第49話 新たなスタートを決めつつ、新たな商売の味も確かめる
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とはいえ、絵師と調理師達は今すぐ来るわけではない。
今から商業ギルドに向かい、面接を行わねばならんが、今回はワシが忙しいということでマリアンが一人で担ってくれた。
本当に頭が下がる思いとはこういう事を言うんじゃな……。
とにかく、マリアンが頑張ってくれている間にワシは〝かき氷機〟とジャガルーから貰ったマンゴーでシロップを作り、更に別のシロップも作った。
そこに、オネェ三人から頼まれておった〝マニキュア〟を四人分作る。
ひとつはワシ用じゃな。
マリアンの爪を綺麗にしてやる約束をしたし、綺麗にしてやりたい。
綺麗なマニキュアボックスを作り、そこに色とりどりのマニキュアを仕舞い、ホッと一息を入れると、ミアとテトに頼んでオネェさん三人とファリンを呼ん出来てもらったのじゃ。
「これがご依頼の品のマニキュアじゃよ」
「「「ぎゃ――‼ 素敵――‼ ありがとう――‼」」」
「使い方は後で教えるが、まずは甘くて冷たいものでも食べんか?」
「甘くて冷たいもの?」
「何かしら?」
「食べたことないわ」
「ファリン、この容器に氷をいれてきてくれんかの?」
「かしこまりました」
こうしてファリンに箱庭に言ってもらい、幾つか容器を作っておいたのを渡して、氷を入れてきてもらう。
その後は、ワシはかき氷機を使い氷を削るわけじゃが、器に落ちる削れた氷を見るのは初めてなのじゃろうな、皆驚いておる。
「キラキラしていて綺麗ですね……」
「削れた氷ってこんなに綺麗だったのね……インスピレーション湧くわ!」
「ははは! これが実にええんじゃよ。水分補給にもなるし旨いんじゃ」
そう言って削れた氷の上に、どの味をかけたいかと聞くと、おすすめをお願いしたいとのことで、ひとつずつ味の違うシロップをかけた。
それを皆で一口ずつ分け合ってもらうことにしたんじゃ。
「なっ⁉」
「冷たい! でも……美味しい……」
「ヒンヤリして気持ちいいわ!」
「甘い……。氷と甘さがこんなに合うなんて……」
「これは革命ですよハヤト様‼」
「そうじゃろう? これを売りに出すためにも人がいる。冷たい〝かき氷屋〟の為にな」
「なるほど……。新しい世界です」
「他にも色々作り方はある。珈琲は皆好きじゃろう?」
そう問いかけると、皆は珈琲が好きなようで、その珈琲を使ったフローズンという飲み物も作れると告げると、目の色を変えた。
「温かい珈琲にアイス珈琲、更に冷たいフローズン珈琲があれば、ちょっとした休憩にどうじゃ?」
「実に素晴らしいと思います!」
「そこに軽食があればどうじゃ?」
「通いたいです!」
「つまり、そういう店も作りたい訳じゃよ」
「ハヤト様って凄いアイディア出しますね……」
「なに、アイディアというものでもないわい。そういう店でマリアンを連れて行けたら、どれくらい喜んでくれるかのう……と、ふと思っただけじゃ」
「ハヤト様がこんな素敵なお店を考えつく理由がマリアン様なんて、素敵です!」
年甲斐にもなく、マリアンの喜ぶ顔が見たいから頑張っているとは流石に言えん。
無論、今のワシはたったの六歳。マリアンは十二歳じゃ。
年若い二人がちょっとしたデートを楽しむというには、些か違うが、それに近しい、婚約しているからこその……エスコートくらいはしてやりたいのじゃ。
誰かのために。
大切な誰かが喜んでいる姿を想像して何かを作る。
意外と、ワシは甲斐甲斐しく尽くすタイプなのかもしれんな。
「ンン! マリアンには内緒にしてだされ」
「あらあら、ふふふ」
