第51話 栄華を極めた、リディア・ダンノージュの死因とは?②
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「何か理由は聞いておらんか?」
「ナーカス王国でも、秘匿とされているので詳しい話はわかりません」
「ほう」
「もしかしたら、ロストテクノロジー持ちは長生き出来ないとか?」
その言葉にワシは目を見開き、白蛇となっているナースリスを見つめた……。
その時、ドアが開きマリアンとギルドマスターが入ってきた為、一旦この事は保留とし、素案を二人に手渡してからマリアンの言葉を待つ。
「先ほど、保育士になれる女性及び男性の募集と、教員となる方々の募集を行いました。募集期間は一週間と短いですが、恐らく集まるだろうという事です。ですよね? ギルドマスター?」
「ええ、特に男爵家等の令嬢や御子息は仕事にあぶれる場合が多いのです。学園に通いシッカリ勉強をしているものも多いでしょう。その為、学園での成績表なども持参の上での面接となります。学園から出ている成績表や内申書に関しては、嘘のつけないように魔法が施されているので、勉学及び、人となりがよく分かるでしょう」
「とのことですわ!」
「流石じゃマリアン! おっと、声を荒げてすまんのう。感無量になってのう」
「うふふ!」
思わずマリアンの仕事のできに顔がにやける。
流石ワシのマリアンじゃ。
実に素晴らしい。
褒め称えたいくらいじゃ!
「では、私達はハヤト様に雇ってもらえる方向で?」
「うむ、二人はワシが雇う。ギルドマスター、その方向で頼むぞ」
「かしこまりました。書類をお持ちします」
そう言ってギルドマスターが部屋を出ていくと、箱庭師の二人はホッと安堵の息を吐き、「これで両親を安心させられる」と苦笑いをしておった。
箱庭師は、色々と不都合があると、すぐ首になったり、職にあぶれるのじゃと二人は顔を曇らせつつ語った。
しかし、二人はやっと安心できると最後は笑顔じゃった。
「それで、何かお話してましたの?」
「ああ、ダンノージュ侯爵領では、ロストテクノロジー持ちを集めている……という感じだったかな」
「まぁ……」
「栄華を極めた、リディア・ダンノージュの死後100年だもの。彼女の死はあまりにも早く、国葬まで行われたそうよ」
「それは存じておりますわ。亡くなった理由は定かではありませんけれど」
「ふむ、マリアンも知らんのじゃな」
「ええ」
つまり、ダンノージュ侯爵家があるナカース王国では、口に出してはならない死因じゃった……という可能性も捨てきれない。
一体何が原因じゃったのか。
その後、契約書にサインをして箱庭師の二人を雇うことが決定し、箱庭に来る為のリングを二人に手渡してから、使用方法を説明した。
一週間の間に素案を元に箱庭を作り変えてもらい、出来上がったら連絡をしてほしいと伝えると、二人は元気よく返事をしてからワシらは別れた。
帰りの途中、せっかく外に出たのじゃからと街の中をしばしマリアンと共に散策し、酒場の雰囲気等を外で見ながら候補地を決める。
丼物を受け入れてくれればいいが、無理そうなら土地を買い、そこに丼物屋の店を作るつもりじゃ。
幸い建築材料は沢山ある。
最初から作っておくのも手かもしれんな。
そもそも、酒がワシの今の年齢では出せないのじゃ。
そこは致し方ないが、じゃからこそ、珈琲や紅茶といったもので食後はゆっくりしてほしいと思うのは、致し方ないじゃろう。
「ふむ、酒場を見て回ったが、なかなか……提携してくれそうな所はないのう」
「そうですわね……。判断を見誤るなんて、私まだまだですわね……」
「そうでもないぞ? こういう機会がないと二人でデートもできんじゃろう」
「ふぇ⁉」
「無論、調査と一緒になってしまって申し訳ないがの? まぁ、なんじゃ。ワシにとっても、前世のワシにとっても、初めてのデート……というやつじゃ」
思わず照れ笑いして告げると、マリアンが凄い勢いで迫ってきた。
ズオオオオッ‼ という勢いを、ワシは諦めて受け入れる。
いや、受け入れるしか生きる道も、死ぬ道もない。
「もうもうもう! 私をそんなに喜ばせて、どうするおつもりですの⁉」
「ぐ、ぐふっ」
「マリアン待つにゃん! 主の骨が折れますにゃん!」
アンジュが止めてくれたが……時すでに遅し……。
バキン‼ という音が周囲に響き、ワシの手ぬぐいについておる〝身代わりの華〟が一枚ハラリと地面に落ちた。
「ごほっ! ゲホッ‼」
「きゃああ‼ 私ったら……私ったら‼」
明らかに背骨が折れる音が聞こえた……。
いや、寧ろ折れた。
途端に修復したのが分かったが、その際に〝身代わりの華〟が一枚ハラリと……。
「だ、大丈夫じゃ。身代わりの華がある!」
「そんな問題ではございませんわ! 嗚呼、愛しき未来の夫と殺してしまうなんて……」
「ウッカリは誰にでもある! ワシはそんなマリアンも大好きじゃぞ!」
「ぐすっ……。ハ、ハヤト様……」
「泣くでない……。この程度で死ぬワシの方が貧弱じゃというのじゃ」
「や、優しすぎますわ……」
「力の強いマリアンの事を本気で好いておる男の言葉は信用ならんか?」
「もう! それを言われたら……信じますわ」
頬を染めて涙を拭いつつ微笑んだマリアンの手を取り歩き出す。
後ろからは「間違いなく死んだ音が聞こえたぜ……」と言っている声が聞こえたが無視じゃ。
その後良さそうな空き地を見つけたため、今後も売りに出ておったら買おうと二人で会話しつつ箱庭に戻ったわけじゃが――。
「ナースリス」
『う……』
「聞きたいことがあるんじゃが、よろしいかの?」
『そう……ですね。場所を変えましょうか』
どこか哀愁を漂わせるナースリスを摘まんで笑顔でいうと、観念したのじゃろう。
そのため、ワシはナースリスを連れて自室に戻り、話を聞くことにしたのじゃ。
すると――。
「で。リディアの死因じゃが、一体何があったんじゃ」
『そうですね……。無理が祟ったのは間違い無いのですが……』
「ないのですが?」
『リディアが亡くなったのは……ロストテクノロジーの所為でないのは確かです。ですが、その力を最も疎ましく思った……リディアの夫に横恋慕した女がいて、子どもと一緒に突き落とされたのです……ダンノージュ侯爵家のテラスから』
そう聞いて、ワシは息を呑んだ。
そして、咄嗟に自分の持っていた〝身代わりの華〟を我が子に使い――亡くなったのじゃと聞いた時、ワシはなんとも言えない気持ちになった。
愛する我が子を守って死ぬ。
それは母親ならば当たり前のことかもしれん。
しかし――。
「それは……災難じゃったな」
『女はその場で自害しました。その為、外で話せる話ではない為、極秘とされてきたのです』
「なるほどのう……」
『それがあって、ダンノージュ侯爵家では徹底したメイドたちの教育がされています。まるで軍隊ですね』
「怖いのう……」
『なので、ロストテクノロジーで死んだ訳ではありません。そこだけは安心してください』
安心してくれと言われても、何故か安心しきれないのは、死因を聞いたからじゃろう。
最後は我が子を守って亡くなったリディア。
愛する人を失って失意に落ちる夫の事を思えば……他人事には聞こえなかったのは……きっと気のせいではないじゃろうな……。
「ワシは、マリアンよりも長生きするぞ」
『ええ、是非そうしてください』
それが、ワシの最大の愛の形かもしれんな……。




