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Colorful  作者: 須王瑠璃
2/12

暴走イーシャ

「ラーグ様!こんなところで何をしていらっしゃるのですか!」


図書室に勢いよく飛び込んでくる闖入者。肩までの褐色の髪を後ろで一つに束ね、薄い緑の瞳に怒気をにじませた少年が、勢いよく靴音を響かせ、早足で二人に近づいていく。

目じりが下がっていて、本来なら温和な雰囲気を醸し出す少年だったが、今は般若もかくやというほどに怒っている。


「会議はとっくの昔に始まっているのですよ?!こんな所で油を売っている暇などありません!」


彼はラーグに向かってまくしたてると、ラーグの肩に手をかけて、ルシアから引き離す。


た・・・助かりました・・・。


と、ようやっとラーグが離れてくれて、ホッと安堵の息をつくルシアであったが、彼女から引き離されたラーグは、その美しい眉をよせて不満気だ。


「イーシャ、何故邪魔をするんだ?もう少しだったのに」


先ほどまでとうってかわって、冷たい声。だがイーシャと呼ばれた少年は、そんなことには歯牙にもかけずラーグを睨みつけ、彼に負けず劣らずの冷えた声で言う。


「何故とおっしゃいますか。何故と。だったら、私だってお聞きしたいものですね!何故貴方は大事な会議が始まっているというのに、こんな場所にいらっしゃるのでしょうね?!」


イーシャは、その細身の体が倍以上に膨れ上がったのではないか、と思わせるほどのオーラを放っている。


「イ・・・イーシャ様。あの、その・・・」


そのオーラに竦みあがってしまったルシアが、恐る恐るイーシャへと声をかけると、


「いえ、ルシアに罪はありません。わかっています。大丈夫ですからね」


彼は打って変わってルシアに優しく微笑んでくれた。そうして再びラーグを睨みつける。


「何故ここにいるって?ルシアがいるからに決まっているじゃないか。大体会議に出席しろとか横暴だと思わない?一つの議題に、延々と無駄に討論し続けるだけなんだからさ。

どうせなら賛成・反対双方の意見をまとめたものを提出してくれればいいよ。僕はそれで十分判断できる」

「貴方が判断できたとしても、周りが納得しません。会議とはそれぞれの意見をぶつけ合って、互いの考えを理解していくものなのですから」

「だから、その理解とやらは僕がいなくてもできるでしょ?むさくるしいオジサン達の中にいるよりも、こうやってルシアと一緒にいる方が、何万倍も楽しい」


ね?とルシアに麗しい微笑みを送るラーグ。更に跳ね上がるイーシャの不機嫌度。ルシアは引きつった笑みを浮かべ、心中で狼狽していた。


大変です!イーシャ様のレベル二です!


その時彼女は、救いの主に思えた彼が、絶対の破壊者に変貌しつつあることを察したのである。



* * *



イーシャ・ディキンスは、ラーグの付の補佐官であると同時に上級魔術師として王子の護衛も勤めている程の有能な人物であり、その性格は至極真面目で善良だ。

しかし、その普段は穏やかで優しい彼を唯一激怒させることができるのが、この第三王子なのである。

ラーグの執務に対する態度は一貫して不真面目だ。面倒がって、イーシャに仕事を押し付けて逃亡することは、王宮内でも有名な話となっている。

ラーグと違って生真面目なイーシャは、いつも相当な苦労を強いられており、ことラーグの執務態度となると、人が変わったように厳しくなる。

それはもう恐ろしいまでに。

その彼の怒りのほどを、王宮の人々はレベル一~三で表している。


レベル一は、まだそれほどの脅威ではないが、注意の必要がある。


レベル二だと防御魔法を唱えつつ逃げ道を確保する必要性があるが、まだこちらの話を聞く耳を持っている分マシだ。


そして最後のレベル三になると、それはもうすぐさまそこから離脱しなければならない。

もしくは彼と同じ上級魔術師二,三人で一斉に拘束魔法を唱え、彼の動きを完璧に止めるかである。


宥めようなどと考えてはいけない。

もはやイーシャは言葉が通じる状態ではないからだ。


鬼なのだ。悪魔なのだ。


五年前、勉強を嫌がって逃走したラーグに対し、堪忍袋の緒が切れたイーシャが一度このレベル三に到達したことがある。その時は、ラーグが逃げ込んだ王宮の裏手にある森の一部がぽっかりとなくなってしまった。

