妖艶な狐
レベルが上った。
トンコロコロは57に上がった。カナは57に上がった。たかしは57に上がった。
俺はカナに蘇生してもらい、たかしも完全回復した。
四人とも万全な状態だ。
_____
「ようやく揃ったな」
「さ、ちゃっちゃと将軍を倒しにいこうぜ」
「いや、俺達は会いに来たんだよ」
戦うんだろうけど。
「そうか!んじゃ、早く行こーぜ」
四人は階段を上がり将軍の元へ向かった。
____
「ここは___」
その空間は広々として、屋敷や地下とも違う雰囲気で綺麗で美しいと思える城の最上階だった。
面妖な音楽が流れて、雰囲気が一層美しく感じる。
「あっ、階段がない」
後ろを向くと階段は跡形もなく消えており床が広がっていた。
完全に逃げ場は無くなったようだ。
そして___
その広々とした部屋の真っ直ぐ奥には大きな狐と少女が畳に座っていた。
「ようこそ、城の最上階へ」
「将軍はどこだ」
「それは儂じゃ」
「はっ、ん?、将軍が。。。」
たかしは目を見開いて、唖然とした。
「ククク、お主たちには本当の姿が見えておるんじゃな」
「珍しいのぉ」
「妲己。。。だったよな」
「うむ、如何にも」
「儂はこの城を支配する者、妲己」
「で、お前さんらの要件はなんぞ」
「ああ、俺達はこの城の奥に用があんだ」
「行かせてくれないか」
「ほう、そんなことか」
「良いじゃろう」
「本当か」
「うむ、儂を倒せたらな」
お察しの展開がやはり来た。
「いいぜ、そのために来た」
「ククク、ほなやろうか」
将軍___またの名を妲己
見るからに弐番隊より強そうに見えないし、華奢だし、
正直戦いにくい。
そんな事を考えている時____
大きな獣耳を垂らし重そうな和服を着た少女、妲己は立ち上がり、
大きな狐の頭を撫でた。
「さあ、行こうか壱番隊」
その声に反応した大きな狐は、白い大きな尻尾で妲己と自身の全身を包みこんだ。
すると、大きな尻尾は九つに割れ、ウヨウヨと揺れ始める。
あれって、キュウビってやつ。。。?
その白くて大きい美しい毛並みを持つ尻尾はフワフワと靡き
妖しさと怪しさを感じさせた。
「あれぇ、二つあった魔力が一つになって」
「ええ、大きくなってる」
二人は魔力の気配を感じ取り、警戒している。
魔力が一つにって、合体?
すると九つの尻尾が緩み、ゆったりと脱力した。
そして一人の少女の後ろ姿が見えた。
「うむ、悪くないのぉ」
それは少女というよりかは背丈が大きく、幼さ以上に美しさが際立ち、
華奢と言えない凛とした姿がよく目立つ。
「待たせたな、さあ存分に戦おうぞ」
白い光が空間を包む。妖艶な音楽が流れる。
メッセージが下から飛んできた。
「妲己が出現」
妲己との戦闘が始まった。
_____
俺は刀を構えて妲己に向かい走り出した。
「遅い。。。」
妲己は俺が攻撃するよりも素早く移動して俺を通り過ぎた。
その最中、妲己の九つの大きな尻尾が俺を床に強く叩きつけた。
2500ダメージ受けた。
「お前さんは近接向きだったな!」
「どれ、試してやる」
妲己はたかしに一瞬で近づき、拳を放った。
「ウム、儂の動きについてこれるか。。。」
妲己は次々と拳を繰り出す。
たかしはそれを防ぐことしか出来ない。
たかしは防戦一方だ。
速い、こいつまじで。。。
負けれねぇな!
たかしは防御の姿勢を変え、拳を放つ。
その切替の瞬間、たかしの体に拳が命中した。
700ダメージ受けた。
拳と拳がぶつかり合う。
たかしはダメージを受けたが、防戦一方の状態を乗り越えた。
「ほほぉ、凄まじいパワーじゃ」
「儂よりずっと力強い」
たかしの拳は妲己の拳をゆっくりと着実に押している。
このまま押し切る!
