第54話 エルフ王と獣人王からの謝罪と、支店を出す話を纏めるぞい
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〝マニキュア店〟が試験的にオープンしたその日。
それはもう、大盛況じゃった。
多くの冒険者が長蛇の列を作り、爪にお守りというべきか、その為の模様を描いてもらい帰っていく。
冒険者がゲン担ぎをすると言うのは事実だったんじゃなと関心しつつも、同時期にエルフ王と獣人王がムギーラ王国の視察までしておるわい。
度々ワシの店に立ち寄っては中を確認しておるようで、あまり良い気はしないが仕方ない。
多少の事は目を瞑ろうと、小さくため息を吐きつつ異世界テレビ……まぁ、池を見ておった。
特に獣人王とエルフ王が目をつけたのは、箱庭産の木材や高級店、そしてやはり、マニキュアの店じゃった。
高級店では、流石に一国の王が二人も来たと言うこともあり、殆の品物は買われて店仕舞いしておった。
マニキュアに関しては、長蛇の列が出来ておったので、争いを避けてほしいとムギーラ王に言われておるのじゃろう。見つめるだけではあったが、自分の爪を何度も見つめておった。
これは、明日には何かしら動きがあるじゃろうと思っておる。
「明日は面倒な事になりそうじゃのう」
「アンジュがビシッと言ってやりますニャン!」
『また碌でもない事を言いだしたらビシッと言いますよ』
「お主らが出たら本当に大変じゃからな。じゃが期待はしておるぞ」
ナースリスが本気をだせば、ふたつの国は静かにはなろうが、また〝王に非ず〟なんて言い出したら大変じゃな。
それだけはないと思いたいが……実際どうなるのかはわからぬからのう。
予防線をはっておいても、何かしら起きるじゃろうと、覚悟しておくのが良いじゃろうな。
「また国に来いなんて言われたらどうしますの……?」
「いかんよ? ワシは確かにどこででも箱庭は出せるが、このムギーラ王国が住心地がええからのう」
「良かったですわ」
「ただ、どうしても……と頭を下げられた時は、支店を出してもええと思っとる」
「支店……ですか?」
「エルフ支店、獣人支店じゃな。差別はあまり好きではないし、他の娘をけしかけてこないと言う約束を出来るというのであれば、考えても良い」
「他の娘をけしかけて……その際には、流石の私の拳もうなりましてよ」
「ははは。マリリンの娘の本領発揮かの?」
「無論ですわ!」
ムキッと筋肉を見せるマリアン。
自分の筋肉を恥じいていた頃もあったが、ワシを守るためならば、筋肉を活用するところがまた愛おしい。
「ワシはマリアンの筋肉も強さも、平等に愛しておるよ」
「はわわ……。お、お父様のような方と結婚するのが夢だったんです! ハヤト様は本当に……全てがタイプですわ♡」
「はっはっは!」
確かに、あのドラゴンの爪をも通さぬ頑丈な肉体を持ち、ドラゴンのブレスさえも我の咆哮で蹴散らすだけの肺活量を持ち、オリハルコンゴーレム程度なら拳で屠るマリリンの血を受け継ぎしマリアンならば、その辺の女子等もやしじゃろうな。
じゃが、今やそんなマリアンが可愛くて仕方ない。
今なら分かる。
カズマよ、お主も沼ったのう……。
翌日の謝罪の場にて、公の場に出るための着替えを済ませ、マリアンと合流し、マリリンたちと合流して城へと向かう。
謝罪の場と言うことじゃったが、長ったらしい話がエルフ族から続き「どうでもええわそんな事は。もう終わったことじゃ」と流石に長過ぎて口にすると、謝罪を受けたので「終わったことなので今後はシッカリと民を導いてやってほしい」と口にする。
打って変わって、獣人族の謝罪はとても短かった。
これが獣人族じゃろうと思いつつ「今後注意してくれればよい」と答えると、二人がこんな言葉を投げかけてきた。
