第72話 マリアンが襲われた⁉
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予定はいっぱいじゃ。
数日中には、エルフ王と獣人王が箱庭にやってくるし、ニ週間以内には、新たな住民も増えるじゃろう。
そして本日、マリリン率いる世界第一冒険者ギルド、レディー・マッスルより、荷馬車が箱庭に入ったんじゃ。
朝は頼まれておったアイテムの作成を急ぎ、この為に時間を開けておったが、正解じゃったな。
荷馬車の大きさに大体の見当をつけて、防水ブルーシートを作り、穴も作る。
穴の周りは金具で固定し、破れにくくした。
それを荷馬車のホロとして使ってみると、案外いいかもしれん。
風通しはないが、雨風はしのげるし、何より軽い。
これで荷物を更に多く乗せれるじゃろうし、スピードも増すじゃろう。
「おお……。これだけ重さが変わると馬車の速さもですが、荷馬車に乗せるアイテムも増えそうです」
「そうじゃな。ワシもそう思っとった。問題点を上げるとすれば、魔法攻撃や刃物に弱いところじゃな」
「それらは付与魔法でなんとか出来そうです」
「では、ワシはこの防水ブルーシートを大量生産するから、後はレディー・マッスルの付与師に魔法付与は頼んでいいかの?」
「ええ、構いません」
「それならワシの負担も少なくて済むわい」
ただでさえ付与アイテムが多い為、これ以上付与が増えるのは負担が大きかったが、作るだけ作って後は丸投げ出来るなら、それに越したことはない。
作るアイテムの量も増えた為、毎日がかつかつの仕事状態じゃったからのう。
これ以上は流石に、難しいわい。
「流石にこれ以上仕事を持つのはの。マリアンと長生きするのじゃと約束しておるから、流石にオーバーワークになってしまうわい」
「主、既にオーバーワーク気味ですニャン」
『もう少し他の方に仕事を回してもいいのでは? せめて料理等』
『それじゃと、今までのクオリティからは落ちてしまうが……致し方ないかの』
となると、パンを作れる調理師が必要になってくる。
また人を雇ってパンを作ってもらうか……。
甘いパンの作り方は本の通りやれば多少なり不格好でも売れるじゃろう。
綺麗に作れるようになるまでは、多少安めに売りに出しても構わん訳じゃしな。
「パンは……他のものに頼めばだいぶ時間があくのう」
「それがいいですニャン」
「早速マリアンが来たら相談するかの」
こうして、外に出かけておるマリアンが帰宅するのを待っておると、暫くして珍しくカズラルがワシのもとにやってきた。
「どうしたカズラル」
「大変なんだ……マリアンが街で襲われて」
「なんじゃと⁉ マリアンは⁉ マリアンは無事なのか⁉」
思わぬ言葉にカズラルの腕を掴んで聞くと――。
「相手を……ボッコボコにしちゃって……」
「……は?」
「襲った相手が大変なんだ……。それでマリアンは……」
「羽織に返り血がついたと……嘆いて……」
「お、おう……無事なんじゃな?」
「無事です……精神が無事じゃないですが」
それは由々しき事態じゃ。
「急いでマリアンに会わねば! 案内してくれ!」
「わかりました!」
マリアンが襲われたと聞いた時は肝が冷えたが、無事なようで少しホッとする。
しかし精神が安定してないのはよろしくない!
待っておれマリアン!
今行くからのう‼
急いで走りレディー・マッスルの拠点からマリアンのいる部屋に案内してもらうと、マリアンは羽織を抱えて泣いており、ワシはたまらず――。
「マリアン! 無事か⁉」
そう叫ぶと――。
「ハヤト様……っ! ごめんなさい……羽織を駄目にしてしまって……お揃いでしたのに」
返り血だらけの羽織に涙をこぼすマリアンに、ワシはたまらず抱きついた。
暫くギュッと抱きしめて、ゆっくり体を離すと忙しなく動き本当に傷がないかを確認する。
「痛いところはないか⁉ ああ、本当に無事で良かった……肝が冷えたわい……」
「ハ、ハヤト……様?」
「羽織ならいくらでも同じのを作ってやれる。破れようと返り血がつこうと、何度でも作ってやれる。じゃがマリアン、お主はひとりしかおらんのじゃ。マリアンがいなくなったらワシはどうやって生きていけば良い……」
「ハヤト様……」
「無事で良かった……マリアン……無事で……無事でぇ……」
思わず涙腺が緩む。
男泣きなんぞするもんじゃない。
男が泣くもんじゃない。
じゃが、マリアンの無事が分かって涙が溢れ出た。
「マリアン……マリアンっ」
「ハヤト様……。ああ! 愛しい人! 私は無事ですわ! 相手がちょっと骨を粉砕するような怪我をしただけで、私は無事ですわよ!」
「良かった……! 良かったっ‼ しかし何故マリアンが狙われたんじゃ⁉」
「それは……」
「それは、ハヤトと取引をするためだったようだ」
ワシがマリアンと抱き合っておると、マリリンがやってきて手の返り血を拭いつつワシ等の元へとやってきた。
「ハヤトの持つ付与アクセサリーの特許権をマリアンを人質にして取ってこいと言われたそだ。そこでマリアンが狙われたが、反対に返り討ちにあってしまった。そこで捕まえてうちで吐かせたのだがな! 全く、マリアンを狙うとは卑怯な! 我が家で最も力の弱いマリアンを狙う等言語道断!」
待ってくれ。
相手の骨を粉砕するようなマリアンが一番か弱いのか⁉
いや、それでもええ。
その力があったがゆえに無事ならば、その力も全て愛するマリアンじゃ!
「これからはマリアンとハヤトが外に出る時は護衛をつけよう。誰が良いかな……。今度適切な人間を用意する」
「ありがとうございますわ」
「すまんのマリリン……もうマリアンひとりでは行かせられん……。こんなに美しく優しいマリアンが傷つく等……。ワシには耐えられん。ましてや、他の男がマリアンに触れたなどと思うと、怒りでどうにかなりそうじゃ」
「ハヤト様ったらっ!」
「むぐっ」
思わず抱きしめられて頬が赤くなったが、マリリンも豪快に笑い「それでこそマリアンの認めた男だな!」と笑っておった。
なお、襲撃を仕掛けた貴族は後日捕らえられ、爵位を剥奪されて国を追放されたとのことじゃ。
ザマァないのう。
それはそれとして、ワシはマリアンに新たな羽織を手渡した。
「何度破ってもいい。何度返り血がつこうと、マリアンが無事ならそれでいい。ワシのお守りと思って身につけていて欲しい」
「ええ……。ハヤト様の愛情と思い、身につけますわ」
そして、後日――。
ワシとマリアンの護衛として現れたのは、ひとりの人物じゃった。
「これからお二人共、よろしくねぇ~? アタシの名前はガーネット♡」
「ガーネット。よろしく頼むぞい」
「まぁ、ガーネットさんが護衛者でしたのね」
「んふふ。こう見えて、Aランクのソロ冒険者よ? でもね、護衛もいいなぁって思ったの。よろしくね?」
こうして、新たにオネェさんなガーネットが、ワシらを守る護衛として傍におるようになったのであった――。




