第70話 色々腹を括り、冒険者用に色々作ってみたんじゃがの?
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トントンカンカン……と、テリサバース教会を建てるための音が響く箱庭で、ワシはひとり考え事をしておった。
マリアンにお願いして店の方はなんとかゲット出来たわけじゃし、商業ギルドで働く従業員も雇うことが出来た。
そして現在、ワシは異世界テレビの目で、店の方をじっと見つめておる。
丼物屋は相変わらず盛況で、海鮮丼に関しても、冒険者達がこぞって食べており、受け入れられつつある。
刺し身についても、煮魚についても、まずは新しいもの好きの冒険者が食べて、「うまい!」となれば市民も食べ始めると言う具合じゃ。
魚屋も、魚を捌いてから売りに出すと言うのは良かったようで、焼き魚という新しい食文化が根づきつつある。
素晴らしいことじゃ。
ムニエルにしても旨いしの。
簡単なレシピは魚を買うついでに渡せるようにしているため、それもまた良かったようじゃ。
問題は――と言うと、チョコレート店じゃ。
まさに長蛇の列。
チョコレートパンで味をしめておる貴族がこぞって買いに来ており、大盛況じゃった。
そのため、ショーケースの高いチョコはひとりにつき十個まで。
箱のチョコレートはひとりにつき一箱まで。
そういう決まりをつけねば、どうしても買い占めが行われそうじゃったので、前もって設定しておいてよかったとさえ思う。
「ここまでは順調じゃ。最後に出したい店もあるが、それは獣人国でも同じ」
その前に出したい店もまだある。
それは追々考えていくとしてじゃ。
箱庭に教会が出来る一ヶ月後を目処に、エルフ王と獣人の王がこぞって箱庭に来るというミッションが課せられたのは昨日の事。
マニキュアのお礼と言うことらしいが、何を持ってくるか分かったもんではない。
取り敢えず、ワシとマリアンとで案内はするがの。
その為の東屋が現在箱庭で建設中でもある。
トトンカンカン鳴り響く箱庭。
子供たちも興味津々じゃが、ワシとしては少々気が重い。
とは言え、逃げられる問題でもないため、腹を括るしかあるまい。
「気持ちを切り替えて、なにか考えるか」
冒険者用の何かを最近作っておらんかったので、冒険者に向けた商品でも考えるかの。
ハッカ水は冒険者や市民に愛される商品となった。
それはええことじゃ。
じゃが、大抵の冒険者向き商品は、ダンノージュ家が抑えておる。
そこを掻い潜って作ると言うのは至難の業じゃ。
調べた所『水筒』『テント用品』『キャンプ用品』まで品揃えがあったが、それはリディアがいたときのもので、だいぶくたびれているようじゃ。
ならばワシが新たに作っても問題ななかろう。
大々的に作れば目をつけられる家の背が高い為、まずは水筒だけでも作れれば問題はない。
「ダンノージュ家に目をつけられぬように作る……と言うのは、中々にハードじゃの」
思わず愚痴が飛び出たが、水筒は大きいものをひとつ作ってみた。
ワシが持つにはデカいが、冒険者が持つにはそこそこちょど良い大きさといえる。
【水筒】くらいなら、ダンノージュ家も文句は言わんじゃろう。
後は、ものは試しと言う事で、ひとり用の【防水のレジャーシート】。
付与魔法で寝る時に空気の膜に包まれて眠る【快眠空気寝袋】と言うのも作ってみた。
【快眠空気寝袋】は寝る時に適した空気の膜で身体が浮かんでふかふかと気持ちよく寝れるようにしてみたのじゃが、これが売れるかどうかはわからん。
つけ外しがしやすいタイプの磁気ネックレスにした為、いざと言う時は外して直ぐ戦闘に入ることが出来るじゃろう。
「まずはこんなところかのう」
「これまた、凄いのをつくりましたのね」
「マリアン!」
先程まで出かけておったマリアンが帰ってきた。
マリアンはワシの声に嬉しそうに微笑み、商品について説明を求めてきたので、ワシは嬉々として説明を行った。
冒険者用のアイテムを作っていなかったことを反省し、まずは冒険者に必要な水分を確保すべく、【水筒】を作ったことや、雨や濡れた場所でも座れる【防水ジャーシート】。
そして、空気の膜で眠れる付与魔法で快眠を実現出来るとええなと思って作った【快眠空気寝袋】を見せたのじゃ。
「どれもこれも、冒険者からすれば喉から手が出るほど欲しいアイテムだと思いますわ」
「そ、そうか? ワシは冒険には出ぬためによくわからんでな」
「特に、このみっつは、行商人たちにも売れそうです」
「行商人たちにもか?」
「ええ、防水レジャーシートを馬車のにくくりつければ、随分とスピードも上がって、雨の日なんかは楽でしょうね」
「ふむ」
「防水シートは更に雨合羽にも使えそうです」
「なるほど」
「何より、この【快眠空気寝袋】ですよ! 冒険者ならず、行商人でも手が出るほど欲しいでしょうね!」
「そ、そうか! 取り敢えずマリリンに相談して売れるか聞こうと思っておるんじゃ」
「では、すぐ向かいましょう! お母様は暫く書類整理中で機嫌が悪いので、こういうのを見たらきっと気が晴れます!」
「き、機嫌が悪いマリリンに会うのは……気が引けるのう」
とは言え、逃げられる問題でもないため、気を引き締めて、レディー・マッスルの元へと向かう。
マリリンの執務室に入る前から威圧が凄かったが、ワシはため息を吐きノックをすると――。
「このクソ忙しい時に誰だ!」
「うむ! 申し訳ない、義理の息子のハヤトじゃが⁉」
「ハヤトか! 入ってくると良い!」
その言葉に、マリアンに提案されてチョコレートを持ってきておったのじゃが、これが怒りのマリリンに効けばええんじゃがのう……。