第3話 テカテカ光る筋肉に圧倒される日常スローライフなんて嫌なんじゃ!
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この箱庭にある素材置き場には、山のような素材が眠っておるとナースリスは言っていた。
その前に腹ごしらえじゃが、畑まで遠いのが結構辛い。
この移動を楽にするアイテムを作れれば、何かと箱庭の中での生活は楽そうじゃ。
現世で言う所の資材置き場みたいなものじゃろうかと思いつつ向かうと、大きなログハウスが建っており、そこの中が全て素材置き場らしい。
「素材置き場と言うからには、物がちゃんと陳列されておるのかの?」
『各種素材は、アイテムボックスと呼ばれるレアな鞄に、ある種無限に入れられていますよ』
「あいてむぼっくす? 鞄と言うと、ナースリスから貰ったこのリュックみたいなものかのう?」
『それもアイテムボックスです。ただ、卵の時間を止める訳にはいきませんので、時間経過のあるアイテムボックスですが』
「時間経過のないアイテムボックスもあるのか」
『時間経過のないアイテムボックスには青の宝石が着きます。リュックには赤の宝石が着いていたでしょう? あれは時間経過があるアイテムボックスと言う事です』
なるほど、青と赤で違うのじゃな?
赤は時間経過があるもの。
青は時間停止機能があるものと思えばいいじゃろう。
ワシも青い宝石のついた時間と止められるアイテムボックスが1つ欲しいのう。
そしたら野菜や果物を入れ込んでも問題はない。
予備の時間停止アイテムボックスが残っておればええがのう?
そんな事を思いつつログハウスのドアを開けて中に入ると、大量の陳列棚が並んでいて、それぞれに小さめのアイテムボックスがズラリと並んでおった。
此れは凄い……。
1つ1つの棚と鞄にはアイテムの名前が書いてあり、これら全てに素材が詰め込まれた凄いモノじゃと分かると興奮もしてくる!
しかも、ナースリスの言っておったアイテムを動かすのに使う魔石とは違う、クリスタルっちゅー魔石を更に強く長く持たせるアイテムも山のように……。
「これは……凄いのう……」
『リディアは引き籠りでしたので、箱庭にある素材ならば自分と紐づいて、アイテムボックス無しでアイテムを作れたのです』
「ふむ、あの筋肉たちを翻弄する為にはそれくらいないといけんだろうな……。リディアのお力様のお陰でワシも同じなのじゃろう?」
ナースリスに聞くと同じらしいのでワシはホッと安堵しつつ、中にあるアイテムの在庫リストを見て中身をある程度覚えた所で、幾つか余りで置いてあった時間停止のアイテムボックスを腰に装着し、異世界テレビ……ならぬ池にやってきた。
昨夜は度肝を抜かれてしまったが、あの者達を翻弄するアイテムを作らねばならない。
その前に、箱庭内を移動する為のナニカも作らねばならないのじゃ。
子供足では広すぎる箱庭を行き来するのは大変じゃからのう。
「リディアは箱庭内の移動に何か作っておったか?」
『ええ、箱庭内を移動するブレスレットと、街の外用のブレスレットを作っていたわ』
「街の外用は後でじゃな……。まずはワシも箱庭内を移動するブレスレットを作らねば……。しかしどう作ればいいのじゃろうな」
ナースリスは頭の中にあるイメージをアクセサリーに付与すればよいと言っておったが、付与するなら、余りある箱庭内を移動するのに1つずつブレスレットを作るのは大変じゃ。
それなら、場所ごとに宝石を研磨して移動できるようにしようと考えた。
所謂お数珠の腕に巻くタイプと言えばいいじゃろうか?
そんな事を思いつつ、宝石をひとかけら池に落とし、ワシは自分の保護された際に住む場所を知りたいと思い、池を覗き込んだ。
すると――大きな屋敷が映し出され、そこには黒髪に黒目の男性と、それと同じ少年くらいの子供と、少しだけお姉さんな少女が映し出された。
『お父さん、今日は仕事はオフの日ですよね?』
『そうだね。今日はマリリンたちが戻ってくるからオフにしているよ』
『お母様喜びますわね』
『ははは! マリリンが帰ってくるのに家にお父さんがいないのでは、愛しいマリリンの士気にも関わるからね。レディー・マッスルは元気なマリリンがいてこそだよ』
どうやら、この日本人男性のような親子らしき人物は、マリリンの子供達と、その夫のようだ。
しかし、日本人……?
