第41話 王城のパーティーにて②
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「エルフ王も獣人様もおやめくださいませ! ハヤト様は私の婚約者です!」
「なら、お前も買ってやろう」
「なっ!」
「他のエルフの男をあてがってやる。それでいいだろう」
「なんて事を言うのだ‼」
「この2人は相思相愛! その仲を裂こうというのか⁉」
「はははは! 若いうちの婚約で好きも嫌いも無かろう!」
そうマリアンを見てエルフ王が厭らしくニヤリと笑ったその時じゃった。
ワシの中で何かが弾けた。
「黙れクソ爺。それ以上、口を開くでないぞ……」
ワシの中から……心底冷え切った声が響き渡った――。
自分でも酷く驚くほどの冷え切った声に、マリリンを始めとする皆がワシに注目したが、マリアンの腕を掴みグイっと後ろに隠すように立つと、爺を見つめた。
「ナースリスにアンジュよ。この者達に王たる資格はあるのかのう? ワシにはどうにも、そうには見えぬが?」
「な、なにをっ」
そうワシが冷え切った声に怒りに燃える瞳で見つめたまま告げると――会場にナースリスの声が響き渡る。
『ええ、ハヤト。この者たちには、王たる資格が御座いません』
「この声はっ」
「な、な、な、ナースリス様!」
『ああ、とても残念です。エルフ王は今この時を持って、王たる資格を失います』
その言葉と同時に王冠の宝石が割れ、エルフ王は叫び声をあげながら床に散らばった青い宝石を集めていたが、それらは砂のようにサラサラと消えて行った。
1人、逃げようとした獣人の者も足を持たれさせて転び、牙が2本折れた。
本で読んで知ったが、獣人にとっての牙が折れる事はすなわち――罪人と同じ扱いであるらしい。
そしてエルフ王は代々自分が王となる時に宝石をナースリスから受け取るらしいが、その宝石が散る時、王としての資格を失うのじゃとも。
この他国の王や要人達が集まるパーティーでそれが起きたのじゃ。
しかも、ナースリスの声が響く会場で。
「アンジュの鼻の匂いでもプンプンわかるにゃん! 此奴ら罪人にゃん!」
「だ、黙れ‼ 獣風情が、」
『黙るのは貴方の方です。この大型猫に見えるアンジュは神獣。私が渡した卵をハヤトが孵化させて育てた、神の卵から生まれし神獣ですよ』
これには周囲が騒めく。
最早ここ迄言われたら何も隠す事はない。
何より、この馬鹿どもがワシとマリアンを引き裂こうとした。
マリアンに他の好きでもない男をあてがおうとしたことに、腹が立って仕方ない。
マリアンを物色するような目を向けたことも――許し難し‼
「貴様ら2人には、罪人がお似合いじゃ。誰ぞ! この者達を引っ立てよ!」
ワシの声にビクリと動いた騎士団が駆け寄り、元エルフ王と獣人の男を連れて会場を出ていく。
2人は「ナースリス様お助けをおおおお‼」と叫んでいたが、ナースリスからは何の返事を貰えないまま去って行った。
それから暫くして、各国の王と要人達がワシの回りに集まると、ムギーラ王を始めとして皆が恭しく膝をついた。
驚き固まるワシじゃったが、首に巻き付いたナースリスは違った。
『王たちよ。面を上げなさい。私は今、このハヤトの守護者として来ています』
「おお、ルルリアを統べる女神、テリサバース様の従属神が1柱、ナースリス様」
『祝いの宴でこの様な事になったのは非常に残念です。後で私の方からエルフの国、及び獣人の国に報告を致しましょう。そしてムギーラ王よ。貴方には迷惑を掛けますが、重罪人を入れる馬車で捕えたかの者達を送りなさい』
「重罪人用……ですか⁉」
ナースリスの言葉に驚きを隠せない周囲の王や要人達。
そこで、ナースリスはワシの箱庭を手に入れる為にワシを殺害しようとしたことについて語り、尚且つ人質まで取って脅したことも告げた。
ましてや、自分が守護しているは知らなかったとはいえ、許せる事ではないと口にしたのじゃ。
一国の王としてなんとも情けないと。
王としての器無しと決めたのである。
「ナースリス様が仰るのでしたら……」
