第58話 エルフ王国と獣人王国で起きていた問題は解決したわけじゃが……
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――ふたつの国は、別の意味で荒れておったようじゃ。
なぜなら……ワシを籠絡させれば良いと言う考えの者たちと、ナースリスの怒りに触れるわけにはゆかぬと言う者たちとで争いになっておった。
なるほど、これは確かに来るのが遅れるはずじゃ。
『全く……ハヤトを籠絡させよう等と……その者たちには罰を与えなくては』
「全くですニャン!」
「しかし、どう罰を与える? 難しいのではないか?」
『エルフ王国と獣人王国には巫女がいます。私の声を聞く巫女が。そのものを使います。巫女の言葉は絶対と言う考えも強いため、いい釘にはなるでしょう』
「なるほど」
巫女がおるのには驚いたが、確かにそれが一番手っ取り早いじゃろう。
ナースリスは淡く光を放ち、どうやら巫女相手に何かを伝えておる様子。
暫く黙ってその様を見守り――数十分後、バタバタと城の謁見室に入ってきたのは、まずはエルフ王国の巫女じゃった。
巫女は顔面蒼白で『ナ―スリス様より、お言葉をお伝えに参りました』と恭しく口にすると、伝えた言葉を口にし始める。
『ナースリス様より、ハヤト様を籠絡させようとしてる者たちには、後日罰を与えると……言う事です。覚悟をなさいませ』
『なっ!』
『酷くお怒りの様子でした……。わたくしたちを見ていると……。許しがたいと。そして、ハヤト様が待っているのに何時までも人を寄越さぬことにも苛立っておりました』
『大臣よ。お主はどうやらナースリス様の怒りに触れたらしい。即刻ここから立ち去られよ』
エルフ王が口にすると、悲鳴を上げて大臣と呼ばれた男たちは部屋を後にしていった。エルフ王は『ナースリス様は見ておられるのだな……』と両手を組んで祈りを捧げると、皆もまた、両手を組んでナースリスに祈りを捧げておるようじゃ。
『何時までもハヤト様を待たせるはゆかぬ。すぐに絵師の心得を持つ者たちを集めてくれ』
『かしこまりました!』
バタバタとやっと先に進めそうじゃな。
問題は獣人王国か。
問題としては、こっちのほうが重大じゃった。
なんと――ワシに年の近い娘を三人ほど嫁に渡すと言う馬鹿なことを言っておる大臣たちがおったのじゃ。
国王はそれを拒否。
王族ゆえに、子沢山。
のワシと年の近い者たちを嫁に出せば、国は安泰ではないかと話し合っておる。何が安泰かと言うと――やはり【マニキュア】を独占したがっておった。
『嫁に差し出し、籠絡させればマニキュアなるものを我が獣人国の特権として使えるではありませんか!』
『何度も言うておるが、ハヤト様には愛するたった一人の番がおるのだ! 番を何匹も欲しがる貴殿と違い、ハヤト様は一人の番を心から愛し通しておられる! それを壊せばナースリス様の怒りを買うぞ。それでも貴殿はそれを押し通すと申すか!』
『きっとナースリス様も分かってくださいます!』
『馬鹿者! 番様もまた、ナースリス様のお気に入りなのだぞ!』
こんなやり取りが、ずっと続いておったのじゃろう。
陛下もかなり苛立っておるようで、このまま行けば獣人の大臣は殺されそうじゃな。
「温厚じゃがいざと言う時はキッチリと始末をつけそうなお方じゃ。これ以上苦しませるのは本望ではないのう」
「神獣としても、この国王は信用出来ると判断しますニャン♡」
『アンジュもいうのでしたら、巫女を既に遣わせましたから大丈夫でしょう』
そう言えば直ぐに巫女が訪れ、エルフ王の時と同じく『ナースリス様より罰を与える』と言われた大臣は震え上がっておったわい。
また、ナースリスは何かの魔法を使うと、巫女がガクリと倒れ、何事かと思ってみておると、隣のナースリスは光を強めながら……。
そして、倒れておった巫女が立ち上がった。
『やり取りを、箱庭から見ていましたよ。獣人王は、信用出来る相手のようですね』
『ナ、ナースリス様‼』
ザッと音を立たせながら女神に最大の敬意を見せる国王、及び周囲の獣人達。
よもや、ナースリスが出てくるとは思わんかったのじゃろうな……。
『ハヤトの事、及びハヤトの番であるマリアンを心配してくれたこと、心より感動致しましたわ。……私はハヤトとマリアンが愛し合っていることが重要と考えています。他のものは黙っていなさい』
『はっ‼』
『エルフ王国は早速、絵師の準備に取り掛かっていますよ。あなた方も急ぎなさい』
『かしこましました! 早急に絵師を集めます!』
ナースリスの登場により、獣人王国はバタバタと動き出したようじゃ。
これで滞っておったエルフ王国と獣人王国の【マニキュア】はなんとかなりそうじゃの。
無論、支店を出すだけじゃから、うちで獣人たちやエルフたちを雇うことになるが、技術を教える訳じゃし、タダで全部を……と言うわけにはいかん。
キッチリ、教えた相手はワシが雇うことにする訳じゃ。
後は、マニキュアは必ず仕事が終わったら返してもらう事も大事じゃの。
後でキッチリと書面に残してやらねばならんな。
「となると、マリアンばかりに頼っておられんなぁ……。さてどうしたものか」
「マリリンの仕事多すぎるのニャン」
『それなら、私を雇ってみません? 書類関係なら出来ますよ』
「ナースリスを?」
『一度、人間のする仕事ってしてみたかったんですよ~』
「大事な書類じゃぞ? 不備があっては困る」
『むう……』
「最終的なチェックはマリアンとナースリスがしてもええが……。書類関係に強い誰かを雇いたいのう」
これはマリアンに相談してからになりそうじゃ。
今日マリアンは商業ギルドに行ってもらい、土地の確保をしてもらっておるからの。
嗚呼、色々自分で出来ることが限られておるのが歯がゆいのう。
そんな事を思いつつも、手は動くもので、只管今は高級店に卸すアイテムを作ってはアイテムボックスにしまい込んでおるわけじゃが……。
「ううう……ん」
「ハヤト様どうか為さいましたか?」
「テトか……」
ひとり悩んでおると、獣人のテトがワシのもとへとやってきた。
頼まれておった仕事が終わったのじゃろう。箱庭の見回りも終わったはずじゃ。
ワシは、今直面しておる「書類作成出来る人材」について、ついボヤいてしまったのじゃ。
すると――。