「ふむ、ちょいとズルいが」
妲己の尻尾がたかしの方を向いた。
そして九つの尻尾は真っ直ぐ伸び、たかしに放たれた。
3000ダメージ受けた。
たかしは吹っ飛び壁に打ち付けられた。
その背後、カナは剣先に黒い炎を発生させ、轟々と音を放った。
「ヘルファイア」
炎は飛び出し妲己に向かう。
魔力。。。
妲己は魔力を察知し、即座に尻尾を高速で振り回し大きな風を発生させた。
炎の轟音以上の音を出す風は炎を掻き消し、ボロボロと炎を崩した。
「安心せい」
「十分お前さんらも警戒しておる」
瞬時にカナとアビスの方を向いた。
そして妲己の手から光が発生する。
「魔法が編めない」
「うぇ、魔法が」
その光は二人の魔法を封じ込めた。
カナは魔法の構えを即座に切り替え、右手にもったランスで妲己を攻撃した。
「ほいっと」
だが、即座にその攻撃を見破られ、ランスの剣先を掴まれた。
動かない。。。
カナはランスを引き抜こうとした。
しかし妲己の掴んだ手は力強く、全く動かせなかった。
「このッ、俺を無視すんじゃねぇ」
俺は刀を振り上げ、妲己に向かって投げ飛ばした。
「しっかり見とるよ」
妲己は飛んでくる刀の方を向いて手を伸ばす。
「わわわぁ、どうすればぁ」
その時___
「しまったな。。。」
両手が塞がる状況あっての事だった。
妲己は動きを制限され、たかしの接近を許してしまった。
「喰らえ!会心k」
妲己はパシッとたかしの拳を止めた。
たかしの拳が当たる寸前、向きを替え素早くたかしの拳に手を伸ばした。
835ダメージ与えた。
しかし、代わりにトンコロコロの刀は妲己に接近し、ダメージを与えた。
その時、妲己は直感でダメージの大きい方を判断し、たかしの攻撃を防ぐ方向に代えたのだ。
「もう、解かれた者が一人出てしまったな」
妲己は冷たい視線で俺を見た。
その言葉の意味はよく分からなかった。
「トンコロコロさんっ」
「ん?」
「体、体が消えていますぅ!」
俺は自分の体を見た。
するとアビスの言った通り体が消えかかっていた。
ゆっくりと足から透け、透明になっていく。
「はあ、え?ナニコレ?」
足があったはずの場所に手を伸ばすとそこには何もなく、
探っていた手さえ透明となり見えなくなった。
「。。。。。。!」
たかしは大きな声で何かを発声した。
しかし耳が消えた俺には何も聞こえなかった。
_____
体が消えたと思ったら、そこはさっきと同じ場所だった。
そして、消えたはずの体は元に戻っていた。
そこにはカナ、たかし、アビス、もちろん妲己もいた。
「ふむ、一人脱出か」
妲己はゆったりと畳に座り、俺を見ていた。
さっきまでの猛攻をしていた妲己はどこにいった。
「これはどういう。。。!!」
よく見ると三人は妲己を真っ直ぐ見たまま固まっていた。
「やつらはまだ攻撃を当てていないからな」
「意味が分からねぇ」
「術をお前さんらに掛けたのじゃよ」
「偽りの光」
「儂の光に当てられて全員、幻を見てるのじゃよ」
「出るには幻の儂を攻撃しなければいけない」
「じゃあ俺が戦ってたのは」
「勿論、幻じゃ」
「おもしろいよな、魔力を一度使っただけで皆、勝手に傷を負い死んでいくのじゃから」
「まあ、欠点として幻が傷を負えば儂に返ってくるのじゃがな」
ずっと、いつからか分からないが妲己の手のひらに振り回されていた。
「おい、みんな起きろよ!」
俺は三人を呼びかけた。しかし、反応はない。
体を揺さぶったり、叩いたりしたがやはり反応はない。
次に俺はセレクト画面を開いた。
案の定、三人とも何かのデバフがついていた。
螺旋状に回転した黒い線の表示のあるデバフには解除時間が存在しなかった。
解除が不可能だった。
今までデバフは時間が経てば解除できる存在だったのに、
それが封じられた今、俺はこいつを一人で倒さなきゃいけない。
俺がみんなを助けないと。。。
「お前、なんで動けない間に攻撃しないんだ」
「ククク、そう上手くいかんのじゃよ」
「儂の幻は儂の肉体と繋がっている、すなわち幻が動いている間、代わりに儂は動けないのじゃよ」
「そうか、いい事言ってくれるじゃんかよ」
「んじゃ俺は動けない内に攻撃させてもらうぜ」
俺は走り出し妲己の元へ近づいた。
「しょうがないのぉ」
瞬間、妲己は立ち上がり尻尾を立てる。
「動いてんじゃん」
「フン!」
妲己は尻尾を前に出し俺の刀を振り払う。
拍子に吹っ飛んだ俺に飛びかかり体を蹴り落とした。
4500ダメージ受けた。
______
「動きが止まった?」
無尽蔵に動いていた妲己は突如ピタリと動きを止めた。
「貰ったぜ」
たかしは妲己に向かって攻撃した。
1050ダメージ与えた。
そして、たかしの体も消え始める。
「俺の体も、おいこれ。。。」
たかしの体はゆっくりと透け始め消滅した。
攻撃した途端、二人とも消えた。
魔力も気配も完全に消えた。
カナはそこで一つの疑問を抱いた。
攻撃した瞬間に相手を消滅させるのか。。。
なら、なんでわざわざする必要のない攻撃をしていた?
