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2日目(1)

正直に言って、寝不足だ。

目は覚めているし、頭も回る。

ただ、身体の奥だけが、少し重い。


原因ははっきりしている。

――身体強化を、やらなかった。


いや、正確には、

身体強化を捨てて、別のことをやってしまった。


昨夜、私は脚でも腕でもなく、

頭の中に手を出した。


覚えたいこと。

忘れたくない順序。

あとで必ず参照したい情報。


それを、

「記憶」として抱え続けるのではなく、

魔法式として一時的に留める。


保存ではない。

固定でもない。


最初に魔力を少し流して、

その瞬間に思考を思い浮かべ、

“そこに引っ掛ける”。


それを――

五枚、重ねた。


結果としてできあがった仕様は、こうだ。


・一回表示できる文字数:八十字

・使用回数:五回まで

・上書き不可


(……少なっ)


正直、性能はもっと上げたかった。

でも、

「思考を文字に変換して定着させる」工程が、

どう頑張っても複雑すぎた。


削れない。

省略できない。


だから、五回。

八十字。


これが、限界。


貼り付けた場所は、三か所。

……つまり、十五回分。


衣服の内側で、

動きが少なく、

魔力の流れが比較的安定する位置。


下腹部。

胸元寄り。

それから、脚の内側寄り。


――機能的には、正解だ。


実際、

朝、試しにほんの少し魔力を流してみたら、

淡い光と一緒に、文字が浮かんだ。


ちゃんと読める。

ちゃんと消えない。

そして、ちゃんと――

一回ぶん、減る。


(できてる……!)


その瞬間までは、

私は内心、かなり喜んでいた。


衣服の内側が、少しごわつく。

正直、違和感はある。


でも、

(これで、メモできる)

そう思った。


――思った、のに。


そこで、はっと気づいた。


(……これ、今使ったら)


一発でバレる。


媒介なし。

詠唱なし。

体表近くで魔法式が反応。


魔法が得意な人が見れば、

「何かやっている」のは、即わかる。


(だめだ)


私は、その場で固まった。


身体強化を捨てて。

睡眠を削って。

時間をかけて。

やっと形にしたのに。


――使えない。


正確には、

使った瞬間に面倒なことになる。


(悔しい……)


五回しかない。

八十字しかない。


なのに、

今は一回も使えない。


完全に、順番を間違えた。


まず必要だったのは、

記憶保持でも、身体強化でもない。


隠蔽。


魔法を使っていること自体が、

「見えない」状態。


流れていても、

違和感として拾われない仕組み。


(……先に、そっちだった)


私は深く息を吐いて、

浮かびかけた文字を、全部消した。


今日は使わない。

全部、温存。


悔しいけれど、

これは失敗じゃない。


だって――

できること自体は、もう確認できた。


次は、

どうやって隠すか。


それだけを考えながら、

私は何もしていない顔を作る。


下級侍女の、二日目の朝。


ワゴンを押して、

いつもの廊下へ向かった。


――もちろん、

何もしていない顔で。


…早く完成させよう

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