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斑紋の赤ずきん  作者: オリハナ


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2・赤ずきん・オオカミ・狩人②

 

 赤ずきん、オオカミ、狩人──ハンスがちぐはぐで強い癖のある三人組に出会ったのは、時を(さかのぼ)る事、半日前の事だった。


 赤ずきん──十五歳のハンスと同じか、それより下ぐらいの見かけの女の子で、赤い髪を三つ編みにしてまとめている。

 自身の名の通りである濃淡の斑紋(まだら)に染まったずきんに、リボンのついたショートパンツ、小さな胸を隠しているのは肩ひものついた布だけという、なんとも露出度の高い格好をしており、ほとんど生まれたままの姿に近いので、初めて赤ずきんと対面した時、ハンスは恥ずかしがるよりも真っ先に、理解が追い付かないという戸惑いの方が出てしまった。


 オオカミ──野生のオオカミのものと思われる毛皮や尻尾を装飾品として身につけている青年。ボサボサの黒髪はギョロっとした目の片側を隠し、口の端にはピアスをつけている。奇異を含んだ衆目やひそひそ話をひと睨みで委縮させる、残虐を好みそうなその顔は恐ろしく、二言三言こちらが気に触るような事を言ってしまえば、とっ捕まえて食ってしまいそうな雰囲気を漂わせていた。


 そしてもう一人の青年は狩人という。赤ずきんやオオカミとは違って、聡明で毅然とした態度で振舞っている常識人ぶりがハンスを安心させてくれる。左腕には二つの腕章、身に纏うコートは地面に届きそうなほど長い。コートの下には信仰の形を表す装束を着ているので、おそらく聖職者なのだう。

 彼は荷物をキャリーバックの中に入れて引いているのだが、なぜかバックの上には緑のもじゃもじゃ頭をした、おかしなサルのぬいぐるみがちょこんと乗っかっていて、ハンスは少し気になった。


 赤ずきん達は猛獣の退治や荷物の運搬など、武力を必要とするものを主に生業としているという。市町村の外や森は人の命や荷物を軽率に奪ってくる獣が潜んでいるので、どうしても戦闘慣れした者を雇う必要があるわけで。

 三人が今回ハンスの住む〈ベルドモンガロウ〉を訪れたのも、近年、この村を脅かす諸悪の根源を処理する為だった。村の人達の話によると、"それ"には悪魔が取り付いてしまったらしく、以来ケガや事故などの災いが後を絶たなくなったのだそうだ。


「ハンス、お前、よかったな。これで毎晩安心して眠れるぞ」


「そうだ、今日はめでたい日だ。平穏無事を呼び込むために、久々に祝宴でも開こうじゃねえの」


 赤ずきん達が来た事によって、〈ベルドモンガロウ〉の人々は、口々によかった、これで大丈夫だと言って喜んだ。しかし、ハンスは一緒に喜びたくても喜べない心境にあった。


 ハンスはその例のいわくつきの所有者だった。故人となった父と母の残していった大切なものだったから、赤ずきん達が来た今でも、ずるずると惜しむ気持ちを引きずっていた。

 この遺産は他人の手を借りて放られるのを簡単に承諾出来るほど、ちゃちな思い出は詰まっていない。せめて自分だけは最後を見届けてあげよう、と苦難の決意をしたハンスは、多少の無理を言って、赤ずきん達に同行させてもらう事にしたのだった。


「ハンスです。足手まといにならないよう、出来るだけ気をつけますので、今回はよろしくお願いします」


「こちらこそ。私の事は、狩人とお呼びください。(こちら)にいるのは赤ずきんで、(そちら)にいるのが、オオカミです」


 狩人に紹介されると、赤ずきんはあどけない笑顔でにこっとした。オオカミは後頭部に手をまわして組む。


「ケッ! たかだか一週間の付き合いだろ。それも、ただのゴミ捨てだ。長旅になるわけでもあるまいし、挨拶なんか、なあなあに済ませときゃあいいんだよ」


 オオカミは律義にあいさつしてまわる狩人に、うんざりしていた。


「そんな事より、あの箱の中身はなんだ? 村の連中は、悪魔が取り憑いたもんだとか、アホくさい事を抜かしてやがるが」


 オオカミは背後の、荷車に寝かせてある木箱を指差した。木箱は縦の長さが一メートルくらいの底の深いもので、箱の周りには、文字の書かれた札がべたべたと張り付けてあった。


「本です。それと他にも、補修のきかなくなった絵本や、雑誌なんかが入ってます」


 ハンスはオオカミの鋭い目つきを内心怖がりながら答える。


「僕の家は、図書館の本の管理を任されているんです。──まあ図書館といっても、実際はあっちこっちから本を寄せ集めただけのものですが……。この間、叔父さんと叔母さんと僕とで、久々に部屋を掃除したんです。その時に、日光であせて読めなくなったものや、ページがごっそり抜けたものは、ついでに〈陽光(ようこう)岩窟(がんくつ)〉に捨てちゃおうって話になったんです」


「本か。確かに、こんなへんぴな村じゃあ、怪しいものが流れてもおかしくはないな」


 村の入口でざっと見渡す限りでは、こじゃれた洋服店も、大人数が収容出来そうな食事所もない。無論、彫刻技術が繊細で美しい建造物もなければ、子供が自由にかけまわれるだけの広場すらない。

 〈ベルドモンガロウ〉は、みすぼらしい民家としなびた作物の植わっている畑ぐらいしか見当たらなかった。


「うろ覚えだが、こういうとこは月に何回か商人の馬車が来て、売買をしていくようなシステムだったか。──ちぇっ! 堅っ苦しい図書館の本か。つまらねえな。エロ本だったら、ちょいと失敬してやろうと思ったのによ」


「オオカミ!」


 狩人は叱った。


「おおっと! 冗談なんかじゃねえぞ。王土やその周辺の町みたいに、明日のメシにも困らねえところはな、ゴミと混ぜ込んで、俺らみたいな仕事をしている奴らに、処分を頼む事があるんだよ。それも、わざわざ金を払ってまで、だ。婚礼前の男に多いんだが……お前、知らねえのか?」


「知りませんし、知りたくもありません!」


 ぴしゃりと言って、話を終わらせようとする狩人。ところがそうはいかず、別の人物にまで飛び火した。


「エロ本? なあオオカミ、エロ本とはなんだ?」


 赤ずきんが食いついた。狩人は驚いた。


「狩人に聞いたらどうだ、赤ずきん。ああいう生真面目な奴ほど、裏じゃあ何をやってるか分からねえもんだぜ」


 オオカミはこれは面白いとばかりに、にんやりとする。


「出任せ言わないでください!」


 狩人は飛び上がった。


 赤ずきんは、好奇に満ちた眼差しを狩人に向けた。済み切った綺麗なその目に、狩人はひるむ。いい加減に処理することは出来ない雰囲気が成り立っていた。


「……ご、娯楽の際どい部分を集結させたものです」


 狩人は小声で恥ずかしそうに、口を動かした。


「私に振らないでください! そろそろ出発しますよ! 明るいうち、なるべく進んでおくのです! ハンスくんと赤ずきん、お手洗いの方は大丈夫ですか? 村にいる今のうちに、済ませておくんですよ! それからオオカミ! あなたには荷車を引くのを命じます!」


 狩人の指示に、赤ずきんははーいと手を上げて、ハンスは少し遅れて承知した。赤ずきんはハンスにトイレのある場所を教えてもらう。

 一方でオオカミは、案の定「なんで俺が!」と文句を言った。が、しかし、オオカミがなんと言おうと、狩人は頑として命令を変えなかった。


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