『夫であるカズマは日本人ですよ。日本とこの異世界を行き来できるのです』
「ほ――……」
『あのマリリンを翻弄する事が出来るだけの心の強さを持ち、何より妻であるマリリンと、彼女にそっくりな我が子達、そして珍しく自分に似たマリアンとカズラルと言う2人をとても愛しています』
つまり、この少女はマリアン、男の子はカズラルと言う名前なのだろうな。
ナースリスの話では、子供は7人。
マリアンとカズラル以外の上5人は冒険者で、マリリンと共にクエストを行う事もあるらしい。
本来マリリンはカズマと言う父親の護衛人らしいが、今回の依頼が強い敵だった為、万が一に備えてついて行ったそうじゃ。
家族愛……か。
ワシには生前貰う事のなかったものじゃな。
マリリンとか言うママが来ると煩いじゃろうが、取り敢えず彼らの話を今日は聞きつつ作業に入ろうかのう。
彼らの言葉を聞きつつ宝石を幾つか収穫し、綺麗に研磨して行きつつ、切れにくいプラチナのブレスレットを【彫金スキル】を用いて作って行く。
作り方はワシの身体が知っているかのようで、エリアごとに分けた宝石に場所の付与を行いながら作り込んでいく。
足腰を強くするためには歩いた方がいいのじゃが、いかせん場所が広いのじゃ。
行く道中くらいは移動カットしないと、日が暮れてしまう。
異世界テレビ、異世界ラジオからはマリリンママたちとは違う平和な会話が流れてくる中、ワシも「理性ある人物が保護してくれる人間に居て良かった」と安心したのも束の間、ドッドッドと言う重音な音が聞こえて池を見ると――。
『マリアン! 探したぞ‼』
『次回作のカズマリ小説の〆切が違い‼ 我らと共に缶詰になろうぞ‼』
『わたくし、既に書き終わってダメリシア様に提出しましたわよ?』
『なんだとおおおおおおおお⁉』
風圧! 風圧が凄い‼
マリリン達だけかと思いきや、別の女性と思えし筋肉3人が現れたぞ⁉
この異世界筋肉推しか⁉
ましてや【カズマリ】とは何ぞや⁉
小説⁉ あの体で小説家⁉ ギャップが激しすぎるじゃろう⁉
『これは、冒険者のミセス・マッチョスの皆さん。〆切に追われているんですか?』
『ふははは! モンスターは我らを見れば逃げだすが、〆切だけは我らを見ても逃げ出さぬ!』
『ある意味愛されていると言って看護ではない! だが熾烈な戦いとなろう!』
『今回のカズマリ小説も、滾りに滾って書かせて貰うからな!』
『楽しみにしていますね』
あの面々相手にすこぶる笑顔⁉
カズマと言う我らの保護者となる男性はある意味壊れているのではないのか⁉
それとも突っ込みしすぎて最早慣れてしまったのか⁉
『今やマリカズは全世界で愛される小説……。若き男女にも愛されし恋愛のバイブル!』
『歌劇にもなっているしな!』
『我らが推しであるカズマリは、まだまだこんな所では終われぬよ‼』
『さぁ行こう……〆切の向こうへ‼』
『応援してますわ!』
『頑張ってくださいね』
『楽しみにしています』
『うおおおおおおおおおおおおおお‼』
そう咆哮すると、筋肉軍団小説家兼冒険者らしき【ミセス・マッチョス】と言う3人は去って行った……。
嗚呼、嗚呼……。
ワシは、あの筋肉の軍隊……違う、大群と渡り合えるじゃろうか。
不安は尽きないが……ワシはワシで翻弄していくしかない!
「スキルじゃ! スキル上げは要らんが、何を作るかで今後の人生が変わってきそうじゃ! 兎に角1年。保護されるまでの1年。何時でもこの箱庭に引き籠れる準備をせねば‼」
あの濃い面々を凌駕する力はワシにはまだない!
今出来る事は、この広い箱庭でワシが不自由なく暮らせるものを作らねばならぬという目標だけは出来た!
『引き籠ってちゃ駄目ですよー!』
「嫌じゃ嫌じゃ! テカテカ光る筋肉に圧倒される日常スローライフなんて嫌なんじゃああああああああ‼」
ワシは普通のスローライフが送りたい!
毒親がおらぬにしても、覇王に保護される未来は変わらんのじゃ!
その為にはこの箱庭をワシの住みやすい世界へ!
ワシは第一歩をふみだしたのじゃった。