も見事なほどピッタリだ。

「まぁ正直、私としても半信半疑だったのですが、どうやら魔力の篭った杖であることは間違いないようです。この呪いこそが、何よりの証拠でしょう?」

『呪い?』

 同時に言い放ち、同時に顔を見合わせる。

「魔女の呪いです。おそらく、お二人のうち間違った方を選んだら、この呪いは解けないのでしょう。とんでもない仕掛けを残してくれたものです」

 姫の溜め息は深い。

「……確かに奇妙だとは思いますけど、とりあえず今は逃げることを優先されては?」

 王子の一人が歩み出る。

「そうです。今は身の安全を第一に図って、その後にこの呪いは対処すれば良いでしょう。幸い、二人になった以上の実害はないようですし、むしろ姫をお守りする立場としては心強くすらあります」

 もう一人の王子も同意する。が、姫はゆっくりと大きく首を横に振った。

「私達はただでさえ目立つ存在です。王子の領土まで誰の目にも触れずに済むなど有り得ないでしょう。そんな状況で王子が二人に増えていたなんて、忘れようがない事態じゃありませんか。それに、もし二人が本物ならば心強い話ですが、そうではありません。それも、単なる偽者ですらないのです」

「と、言われますと?」

「何だと言うのです?」

 不安そうな王子達に、姫は雄々しく棍棒を突き付ける。

「一人は、魔女の化けた姿なのです!」

 というワケで、本物はどっちだということが判明しない限り、この部屋から出られないという暗黙のルールが決まった。



『赤っ!』

 二人の声が完璧にハモる。

「もういいです。やめやめー」

「しかし姫……」

「このままではどちらが本物なのか……」

「例え二人の答えが食い違っていたところで本物かどうかなんてわかりません。私は王子の好きな色なんて知らないんだから。そもそも、王子の経歴で差はつかないかもしれません」

 びゅんっ!

 棍棒が水平に鋭く流れていく。当たればホームランは必死だ。

「それは一体……」

「どういう意味ですか?」

 王子達は不思議そうに顔を見合わせる。

「どういうカラクリになっているのか知らないけど、王子の経歴はコピーされていると見た方がいいでしょう。記憶の全てとまではいかなくとも、基本的な経歴や特徴に違いは感じられません。それに――」

 びゅんっ!

「それに?」

「何です?」

「それに、偽者は偽者だと思っていないかもしれません。偽っているのではなく、二人共自分のことを本物だと思っているのなら、見分けるのは極めて困難な話になります」

 びゅんっ!

「なるほど」

「ところで姫?」

 王子の片方が何やら気になったのか、挙手をして発言を求める。

「何ですか?」

 びゅんっ!

「先程からその……何をされているのですか? バ○ー・ボ○ズも真っ青なアッパースウィングが気になって仕方ないのですが」

「あぁこれ? 偽者をぶっとばす練習です」

「ぶっとばすって……」

「そもそも、その杖は何なんですか?」

 事情を知らない王子の何気ない疑問であったことは間違いない。しかしそれは、ホームラン王を目指して一心不乱にバットを振るプロ根性さえも凌駕するほど、彼女の心に突き刺さった。

「これは、私に残された唯一の希望です」

 静かで、それでいながら重い声の響きに、王子達は言葉を失う。その憂いを帯びた横顔に気安く声を掛けられるほど、二人の王子は無神経ではなかったためだ。

「もう少し正確に言うと、イヤな相手をカエルに変えることができる杖です」

 王子達の心遣いはキッパリ無駄だったらしい。

「つまるところ、我々の内の偽者を思い切りその杖でぶっ叩くと、魔女はカエルになり、呪いは解けるというワケですね?」

「そうです。ちなみに使用法には優しく小突くようにと記されていましたが」

 意味のないホームランである。

「あの、それでは先程のアッパースウィングは……」

「単なる趣味です」

 王子は何か言いたそうだが、それをグッと堪えていた。この状況で姫の心証が悪くなる危険性を考慮しているせいだろう。姿に違いがなく抱えている経歴にも差がない。しかも本人だと思っているのだとするなら、実際のところ差など出ようハズもない。そう思っている自分の方が偽者である可能性だって否定できないのだ。

