第59話 新たな人材ゲットと、マリアンとの話し合いが必要じゃ!
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ひとり悩んでおると、獣人のテトがワシのもとへとやってきた。
頼まれておった仕事が終わったのじゃろう。箱庭の見回りも終わったはずじゃ。
ワシは、今直面しておる「書類作成出来る人材」について、ついボヤいてしまったのじゃ。
すると――。
「ああ、それでしたら……ひとり、無くもないです」
「本当か?」
思わぬ言葉に顔をテトに向けると、彼女は暫く悩んだ末「ハヤト様なら差別はなさらないか……」とポツリと呟いた。
なんじゃろうな?
「実は、私の兄……いえ、姉? なんですが」
「んん?」
「所謂、リリーマリーエリーさんみたいな人で」
「ああ、納得じゃ」
「王城の書類を管理しているひとりなんですが……そっち系なので、毛嫌いされてまして……。ストレスも凄かったんですよね」
「ほう……」
「それで、もしよければ、この箱庭に姉……様を引き抜いてくれないかと思いまして」
「書類仕事は出来るんじゃな?」
「はい! それはバッチリです!」
「それなら……ナースリス」
『ええ、その方を引き抜きましょうか。名はなんとおっしゃるのです?』
『ダルメキアンです』
こうして、まだフラついている巫女に再度憑依したナースリス。
そして――。
『もうひとつ言い忘れていました。獣人王よ、ひとりハヤトのもとに欲しい人材がいます』
『ナースリス様! その者が欲しいと言うのでしたら是非、ハヤト様に献上致しましょう』
『ダルメキアンと言う方がいますね? かの方は書類仕事が出来ると聞いております。先立って明日、箱庭に連れてきなさい』
思わぬことじゃったのだろう。
国王は『ダルメキアンを⁉』と驚いておった。
さて、ダルメキアン……一体どんなオネェな人物じゃろうな。
直ぐに獣人王は『ダルメキアンを読んで参れ』と指示を出し、暫くすると、背の高い垂れ耳のキッチリ服装を着込んだ獣人男性が現れた。
『お呼びとのことでしたが……』
『貴方がダルメキアンですね? 私はこの巫女の体を借りている、ナースリス。あなたの手腕を、とある獣人より聞き、是非ハヤトのもとで働いて欲しいと声を掛けたのです』
『ナースリス様! はっ! ナースリス様の御心のままに! わたくしはどういう仕事をすれば宜しいでしょうか?』
『ええ。実はハヤトのもとで、書類関係の仕事をお願いしたいのです。色々と手広く商売をしているため、そろそろ専用の書類関係を任せられる方が欲しいと思っていたようで……。出来れば売上をまとめられる人材も欲しいわ。ダルメメキアン? あなたの目で見極めた獣人で、売上などに詳しい者を三人ほど見繕えるかしら?』
『いるにはいますが……陛下のお許しをいただいてくださいませ』
『宜しいですわよね?』
笑顔で問いかけたナースリスのお願いに、獣人王が嫌とも言えるはずもなく。
ダルメキアンは直ぐに行動に移り、三人の獣人を連れて戻ってきた。
一人は小柄の女性で、二人は男性。どちらもダルメキアンが選んだと言うのなら、そういう差別をしない者たちじゃろう。
『貴方がたには、明日には、ハヤトのいる箱庭にて生活拠点を移してもらいます。直ぐに引っ越しの作業にかかりなさい』
『ハヤト……様ですか?』
『マニキュアとか言うアイテムを普及させるために国と契約をしたと言う方ですか?』
『ええ、私が守護している少年よ。その子の手伝いをして欲しいの』
ナースリスが伝えれば、守護している少年と言う言葉に背筋を伸ばし、直ぐに返事をして『明日には引っ越せるように用意してまいります!』と言って走り出していった。
ニコニコ笑顔でいるナースリスに、獣人王も文句が言えるわけがない。
『しかし、何故よりによってダルメキアンを……』
『あの子、ここに居場所がないそうですわね』
『普通とは変わっておりますゆえ……』
『変わっていていいのですよ。ハヤトの箱庭では、そういった差別はありません』
ナースリスの言葉に驚いた様子の獣人王じゃったが、暫くしてから『随分と器の出来たお方のようですな』と答え、小さく息を吐いた。
『どうか、ダルメキアンをよろしくお願いたします……』
『ええ、明日には連れていきます。用意ができたら巫女を通じて連絡を』
ナースリスはそれだけを伝えると巫女から体を戻し、箱庭のふわふわな体に戻ってきたようじゃ。
少しつかれた様子ではあったが『やるべき仕事はしてきましたわ』と嬉しげじゃった。
「明日には書類関係に強い者たちと、計算に強い者たちが来てくれるのはありがたいのう。マリアンが頑なに自分ですると言って聞かなかったが、分担とは大事じゃ」
「分担は大事ですニャン! マリアンは何もかも受け持ちすぎですニャン! もう少しゆっくりすることが大事ですニャン」
「過労死なんてして欲しくないからのう……。一緒に老いていきたいものじゃ」
『それを伝えれば、きっと理解してくれますよ』
「そうじゃな……。ちと、二人きりになったときにでも伝えようと思う……が、お主達はついてくるんじゃったな」
思わず遠い目をしそうになったが、アンジュとナースリスには筒抜けなのは仕方ない。この際腹を括って、マリアンと話をして……。
新しい商売もち話し合いたいしのう……。
いやいや、その前にじゃ。
「のう」
「どうしたのニャン?」
「……エルフ王国や獣人王国にいけるのじゃよな?」
「いけますニャン」
「人間がいくのは危ないか?」
『ハヤトとマリアンは国賓扱いでしょね』
「むぐぐ……」
それならば、二人でデートは難しいか……。
仕方ない。他国でのデートは諦めて……二人きりで過ごせる場所でデートを考えたんじゃがなぁ……。
仕方ない。
マリアンと二人、ちょっと海辺でゆったりデートでもするか。
ちゃんとマリアンに「あまり無理をしてくれるな」と、ちゃんと伝えようと思ったのじゃった。
そしてその夜――マリアンが帰宅した際に、新たに書類と計算専門の獣人を雇ったことを告げると驚いておったが……。
「そんな……私では信用出来ませんか?」
「信用しておるよ。これ以上なくの」
「でしたら!」
「マリアンの気持ちも汲まずに申し訳ない……。出来れば、ワシの言い分を聞いてはくれまいか? ワシの……本音を聞いてはまいか?」
「……」
「マリアン……」
悲しげに願い出ると、マリアンは少しふくれっ面はしておったが「仕方ありませんわね」と夕飯後、ワシに付き合ってくれることになった。
ホッと安堵しつつも、早々にお互いの誤解を解くのが一番じゃろう。
「では、夕飯が終わったら二人で海辺デートをしつつ……どうじゃろうか?」
「デ……もう! 仕方ないですわね! でも、しっかり……本音を聞かせてくださいませ」
「うむ、ワシの心からの願いを……伝えよう」
マリアンの大きな手を包みこんで真っ直ぐ見つめると、マリアンは頬を染めて「仕方のない方!」とツンとしておった。
その様子がまた可愛らしく、ワシは笑顔になりつつ夕飯を食べて、それから――。