ビデオチャット
「トイレ行ってくるわ」
「ほい、いてら」
画面向こうでミサが立ち上がり、そのまま画面外へ消えた。
私とミサは、たまにこうしてビデオを繋げボイスチャットを楽しんでいる。お互い一人暮らしをしているので、電話代がかからないこうした機能は重宝するのである。
私はぼんやりとミサが帰るのを待ちわびた。
すると、画面の上部に白い布のようなものが横切るのが見えた。
「ん?」
一瞬だったが確かに何かがミサの部屋を横切った。
もう一度通らないかと思い画面を凝視していると、さっきまでミサが座っていた座椅子の後方に二対の青白い裸足の足が映し出された。
誰かいる……?
泥棒かもしれない。
私は急いでこちら側のビデオをオフに設定した。
これで、ミサのパソコンから私の姿は見えなくなるはずだ。
「ど……どうしよう」
ふと見ると二対の足は、いつの間にか座椅子を跨いでいた。こちらからは膝下までしか見えないが、足の主は白い着物を着ていた。枯れ枝のような細い足は、ところどころ血管が浮き出て見える。
気持ち悪い……
突然画面が黒くなった。切られた?一瞬そう思ったが、チラチラと光が見え隠れするのでそうでないことが分かる。ちぎれた黒い線が縦に幾重にも見える。……髪の毛だ。
パソコンの前にいるんだ。
画面いっぱいに広がった髪の毛。その向こうには、顔が目前に迫っているだろう。
大丈夫。向こうからはこっちが見えないはず。
ソレは顔をゆっくりと上げているらしく、髪の毛が少しずつ落ちていく。私は目が離せれない。
髪が全て後ろに流れ、顔が剥き出しになった。
ソレは笑っていた。目はまっすぐにこちらを捉え、口は張り裂けんばかりに笑っている。
私は失神し、机に突っ伏してしまった。
※
ミサはトイレの前で倒れていた。
その顔はよっぽど恐ろしいものを見たのか、眼と口を全開にし、顔全体を歪ませたまま死んでいたらしい。
私は今でも忘れれない。最後にアレが発した一言。
「いるんでしょ?次はお前だ」