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Colorful  作者: 須王瑠璃
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嘘つきティルガ

「まぁ!またお兄様がそんなことを?」


図書室での話をルシアから聞くと、部屋の主は可愛い声を尖らせた。

部屋の主は、ラナスフィア・ウル・イリュデシア・ランディス。

第一王女であり、母親を同じくするラーグの妹である。

母親譲りの眩い金髪を腰まで流し、魅力的に輝く大きな翡翠の瞳と甘く潤む桃色の唇は、見るものを魅了してやまず、立ち居振る舞いも気品あふれる華やかなこの少女の美しさは、兄と同様に大陸中に轟きわたる勢いである。

4兄弟の末であり、王を始めとして兄弟全員から溺愛されている愛らしい妹姫は、ルシアにとっては多少我儘なところもあるが、すぐ上の兄であるラーグよりはよっぽど常識ある人間だ。

ルシアは年が同じだということで、幼い頃に遊び相手を務め、王女が彼女を気に入ってくれたこともあって今では彼女付の侍女として仕えている。


「ええ。お仕事をしてくださらないとイーシャ様がお嘆きになっておられました」


王女にお茶をさしだしながら、ルシアは苦笑する。


「ありがとう。全く。わたくしのイーシャに迷惑をかけるなんて。本当、どうしてさしあげようかしら」


受け取ったお茶を一口飲んで、ラナスフィアは頬を膨らませると、それに同意するように声が上がった。


「是非、リテロに飛ばしてしまいましょう」


そう言ったのは、ルシアではない。それまで王女の後ろに控えていた男性が声を発したのだ。


「他大陸じゃないですか」


いくらなんでも、他大陸まで飛ばすほどだろうかとルシアは首をかしげる。


「リテロには昔から、仕事をしない人に対する訓練所というものがあるのです。

それはもう恐ろしいほど厳しい訓練だと評判なのですよ。それを受けて帰ってきた怠け者達は、皆一様に全うな仕事人間として更生されているのです。もう三度の飯よりも仕事が好きという人種になるんだとか」

「すごいですね!そんな施設があるなんて!」

「あそこは実力主義ですからね。働かざる者、食うべからずというわけですよ」


イア大陸の隣に位置するリテロ大陸は、地龍が守護する実りの大陸だ。守護のおかげで、いつでも温暖な気候を保っているその大陸の人々は、おおらかなのんびりとした気性をしている。

しかし、そんな気性の裏で、そのような厳しい施設を常設しているとは意外としか言えない。


「ね、すごいですよね、姫様」


感心してキラキラとした瞳を向けてくるルシアに、ずっと黙って話を聞いていた王女は一瞬可哀想なものを見る目を向けてから、背後に控える男を睨みつけた。そして、一言。


「嘘でしょう?」

「はい」

「へ?」


王女に睨みつけられても平然としながら言葉を返す男を見て、気の抜けた声を上げたルシアは、意味を解すると猛然と男を睨みつけた。


「また嘘なんですか!ティルガ様!酷いです!」

「またとはなんですか。失礼ですね。この前言ったのは出鱈目ですよ」

「同じですよ!」


男は褐色の髪をかきあげ、薄い緑の瞳に小馬鹿にするような色をにじませて、ルシアを見やる。

その顔は、イーシャとそっくりではあるが穏やかな雰囲気のイーシャとはまとう雰囲気が全く違う為、一見似ているようには思えない。


「騙される方も騙される方なのですよ?ルシア嬢はいつも単純でいけない」

「イーシャ様に訴えますよ?」

「俺が悪かったです。すいません」



* * *



ティルガ・ディキンス。

イーシャ・ディキンスの双子の弟で、武術に秀でた才能をもち、その道では逸材であると評判の男だ。

武術だけではなく弁舌にも長けた有能な人物である彼は、王女の護衛として三年前から常に側に控えている。

しかしながら、その性格は温厚な兄のイーシャとは違い、大いに問題がある。

このティルガという男。嘘をつく事を趣味としているのである。

それは他愛のない嘘や作り事めいた事がほとんどであるのだが、時折ひどく信憑性の高い嘘をつくから厄介なのだ。そして、そんな彼の手綱をとることができるのは、兄のイーシャだけという有様。

もっとも幼い頃から一緒にいる王女も彼の相手は慣れたもので、イーシャの次くらいに彼の扱いには長けていると自負している。

しかし、よく言えば素直、悪く言えば単純なルシアは、王女と同じように幼い頃から慣れ親しんでいる間柄であるにも関わらず、それこそ毎回といって言いほどにその嘘に騙されてしまう。

なまじティルガがイーシャと同じくらいに博学であるという事を知っているものだから、余計に騙されてしまうのだとルシアは言うが、毎回同じように騙されている姿を見ている王女としては、学習能力はないのだろうかと呆れるばかりである。


「ルシア、いい加減ティルガの言う事は八割が嘘だという事を学習なさいな」


王女は大きく溜息をつく。その言葉に、ルシアはしょんぼりするが、ティルガは聞き捨てならないとばかりに反論する。


「ラナスフィア様、それはあんまりなお言葉です」

「あら?どこが不満なのかしら?」

「俺の言葉は、七割が嘘、一割が悪ふざけ、もう一割がお茶目、最後の一割が真実なのでございます」

「真実は一割だけなんですか?!ティルガ様?!」

「・・・・・。そんな細かい事はどうでもよろしい」

「重要な事ですのに」

「なんだか、無性にイーシャを側に呼びたくなってきたわね」

「申し訳ございません。悔い改めます」


結局のところ、兄に弱いティルガは、大抵の事ならイーシャの名前さえだせば大人しくなる。

同じように問題を起こすラーグとは違って、毎回騙されてしまうとはいえ、ルシアにとっては扱いにくい相手ではない。ラーグの場合は、ティルガに対するイーシャのように、言うことを聞かせられる相手がいないのが問題なのだ。

ルシアはポンポンと言葉を投げあう王女と護衛の為に、お茶のお代わりを用意しながら、そう考える。

そして、今度こそは騙されませんから!と、もう幾度となく誓った誓いを繰り返すのだった。




後書き お読みくださりありがとうございます♪

なにやらお気に入り登録もしてもらえて嬉しいです。

登録してくださった方、ありがとうございます~♪


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