第8話 暗黒竜は、聖なる力をガジガジしたいんじゃろうなぁ……
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ゆったりと温泉に浸かり、疲労回復を行ってから冷たい水をグイっと飲む。
この整う感じがワシは大好きじゃ!
温泉にはワシ1人しか入らん為、ほんに自由気ままと言う感じじゃ。
この世の贅沢を詰め込んだような感覚がしてたまらんのう!
作務衣に着替え、乾いていない髪はそのままに手ぬぐいを首に巻き脱衣所から出ると、アンジュとナースリスがキャッキャと楽しんでおったわ。
「さて、現状把握といこうかのう。しかし、あれから半月、何も変わってないとええがの」
「争いごと等起きていないと良いですにゃーん」
「全くじゃ。争いごとは何時も何かしら不幸しか産まんからのう。人間の業と言う奴じゃて」
『貴方の見た目でいうと、なんとも達観した子供のようですね』
「そういう見た目にしたのはナースリスじゃろうて。ワシャ70歳の身体でも全く問題なかったんじゃ」
「早死にしますにゃん」
『早々に旅立ってしまわれては困ります』
「まぁええわ。若いなりに人生は大いに楽しむと決めておるからの。無論引き籠りつつじゃが」
筋肉まみれの青春なんぞ送りたくもないしのう。
ワシは出来れば見た目若く、それなりに年齢のいったエルフや獣人と言う種族を選びたい所じゃ。
確かに前世では「若い嫁さんの方がいい」と言う者も多かったが、ワシは若い嫁さんよりは、自分に見合うお嬢さんの方が良かったのう。
『老成しきっているからか、熟女好きに拍車がかかりそうですね……』
「やかましいわ。熟女好きで何が悪い。ワシからしたら同年代じゃ」
「それは確かにですにゃ」
『まぁ、エルフには100歳超えの方も多いですし、問題はありませんが』
「それこそ熟女と言うやつじゃろうな」
そこまで行くと確かに熟女好きと言われても仕方ないかもしれんが、まぁどうせ早々会えるような者達でもあるまい。
さて、池に到着するとワシは畑から集めておいた宝石を1つ放り投げ、外の様子を伺う。
どうやらお城の謁見室のようで、そこにはフル装備のマリリンママ上と似ている男性が1人、そしてカズマパパ上の家で見た……名前はなんじゃったか……。
そうじゃ、ミセス・マッチョスとか言う面々が揃い組じゃった。
『キンムギーラ王国と、ムギーラ王国の間にあるモルスァ山に、暗黒竜が現れたという情報だ。君たちにはその暗黒竜を討伐してきて貰う。ブラックドラゴン2000匹に匹敵する強さを持っていると言われているドラゴンだ。死闘となるだろう』
『暗黒竜か……。奴らは災厄といわているからなぁ……』
『せめて、宝寿を持っている手を切り落とせば戦力は一気に落ちるんだがな』
『しかし陛下、何故暗黒竜がそのような場所に現れたのでしょう。奴らは狙うとしたら聖なる力の強い者を好むはずですが』
ほう。暗黒竜とは聖なる力の強い者を好むのか。
それならば、聖者や聖女と言った者達、もしくは教会が狙われるのならば話はわかるのじゃがのう? はてはて、不思議なものじゃ。
『調べてきて貰った結果だが、そうやらその森の中腹、川の近くに門のようなものがあったらしい』
『門?』
『それが暗黒竜をあの山に引き付けた理由だろう。あの門がある限り暗黒竜はナニカを得ようと必死になる筈だ』
『聖なる門ですか?』
『分からぬ。ただ、命からがら帰ってきた偵察部隊が言うには……箱庭師の箱庭の入り口のようなものだったと聞いて居る』
ほう?
箱庭師の箱庭の入り口のようなものか。
ははは、よもやワシのこの箱庭ではあるまいな?
「何とも不思議な奇跡があるもんじゃな! よもや、ワシの箱庭ではあるまいのう?」
「話にあった宝玉って、アレかにゃ?」
『ああ、箱庭からニョっと入ってきてる宝珠を握りしめた腕が動いてますね。恐らくあれが件の暗黒竜の腕でしょうね……。まぁ、どうしましょう? 腕をしまって下さらないとどうにもなりませんね……』
「暗黒竜の腕にゃ。一発切り落としてくるのにゃ。きっといい素材になるに違いないにゃ!」
「だあああああああ! そんなデカい素材なんぞ、いらんいらん!」
その前になんか蠢いておるなと思ったら暗黒竜の手じゃったのか⁉
入口閉めておかねばならなかったワシのミスじゃ!