『私の方からお伝えしておいて差し上げましょう。マリアン、貴方は身を挺してまでハヤトを守ろうとしましたね……。流石、ハヤトの婚約者です』
「いえ、そんな……。ちっぽけな私では対抗できなかったことは確かですので……」
『私はその気概が気に入っているのです。流石マリリンとカズマの娘ですね』
「「有難く存じます」」
『そしてハヤトも……。あの者がマリアンを見る目に本気で怒りましたね? ふふふ、相思相愛でこれほど喜ばしい事はありません』
「むぐ……」
『ハヤト、私は貴方の幸せを願っています。相思相愛のマリアンと仲良くしている姿は正に私の喜び……。大事になさい』
そう言って声が途切れると、周囲から盛大な拍手が鳴り響いた。
マリアンとワシの婚約を、ルルリアを統べる女神でテリサバース様の従属神が1柱、ナースリスが喜んでいるというのだから、最早誰もワシ等の間には入ってこれぬじゃろう。
そっとワシの手を握るマリアンを見上げると、嬉しそうに頬を染めて微笑んでおり、その笑顔を護れた己が、そしてその切っ掛けではあるが、作った己が少しだけ誇らしくなった。
とはいえ、テリサバース教会も黙ってはおるまい。
ワシを欲しがるとも限らんと言う話題も飛び出してきたが、世界第一位の冒険者ギルドであり、そのギルドマスターであるマリリンと王国の相談役であるカズマの養子と言う事もあり、早々手を出す事は出来ないだろうとムギーラ王たちは語った。
「しかし、神に祝福されし子がいるなんて聞いてなかったぞ?」
「ナースリス様の御意向で言えなかったのですよ」
「むう、そうか」
「ですが、我が娘、マリアンとの婚姻は確実となりました。この国に【レディー・マッスル】がある限り、神に祝福されしハヤトと、その妻となるマリアンは居続けるでしょう」
「何とも有難い……。ハヤト殿、マリアン殿。これからもムギーラ王国をよろしく頼む」
ムギーラ王に頭を下げられては最早どうする事も出来ない。
一国の王が頭を下げて願う等、本来ならば早々ないのだし、あってもならぬこと。
それをせねばならぬ程の存在……と言うことじゃろうなぁ……。
「出来る限り願いは聞き遂げようとは思いますが、ワシは自由でいたい。欲を持った者たちが近寄れば……離れる事も厭いませんぞ」
「肝に免じておこう」
こうして話は終わり、国のトップたちが離れて行った所でホッと安堵の息を吐いたが、それはマリアンも一緒でホッと安堵の息を吐くと苦笑いしておったわい。
「疲れたのう。少し飲み物でも飲みに行くか?」
「ふふ、搾りたてジュースが作れなくて残念ですわ」
「うむ、マリアンの搾りたてジュースは最高に旨いからのう」
最早当たり前になったマリアンの果物を握りつぶした生温かいジュース。
アレに愛情が籠っておるとしたら、それは並みならぬ愛情じゃろう。
それを受け入れるワシもワシじゃな。
そんな事を思いつつ2人、冷たいジュースを飲んでホッと安堵しておると、ワシらに近寄りたい子供たちがソワソワしておったが、敢えてスルーした。
どうせ親に顔繋ぎをして来い等と言われてきた者達じゃろう。
「マリアンの作るジュースには、到底及ばんな」
「まぁ! 嬉しいですわ」
「主への特性ジュースだものにゃん♡」
「うむ、ワシだけの特性ジュースじゃ」
「ふふふ」
「この辺りはワシの店にきた大量注文の甘味のパンじゃな」
「私、チョココルネには目がありませんの」
「ははは! 今度マリアンだけに特性のチョココルネを作ってやるかのう?」
「まぁ! 宜しいので?」
「外のパンにもチョコを練り込んだ美味しいものをな」
「素敵ですわ!」
「マリアンじゃから手間をかけるんじゃ。この意味は……分かろう?」
「ハ、ハ、ハヤト様っ♡」
こうして2人の空気を作れば子供達も去っていく。
邪魔するものはおらず、ホッと安堵したと同時にダンスの音楽が流れ始め……。
「すまんのう。ワシはダンスなど踊れんのじゃ」
「構いませんわ。一生ダンスが出来ずとも……私の手を離さないで居て下されば」
「むう……。まぁ、手離せる気はもう……ないのう」
そう言って、ワシはマリアンの手を握りしめ、寄り添い合いながら綺麗なドレスの花々が舞うホールを見つめたのじゃった――。