攻撃を誘うため?
ならわざわざ避けたり、止めたりする必要はない。
インターバル?
確かに可能性はある。それなら今現在なぜ動かない。
確かめるしか無い。。。
「これで死んだらおしまいね」
微動だにしない妲己に向かってカナは剣を突き出した。
しかし___
妲己は剣が届く直前に手を伸ばし動きを止めた。
「おっとー危ない危ない」
「もう少しでまた逃げられるところだった」
逃げる?
カナは妲己の言葉に疑問を抱いた。
「逃げるってのはどういう意味かしら」
「なに、知る必要はない」
「ほれ、来てみろ」
「そうね、力尽くで行く」
カナは止められた剣を離し、妲己により接近した。
そして、手のひらから魔力を発生させた。
「魔力剣」
カナは魔力を圧縮して剣を生み出したのだ。
ククク、口ほどでもない。
妲己は軽く笑い、飛び出した魔力剣を掴んだ。
1200ダメージ与えた。
「!!」
その瞬間、妲己の手は焼かれ、ダメージを負った。
魔力剣は触れてだけで妲己にダメージを与えたのだ。
「こりゃ、一枚取られてもうたな」
「いや二枚よ」
この時、魔力剣はカナの思考に呼応し、膨張し爆発した。
巻き込まれた妲己は吹っ飛んで、壁に打ち付けられた。
4820ダメージ与えた。
そして、カナの体はゆっくりと消え始める。
「うぇ〜カナさんまで!」
「。。。アビス」
「はいぃ、遺言ならしっかりと」
「いや、違うわ」
「うぇ?」
「消え始めて分かったけど」
「私から魔力が消えていないの」
「え、えっと。。。つまり?」
「二人は生きてる」
二人とも体が消えると同時に魔力も消え始めていたのに、私自身からは魔力は消えていない。
つまり、私は死ぬのではなく、どこか別の場所に移動するのだ。
「でも、消えて」
「私から魔力を感じる?」
「えっと、感じますが、ちょっとずつ消えかかっています」
やはり、外から見れば消えているように感じるんだ。
「そ、やっぱり大丈夫よ」
「大丈夫って。。。」
「それよりアビス!」
「うぇ?」
「アビスはとにかくあいつを攻撃しなさい」
「分かった?」
「ハイぃ!!」
そう言って、カナは消滅した。
「えっと。。。でも、やっぱり、分からないですぅ」
アビスは少し暗くなって顔を伏せた。
「一人になってしまったなあ?」
深々と帽子を被り、顔が見えなくなっていたアビスをクククと笑い見下ろす妲己____
壁に打ち付けられた妲己はアビスのすぐそばまで近づいた。
「お前さんは他のやつと違い接近戦は苦手だよなあ、ククク」
「さて、一人でどうする?」
妲己は腕を大雑把に上げ、アビスの帽子に向かって振り下ろした。
「。。。?」
再び、妲己の動きはピタリと止まった。
「うぇ?」
______
「三人相手はちと抑えられんなあ」
妲己はさっきより明らかに力強く、速くなっていた。
幻の妲己と現実の妲己の身体は共有されている。
幻の妲己が動けば現実の妲己は動きを封じられる。
そのため、現実でトンコロコロと戦っている最中、幻では一切動けなかった。
だが、身体機能を抑えることで幻と現実のどちらでも行動を可能にしたのだ。
そして、現在____
三人相手に手加減できなくなった妲己は致し方なく、幻の動きを停止させて全力で戦うことにした。
「あれ。。。消えて?」
その数秒後、アビスは正気を戻した。
「今度は四人、ただではいかないのぉ」
妲己は頭をポリポリと掻いて耳をふわりと動かした。
重そうな和服は随分と緩み、肩が少し肌けていた。
「まっ、嘘なんじゃが」
妲己は不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいた。
「なら、早く倒さなきゃな」
俺は走り出し妲己に攻撃した。
870ダメージ与えた。
俺は止まることなく攻撃した。
890。。。872。。。855。。。
妲己は倒れて姿勢を崩した。
「たかし、俺に続け!」
俺はたかしに声を掛けた。
しかし_____
「たかし。。。。」
振り返るとカナとアビスしかいない。
たかしはどこにいった?
前を向くと、
そこには倒れた妲己と俺を見て不敵に笑うたかしがいた。。。