当のラーグは、涼しい顔で防御魔法をはり、その場に居合わせたルシアも守ってくれたが、あんな目には二度と合いたくない。本気で死ぬと思った恐ろしい思い出だ。

それから王宮の人々は彼の怒りをレベルで表し、暴走が起こらないよう注意しているのだった。

中でも、実際死ぬ目に合わされたルシアは、そのレベルを推し量ることにはぬきんでている。自分の命がかかっているのであるから、当然ではあるが。

そして恐ろしいことに今、目の前にいるイーシャは確実にレベル二だ。


すぐさま逃げ出したい。


しかし、ここで彼女が何とかしないと納まりがつかないという事も、ルシアは今までの経験から十分に学習していた。


「ラ、ラーグ様?」


精一杯気力を振り絞って、なるべく明るい笑顔になるよう心がける。心中は真っ青ではあるが。


「何?ルシア」

「あの、わ、私、お仕事を頑張っている殿方って、とっても素敵だと思います」

「・・・・・」

「しっかり、お仕事をこなされている方って、輝いて見えますもの。憧れてしまいますわ」

「・・・・・」

「お、思わず、お慕いしそうになってしまいます」


じっとこちらを凝視するラーグの視線に負けそうになりながら、ルシアはなんとか笑顔を保ちつつ言い切った。


「・・・慕う?」


それまで黙っていたラーグが、ぼそっと呟いた。


「は、はい」


ルシアが肯定した瞬間、ラーグは彼女の手をとり、その甲へ口付けた。


「ごめんね、ルシア。君と過ごしたいのは山々なんだけど、僕には仕事があるんだ。終わったら、またすぐに会いに行くから、寂しいだろうけど少しの間だけ我慢してね」


そして先程までとはうってかわって真面目な表情になると、凛とした声でそう告げた。


「いいえ。どうぞルシアの事など一切合財構わず、お仕事を頑張ってくださいませ。ルシアも遠くで応援しておりまから」


いらっしゃらなくて結構です!


とは言えないルシアは、笑顔をひきつらせながら、一部本音を交えつつ見送りの言葉を送る。 そんなルシアに、とろけるような笑顔を見せてから、ラーグは優雅に立ち上がり、


「イーシャ!何をしている!仕事だ!会議に行くぞ!」


そうイーシャに言葉をかけると、彼の返事を待たずにそのままの勢いで図書室をでていってしまった。

その変わり身の早さと、一方的に投げつけられた言葉に、イーシャは毒気を抜かれたように深い溜息をつくが、ラーグがやる気をだしてくれたのであれば彼に否やはない。


「ルシア、ありがとうございます。いつもすいませんね」


ルシアは疲れた顔をしながら、いいえと首を振る。


「あのね、ルシア」


遠慮がちにかけられる言葉に、ルシアは次の言葉を予想して鉄壁の笑顔を作り上げた。


「なんでしょうか?イーシャ様」

「いっそのこと執務室にルシアを待機させておけばいいんじゃないかなって思うのだけれど・・・」


この言葉は、ラーグ絡みで何かあった際に毎回問いかけられる言葉だ。

それだけイーシャもあの王子の扱いに困り果てているのだろうが、ルシアだってそんな面倒を見るのは嫌なのである。


「謹んでご辞退させて頂きます」

「でしょうね。うん、わかっていますから。うん。じゃ、本当にありがとうございます」


図書室の掃除をしに来ただけなのに、どうしてこんなにも疲労せねばならないのか。ルシアは世の無常を感じながら、少し残念そうに去っていくイーシャに一礼して、その姿を見送った。




御覧下さりありがとうございます!

王子サマは、ルシアに夢中でございますw

えーと、色々とデキる子なんですけど、この時点だとただのおバカさんにしか見えませんねw

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