3.新しい日常
-朝-
カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
アリアはゆっくりと目を開ける。
知らない天井。
知らない部屋。
そして――
昨日のことを思い出す。
森、少年、新しい名前。
「……星野アリア。」
自分の名前を小さくつぶやいた。
まだ少しだけ、不思議な感じがした。
トントン。
扉を軽く叩く音。
「アリアちゃん、起きてる?」
優しい声だった。
「……はい。」
アリアが襖を開けると、結人の母が立っていた。
「朝ごはんできたよー」
――――――――
居間。
テーブルには味噌汁とご飯が並んでいた。
結人はすでに座っている。
「おはよう。」
「……おはよう。」
アリアは少しぎこちなく返した。
父親が新聞をたたむ。
「今日は学校だな。」
アリアは目を瞬かせた。
「学校…?」
結人が制服を持ってくる。
「アリアも一緒に行く。」
「しばらくここにいるなら、その方がいいって父さんが。」
母親が笑う。
「手続きはもうしてあるから大丈夫。」
アリアは少し驚いた。
「……いいんですか?」
父親は肩をすくめた。
「困ったときは助け合いだ。」
「気にするな。」
アリアは小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。」
――――――――
数十分後。
アリアは制服を着て鏡の前に立っていた。
結人が腕を組んでいる。
「やばいー!似合ってる!」
「……本当?」
「うん!」
「でも、目立つかもなー」
アリアは少し困った顔をした。
「それは困る…」
結人は笑った。
「大丈夫!うちの学校、変なやつ多いから。」
――――――――
学校。
校門の前にはたくさんの生徒がいた。
アリアは少し緊張していた。
「人、多い…」
結人は普通に歩く。
「すぐ慣れる。」
教室に入った瞬間。
「結人ー!」
元気な声が響いた。
短髪の少年が手を振っている。
「遅いぞ!」
結人がため息をつく。
「うるさいな、蓮。」
蓮はアリアを見る。
「お?」
「誰?」
結人が言った。
「転校生。」
「星野アリア。」
蓮が近づく。
「俺、蓮!」
「よろしく!」
その後ろで、落ち着いた少年が言う。
「澪。」
軽く手を上げた。
「よろしく。」
最後に、眼鏡の少女が小さく頭を下げた。
「紗季です。」
「よろしくお願いします。」
アリアも慌てて頭を下げる。
「星野アリアです、よろしくお願いします。」
――――――――
昼休み。
屋上。
結人たちは昼ご飯を食べていた。
アリアはコンビニのパンを見つめている。
「どうした?」
結人が聞く。
「……パン、初めて。」
蓮が笑い出した。
「マジか!」
「今どき珍しいな!」
アリアは少しかじる。
「……おいしい。」
澪が笑う。
「普通のパンだけど。」
風が吹く。
アリアは空を見上げた。
青い空だった。
「……きれい。」
結人が聞き返す。
「空?」
アリアはうなずいた。
「うん。」
「なんだか、見てると落ち着く。」
蓮が笑う。
「結人よりロマンあるじゃん。」
結人が肩をすくめた。
――――――――
その時だった。
校舎の影。
一人の男子生徒が立っていた。
鋭い目。
静かにアリアを見ている。
「……」
男子生徒は小さくつぶやいた。
「見つけた。」
その瞬間。
アリアがふと振り向く。
目が合う。
ほんの一瞬。
しかし次の瞬間。
男子生徒は背を向けて歩き去った。
「どうした?」
結人が聞く。
アリアは少し首をかしげる。
「……誰かいた気がする。」
結人が振り返る。
「誰もいないぞ?」
そこにはもう誰もいなかった。
ただ、夕方の風だけが静かに吹いていた。




