第4話 【熟女好き】か、はたまた【ロリコン】か
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――翌朝、ワシは考えた。
筋肉に彩られた先の未来しかないワシにとって、平穏なスローライフを送る事は、最早最もたる改善点であった。
「引き籠るのは良くない」とかアレコレ言われそうじゃが、技術者、製作者、職人と言うべきか? そう言う者達は大抵引き籠っておる。
故に、ワシも堂々と引き籠る!
『何もそこまで筋肉を嫌がらずとも……彼女たちは良い方ばかりですよ?』
「あの筋肉の圧は幼いワシには少々刺激が強すぎるんじゃ……」
『筋肉の圧……』
「そもそも、ワシも詳しくは知らんが、異世界アニメは何度か見たことがある。その場合、見目麗しい可愛い女性にチヤホヤされる主人公……と言うのが当たり前じゃった! ところがじゃぞ⁉ ワシをチヤホヤするのはテカテカ光り、輝く歯を見せつけるマッチョたちばかりではないか! 美人は何処に行った⁉ 美少女は⁉ 輝く青春はどこにある! 否! あるのは筋肉だけじゃろう⁉」
『いえいえ、きっと美しい女性も確かにいる筈です。異世界テレビと貴方が名付けた池で見たのが強烈な筋肉だったからこそ、そのインパクトが強いだけですっ!』
「つまり、ワシに見合う可愛い女子は……」
『いると思います‼』
「しかしのう……」
『ハヤトさん、一体何が不満なんですか?』
そう聞かれると言葉に悩む。
ワシは享年70歳。
精神年齢は子供の身体の所為で幼くなっているとはいえ、70歳の爺だった訳じゃ。
その70歳の魂を持つワシがじゃぞ?
いくら体が若返ったからと、10代や20代と恋愛していいものか?
一般的に言えば犯罪にならんか?
見た目的にはセーフでも、心の中では「アウトじゃ――!」と叫ぶワシがおる。
『なるほど、魂の年齢がお爺様だから、若い女性とお付き合いしたりチヤホヤされるのは気が引けると……』
「心を読むでないわ。とはえ……見た目が若くて年のいったものなど」
『いるにはいますが……』
「本当か!?」
『エルフ族やドワーフ族、獣人達はそうですね。人間のみが見た目イコール年齢ですが、他の種族だと、ある程度年齢が行っていても若々しい女性たちはいます』
「なるほど」
『でも宜しいのですか?』
「なにがじゃ?」
『ハヤトさんがその道を歩まれた場合、付きまとうのは……【熟女好き】と言う称号ですよ?』
熟女好き。
いや、んん、確かに……見た目が若いゆえにそうなる可能性は……否定、むぐぐ。
しかし、若い女性だと【ロリコン】と言う称号がつきそうじゃんしのう……。
【熟女好き】か、はたまた【ロリコン】か。
究極の二択じゃな……。
『そうハイライトの消えた目で虚無らなくとも……。好みなんて個人の自由なんですし! ほら、美女が好きとか、お胸が大きい人が好きとか、お尻が大きい人が好きとか男性なら色々あると申しますか! それも癖です! 癖です! 熟女好きだろうとロリコンだろうと癖ですよ!』
「えーい! 癖を連呼するな! 悲しくなるわい!」
『男の性とも申します!』
「ワシはそう言うのとは遠のいて生活しとったんじゃ! 女性等良く分からん!」
そう叫んで此れ以上は話を聞かぬとばかりに腕を組んだのじゃが――。
『カズマ様に聞けば色々教えてくれそうですね! あの世界最強でドラゴンの爪すら通さない強靭な身体を持ち、ドラゴンの咆哮すら打ち消す肺活量を持ち、オリハルコンをも粉砕する凄い体の持ち主。いいえ、全身武器と言って過言ではないマリリンさんを、一途に愛している素晴らしい男性ですから!』
「ああ、百獣の王を束ねるよりも更に上のモンスターがママ上であったか……」
『パパ上はそのモンスターを心から愛してますよ!』