家に侵入者!
違う! 箱庭に暗黒竜の一部侵入じゃあああ‼
アンジュはスタタタタタと素早く走ると、ドンッと巨大化し……「ウニャラー‼」と叫ぶと爪で暗黒竜の宝珠を捕まえている手をズバンッと切り落とした。
ゴトリ‼ と落ちる腕と箱庭に居ても分かる振動。
恐らく暗黒竜が痛みで叫び声を上げているのじゃろう。
途端血しぶきが一面に飛び、ワシを護るようにナースリスのナニカ……傘のような結界……と言うべきじゃろうか? そのおかげで血しぶきを浴びずに済んだ。
切り取られた暗黒竜に繋がっていると思われる腕は箱庭から出て行ったが、ワシはその隙に箱庭に暗黒竜が入ってこぬように鍵を掛けた!
しかし、ギギギ……ギギギ……と、必死にこじ開けようとする音が聞こえる。
「何じゃなんじゃ⁉ 次は何じゃ‼」
「無理やり開けようとしてるにゃん」
『箱庭に美味しいものを見つけたのでしょう。私とか……ハヤトとか……アンジュとか』
「ひいいいいい! ナースリス! 箱庭は無事なんじゃろうな⁉」
『そこはご心配なく。ハヤトのスキルですので、スキルを壊す事は不可能です』
「そ、それは良かった……」
『ただ、箱庭は暫く危険区域と思ってください。マリリンたちに助けて貰うのが早まりましたが仕方ありません』
「危険とはどういう事じゃ!」
『暗黒竜が常に箱庭に引っ付いているという状態です。池はいつも通り使えますし、扉が開くという事もないのですが……』
「無いのですが、何んじゃ」
『暗黒竜の臭さは……漂うと思います』
「おのれ暗黒竜……ファブってくれよう‼」
こうなったら大量にファブを作って匂いを消すしかない‼
花の香漂うこのワシの大事な引継ぎし箱庭に、野生の匂いなど言語道断!
その前に、目の前にある腕をアイテムボックスに仕舞おう……。劣化せぬ青の宝石付きアイテムボックスを腰につけておいて良かったわい。
切り取られし腕をシュッとアイテムボックスに仕舞い込むと、確かに血の匂いと爬虫類系の臭いが……。
「爬虫類の臭いがするのう……」
『爬虫類は悪いものではないのですが……。ハヤトさんは爬虫類はお嫌い?』
「いや、白蛇とかは御利益あって好きじゃが?」
『箱庭の外に出る時は、私が貴方の加護とならねばなりませんので、白蛇になって首に巻き付いていきますね』
「首を絞めるでないぞ……?」
『それは無論です。ほら、暗黒竜も動きが止まったようですよ』
どうやら暗黒竜は暫く入り口をギリギリしていたが諦めたらしい。
いや、一時的じゃろうが。
その前にファブを作り、周辺に沢山巻いて臭いを消していき、箱庭の入り口にも沢山散布すると、かなり箱庭は揺れたが……恐らく傷に沁みたか暗黒竜の苦手な香りじゃったんじゃろうなと推測。
それからの間、ワシ達は池で暗黒竜の様子を伺いつつ過ごすことになるのじゃが、結論から言えば……暗黒竜はマリリンママ上たちが到着するまで只管箱庭をこじ開けようと必死になっておった。
その度に扉はギギギ……と音を立てておったが、スキルが壊される事は無いと聞いて居た為、安心して暗黒竜の様子を伺ったし、時折嫌がらせで扉にファブって苦しめてやったし、冒険者達が此方に来ている様子も見ていた。
それから更に数日後――。
『どういう事だ! 暗黒竜の宝珠を持っている腕が切り落とされているぞ!』
『どういう経緯があったかは分からんが勝機! 暗黒竜の素材は国宝級!』
『こいつを狩って表紙の綺麗な【カズマリ】の本を作るよ‼』
『うおおおおおおお‼』
筋肉が5体、いや、5人。
男性は恐らく1人だけだが、ものの数十分でケリはついた……。
筋肉、おそるべし。
そして、ついにワシ達が引き籠る箱庭を、マリリンママ上たちが見つけてしまうのじゃった――。