「そ、そうですか」

 出かかった文句を押さえ込み、王子は何とか平静を取り戻す。

 が、姫は甘くなかった。

「ひょっとして、怖がってますか?」

「なな、何をです?」

「本物なら、怖がる必要ないですよね?」

 道理だが、強引な理屈である。

「しかしですね。さすがに目の前であれほどのスウィングを見せられては、その先を想像して萎縮してしまうのも無理からぬことではないかと……なぁ?」

 困った挙句、隣にいる境遇を同じくする人物に同意を求める。

「自分はちっとも怖くなんかありませんが?」

「ウソつけっ! 汚いぞ、お前っ!」

「自分は姫のために生き、死ぬ覚悟ができてますから」

「お前が姫の何を知ってるってんだよっ!」

「何もかも知ってるわっ! お前の知らないホクロの位置から喘ぎ声までなっ!」

「喘ぎ声くらい俺だって知ってるわっ!」

「ああ見えて姫は処女だぞっ! どうやって聞いたんだよ、喘ぎ声なんてよっ!」

「そんなモンに引っかかるかよ。盗聴器に決まってるだろーが!」

「じゃあホクロはどーだ? どこにあんだよっ!」

「乳首の下だろ。お前こそホントに知ってんのかっ!」

「当たりめーだろ。姫の監視は俺の義務なんだよっ!」

「それこそウソつけっ! 実益も兼ねてたクセによ!」

「てめーにそんなこと――」

 立ち昇るダークオーラに気付いたのは、その瞬間である。

「あ、いや姫、これはその……」

「出来心というか、姫を想う余りの所業というか……」

「はいはーい、二人共黙りなさいねー。それとも、二人仲良くカエルになりたいのかなー?」

 笑顔なだけに余計怖い。

『すいません。ホントすいません』

 平謝りですら、その情けなさも含めて完璧に互角である。ここまでくると、もしかすると二人共本物なのではないかとすら思えてくるところだ。

「……まぁ、その件に関しては後ほどみっちり追及するとして、今は偽者を判別することの方が先です。とはいえ、王子としての知識を比べてみたところで不毛に時間を費やすだけでしょう。そこで、少し別の方向から切り込んでみようと思います」

 このままでは埒があかないと判断したのだろう。姫はアプローチの方向を変えることにした。この地下通路に対する信用度は王子に比べて間違いなく大きいが、それでも急ぐべき事態であることは自覚している。時間は、少なくとも無限ではないし、間違いなく刻限は迫っているのだ。

「ですが、違いがない以上……」

「どうすれば確かめられるというのですか?」

 二人の王子も、もはやどっちが本物なのかわからなくなっているのかもしれない。

「王子に関する知識は同一、でも魔女の知識はどうでしょう。例え本人が忘れていると思っていても、心の奥底には残っているかもしれません」

「そうか、魔女の知識を王子である自分が有しているハズはない、ということですね?」

「道理はわかりました。でも、結局のところどうやって確かめるのです? 魔女の持っている知識がどんなものか、姫はご存知なのですか?」

 素朴かつ的確な疑問に、姫は微笑みを返す。

「魔女が何を考えているのかなんて、私にはわかりません。でも、心当たりがないワケでもないのです」

「心当たり?」

「それは一体……」

「私の母、すなわち先日殺された女王のことです」

「陛下のことって……魔女と何か関係があるのですか?」

「そんなハズはないでしょう。クライブ族の仕業であったからこそ、こうして城へも攻め込んできているワケで……」

 二人の王子が口にしていることは、極めて常識的で妥当な言い分だ。現在の彼女達がこんな状況に陥っているのは辺境へ追いやられて不満を溜めていたクライブ族の決起と襲撃、更に元を辿れば最高権力者であった女王の暗殺へと繋がっていくことになる。公式発表ではクライブ族の何者かによって暗殺されたとされているが、未だ真実の判明には至っていない。

