第1話 平凡な男子高校生桜庭一馬とちょっとした出会い
俺は自分のほっぺたをつねってみた。今日日こんな古典的な方法で夢かどうかを確認するような奴だったとは。でもしかたないじゃないか?ちょっと今の状態はラノベすぎるっていうか非現実的すぎる気がする。ちょっと整理してみよう。
新学期、新学年、祝高校入学。新一年生として意気揚々と通学している俺は今日もここ数日と同じように歩いていた。電車を降りて駅前のロータリー。今日も気持ちのいい陽気だ。
受験も上手くいったしクラスの雰囲気も悪くない。あとは彼女さえできればさくら色のハッピーキャンパスライフまちがいなし!てなもんで。
ごくごく普通の新高校生としてとっくに始まっていた新生活に(未だに)胸を躍らせていた。高校からはクラスメイトもガラっと変わってああ美人も多いからなぁ。やはり青春といえば恋愛ですよ。劇的じゃなくていいから普通にすいた惚れたのやり取りをしてちょっともどかしい時期があったりするけど体育祭や文化祭というビックイベントで盛り上がったりなんて感じでさぁ!
そんなふうに浮かれていた俺に突然声をかけてきたのが彼女だった。
「す、すみません!桜庭っセンパイですよねっ!?」
振り返った俺は視線を合わせるのに頭を少し下に下げる必要があった。とても小柄だが運動が得意そうだと思わせる細い手足、そして中学校の制服。残念なことに俺は名前を呼んできたその美少女に見覚えがなかった。
「えっと、確かに俺は桜庭一馬先輩に間違いないけどそういう君は何後輩?」
「ひゃっ私は!草原野々と申します!」
うむ、全く心当たりがなかった。草原後輩が着ている制服は私立のものだから中学も別のはずだ。まさか小学校時代か?いや誰か知り合いの妹なのか?そうやって俺が思案を進めようとしていると―――
「桜庭先輩に一目惚れしました……!好きです!」
え?えっと待て待て。俺はここでもう一度彼女の姿を見つめる。小柄で……小さい。まだ1年生くらいか?幼さが残る姿に全く見覚えはない。
「俺の記憶がポンコツだったら申し訳ないんだけど野々さんって知り合いだったっけ?」
「失礼ながら勝手に見惚れておりました!」
「見惚れておったのか」
間抜けにも彼女の言葉をオウム返ししてしまった。
うーん、これってどうしたらいいんだ?いたずらの可能性もある。ショックを受けて二の句を告げずにいる俺を見て彼女のほうから話を続けてきた。
「もちろん急にこんなことを言われて受け止められないことも分かります!とりあえず友人として……として……連絡先だけでも教えてもらえませんか!」
実は俺はまだ眠っていて都合のいい夢を見てるんじゃないか確かめてみることにした。
* * *
「それで浮かれた顔をしていたのね変態」
「してねーよ!してないよな!?」
「明らかにアホ面になってたわよこのロリコン」
この辛辣な女は山本真弘。中学時代からの付き合いで俺は困りごとがあるとこいつに相談していた。良薬は口に苦し、忠言は耳に逆らうという故事成語の通り厳しいが率直な意見をくれる冷静な真弘のことを俺は信頼している。ちょっと言葉にとげがありすぎるときもあるけどな。
「俺だって普通に困ってるんだぜ?その野々さんがいじめられてる可能性だって考慮してる」
結局朝は忙しいということで詳しい話はできなかった。連絡先だけ交換して今後のことはまた後日というわけだ。なぜ俺の名前を知っていたのか?なぜ今このタイミングで告白してきたのか?腑に落ちないことはたくさんある。
「だから今後の立ち振る舞いを相談したいんだよ。好きですって言われてはいそうですかと付き合うっていうわけにはいかないだろ」
「当たり前でしょうこのロリコン。いじめの罰ゲームでなければ美人局でしょうね」
「わっかんねーだろうが!そりゃあその2つは考慮するけどさあ!そのうえで立ち回りをどうしようか相談したいんだよこっちは」
「死になさい」
端的だった。死こそが万物の最終結果であり可能性の終焉である。ゆえに死ねば問題もなくなるということだろう。いやそこまで考えてないかもしれない。
「真面目な話をするけれど、あなたの第一印象はどうだったのかしら桜庭君」
「まんざらじゃないって感じかな。かなり美人だったぜ。クラスで1位2位を争うレベルって感じだな」
「は?いつ誰が見た目の感想を聞いた?」
うおおっ!?こいつ人の股間を思いっきり蹴り上げようとしてきやがった!ちょっとした冗談だってのに!
「HRまで時間がないというのに無駄話をするやつが悪いんでしょう。さらに言うとあなたの下らない相談に乗ってあげてる私に対して非常に失礼だと思わないかしら?」
「おっしゃる通りです」
いつも通りの精神状態だと思ってたけど調子に乗って……精神的な均衡状態を少し崩していたかもしれない。つまり無自覚のまま調子に乗ってるうざいやつになっていたということだ。反省。
「多少贔屓目はあるだろうけど緊張してるってところはあっても嫌々告白って雰囲気はなかったと思うぜ。少なくとも、少なからず好意はあった……と思いたい」
「あっそ」
「そっちから聞いてきたんだろーが。なんで興味なさそうなんだよ」
「主観とはなんと役に立たないものかと感服していたところよ。野々さんとやらの真意を知りたいならLINEでもして直接尋ねてみればいいんじゃないのかしら?」
私の手を煩わせるなと言わんばかりの険悪な表情に気圧されてしまう。
「うぐっそれはそうなんだけど。客観的な評価をしてほしいんだよ現状と、それから今後も相談したいっていうお願いだ」
それに初期対応から起きていることをいちいち相談しておけばもしトラブルになったときの保険になるだろう。と思ったけどもしもの時に真弘は本当に俺のことかばってくれるかな。くれるよな?
「ふん。私が客観的な相談相手になると本気で持ってるわけかしら?」
「え?お前はいつも冷静だし本気で頼りにしてるけど?」
中学時の人間関係のトラブルや受験期、数知れないほど真弘に助けてもらってきた。なんだかんだいってこいつは困ってる人間にやさしいし、周囲の人間に対する甲斐性ってやつがある女だ。少なくとも俺は彼女のそんなところを高く評価してる。彼女自身からそんな疑問がでてくるとは驚きだ。
「お前がいたおかげで俺は今五体満足で高校に通えてるってもんだ。だから今回の件も力を貸してほしいんだ。いっつも力を借りてばっかりでお恥ずかしい限りなんだけどさ……」
「あなた程度に私を満足させる返礼なんて期待してないから安心して頂戴」
鋭く言い切った後、全く進学そうそう校舎裏になんか呼び出してとぶつくさ言いながら教室へと戻って行ってしまった。ほんっとーにわかりづらいがこれは手伝ってくれると認識して問題ないはずだ。うーん、それにしてもなんであんなに不機嫌だったんだあいつ?
普段だったらそれは困ったことに陥ったわね自業自得くん。この私に感謝感激雨あられのの涙を流しながら土下座しなさいくらいのことを言いながらノリノリで介入しようとしてくるはずなのに。




