第68話 ワーカーホリック気味ではあるが、ワシとて休む時は休むんじゃがの……
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まだまだワシの予想をはるかに超えるアイテムが、もしや頭には眠っておるかもしれん。
一度、整理する必要がありそうじゃな……。
ただ、前世の記憶を呼び起こす……というのは、中々難儀なことじゃった。
何せ毒親の事を思い出さねばならない。
あまりいい思い出はなく、寧ろ心がすり減るような感覚すらした。
その上で、楽しかった思い出で何か商売に結びつくようなものは……と言うと、それもまた難しく、悪い方向へと精神が引きずられそうで、あまり宜しくはないのう。
ある程度、心の自衛は出来ておるが、もう少し若ければ自衛が出来なかったやもしれん。
ヒントになりそうなものは、幾つかありそうなんじゃがな……。
「ふう……」
「主、考え事はあまり体に良くないですニャン」
「そうじゃな、前世のことはあまり思い出したくはないことじゃのう」
「でも、役に立つ情報もありますニャン……難しいですニャン」
『既にそれなりの商売が軌道に乗っているのですから、少しご休憩してもいいのですよ?』
「休憩のう……」
毎日忙しく仕事はしておる。
その上で、仕事はしつつ、少し休憩となると……何があるじゃろうか?
前世では紅茶や珈琲を入れて一服……と言うのが何とも贅沢な瞬間じゃったしのう。
「そう言えば、調理師たちの腕前がそろそろ店に出せるレベルになると言う話じゃったな」
「また仕事の話ですニャン……」
「仕方ないじゃろう。時は止まって待ってはくれんのじゃ。人間に用意された時間というのは皆平等で、一日二十四時間じゃぞ。それをどう消費するかは、本人次第じゃ」
「時にはご褒美時間があってもいいと思いますニャン」
「ご褒美ならば、マリアンにギュッとして貰うのが一番のご褒美じゃよ」
「欲がないですニャン! せめてマリアンと一緒に温泉とかもご褒美じゃないのですニャン⁉」
「それは流石にアウトじゃ」
何を言い出すのかと呆れつつも、そろそろ店に出せる料理になってきたと言う事で、食べ物屋の方も考えねばならん。
米もある、魚もある。
まずは魚の旨さを知ってもらうべく、食堂を作るのが一番じゃろうな。
その前に、試しにマリリンの酒場で出してもらうか。
そこからの飯屋……と言う展開が一番じゃろうな。
幸い丼物屋は作るのが簡単ということもあり、先立ってオープンして既に人気店じゃ。
その隣の土地は既にふたつ程買ってあり、そのひとつに魚関係の店をオープンして良いかもしれんな。
「問題はチョコレート店か……」
高級感を出すために、チョコレート専門店……と言うのも良いかもしれん。
貴族が多く訪れる店の並びに構えることが出来れば、かなりの売れ行きになるじゃろう。
甘味の少ないこの異世界で、砂糖をふんだんに浸かったチョコレートは絶対に売れるのは間違いない。
マリアンに頼んで、貴族街にチョコレート店を出すための店を見繕ってもらうか。
あまりこんな事はしたくはないが、便宜をはかってもらう為に、チョコレートを二箱程用意して、マリアンにいざという時に出してもらうのも良いかもしれんの。
どんな物を売るのかを知れば、店も選ばせてくれよう。
「それに、ワシはバリバリの庶民じゃからな……。高級店はマリアンに任せたほうが得策じゃ」
「確かに主はバリバリの庶民ですニャン♡」
「箱庭や雇っている者たちを食わせていくために、貧乏暇なしじゃな!」
『全くもう、またそんな事を言って……。箱庭の皆さんと雇っている皆さんを一ヶ月で数カ月分雇っていけるようにしているではありませんか』
「しかし、人生何時なにがあるかもわからん。蓄えはあるに越したことはない。それにワシは存外、働いておるのが好きな人間のようじゃわい」
そう言って笑うと、ナースリスとアンジュは「ワーカーホリックですニャン」と口にしていたが、ちゃんと土日は休んでおるぞ?
基本的に温泉に入ってゆっくり過ごすことが多いが。
「ニャーン……主が引き籠もりのもやしになっていくニャン……」
「もやしとは失礼じゃの」
『でも、このままでは本当に、もやしになってしまいますよ?』
「六歳から筋トレできるか! 背が伸びなくなったらどうする!」
「確かに一理ありますニャン……」
せめてマリアンよりは背が高くなりたい。
マリリンに似ているマリアンなので、恐らく背丈は……追い越せないかもしれんが。
それでも、ある程度背丈は欲しいんじゃ。
その為にバランスの良い食事を心がけておるし、ある程度運動もしておる。
後は、時が来れば自ずと筋トレをして、見栄えの良い体にしていけば……。
取り敢えず目下の目標は決まった。
マリアンが戻ってきたら話をしようかの。
今日は何やら母親のマリリンに呼ばれて、レディー・マッスルの拠点に帰っておるからの。
一体何があったのやら。
しかし、その日は珍しくマリアンは箱庭に帰って来ることはなく、本当に不思議に思いつつ冒険者たちに話を聞いたが――。
何でもマリアンは部屋に本日泊まっておるらしい。
こんな事は初めてじゃ。
一体何があったのかと思いつつ翌日になり、マリアンはいつもと変わらぬ様子で帰ってきたのじゃが――。
「マリアン、一体どうしたんじゃ? ワシは心配したぞ?」
「ハヤト様……実は……」
そこで語られた言葉に、ワシは目を見開いたのじゃった。




