第26話(閑話) 外でワシの事は色々話題にはなっておるようですじゃ
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――ハピネス・マリリン店、店長side――
マリリン様とカズマ様がご結婚なさって作られた、庶民と冒険者向けの店【ハピネス・マリリン店】。
その雇われオーナーを務めております、アデレートと申します。
私は長年、レディー・マッスルとしてBランク冒険者を続けていましたが、怪我をして引退することとなりました。
そんな折、マリリン様に引き留められ、この店を任されたのです。
路頭に迷う寸前だった私に、衣食住を保証してくださったカズマ様にも、ただただ感謝するばかりでございます。
そんなお二人の愛娘、マリアン様がご婚約されたという話は、まことに喜ばしいものでした。
そのご婚約者というのが、謎に包まれた少年。
気づけばマリリン様に保護され、王家とも顔を繋いでいるという、只者ではない方だと聞き及んでおります。
きっと、口に出すのも畏れ多いような、由緒正しき身分の方なのでしょう。
そんな方が作り出した商品は、まさに庶民や冒険者に寄り添った、素晴らしい品々でした。
まず【綿100%の肌着】。
なんとも贅沢な素材ながら、定価の肌着よりほんの少し上乗せした程度のお値段で販売されております。
そのため、庶民も冒険者も、こぞって買い求めに来るのです。
さらに【食器用洗剤】や【洗濯用洗剤】も飛ぶように売れ、最近では【ボディーソープ】と【リンスインシャンプー】という画期的なアイテムまで登場しました。
――そう、ムギーラ王国にはいくつかの大衆浴場が存在しています。
これは、カズマ様が衛生面向上を目的として推進なさったもので、今や庶民も冒険者も、風呂に入るのが当たり前の習慣となっているのです。
そんな背景の中、これら新商品が登場したのですから、売れないわけがありません!
三日も経たぬうちに商品棚は空になり、ただいま急ぎ追加発注中でございます!
そんな折、店内でふと、こんな話題が聞こえてきました。
「いやー、マリアン様の婚約者、ハヤト様はどんな方なんでしょうな?」
「俺達はちょっと前に、とある場所でお世話してたけど、気さくな方だよ」
「えっ、そうなんですか? 年齢はおいくつくらいで……?」
「確か、6歳だったかな」
「ろ、ろ、6歳⁉」
「そうだよ。皆【神童】だって噂してるぜ。物の見方も達観してるし、堂々としてる。マリアン様を見た目だけで判断しない、ちゃんと中身を見られるお方だ」
「ああ、それに失敗を責めないしな。『失敗したら次に生かせばいい』って、笑って言える人だよ」
「6歳とは思えない老成っぷりだぜ」
初めて耳にするハヤト様の人物像に、私はただただ驚くばかりでした。
さらに彼らは、こんな話もしてくれました。
「なんでも今度、高級店をオープンするらしいな」
「ああ、貴族向けの店だって聞いたぜ」
「ここにも挨拶に来るんじゃないか?」
「こ、高級店⁉ それに、ここにもご挨拶に⁉」
「庶民向けじゃなく、あちらはマリアン様のために作るらしいぜ」
「マリアン様の、ため……?」
「拍を付けたいんだとさ。そうすれば、マリアン様を悪く言う連中も減るだろうって」
「……マリアン様は、本当にお幸せですね」
「ああ。一時期はふさぎ込んでたけど、元気を取り戻したのも、全部ハヤト様のおかげだ」
「不思議な方だよな」
「自分のスキルを生かして、もう働けない老人や、親を亡くした子供、母子家庭や父子家庭を支援してるらしい」
そう言いながら、彼らはギルドへと帰っていきました。
嗚呼、ハヤト様……。
貴方様は、きっと神に選ばれし方なのでしょう。
お聞きしたお話も、きっとほんの一部にすぎないはず。
その深い懐、計り知れぬお人柄。
――何とも尊く、敬うべきお方です。
【マリアン様のご婚約者、ハヤト様】
少年でありながら、すでに一人の立派な若者として、そして商人としても凄腕と聞きました。
私もまた、敬意と敬愛を持って接しなければなりません。
何より、恩人であるマリリン様のご息女、マリアン様が愛してやまないお方なのですから。
「ハヤト様……。貴方様にお会いできる日を、心より楽しみにしております」