「証拠はありません。でも、主犯であるにせよ共犯であるにせよ、何かしらの形で魔女が関わっていたことは間違いないと思っています」

「……それは、娘としての勘ですか?」

「いいえ」

 王子の言葉に、姫はキッパリと首を横に振る。

「第一発見者としての勘です」

「ご遺体は、姫が最初に見付けられたのですか?」

「そうです。心の臓を一突きにされていました。窓は開かれ、カーテンがなびいていたことを憶えています。朝日が丁度差し込む時間で、何もかもが眩しかったことも」

「そうですか、それはお気の毒に……」

 王子は肩を落とす。しかし姫は、そんな王子に微笑んで見せた。

「そんなことありませんよ。知っているでしょう。私と母は仲が良くありませんでした。私などより、むしろ王子の方が親しくされていたのではありませんか?」

 この一見何気ない質問に、二人の表情が初めて違う変化を見せる。

「親しいなどと言えるほどであったのかどうか……色々と支援していただいたり、お世話にはなりましたが」

 と言う王子は、ありきたりな少し沈んでいるように見える表情だ。

「とんでもない! 親しいだなんて誤解ですよ。もちろん感謝はしていますが」

 もう一方は、どこかそわそわしているようにも見える。

「王子は、母から何か話を聞いたことはありませんでしたか? 魔女に関する、何かしらの話を」

 この状況で姫が違いを見逃すハズもなく、妙に鋭い眼差しで二人を見比べながら畳み掛けてきた。

「魔女の話ですか。特に聞いた憶えはありませんが」

「魔女なんて、女王様と何の関係もありませんよっ」

 返答の内容に大きな違いはない。しかし二人の態度には真逆と思えるほどの違いがあった。少なくとも片方は、魔女の話題に触れることそのものを避けたいようだ。

「そうですか」

 何一つ解決への糸口など見えていないにもかかわらず、姫の笑顔は気味が悪いほどに穏やかで、晴れやかなものに見えた。まるで何もかもを知った上で話を進めているかのような、そんな余裕すら感じることができた。

 騙そうとしている者にとって、これほどの恐怖はあるまい。

「ひ、姫はひょっとして、何かご存知……」

「昔、約束しましたね」

「約束?」

「それは一体……」

 咄嗟に思い当たる節がないのか、再び同じ顔でキョトンとする王子二人。

「いつか、私を迎えに来てくれるって」

 大きな円筒形の部屋に、深い静寂が木霊する。応じるべき言葉が、簡単には見付からなかったからだ。だが、二人の内にある想いが同一であったワケではない。

「……ゴメン。約束を守れなくて」

 そんな静寂を最初に破ったのは、小さな謝罪の言葉だった。あまりに素直で優しい響きが、周囲の空気さえ穏やかに変える。

「ちょ……ちょっと待って下さい。そんな約束、一体いつ……」

「もう十年前の話です」

 姫は静かに答えた。その眼差しは謝罪をした王子に注がれたままだ。それはすなわち、二人が見詰め合っているという事実を意味することになる。

「おかしいですって! 自分と姫が出会ったのは三年前のことで、十年前に約束なんてできるハズが……」

 慌てて始まる自己主張を遮るように、姫の右手が持ち上がっていく。その先には言うまでもなく、凶悪なまでに捻れて絡まった木の根でできた棍棒がある。それが振り下ろされれば単に痛いばかりではない、カエルとして一生を送らなければならないという極め付きの事実が待っているのだ。

 慌てるなという方が無理な話であろう。

「ままままま、待って下さいっ! もっと落ち着いて……」

 棍棒が頂点に達し、弧を描いて降りてくる。

「くっ!」

 王子は左手で強引に片割れを掴んで引き寄せ、その陰に隠れた。一方の引き寄せられた王子は何が起こったのかわかっていないような間抜け面を晒したまま、呆然と突っ立っている。

 が、訪れるべき衝撃音は響かず、始まるべき呪いは発動しなかった。

「……そうね、貴方の仰る通りです」

 呆然と佇む王子の額から指一本分の距離で、棍棒は止まっていた。

「姫、それでは……」

 身を屈めて怯えている王子も、ようやく事態が止まっていることに気付いたのか、恐る恐る顔を上げる。表情に見える安堵は、間違いなく嘘偽りのないモノだ。

「王子と会ったのは三年前、それ以前は顔を見たこともない間柄でした。でも、そんな事実はどうでもいいのかもしれません。そもそも『あの人』なら、自分が盾になることはあっても、他人を盾にするなどということはしないハズですから」

