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留年医学生バトルロワイヤル 解説編  作者: 医学史という名のスプラッタ
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03 罵倒もお作法です

1.ビンゲンの罵倒

中世貴族は罵詈雑言を吐きがち。勇ましくてかっこいいとされたから。

剣術馬術といった華麗なものだけが貴族の嗜みではないのである。

作中の罵倒はどれも中世で「よく使われた/使われてもおかしくない」言い回しである。

I.今すぐ墓地を買うんだな!そして地面を掘っておけ!なあに、すぐに使えるようにしてやる!

„Kauf dir ein Grab, törichter Knecht.

Grabe die Erde auf –

ich sorge wohl, dass du sie bald brauchst.“


Knecht=身分の低い男への侮辱

„ich sorge wohl“=「俺が確実にそうしてやる」


本作最凶クラスの侮辱。

というのも本来貴族は実家の墓所に埋葬されるのであって、わざわざ買い求めるのは家の墓に入れてもらえない「一族の恥晒し」だけ。後半部はよくある罵り言葉「墓穴掘れ、すぐに使わせてやる」。今で言うところの「死ね、殺すぞ」


II.逃げるなこの悪魔の手先!これ以上逃げるようなら馬上槍試合を申し込んでやる!虫に脳髄を食われる前に止まるんだなアホンダラ!!

„Flieh nicht, du hund des tiuvels!

Weichst du weiter zurück, fordere ich dich zum Lanzenstechen.

Halte ein, ehe dir die Maden das Hirn fressen, tumber Narr!“


hund des tiuvels=悪魔の犬(中世的侮辱)

Lanzenstechen=馬上槍試合

tumber Narr=愚か者


これは中世基準ならわりとマイルド。

「悪魔の手先」、「脳を虫に食われろ」はよくある罵倒語。

この中で強いて言うならヤバいのは「馬上槍試合」。1話にも出てきたが、名誉を汚されたと思う者が申し込む。それでもよく使われる表現で、大多数がハッタリ。


III おい…お前脳を悪魔に喰われたのか?


„Höre… hat dir der tiuvel das Hirn geraubt?“


geraubt=奪われた

Hirn=脳

よくある表現。今で言うところの「アタオカじゃないの?」ぐらいのノリ。当時でも脳に心があるという概念はそれなりにあった。


いい加減にしろこのポンコツ!!!大根の下に埋めてやるぞアホが!!!

„Genug nun, du ungetaufter Tölpel!

Ich vergrabe dich unter den Rüben wie einen Knecht!“


ungetaufter=洗礼を受けてない=最悪の侮辱

Rüben=根菜(大根に相当)

Knecht=農民・下男


これは「大根」という間の抜けた言い回しに反してキツイ部類に入る。

というのも、日本で言うところの「桜の下には死体が埋まっている」のノリで「大根の下には死体が埋まっている」という伝承があった。(なので現代のドイツ語でも「大根を下から見る」といえば「死ぬ」の意)

よって「死体にする=殺す」という意味である。

また、実際に家畜は畑に埋められたので「家畜同然に死ね」、「犬死しろ」という意味も持ち何重にも酷い。


V.バカブラント…貴様の四肢を肥やしとして大地にばらまいてやろうか?

„Torhafter Brandt…

Soll ich dir die Glieder reißen und als Dünger über das Feld streuen?“


Torhafter=愚か者

Glieder reißen=四肢を引き裂く

Dünger=肥やし

Feld=畑


間違いなく本作で最悪最低の罵倒。というのも当時死体が傷つくことは即ち最後の審判で復活する体を失うということであり最も忌まれたことであった。(火葬NGもそれが由縁)故に重罪人向けに「死体切断刑」が存在した。つまり重罪人扱いである。また、先程も言ったように肥やしにされるのは家畜であり、「犬死」の意味もある。

即ち中世人が最も大切にした「名誉・復活・地位」の3つすべてを否定する最悪の表現なのだ。

グロいからひどいとかいう単純な話ではない。

まだ「地獄に落ちろ」の方が良い。

なぜならバラバラ死体では地獄にも行けないから。

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