第38話(閑話)都合よく全てが上手く行くと思っていた矢先の失踪事件
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――報告待ちだった者達side――
箱庭産だという木々は素晴らしいものだった。
是非とも新しい別荘の建築に、もしくは箱庭自体を我が物にしてそこを別荘にしようと獣人の商人たちと話し合った。
人間界の木々もそれなりにいいものだが、やはり箱庭産は素晴らしい。
魔力が豊富にあり、神聖な空気すらしたのだ。
あれを手に入れられたどれだけ素晴らしいか。
術師を殺してでも手に入れ、是非とも我が物にしよう。
そう思うのに時間は掛からなかった。
その為、箱庭師の行商人を捕え、箱庭師を呼び出す事で交渉を……となったのだが、我が末娘ならきっと上手くやるだろう。
そう思っていた。
ところがだ――。
「な、なに!? 箱庭にはナースリス様に神獣様が住んでいただと⁉」
「それも、それも……箱庭師にあの素晴らしい箱庭を渡したのはナースリス様だと……」
テリサバース様の従属神が1柱、ナースリス様。
それは、エルフや獣人を束ねる神でもあった。
故に崇め称え、その聖なる力を持って我がエルフ族や獣人族を守って頂いているお方。
その方から「下劣」とまで言われてしまったのだという……。
震えながら報告する我が末娘と、獣人商人の娘は顔面蒼白で「生きた心地が一切しませんでした……」とひれ伏している。
余程怖い目に遭ったようだ……。
「しかし、ナースリス様の加護を貰いし箱庭師か……。実に欲しいのう」
「行けませんお父様! 今度こそナースリス様の怒りに触れます!」
「なに、怒りに触れたのはお前であってワシではない。今度の王城での挨拶の際にその事を謝罪しつつ、いい関係を……とは思っているのだよ」
「なる……程」
「そうそう何度もナースリス様の助けがあるとも思えんし、神獣が人前に出る事もないだろう? 子供一人ならなんとでもなる」
「そう……でしょうか」
「それに、私共もおります」
そう声を掛けてきたのは獣人商人だ。
彼は獣人王の10番目の弟にして商人をしている。
箱庭の主も商売人だという噂がある。
商売の話だと油断させておいて……と言うのも大いにできる戦法だ。
「そもそも相手は子供だったのだろう? そう気構える方が可笑しい」
「「……」」
「子供なら子供らしく、大人の言う事を聞いておるべきだ。そうだ、その少年とやらに貴様たちを妃として献上しよう。そうすればナースリス様の怒りも落ち着き、その少年も若いエルフの娘と獣人の娘を嫁に出来ていい想いが出来るだろう」
「「なっ!」」
「お父様! この国は一夫一妻の国ですよ⁉」
そう声を上げた末娘、ミアだったが、ワシは鼻で嗤い飛ばし「エルフ族には通用せん内容だな」と馬鹿にして笑った。
「エルフの娘と獣人の娘を嫁に出来るのだ。此れ以上の名誉はあるまい。エルフ族と獣人族では通用しないとでも突っぱねればいいだろう。男なら綺麗な娘を傍に起きたがるはずだ。例えガキでもな」
「はははは! では私は我が娘、テトを」
「ワシは末娘のミアを渡そう。これで万事解決するはずだ」
そうニヤリと笑いつつ口にすると、娘たちは「後はご自由にして下さい。私たちは怒りに触れたくありません」と言って部屋を出て行ってしまった。
余程ナースリス様に叱られたことが効いている様だ。
「しかし、箱庭を手に入れられないのはキツイなぁ……。何とかして箱庭を別荘にしたいんだが」
「多額のお金でも無理なんでしょうか?」
「誇り高きエルフ族と獣人族が使うと言っているのに、普通ならば頭を下げて庶民なら喜ぶべきだろうに。しつけのなっていないガキだ」
「全くですな」
「確かにレディー・マッスルに保護されている、養子縁組もしている子供ならば……手を出すのは容易ではないにしろ、エルフと言う強みと獣人の強みを生かして、お互いの娘を嫁に出して箱庭を手に入れるというのは良い考えなんだがな?」
「全くです。ですが娘たちにはそれが解っていないようですな?」
「やれやれ、プライドばかりが高く育って困ってしまう」
どの道、ナースリス様の怒りを買った2人は故郷の地は踏めない。
ならば、押し付けつけてしまえばいい。
これで醜聞も国に出ず万事解決だ。
運良く行けば、箱庭も手に入る。
もし手に入らなくとも、醜聞の2人を何とか出来ればそれだけで良しとしよう。
「全く、ナースリス様を怒らせる等、我らエルフと獣人ではあってはならぬ事」
「全くだ。幼い頃から厳しくその辺は育ててきたんだがなぁ」
王城でのパーティーまで後一カ月。
事態は時計の針が進むようにゆっくりとではあるが、確実に動いて行っていたのである――。
それから数日、娘たち2人は故郷に帰る事が出来ない事を悔んでだろう。
塞ぎ込んでしまった。
王城でのパーティーで美しい装いのエルフの娘を見たいという貴族は大勢いる。
無論獣人もだ。
ところが、2人は身体のメンテやそう言ったものを悉く断り、塞ぎ込んでしまっているのだという。
時が経てば多少は落ち着くだろうと安易に考えていたのだが、それから一週間後――。娘たちが屋敷から消えたのだ。
高く売れそうなドレスと宝石を持って。
これにはワシも商人も驚きを隠せず、どこに娘たちが消えたのか探す事になった。
エルフ王の末娘と、獣人族の王の10男で商人の男の娘が揃って行方不明になったのだから、屋敷獣はハチの巣をつついたかのような大騒ぎになった。
高い売り物を持って行ったのなら、そう言う店に行ってみると言って獣人の友人は即動いた。結果――早朝にフードを被った商家の令嬢のような娘たちがやってきてドレスと宝石を売って行ったという。
その後何処に行ったのかまでは分からないそうだ。
「ええい! これでは箱庭を手に入れる為に押し付けようとしているのに……傷でもついたら溜まったもんじゃない!」
「箱庭さえ手に入れば、ナースリス様に御目通しが何度も訪れるというのに!」
「その様は誉を貰えるチャンスを……ミアとテトは棒に振ったのだ!」
イライラしてガラスコップを投げつけて派手に割れる。
おのれ……ミアにテト……貴様ら一体何処に行ってしまったのだ‼
「探せ! そう遠くには行っていない筈だ! 探し出せ‼」
「見つけたら即屋敷に連れて来い! 縄をつけてくるな。跡が残る!」
「睡眠魔法で眠らせてくるのだぞ! 分かったな!」
指示を出して数日――ミアとテトが見つかる事は無かった。
一体何処に消えてしまったのか……。
国を出た形跡はなかった。
ならばムギーラ王国のどこかにいる筈なのに……2人が見つかる事は無かった。




