今日がその日
「最初はただの無人島だった」
「だがある日、隕石が落ちた」
「隕石には沢山の金、銀、他にも知らない素材が見つかった」
「それを狙って採掘者や冒険者はやってきた」
「いつしか隕石は3年に1回は必ず落ちるようになった」
______
師匠は体勢を崩している。
こんなに強いなんて。
風?いや違う、精霊はもう消えている。
この圧は。。。
アビスの魔力が周囲に広がっている。
その強大で莫大な魔力は、トンコロコロを包み込み、あたかも風と錯覚させるほどだった。
中級や上級の魔法じゃない。
こんな魔法。。。
こんな神話クラスの魔法。。。
魔法は基本、低級、中級、上級の三種類で分類される。
低級:ファイアやリーフなどの基礎魔法
中級:基礎魔法の応用、低級の広範囲型
上級:複数の効果を織り込んだ魔法、高出力の魔法
アビスの使用した召喚魔法はどの分類にも当てはまらない。
遥か昔に生まれた精霊を一時的に召喚する魔法。
召喚には、詠唱、魔力、その資格が求められる。
かつては当たり前のように使われ、低級魔法に分類されていた召喚魔法。
しかし、その召喚魔法はアビスが現れるまでの400年間誰も使うことは出来なかった。
そして召喚魔法は神話から伝わる魔法、神話級魔法に位置付けされた。
神話級:精霊クラス、再現性不可能、理に干渉する力
「私が魔法で。。。」
「許さない!」
師匠は魔力を絞り出し魔法を放った。
「アビス!」
「むっ無理です、あんな魔法」
師匠は広範囲に炎を広げる。
俺はアビスの魔法画面を開いた。
クソッ、間に合わない。。。
炎は一瞬で俺とアビスに向かってきた。
詠唱には数秒時間が掛かる。
ここで終わるのか?
「もうだめ。。。」
その時___
アビスの溢れた魔力は炎を弾いた。
「なんだ、これ?」
背後には水生生物に似た精霊が現れていた。
「精霊レインアルテ」
アビスの広がった魔力は水に変換され流れ出した。
アビスから半径数メートルの範囲を除き周囲は水に包まれた。
「また精霊を。。。」
魔力で出来た水は通常の水とは異なり触れた者を削る。
師匠はその水に包まれダメージを受けた。
7000ダメージ与えた。
そして精霊が消えると同時に水は消えた。
広がっていた炎は全て鎮火した。
どうなってんだ?
俺はまだ魔法を選択していない。
アビスだって詠唱していないぞ。
「ああ、またやって。。。」
「なんだ?」
「私、反射的に魔法を出してしまってそれで。。。」
反射的に放っただって?
アビスは魔法を感覚で使っていたのか。
俺が選択した時のあれはじゃあ。。。
「アビス、詠唱はあれが初めてか」
「はい、でもあれは口が勝手に」
詠唱が初めて、
つまりはアビスは今まで無詠唱で魔法を使っていたってことだ。
「アビス、それって自分で出せるか」
「うぇ〜わかりません」
アビスは悩んでいた。
今この人は私を期待しているのかな。。。
だったら私も頑張らないと!
「でも、私。。。」
「やってみます!!」
アビスは闘志に満ちている。
そして本の表紙に手を乗せ目を瞑る。
お願い風の精霊、私の声に答えて。。。
アビスは目を見開き魔法を唱えた。
「精霊ウィンドレイブ」
背後から精霊が現れた。
精霊は持っている袋を師匠に向けて風を放出した。
削ぎ払う風は師匠に向かう。
防御よ私、あのくらい私の防御なら。
師匠は魔力を体に纏った。魔法防御が限りなく上昇した。
風は師匠に命中した。
しかし風は師匠の魔力を打ち破ることは出来なかった。
どう、私の魔力。
やっぱり私は最強なのよ!