 棍棒がフワリと舞って軌道を変え、立ち尽くす王子を避けていく。

「え? あの、姫……」

「カエルになるのは、貴方です」

 ザッと大きく踏み込み、そのまま聖騎士がランスでも扱うような優雅さで棍棒を突き上げる。

「この、馬鹿王子っ!!」

 凶悪な丸みを有した棍棒の一端が、鋭く抉るように王子の顔面を捉える。その瞬間、溢れた閃光と細かな粒子によるスモークによって景色が真っ白に染まった。やがてそれらが収まり、周囲の輪郭が姿を現す。

 そこには一人の姫と仰向けになって気絶している一匹のカエル、そして大きな三角の帽子を被った黒装束の少女が立っていた。

 姫の手から滑り落ちた棍棒が床に落ちて金属めいた高い悲鳴を響かせると同時に、停止していたかのような周囲の時間が動き始める。姫と魔女は、互いに引き寄せられるように近付いていき、そのまま抱き締めあった。

「……やっと、やっと戻せた」

「ゴメンね。ボクのせいで……」

 魔女は改めて謝罪する。姫は大きく首を横に振ると、大きな帽子の上からグリグリと撫で回した。

「そんなこといいの。元々は、私の母が悪いのだから」

「にしても、大きくなったね」

「あれから十年だもの。成長して当然じゃない。貴女は、変わらないのね」

「封じられていたからね。でも、ちゃんと見ていたよ、何もかも」

「そう……」

 本音の微笑みはどこか悲しく、淋しげだ。

「大魔女である母親を殺すなんて、ちょっと驚いたよ」

「慌ててたのよ、あの時は。でも、死んでも呪いは解けないって思ってたけど、あの王子の態度からするとまだ生きているみたいね、あの女は」

「そう思っていいだろうね」

 抱擁は解かれ、表情に鋭さが戻る。

「あの身体が傀儡だったのか身代わりだったのかはわからないけど、おかしいと思ったのよ。あんな簡単に、無防備に殺されてくれるなんてね」

「もしかすると、クライブ族の一件も何か関わりがあるかもしれない。あの人は魔女という以前に狡猾な策士だからね」

「でも、私は無事に貴女を取り返した」

 胸を張る姫は、本当に誇らしげだ。

「呪いを解く条件は『王子を杖でカエルに変えること』だなんて、奇妙な上に突飛だね。しかもチャンスは一度だけ。この意地悪な作りはいかにも大魔女らしいと思うけど、それをやってのけるキミも相当だよ」

「全く、この場所に王子一人を連れてくるってだけでも大変だったのに、最後にあんな仕掛けを用意してくれるとはね。自分の母親ながら頭が痛いわ」

「それで、これからどうするつもり?」

 十年来の目的は達成したものの、問題は山積みだ。

「当然、大魔女を倒して貴女と暮らすに決まってるでしょ」

「ホント、姫は変わらないね」

 相棒の呆れるほどの無邪気さに笑みが漏れる。しかし、そこに悲壮感などは欠片も見えなかった。

「それが私の売りだもの。さ、行くよっ!」

 差し伸べた手を、魔女が力強く握り返す。

 困難も苦難も、全ては承知の上だ。

 それでも姫は突き進む。

 いつか魔女と共に帰る、その日のために。


えー、本作品にはガールズラブ要素が――え、遅い?

まぁあんまりいちゃいちゃしてないんで、お許し下さい(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 何気に魔女さんがボクっ娘なところに、栖坂月先生の本気が垣間見えました。 楽しく読ませていただきました。 例の仮面舞踏会なのですが、栖坂月先生のだけでもわかるんじゃないかと思って覗いてみたので…
[一言] 「覆面企画用にとって置けばよかったのに」と思うくらい意外で高品質なお話でした。
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