「今、サラッとマリリンの事をモンスターと呼んだな?」
そうワシがニヤリと笑うとナースリスはハッと口を押えたが、ワシはケタケタと笑い「お主も何だかんだとワルよのう?」と口にすると、慌てた様子で飛び回っておったわ。
確かに……カズマはワシのパパ上にはなるのじゃろうが、中々に心は強靭じゃと思う。
そもそもあの世紀末覇者のような、どこぞのアメコミのようなママ上と7人も子供を作れるのじゃから、アッチの方も強靭じゃろう。
いや――しかし、うん、パパ上凄いのう……。
「本気で誰かを好きになったら、ああなってしまうのじゃろうなぁ」
『ハヤトさんも、きっと誰かを好きになったら一途に愛する男性になると思いますよ』
「確かに、ハーレムはワシにはちとキツイな。好きになるなら一人でええわ」
『ふふふ』
「さて、無駄話はここまでにして下着と服を作ろう。後はそうじゃな、洗濯機も作れそうじゃが、洗剤も一応……いけそうじゃの」
『生活基盤を整えていくんですね!』
「まずはワシ1人で生活できる環境を作って行く。それから道筋をたてても問題はあるまい」
こうして1人、また異世界テレビの元に向かい宝石を投げ込んでカズマ達の様子を伺いつつ【ロストテクノロジー】を使い下着や肌着、服を作って行く。
男物の服など作務衣か着流しでええわ。
ワシは服を買って貰えなかったから、爺様のおさがりを何時も着ておったしの。
それに、作務衣は作業がしやすい。
頭用に手ぬぐいを作ってつければ――若き日のワシの誕生じゃ。
「よし、上手い具合にできたのう」
『あちらの異世界の服装ですね』
「そうじゃぞ。ワシはこの服装が楽でええ」
後はもう一度スキルを使って一人暮らし用の洗濯機を作って行く。
後は洗濯用ネットに物干し台と物干し竿。台座も幾つか必要じゃな。
それらをワシの住みこんだ木造アパートの1階の軒下に置けば……後は洗剤だけじゃ。
洗剤は肌に優しいあの石鹸の物が作れた為、それを使って用意する。
ロストテクノロジー……最強じゃな。
「こんな強いスキルを持っておったら、確かに引き籠るのも頷ける」
『リディアさんは最初、家族にも誰にも一切喋らず、引き籠って逃げ切ったそうです』
「じゃろうなぁ……」
余りにも便利過ぎる。
聞けば、テリサバース教会と言うのがこの世界には宗教としてあるらしいが、そこで【ロストテクノロジー】持ちは保護されていたそうじゃが、今はそれも崩壊したという。
何があったのかは分からんが、教会の腐敗を、古代人形が成敗した……とナースリスは胸を張って語っておった。
ちなみにテリサバース教会では別の女神が奉られており、ナースリスはその女神のお手伝いをする下っ端の女神らしい。
それでワシについて回っておると。
『私が最初担当したのが、リディアさんだったんですよ』
「ほう?」
『なので、リディアさん亡き後、そのスキルの保護も私がしていて、今回ハヤトさんに手渡したわけです。その為、私はハヤトさんの人生を見届けねばなりません』
「何とも、ご苦労様じゃな」
『リディアさんは身体を壊して早く亡くなられてしまいましたが……。ハヤトさんに是非、長生きして頂きたいものです』
そう口にしたナースリスに、ワシはその声色に悲しさを感じて押し黙り、ふうっと息を吐くと――。
「これでも毒親の元で70歳まで生きたんじゃ。今回もしぶとく生きる予定じゃから安心せぇ」
『――ハヤトさん! 有難うございます!』
ナースリスの光の玉は喜ぶようにフワフワと飛び、ワシの方に止まると【嬉しい】と言う感情が流れ込んでくる。
まずは、身近にいる女神から幸せにしていっても罰は当たるまい。
「さて、洗濯機と物干し場が出来た事じゃし、日用品を揃えていくかのう!」
『そうですね。後そろそろ卵も孵りそうですよ!』
「何と⁉ どれどれ、何が生まれるかみてみようかのう!」