その時___
「トリプルエレメント」
混合色の魔力が師匠に向かって放たれた。
____
俺はアビスが魔法を唱えている間にセレクト画面から復活液を取り出した。
そして復活液をカナに注いだ。
「私は。。。」
「カナ、トリプルエレメントだ」
目が覚めたばかりでカナは情報が追いついていない。
「。。。分かった」
しかしカナは現状を察し、魔法を唱え始めた。
_____
向かった球は師匠に命中した。
だが球は魔力に防がれてダメージを与えられなかった。
しかし、
「体が凍って。。。」
メッセージ下から飛んできた。
「師匠は麻痺状態になった」「師匠は凍結状態になった」「師匠は火傷状態になった」
魔力の操作が出来ない!!
師匠は体が凍ると同時に魔力の操作が鈍った。
まずい。。。
「ウグッ、ウアアアア!」
そして、放たれた風は師匠にダメージを与えた。
8000ダメージ与えた。
「まだよ!」
「私はまだ!!」
師匠は、再び立ち上がった。
あれほど傷つき、ボロボロの体でそれでも、なお立ち上がるのか。
何が彼女をここまで立ち上げるのか。
「ハイリターン」
カナの手に光が発生した。
カナはたかしの死体に光を放った。
たかしの体は癒やされ、命が再び吹き込まれていく。
「はっ!」
たかしは目を覚ました。
「ヒール」
「ヒール」
「ヒール」
師匠は魔法を唱え続け、体を癒やす。
HPが6000回復した。
「しつこい奴らね」
「反動が来るから使いたくなかったけど」
その時、杖から虹色の光が発生した。
師匠は杖を上に掲げ、虹色の光を空に放った。
「グハッ。。。」
師匠の口から血が垂れてきた。
内臓が持ってかれた。。。
2000ダメージ受けた。
放った光は雲に飲み込まれた。
「裁きの空」
雲から強大な魔力の光の雨が降り注いだ。
「アークシャインボムズ」
アビスは雲に向かって無数の球を生み出した。
雲は爆発し、空に青が広がった。
無数の光の雨は瞬く間に消え、数を減らした。
「悪魔の円舞曲」
残りの光の雨と共に紫の魔力は四人を襲う。
「シルドー」
カナは全員に防御バフを掛けた。
四人は4700ダメージ受けた。
「ミナヒール」
アビスは手から魔力を放ち広範囲に広げた。
温かい。。。
体が癒やされる。
四人のHPが5000回復した。
「会心拳」
たかしは師匠に拳を放つ。
730ダメージ与えた。
「ヘルファイア」
師匠はたかしに向かって黒い炎を放った。
「近接なんて私の敵じゃない」
「魔法はすげえよ、でもな!俺はその魔法を打ち破る!!」
たかしは炎に突進して師匠に向かう。
「これが魔法を超える魔法。。。」
「暴力魔法ぶん殴り!!」
炎が降りかかる。
4000ダメージ受けた。
同時に拳は師匠に放たれた。
1460ダメージ与えた。
「やっぱ魔法は向いてねえな」
「よし。。。」
速い、攻撃が見えない。
違う私の体力が限界に近いんだわ。
だけど所詮魔法の使えんガキ、簡単に。。。
「乱打双拳」
たかしは10の拳を一気に放った。
14600ダメージ与えた。
師匠は殴り飛ばされた。
レベルが上った。
俺は43に上がった。たかしは43に上がった。カナは43に上がった。
俺達はついに倒したんだ。
_______
はぁ。。。。はぁ。。。。。
師匠は立ち上がった。
もう戦意はない、それに戦う魔力も殆どないはずだ。
「アビス、あなたやるわね」
「ふぇ?あっ、ありがとうございます」
「その。。。」
「私はカナよ」
「あっ、カナさん」
アビスの溢れていた魔力はいつの間にか消えていた。
「頭、冷えたか」
「ふん、私は最初からこれよ」
敵意がない分、少しは落ち着いている。
「改めて聞くが、なんでアビスを叩いた」
「いや、そうなる原因は何だ、なんで冷たくした」
「師匠。。。」
「私の何がいけなかったんですか」
「。。。。。」
「うざいのよ」
「え?」
「最初に見た時、弱くて、おどおどしてて心配だったのよ」
「でも違った」
「アビスは私よりもずっとずっと強い」
「薄々気づいていたけど魔力測定でハッキリした」
「私は北の大陸で最も強い魔術師なのに」
「一生を修行と戦いに注いで、それでも足りなくてさらに修行と戦いに人生を注いで。。。」
「なのにアビス、あなたにとってそれは一瞬」
「護衛軍に狙われる程の魔力量。。。羨ましい」
そういうことだったのか。
師匠の殺意も立ち上がる意志も、その正体はアビスへの嫉妬。
負けたくない思いが生んだものだったんだ。
それが魔力に引っ張られて剥き出しになったのか。
ゴゴゴゴゴ!!!
