第40話 王城のパーティーにて①
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王城で開かれるパーティーには、各国の王や各国の要人達が一同に集まり、春を訪れる祝いの宴が開かれる。
まだ春だったのかと驚いたが、一年中気候が安定しているムギーラ王国でも、他国と同じように祝い事はするらしく、レディー・マッスルもムギーラ王国のパーティーに少数精鋭で挑むらしい。
顔が元々広い【レディー・マッスル】と【ミセス・マッチョス】の面々。
今回は、ミセス・マッチョスの面々も来るのじゃという。
今まで締め切りに追われて姿を見せなかった彼女たちと会うのは久々だが、少々怖いきもするのう。
【ミセス・マッチョス】の面々は以下の通り。
前衛のナナルシカ、中衛のミナリー、後衛で回復役のモナリザス。
なんとも豪勢な名前じゃなと思っておったら、この3人実は元ご令嬢らしい。
しかも三姉妹。
元男爵家じゃった家がお取り潰しになり、冒険者の道を歩み始めたのが切っ掛けじゃというなんとも凄い経歴の持ち主じゃった。
ちなみにマリリンも元ご令嬢じゃった。
この世界の家を追い出された令嬢たちは、筋肉化、もしくはプロレスラー化する呪いでも受けておるのじゃろか……。
それはさて置き、現在ワシ等は馬車に乗って王城に就いたばかりじゃ。
既に先に待っておった、ミセス・マッチョスの面々と合流すると、筋肉圧が凄い。
「おお、久しぶりだな皆の衆!」
「我らも久々のドレスアップだ! はっはっは!」
「マリリンのドレスを参考に作ってみたんだがどうだろうか!」
「素敵だぞ姉上殿!! 今回はハヤトの箱庭の専属裁縫師たちに作って貰ったのだ! 無論マリアンもな!」
「お恥ずかしいですわお母様……でもとても素敵なドレスで……ね? ハヤト様?」
「うむ、とても似合っておるぞ。実に美しい月の女神じゃ」
「きゃあ♡」
「ハヤト、そこは80点。そう言う時は『ワシだけの月の女神……』って言うといいよ」
「カズマ……。むぐぐ……ムズ痒くてそう言う事はまだ言えんわい」
「はははははは!」
こうして最後尾に並んでワシ達は入る。
流石に最後に登場すれば周囲の目も好奇な目に変わったが、特に美しいドレスに身を包んだマリリン達やマリアン。
そして、珍しい光沢のある絹で作らせたワシの着流しとマリアンの目を彩ったストールや帯で、ワシが誰かが分かったのか息を呑む者も多かった。
こうして始まった王城でのパーティーは華やかなものじゃったが、ワシは終始マリアンの傍に立ち、挨拶に来る者達に軽くあいさつをしながら過ごした。
しかし、途中からマリアンは女性陣に呼ばれて離れていった為、この世界での父親となるカズマ殿の傍に立ちながら挨拶を進めていく。
「ああ、そちらがマリアン様のご婚約者、ハヤト様ですね! お噂はかねがね……。なんでもやり手の商売人と言う話も聞いております」
「そうか、やり手かどうかは分からぬが、商売はしております」
「質のいい茶葉にあの甘くフワフワのパン……もう我が家は誰もが大好物ですぞ!」
「それは何よりじゃ。今後とも是非御贔屓に」
そんな定型文的な会話が続いていく。
是非共同で……と言う話に対しては、丁寧に断って置いた。
ワシは共同開発をする気も無ければ、好きに色々なものを作って楽しみたいからのう。
しかしマリアン大丈夫じゃろうか……。
以前は虐めを受けておったというし、このパーティーで辛い思い等しておらねば良いが……。
「マリアンが心配かい?」
「ん? 心配せぬという方が無理があるじゃろう」
「ふふふ、マリアンならドレスをどこで作ったのかという質問攻めに合っているよ。無論ハヤトの高級店で買ったドレスを着ているお嬢様も結構多いらしい」
「良く聞こえますな?」
「ブレスレットを発動してごらん?」
そう言えば家族用のブレスレットを、ここに来る前に貰ったんじゃったな。
付与魔法を発動させる感覚でつければ、確かにマリアンたちの声が聞こえてくる。
どうやらドレスの話題で持ちきりの様じゃ。
その事にホッと安堵すると「君も何だかんだとマリアン命だねぇ。いい事だ」とカズマは笑顔を向けた。
「しかし、獣魔であるアンジュと、名前は明かせれぬが蛇を連れて来て良かったのかのう?」
「その2人はハヤトの護衛だ。絶対に居た方がいい」
そう言われ、それならばとその後も来る人々の対応に追われつつも「店を今後も御贔屓に」と言う言葉が多くなり始めた頃じゃった。
如何にも偉そうな態度のエルフと言った者と、獣人じゃと分かる男性がワシ等の元へとやってきた。
「ほう、そちらがこの度養子縁組したというハヤトと言う少年か?」
「これはエルフ王と獣人王の……お久しぶりですね」
「堅苦しい挨拶は良い。時にそちらの少年は箱庭を持っていると聞く。どうだろうか? 箱庭を売る気はないか?」
その言葉に、周囲がザワリと響き渡る。
「箱庭を売る気はないか」と言うのは、ワシを売る気はないかと言っているのと同義じゃからじゃ。
途端、カズマの目からハイライトが消え、笑顔で「売る気等ありません」と冷たい言葉が流れた。
「そちらとしても確かにその少年は手放したくはない者だろう。だが我々としても、手放したくはないものなのだ」
「お断りします。ハヤトは我が娘の婚約者……。将来の本当の意味での家族となる者を、誰が売りましょうか」
「ふむ……。便宜は図るぞ?」
「必要御座いません」
「何だなんだ! うちの婿養子に何の用があってきたのかな!」
そうマリリンが様子をみて急ぎやってきた。
ミセス・マッチョスの面々を引き連れて。
それは筋肉の威圧。
凄いものがあった。
「なに、そちらの箱庭を売って貰えんかと言ったんだ。子供一人くらい売り買いするのは王族ならばよくある事」
「ですが、我らにしてみれば到底納得できるものではありません」
「堅苦しいのは無しだ」
「いいえ、倫理に反します」
「倫理などこの際捨ててしまえ」
「お断りします」
これは……と思ったその時であった。
マリアンも駆け付けて来てワシの前に立ちふさがると――。
「エルフ王も獣人様もおやめくださいませ! ハヤト様は私の婚約者です!」
「なら、お前も買ってやろう」
「なっ!」
「他のエルフの男をあてがってやる。それでいいだろう」
「なんて事を言うのだ‼」
「この2人は相思相愛! その仲を裂こうというのか⁉」
「はははは! 若いうちの婚約で好きも嫌いも無かろう!」
そうマリアンを見てエルフ王が厭らしくニヤリと笑ったその時じゃった。
ワシの中で何かが弾けた。
「黙れクソ爺。それ以上、口を開くでないぞ……」
ワシの中から……心底冷え切った声が響き渡った――。