第37話 神ナースリスと、神獣アンジュがブチギレおったぞ!
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よもや、元Fランク冒険者がエルフ娘と獣人娘に人質に取られるという事が起きるとは思ってもおらんかった。
頭を抱え、呼び出された場所に向かう事しか今は出来ず、ワシのイライラは最高潮に達そうとしておった。
今日はやることが多いというのに何という邪魔を……。
爆発寸前の怒りを胸に向かうと、確かに18歳から20歳程度のエルフの娘と獣人の娘がアスカレイを縄でグルグル巻きにして立っておった。
しかも兵士付きで。
「貴方が箱庭の主ね? 箱庭は楽園だと聞いたわ! その楽園を寄越しなさい!」
「そうよ、人間風情がそんな箱庭を持つなんて生意気だわ!」
そう言ってくる2人に、ワシは大きく溜息を吐いてナースリスに話しかけようとしたのじゃが、ナースリスも怒りに震えておるようで、さてどうしたものかと思ったが……取り敢えず聞いておきたいことがあったからじゃ。
「のう。箱庭とは他人に受け渡しは可能じゃったか?」
『禁術ではあります。が、そのような事をすれば術者は死にます』
「つまり、こ奴らは人の死等どうでもいいと思っておるわけだな?」
「何よ。私たちの言う事を聞いて死ねるのよ? 本望じゃない」
「黙れクソ婆共」
「くそ……婆ですって⁉」
「ワシから見れば婆じゃろう」
「くっ‼」
そうワシが怒りに任せて婆と呼べば、2人は歯を喰いしばってワシを睨んできた。
「ワシの箱庭は貴様らには渡さんし、入れる事も絶対にしない。屈する事もせぬ。ましてや人質を取る様な犯罪者がおるようなエルフ族と獣人族とは野蛮人なんじゃな」
「野蛮人ですって⁉」
「野蛮人じゃなかったら蛮族か?」
そう言えば流石にブちぎれたのか、ワシに向って魔法が飛んできたが――「にゃん!」とアンジュが魔法を爪で切り裂き、ワシに当たる事は無かった。
巨大化した神獣を見るのは初めてだったのか、エルフ娘と獣人娘は腰を抜かしておるわい。
「ななななな……なんで人間風情が神獣なんて……」
「おお、ワシが育ててワシが孵化させた、大事な家族じゃよ」
「アンタ何者よ‼ 普通ならこんな……あり得ないわ!」
「それを貴様らに話す気も起きぬわ。蛮族めが」
「蛮族ですって⁉」
「神の怒りに触れるじゃろう……覚悟しておく事じゃな」
その言葉に、爪を出して威嚇状態のアンジュに獣人たちもエルフ達も後ろに後退した。
その隙を見計らいアスカレイはワシ達の元に駆けつけてきたが、流石に神獣の怒りの前では近寄る事も出来なかったようじゃ。
「エルフ族はこんなに愚かだったにゃん? 獣人族もこんなに馬鹿だったにゃん? 亡べばいいですにゃん」
「神獣様、お怒りをお静め下さいませ!」
「私たちは箱庭を手に入れれば」
「黙れにゃん‼」
「「ひいいいい‼」」
ひれ伏して怯える2つの種族。
最早アンジュがいればこの馬鹿な2種族は大丈夫じゃろう。
怒りに燃えるアンジュを前にひれ伏して怯えるエルフと獣人達は、最早敵では無かった。
「お前達! 立場が上だからと禁術を使う者の命をかるんじた事、絶対に許せないにゃん! 罰を与えるにゃん‼」
「「ひっ」」
「今後、箱庭の木々を使う事は禁止するにゃん! 二度とハヤトの前に姿を現す事も禁ずるにゃん‼」
「「そんな!」」
「箱庭産の木々は本当に素晴らしいのです! だから箱庭だって」
「だからどうしたにゃん……。それと、奪う事と何がどう違うにゃぁん?」
「う……」
「貴様らには箱庭産は勿体ないにゃん……。資格もないにゃん」
「そんな……」
「幾らでもお金を積みます! その……もう箱庭に入りたいとも言いません! 本当です! どうか箱庭産の木々の提供無しなんて……辛過ぎます!」
「爪とぎ用の木々が無いと辛いです!」
「知らんにゃん」
「「神獣様ぁああ‼」」
「お前達はアンジュの大事な主とその箱庭を穢そうとしたにゃん……」
アンジュの怒りも最もである。
ナースリスも頷いているあたり、余程腹に据えた問題だったのだろう。
「そんな輩に、箱庭の品を使うなど……神獣として許さないにゃん‼」
これが決定となり、エルフ族と獣人族との契約は白紙となった。
アンジュが許さないのなら許す事はないし、箱庭を寄越せと脅したことも許される事ではない。
縋るようにワシを見てきたが、無表情で腕を組んでみていたので最早どうしようもないと理解した様じゃ。
「く……。わかり……ました」
「神獣様の……仰せの通りに……」
「全く馬鹿な事をしたものじゃ。のう、ナースリス」
「「ナースリス様⁉」」
どうやらエルフや獣人の間ではナースリスは有名……なのか?
ワシの回りをフワフワ飛んで折ったナースリスは人型を保つと、他の者達は驚いておったが、無表情のままのナースリスを見て更に震えあがったのが2種族じゃ。
『全く以て……呆れて言葉すらありません』
「あ、嗚呼……っ! ナースリス様、違うのです! これは……」
『何がどう違うのでしょう? ハヤトに箱庭を渡したのは私ですよ』
「「‼」」
『それを奪おうとしたエルフ族と獣人族、許される事ではありませんね……』
何やら雲行きが……怪しくなってきおったぞ?
怒りを感じる神と神獣を前に、最早最初の勢いなんぞ消え失せておるわ。
「ハヤトの顔を立てて今回は見逃すにゃん……。でも、箱庭産を使う事は禁止にゃん」
『それが妥当ですね。でも次はないですよ……。ハヤトには近寄らぬように。下劣が移ります』
そこまで言うか。
そう思ったが神と神獣がそこまで言うくらいにはブチギレ案件じゃったようだし、ワシは「2人がそれでええなら、ワシは従うぞい」と言うと、2人は少しだけ雰囲気が柔らかくなった。
「そう言う事じゃ。お主らエルフ族と獣人族とのやり取りは今後しない。反省してもワシには近寄らん事じゃな。次脅しでもすれば……分かっておるな?」
「「ひっ‼」」
そう言うとワシ等は箱庭へと帰って行った。
その後どうなったのかは異世界テレビで見せて貰ったが、立つことも暫く出来ないで怯えておったようじゃが、「お父様になんていえば……」なんてことを言いつつ去って行った。
知った事ではないが、神と神獣を怒らせたのは悪手じゃったのう?
「エルフと獣人とは、もう少し知的かと思っておったんじゃがな?」
「長い年月を得て、馬鹿になり下がった感じがしますにゃん」
『エルフ族と獣人族は、テリサバース様の使者である私には弱いのですよ。まぁ、後はハヤトに近寄らなければ私たちは特に文句は言いません』
「今度近寄ったら、ザシュっとしてやるニャン……」
「ははは……」
ワシはある意味、守りが強いのかも知れん。
マリリンを含めてじゃが……。
そう思わずにはいられない出来事じゃった――。