第46話 新たな商売の匂いがするのう!
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頑張るマリアンの為にも、ワシが出来ることは限られておる。
ひとつ、地道に稼ぐこと。
ひとつ、自分に付加価値をつけて箔をつけること。
ひとつ、絶対に浮気をしないこと。
何より、みっつ目は必ず守らねばならないことじゃろう。
確かに子どもたちは多いが、ワシから見れば孫世代。
いや、それを言えばマリアンもそうなのじゃが、彼女だけは別としよう。
なので、同じ六歳の娘を見ても、全くなびかないどころか、全く興味の範囲外なのは言うに及ばずじゃな。
「ハヤト様、これより二時間後、商業ギルドに起こしくださいとのことですわ」
「お、誰ぞ集まったか?」
「現在商業ギルドにて、調理師の方々は呼びかけをこなって貰っている最中です。そして、今から二時間後に集まるのは、仕事のない、もしくは使い道がないと別の職種についていらっしゃった〝箱庭師〟の方々が集まります」
「ふむ」
「と言っても、とても人数が少なくて……。それでも資料を頂いてまいりました。お目通しをお願いします」
「人数が少ないのは気にしておらんよ。何から何まで……優秀な助手を持って幸せじゃな!」
マリアンから資料を受け取り、ワシはその中身を読んでいく。
ひとりはマリリンから紹介されていた男で、米が箱庭いっぱいに育っているという。是非とも雇いたい。
その他の箱庭師をザッと目を通していくと、なかなかに面白そうな箱庭持ちも多かった。
「ほう……。亜熱帯の箱庭に……氷だけの箱庭……。ふむふむ?」
「亜熱帯地方は、危険なモンスターが多く未開の土地も多いのです。その為、亜熱帯特有の果物や木のみというのはあまり需要がなく……」
「ふむ」
「初めて見るという方も少なくはありません」
「なるほどのう……。じゃが、ワシは欲しいのう」
「え? 亜熱帯地方の……植物や食べ物を……ですか?」
中身を見てみなくてはわからないが、亜熱帯地方や暑い場所には、バナナやココナッツといった食べ物や、カカオもあるはずじゃ。
少なくとも、亜熱帯地方の食べ物でワシの知っているものがあれば、それこそ願ったりかなったりなんじゃがな。
「それに、この氷だけの箱庭。これも使い方次第では是非欲しい」
「え⁉」
「マリアンは、かき氷というものを食べたことは?」
「あ、あります! お父様のご実家の夏祭りとか言うお祭りで小さい頃に!」
「あれは氷を削って作るんじゃ。ワシならかき氷機を作れる。シロップもじゃ。フローズンという手もあるのう」
「まぁまぁまぁ‼ それは盲点でしたわ!」
「是非欲しくなったじゃろう? 新たなる商売の香りがするのう!」
そもそも、この国には氷という概念が殆どない。
マリアンが言うには、ただ冷たいだけでそのうち水になるだけの……という考えらしいが、それが食べ物になったりするという考えには至らなかったそうじゃ。
また、氷があれば魚を売るときに便利になる。
無論、製氷機があれば問題はなんじゃが、両方を使って物珍しさを出しつつ旨い魚であれば、後は作り方さえモノにできれば売れるじゃろうな。
ましてや、新鮮な魚じゃ。
作り方次第でいくらでも刺し身にも出来るし、旨いことじゃろう。
ただ、こちらの異世界人にとって、生の魚を食べるというのはかなり勇気がいるじゃろうから、煮物にしたり焼いたりするのが適切じゃろうな。
「しかし、ワシは刺し身が食べたい……刺し身が」
「私もお婆様のお家で食べた刺し身は美味しかったですわ……」
「煮魚に焼き魚、ムニエルもいけるのう……」
「ああ、お父様の実家にいって贅沢になったというお母様の言葉がよく分かる言葉たちですわね……」
こうしてワシ等はついつい魚を食べたいという欲と戦いつつも、羽織を着て商業ギルドへと向かったのじゃ。
流石に子供だけでは侮られるかと思ったが、ワシの名は前回のパーティーである程度上流階級には届いておるようで、値踏みされることもなく商業ギルドの応接室に入り、面接の準備を始めることになった。
とは言え、庶民には〝レディー・マッスルのマリリンとカズマの養子〟や〝マリアン様のお婿様候補〟としては有名らしく、流石ここでもマリアンの力が輝いておると思った。
しかし、当のマリアンは「ハヤト様の素晴らしさをわからないなんて!」と憤っておったが、ワシの店がもう少し有名になれば、また違ってくるじゃろう。
その為にも、面接が終わったら、リリーエリーマリーたちに頼まれた〝マニキュア〟を大量に作ってボックスに入れて持っていくのがいいじゃろうな。
――金と名声を手に入れるなら、女性からおとせ。
と、いうのは、なんの本で読んだ話じゃったか……。
少なくとも、女性を味方につけるだけで、その国の半分の力は手に入れられると言われておる。
ましてや、大体の男とは、女性に弱いものじゃ……。
それをワシですら痛感しておるくらいじゃ。
大事にしたいがゆえに、女性に弱くなる。
大切に扱いたいがゆえに、弱くなる。
それは、男なら当たり前のことなんじゃろうなと思った。
「さて、箱庭師を雇うにあたり、気をつけるべきことはあるじゃろうか?」
そう商業ギルドマスターに聞いてみると――。
「そうですね……。今からここに来る面々は、本当に箱庭師としての仕事がない者たちばかりで……。自分の箱庭に嫌気がさしている者たちも少なくありません。絶望している者たちのほうが多いのです。できれば希望ある未来が訪れる事を祈るばかりで……」
「ふむ。とは言え、箱庭師は全員でたったの四人ではないか?」
なるほど、本当に仕事にあぶれている、箱庭師としての仕事のない面々だけが来る感じか。
それも、この四人――ワシからすれば喉から手が出るほど欲しいが?
米が二人に氷に亜熱帯。
まさにワシが欲しい面子揃いじゃ。
「ワシとしては全員雇いたいと思っているくらいじゃ。後は人となり……かのう」
「そうですわね。人として最低限の礼儀ができていれば、問題ないかと思いますわ」
――こうして、たった四人という少数精鋭ではあるが、面接がはじまったのじゃった。