第71話 新たな商品の納品依頼と、思わぬ情報に一喜一憂する
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「このクソ忙しい時に誰だ!」
「うむ! 申し訳ない、義理の息子のハヤトじゃが⁉」
「ハヤトか! 入ってくると良い!」
その言葉に、マリアンに提案されてチョコレートを持ってきておったのじゃが、これが怒りのマリリンに効けばええんじゃがのう……。
そんな事を思いつつ部屋に入っていくと、書類の山に囲まれしマリリンが見えた。
マリアン曰く、本来なら書類関係はマイケルさんが処理するそうじゃが、今は交渉のために出払っておるらしい。
元々書類仕事が得意ではないマリリンが、こうして頑張っておるのも、それならば頷ける。
「お母様、ハヤト様が新しい商品の開発を行ったんです。その報告と、今後の販路について相談師に来たのですが」
「ふむ……。それは興味があるが」
「お菓子でも食べながら休憩しつつ見てもらえません?」
マリアンがチョコレート菓子の箱を見せると、マリリンは手を止めてザッと立ち上がり――。
「それがいいな! そうしよう!」
「珈琲はハヤト様が持ってきてくださっている美味しいもので」
「それはいいな!」
流石はマリアン、カズマの血を引く娘じゃ。
母がどう動くか、よう知っとる。
その姿を見て、ワシはちとときめいたのじゃ。
そしてチョコレートを食べつつ美味しい珈琲と砂糖で満足した頃、マリアンはアイテムボックスからワシの作ったアイテムを机に並べた。
「コチラがハヤト様が新たに作ったものですわ」
「ふむ、水筒に防水レジャーシート、それにアクセサリーは?」
「ふふ、聞いておどきませ! 【快眠空気寝袋】ですわ!」
「【快眠空気寝袋】とは……?」
「ハヤト様、ご説明を」
マリアンに言われ、ワシが作ったアイテムを紹介した。
【快眠空気寝袋】は寝る時に適した空気の膜で身体が浮かんでふかふかと気持ちよく寝れるようにしてみた事。。
つけ外しがしやすいタイプの磁気ネックレスにした為、いざと言う時は外して直ぐ戦闘に入ることが出来るじゃろうと語ると、マリリンは――。
「これは確かに……爆発的に売れるぞ」
「ですわよね! それで私思いましたの。どれもこれも、冒険者からすれば喉から手が出るほど欲しいアイテムだと思いますわ。更にこのみっつは、行商人たちにも売れそうです。防水レジャーシートを馬車のにくくりつければ、随分とスピードも上がって、雨の日なんかは楽でしょう? それに防水シートは更に雨合羽にも使えそうです。このあたりサイズが中々ダンノージュから入らない商品ではなくて?」
「確かに、ダンノージュから入らない商品ばかりだな」
「何より、この【快眠空気寝袋】ですよ! 冒険者ならず、行商人でも手が出るほど欲しがるアイテムですわ!」
「確かに! マリアンの見る目は確かだな!」
「お褒め頂き光栄ですわ」
トントン拍子で話が進むこの親子。
結果として、馬車にくくる大判の防水シート三十枚、冒険者向けの雨合羽、そして各種アイテムを最低五十個ずつ、至急レディー・マッスルで売り出す手筈となった。
「これらを最低五十個ずつか」
「馬車のホロに使う大判のシートは三十枚でいい。レディー・マッスル所有の馬車用だ」
「ふむ、それならば。じゃが、馬車の大きさがわからん。ひとつだけでも箱庭に送ってもらえると助かる。取付けるには穴も開けねばならんじゃろうしのう」
「確かに。すぐ用意しよう。ところで、箱庭に入れる宝石はあるか?」
「うむ、マリリンのことじゃ。多めに渡してもええじゃろうと思って、アイテムボックスに五十個ばかり詰めてきたぞい」
事前に準備しておった為、アイテムボックスから、袋に入れた宝石を取り出すとマリリンに手渡した。
「実はな、前に地獄のような場所から箱庭に人を保護してもらっただろう」
「うむ」
「やっと、家族全員を再開させられる段取りがついたんだ」
「なんと!」
「その為にマイケル兄さんが交渉に行っている。恐らく箱庭に人がまた数人はいるだろう」
「わかったぞい。そういうことなら喜んで受け入れよう」
こんな喜ばしいことはない。
是非家族全員合わせてやりたい気持ちはワシも強かったんじゃ。
「家族が離れ離れは辛いですものね……。いえ、お母様達が冒険に行くのは安心してお見送りますけれど」
「ははは! カズラルとマリアンは冒険者には向かない性格だったからな。他の兄者や姉者達は私に似たからな!」
「ああ、以前の人間の方からのテリサバース教会を断ったが、それで良かったのかのう? マリリンに苦情等きておらんか?」
「なに、蹴散らしてやったわ!」
「そ、そうか」
「マリアンの勘が当たったな。老いた牧師とシスターだったが、信者から金を巻き上げておった。悪どい連中だったわ」
思わず息を飲んだが、マリアンの勘が冴えたのは確かじゃ。
いやはや、見事じゃ。
「今はふたりとも、本部の牢獄じゃ。もう出られんじゃろうな」
「それが当然じゃ。教会の名を語って金を巻き上げるなど、許されぬことじゃ」
「うむ、そういうことだ! 箱庭のような限られた空間で、そんな真似をするとはな。バカが見つかって良かったわ!」
ハッキリと口にして豪快に笑うマリリンに、マリアンはくすりと笑い――。
「私、勘だけは働くんです。ですから、ハヤト様が素晴らしい男性だというのも、勘でわかりましたの」
「そ、そうか?」
「ふふふ」
直感とは、まことに恐ろしき力じゃのう。
マリアンには頭が上がらん。……それも含めて、可愛いんじゃがの。
「では、改めて新しい人が入る時は連絡してくれると助かる」
「分かった。恐らく一週間後くらいには連絡が入るはずだ」
「了解じゃ」
「なので、早めにアイテム納品頼むぞ?」
「急いで帰って作り始めるぞい」
「一週間で出来る仕事量ですの?」
「うむ、作り方は難しくはないからの」
こうしてワシらはマリリンの執務室を後にし、箱庭に戻って人々を集め、家族の再会が叶うかもしれぬと伝えると、涙を流して喜ぶ者も多かったんじゃ。
さて、気合を入れてアイテムを作るとするかの!