大きな音が島に広がる。
「なんだ!?」
「今日は3年に一度の隕石が落ちてくる日」
「避難しないと巻き込まれるわ」
「どうすんだよ、やべーぜ!」
たかしは慌てだした。
「とにかくここから離れなければ」
「もう間に合わないわ」
日差しが消え、地面に大きな影が現れた。
空を見上げると、空を覆い尽くす燃え盛る隕石が見えた。
「どどど、どーしましょう?」
。。。。。。
正直、隕石はもう規模が違う。
諦めるしかない。
だがもし希望があるのなら。
それは____
「アビス、君の力を貸してくれ」
「ふぇ?わ、私!?」
「アビス、あなたの力を信頼するわ」
「。。。。すぅ」
アビスはゆっくりと深呼吸した。
「はい、やってみまふ」
わぁ。。。大事な所で噛んじゃった。
アビスは全身から魔力を放つ。
強大な魔力は大地を軋ませ海を震わせた。
「いきます!!」
「。。。。。。。」
隕石は島に近づいている。
アビスは隕石に向かって手を伸ばした。
お願い、負けないで私の魔力!!
アビスは魔力を放出した。
強い思いを含んだ魔力は隕石に勢い良く衝突した。
ボボボッ。。。。
隕石は燃えだしどんどん小さくなっていく。
ゴゴゴッピキィ。。。
そしてついに隕石は粉々に砕けて消滅した。
隕石は回避出来たのだ。
「。。。。」
「やったよ。。。」
「やったよ、師匠!!」
「って、おいこれ」
「嘘、死んでる」
師匠は体がヒビ割れ固まっていた。
「師匠ー!師匠ー!」
「どういうことなの」
「もしかして、師匠は魔力譲渡をしたんじゃ」
「それはなんなの」
「魔力譲渡は命と引き換えに。。。相手に魔力を与える禁忌の。。。技、です」
アビスの顔が濡れている。
「あれは私ひとりじゃ。。。グス」
「だから師匠は。。。」
いや大丈夫だ、蘇生魔法がある。
「カナ蘇生魔法を」
「分かった」
カナは師匠に向けて光を放った。
「ハイリターン」
しかし、
師匠は復活しなかった。
「なんで。。。」
その時、俺は思い出した。
悪魔の洞窟の中にいた男の話。。。
【一つ目は寿命が尽きている場合 二つ目は魔力が全く無い場合だ。。。】
復活液の話だ。
師匠は魔力譲渡を行い魔力がない。
復活液でも復活できないもの。
すなわち、それは蘇生魔法でも効果がないということだ。
俺は思い出したことをみんなに伝えた。
「埋めてあげよう」
たかしは地面を掘り師匠の墓を作ることにした。
_____
「師匠。。。これから、どうすれば」
アビスは墓の前で口を開いた。
「アビス」
俺はアビスを呼んだ。
「一緒にこないか」
「え?」
「一緒に?」
「俺達は魔王を倒すために冒険しているんだ」
「仲間になってほしいんだ」
「魔王。。。師匠も魔王を倒す旅をしていました」
「。。。。。私」
アビスは墓に向き直った。
「師匠の分も私、頑張るよ」
そしてアビスは俺達の方を向いた。
高まるような音楽が聞こえた気がした。
「アビスですこれからよろしくお願いします」
愉快な音楽が流れ出す。
「メッセージが下から飛んできた」
「アビスが仲間になった」
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