第64話 マニキュア講師の三人のオネェさん達の欲求を満たすんじゃ
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その後、再度獣人王国から謝罪が来たのじゃが、テトが間に入ってくれて助かった。
どうしても、謝罪のために娘を一人貰ってほしいと頼まれたからじゃ。
そんな者はもとめておらんし、妻はマリアンひとりで十分。
寧ろマリアンしか求めておらんと話をして貰った。
おかげでマリアンに抱きしめられ、またひとつ、花が散った……。
「ごほっ! ごほっ!」
「きゃあああ! ハヤト様シッカリしてぇえ!」
「大丈夫じゃマリアン! ワシはまだ生きておるぞ!」
マリアンの熱い抱擁は死を意味すると言って過言ではない。
しかし、その死を意味する熱い抱擁が、マリアンの喜びの大きさであり、愛の重さじゃと感じることが出来るうえに、ワシを絶対に裏切らず、愛し通してくれる唯一の女性じゃと身体が喜びに震えるんじゃ。
その事を、カズマに話したら「ようこそ、コチラ側の世界へ」と両手を広げて笑顔で言われてしもうた……。
流石マリリンの夫、カズマ。
そういうのも含めて、愛しい妻……と言う奴なんじゃろうな。
ワシもついにそちら側の世界にどっぷり浸かったと言う訳じゃ。
それは一旦置いておくとしてじゃ。
マニキュアの研修はとてもいい感じにすすんでいるとの情報が、毎日飛び込んでくる。特にまりーリリーエリーの教え方は分かりやすくエレガントであると評判じゃ。
実に喜ばしい。
「あたしたちの存在って、やっぱり受け入れてもらえないかと思っていたのよね?」
「そうそう。でも、芸術を愛する皆さんにとっては、それもまた芸術なんですって」
「あたしたちの存在が芸術って表現されるなんて……喜ばしいわ!」
そう語る三人に、ワシは笑顔で頷き「しかもエレガントなんじゃろ?」と言うと、頬を染めつつ「そうなのよ~!」「参っちゃうわ~!」と、とても嬉しそうじゃった。
他所で居場所のなかった三人じゃが、箱庭で裁縫師として、そしてマニキュアを教える講師として、実に自由に羽ばたいておる!
その姿は【ありのままの自分で、受け入れてもらえている】と言う喜びに結びつく。
前世でも、ありのままの自分でいられる場所と言うのは少なかった。
寧ろ、前世の世界の方が、ありのままでいられる……と言うのは、理想の言葉に過ぎないと言っても過言ではない。
「ありのままでは嫌われる」「ありのままを見せれば虐められる」と言った、負の感情の方が先に出るのが、前世の世界じゃ。
まさに地獄よの……。
普通に、当たり前に、素の自分で入れば、それは「変わり者」と言われる。
人と違うと言うだけで「それは可笑しい」と言われる。
そんな世界、誰が楽しいと思うか。
ワシはそんな世界が嫌じゃった。
そんな世界を、箱庭と言う中に作りたくはない。
――ありのままで良い。
――ありのままの姿で、生き生きと人生を謳歌する。
――それを咎めるものがなく、それが理想郷の世界であれ。
そう……思うんじゃ。
「んもう。それより、研修に関しては最短で一ヶ月と言う話だったけど」
「ああ、そういう予定を立てておったな」
「この調子だと、最短一ヶ月で終わりそうよ」
「ほう? 先生方の教え方がとても良いのじゃろうな」
「またまたー!」
「ハヤトちゃんったら、お口が上手なんだから!」
「しかし、事実じゃろう? 教える側が分かりやすく説明し、うける側がそれを、しっかりと身につけようと思えばこその相乗効果と言う奴じゃ。実に良いことではないかの?」
「でも、それはそれでちょっと寂しいわ」
「そうね、皆真剣に覚えるところは素晴らしいけれど、すぐ終わっちゃうのは寂しいわ」
ふむ、教える側の楽しさを知ってしまったか。
でも、それを更に……と言うのは中々に難しい。
彼女たちは、この箱庭には必要不可欠の人材。どこで折り合いをつけるべきか。
そう悩んでおると、マリアンがこう提案する。
「でしたら、獣人王とエルフ王にお願いして、月に一度、三人に腕が訛っていないか等のチェックを市に行ってもらってはどうでしょう?」
「エルフ王国と、獣人王国にか?」
「はい。護衛はつけて頂いて、チェック体制にすれば、ふたつの国のマニキュアの発展状況等もわかりますし、それは書類に残して記録していくのも、またひとつの手かと」
「なるほど。それならば三人にお願いして行ってもらうと言うのもええのう」
そうすることで、欲求不満が解消されるのなら問題はない。
三人に聞くと「それでいいわ!」との事じゃったので、ミアとテトにその旨を明日にでも伝えに行ってきてもらうことにした。
ストレスを抱えての仕事はきついからのう……。
それで欲求不満が解消されるのなら、ワシとしてもありがたい。
「御三方に、エルフ王国と獣人王国のマニキュア、任せましたぞ」
「「「ガッテン!」」」
うむ、良い返事じゃ!
ワシは笑顔で頷き、マリアンと共にその場を後にした。
箱庭の中は基本的に平和そのものじゃし、子供たちも勉強に励んだり、遊びにも夢中になったりと元気にしておる。
図書館はちょっとした箱庭の娯楽スポットじゃ。
ワシもあらゆる知識は得たとは思うが、まだまだ物足りなく感じることがある。
いや、ひとつの道を究めんとすれば、それで満足する内容なのじゃろうが。
この異世界では、やれることが多い。
物を作ると言う事もそうじゃが、幸いワシは店もやっておる。
店の売上を伸ばすためならば、努力は惜しまんのじゃがの。
今のところ、どの店も安定して金を生み出してくれておるため、特に困っていると言うこともない。
敢えて言うのなら、冒険者用のアイテムを何かしら作りたいなと思う程度じゃ。
「マニキュアが軌道に乗れば、さらにワシの名声も上がる。後は……どう道筋を立てていくかじゃ」
「道筋ですか?」
「この先に進むための一歩。まずは、試してみようかの」