「ハヤト、我がエルフ王国に来ると良い。歓迎しよう」
「何を言う。俺の獣人王国に来ると良い。歓迎してやる」
「何故、そのような言葉を謝罪の後に言うのか、理解できぬが?」
淡々と語るワシに、エルフ王と獣人王はワシの持っている店について、とても興味深いのじゃと語った。
是非我が国にも欲しいと思ったこと。これが一番の原因らしい。
「甘味もさることながら、何よりマニキュアだよ」
「そうだ。マニキュアだ」
「ふむ」
「エルフ族は体にタトゥーを入れない。その代わり爪に色を塗り祈りとするのだ」
「俺の国、獣人王国でも爪は命。磨ききった美しい爪とは実に素晴らしいものだ」
「ふむ?」
「だから、どうしてもハヤトには我が国に来てもらい、マニキュアを」
「何を言う、獣人国に来てマニキュアを普及して貰いたいのはこちらもだ」
なるほど。
甘味もさることながら、マニキュアが狙いか。
確かにタトゥーを入れぬエルフ族や獣人族にとって、爪に祈りを塗ると言うのは自然なことかもしれん。
しかし、ワシの体はひとつしかない。
「では、こうしてはどうじゃろうか? エルフ族と獣人族の国に、ワシの支店を出す……と言うのは?」
「「支店?」」
「ワシは事情があってムギーラ王国からは今は離れられん。が、エルフ族と獣人族の国に、マニキュアや高級品の支店を出すことは可能じゃ」
「かき氷はどうだろうか? アレは実にエルフの欲する食べ物だ」
「かき氷も出せるぞ。支店であればな」
「「おおおおお」」
「ただし、店の場所に関してはそちらで来てもらうし、ワシの箱庭でマニキュアの修行をしてもらう為に、エルフ族や獣人族に来て貰うことになる。それでもいいか?」
「構わない」
「俺もそれで構わん」
「じゃったら、幾つか宝石を持ってきておるから、ワシの箱庭に来るための宝石を渡しておこうかの」
これは、以前マリリンに手渡した、一度限りのワシの箱庭に来るための手段じゃ。
宝石にワシの箱庭への通路を作った物は沢山作っておいたので、小袋に分けて二人の王に手渡した。
「ワシの箱庭と通じるのならば、場合よっては箱庭産の木々も売ることもできよう」
「「なんと⁉ それは本当か⁉」」
「無論、間に人は入ってもらうがの。うちのそっち系を回しておる者を寄越すことになる」
「なるほど、それでも構わない。我が敬愛するナースリス様の力の宿りし木材は、新たな幸福を呼ぶだろう」
「全く持ってそのとおりだ」
「では、支店を作ると言う事で決まりじゃな?」
「うむ。出来ればハヤトには住んでもらいたいが」
「ワシのいるべきはマリアンの場所。愛しい婚約者以外の娘をよこせば……撤退するぞ」
そう脅した所で、二人は「了解した……」と方を落としていたが、釘は打っておくに限る。
すると――。
「愛するハヤト様に他の女をよこしてくるというのなら、その娘の生命を賭けてくださいませね? 私、加減できませんことよ?」
「そうじゃな、ウッカリワシを抱きしめて殺してしまう強さを持つマリアンに掛かっては、他の女子はその辺の枯れ枝じゃろうよ」
「ふふふ」
「ははは!」
「ウッカリ婚約者に殺されても笑顔で愛するのか……」
「これぞ真実の愛……。俺達が手を出していい問題ではないな」
ゾッとしたのじゃろう。
二人の国王はビクビクしながらもワシとマリアンの事を認めたようじゃ。
こうして、謝罪の場は終わりワシらは家に帰った。
支店の話はこれで纏まった。
店の方は一ヶ月かその先には分かるじゃろう。
その為にも、こっちも一ヶ月でやれることをやろうかの!
まずは、保育園となる箱庭と学校の箱庭をスタートさせるところからじゃ。
まだまだやるべきことはある。
ワシもまだまだ頑張ろうかの!