「おませさんなのね。ふふふ」
「でも、男らしくて素敵だわ。ふふふ」
「ええい! 美味いもの食ったんじゃ! マリアンには黙っておれ!」
そう手を振り上げながら言うと皆は嬉しそうに笑っておったが、後日シッカリとマリアンに伝わり、骨が軋むほど抱きしめられる事になったのは……言うまでもないのう。
その夜――。
「主とマリアンの関係は随分良好ですニャン♪」
『マリアンは素直ですし、カズマによく似てサポートはかなりの実力をお持ちですね。若いのに関心です』
「確かにマリアンのサポートあってこそじゃな。とは言え、あまり頼りすぎるのも良くない……。が、落ち着くまでは仕方ないのじゃろうな」
そう言って一人黙々とマリアンの為のアクセサリーを作る。
バラの花をモチーフにした〝身代わりの華〟というこの世界特有のアクセサリーを作っておる。
納得の行くバラが出来上がるまで随分と掛かったが……やっと納得したバラが出来上がりホッとしておるわい。
〝身代わりの華〟とは、装備している場合、装備者の命を花びらの回数分命を守ってくれるというアイテムじゃ。
大体の目安で、使用回数は30回で、金貨1枚で売られているらしい。
つまり、バラの花びらが30枚分必要で、それだけ綺麗なバラを沢山作らねばならないということじゃ。
「……マリアンによく似合いそうなバラじゃと思わんか?」
「似合いますにゃん♡」
『ハヤトも作ったほうがいいのでないのですか? 骨が折れた時用に』
マリアンの包容は強い。
愛が、愛が重い、いや、愛が強いマリアン対策といえよう。
「ワシは失敗作のバラの花で十分じゃ。これに付与して手ぬぐいに装着しておく」
『なるほど、手ぬぐいに』
「そっちのほうが邪魔にはならんからのう」
「頭にバラをつけた主、可愛いニャン♡」
「う……。ま、まぁお守りじゃ。花くらい……うむ。年齢を考えれば大した問題じゃないわい」
ちと恥ずかしいが、命は大事じゃ。
マリアンの包容で死ぬことは絶対にあってはならんからな。
お守りとして持っておくのは大事じゃろう。
「明日には、出来上がったこのアクセサリーをマリアンに渡して……。うう、気恥ずかしいのう」
「主、頑張るニャン!」
『私はハヤトとマリアンを推してますよ!』
「むう……。日頃のお礼を兼ねて……じゃしな。ちゃんと渡すわい」
そういって眠りにつき、翌朝マリアンが外出する際、池まで見送りに行った時のことじゃった。
マリアンを呼び止め、手作りの〝身代わりの華〟を手渡すと、彼女は目を見開いてワシとアクセサリーを見ておった。
「日頃のお礼を兼ねて……の。手作りでまだまだ作りも甘いが……」
「ハ、ハ、ハヤト……様」
「その……。頼りにしておる。これからも……頼りにしていいじゃろうか?」
「もちろんですわ! ハヤト様愛してます! 心の底からハヤト様だけですわ‼」
「ゴフッ!」
思いっきりタックルをくらい、ワシとマリアンはそのまま池にまで吹き飛んで落ちた。
勢いよく落ちたので凄い音はしたが、マリアンの叫び声が響いておったので、皆は「平常運転」と思っておるようで騒ぐことはない。
ないが――。
「ぷはっ!」
「うふふふふ! 思わずタックルしてしまいましたわ!」
「池に落ちて助かった……のかのう?」
「そういうことにしましょう? 地面に倒されるよりはダメージは少なかった筈ですわ!」
「そ、そうか……」
「ハヤト様?」
「ん?」
「心の底より、お慕いしておりますわ」
そう言って頬にチュッとキスをすると、マリアンは嬉しそうな笑顔を見せて箱庭から出ていった。
ワシは呆然としながらも……マリアンの暴走の可愛さに、やれやれと思いながらも笑みを零して池から上がり、次なる商売へ向けて歩き出したのじゃった。