第22話 マリアンの骨折れそうな愛の抱擁と、新たな商品作りじゃ!
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途端、ミシミシミシ……と悲鳴を上げるワシの骨! 骨‼
お、お、お、折られる‼
「ハヤト様なんて素敵なお方! 私、とっても感動しましたわ‼」
「ぉ……ぅぐっ!」
「私、あなたに一生ついてまいります! 墓場までずっとついてまいりますわ!」
「マリアン、待つにゃん! 主の骨が折れそうにゃん!」
「はっ! 私ったらつい興奮しすぎて……! 筋トレを怠っていてよかったですわ。もし続けていたら、今頃ハヤト様をボッキリ……!」
「お、折られるのは……困る……のう……ぐふっ」
「ハヤト様ぁぁぁあああ‼」
見かねた冒険者が駆けつけ、ワシにポーションをかけてくれた。
お陰で何とか生き返った……。
礼を言うと、涙をぬぐいながら「マリアンお嬢が幸せを見つけたんっす! 俺、感動っす!」と泣きながら喜んでおった。
良く分からんが、「ありがとう」と伝えると、さらに号泣しつつ「今日はお祝いっすよ――! 飲みに行くっすよ――!」と皆で出て行った。
一体何じゃったのじゃろうか。
マリアンは頬を赤らめ、モジモジと照れておる。
まあ、マリアンの心の傷が浅いのなら、それに越したことはない。
「マリアンが傷ついたらどうしようかと思ったぞい。本当に無事なんじゃな?」
「はい……。ハヤト様のお言葉と行動のおかげで、かすり傷ひとつついておりませんわ」
「それは良かった……」
「ハヤト様……」
「よし、では問題も解決したことじゃし、親たちには申し訳ないが、マリリンの元でキッチリ矯正してから、会いに来てもらうとしようか」
「はい。愚息が申し訳ありません」
「本当に、何とお詫びしていいか……」
「なに、現実を見れば、ここの天国がどれだけ良かったか、嫌でも理解するじゃろう」
こうして、ワシらはもう一度風呂に入り、ぐっすり就寝。
翌日、仕事場に向かい、次なる商品の開発に励んでおった。
庶民に根付く商品作り──。
今の急務は【ボディーソープ】と【リンスインシャンプー】じゃ!
【洗濯用洗剤】【食器用洗剤】【肌着】の普及は順調に進んでいる。
じゃが、風呂文化を推進するには、ボディーソープとシャンプーが必須!
本来なら分けたい所じゃが、水が貴重なこの世界では贅沢は言えん。
一緒くたにするしかなかったのじゃ。
貴族向けなら分けてもいい。
だが、あくまで庶民のための製品。
石鹸でゴシゴシするなんて言語道断‼
あれはギシギシするし髪を痛める! ワシの経験談じゃ!
男でも辛い! 女子がやるとなれば、なおさら心が痛む‼
「取り敢えず【ボディーソープ】と【リンスインシャンプー】じゃな。作っていくかの」
「温泉にも置くんですにゃーん?」
「無論じゃ。全員に配る」
「良い事ですにゃん♡」
『ふう……警戒すべき人材がいなくなったことで、ようやく貴方の元に戻れましたよ』
「ナースリス! 久しぶりに見た気がするぞい」
『ええ、本当に久々でした。何をしでかすか分からない連中がおりましたから、気が気でなかったのですよ』
ナースリスはそうぼやきつつ、威厳の光を放って警戒していたらしい。
労いのつもりで、手作りの飴を一つ渡すと──。
『何れふ⁉ 何れふのこれ‼』
「砂糖で作った飴じゃ。旨いじゃろう」
『全身に染み渡りますわぁ……』
喜びのあまり、高速でワシの元へ舞い戻ってきた。
欲しい時はいつでも言え、すぐ出してやるぞい。
こうして、まずは箱庭用に【ボディーソープ】と【リンスインシャンプー】を作成。
続けて、レディー・マッスルに卸す分をひたすら作り続けた。
途中で温泉休憩を二回挟み、三百本ずつ完成させると、汗を拭いてアイテムボックスへ収納。
今日の夜、カズマとマリリンが会いに来る予定と聞いていたので、その時に渡すつもりじゃ。
時間は夕方五時。
仕事終わりにはちょうどいいが、次の構想も考えておきたいところ。
「庶民向けの商品……。ムギーラ王国は気候が安定しておるからのう」
『そうですね。雨季はありますが、比較的穏やかです』
「女性向けの化粧水……わからんのう。美容関連はさっぱりじゃ」
『リディアの時はマニキュアなど作っていましたね。あの子は女性でしたから、女性関連の商品が多かったです。あとは子供向けでしょうか』
「むう、ここで男女の差が出るとは……。女性関連の本でも集めてみるかのう」
「無理に女性関連じゃなくても良いと思いますにゃん?」
「じゃが、財布を握るのは女性が多いと相場が決まっておる。思えば、前世のワシはつまらん人生を歩んできたものじゃなぁ」
恋人なし、交友も薄い、地味な人生──。
それが悪かったわけではないが、もう少し華やかな生活もしてみたかったものじゃ。
「何はともあれ、今ある素材で燻製機でも作るか。高級品はカズマとマリリンと要相談じゃ」
「そうですにゃーん」
『燻製エリアも必要ですね』
「レディー・マッスルに貸しておった土地が空いておる。そこを使おう」
こうして、夕飯までの間に大型燻製機を五台作り、燻製用エリアと専用台所を整備。
肉や魚はアイテムボックスにたっぷりある。
問題はチーズ……。
チーズは後回しにしつつ、まずは肉と魚の燻製を試作。
興味津々のマリアンも手伝いに来た。
「これが燻製……とかいうものですか?」
「そうじゃ。燻製用の大型機じゃな」
「珍しいものもございますのね」
「そう言えば、マリアン。この世界にチーズはあるか?」
「ありますわ! 牛も豚も鶏もたくさんおります!」
「ならば、家畜農家と契約したいのう。燻製チーズは旨いんじゃ! 菓子作りにも欠かせん!」
「分かりましたわ。今日お母様が来た時に、交渉してみますわ」
「助かるのう。燻製が出来たら、一緒に試食するか?」
「是非に!」
こうして肉と魚を吊るし、燻し始めたが……。
果たしてうまくいくかのう。
「燻製肉や燻製魚となると、酒が欲しくなるのう……」
しかし、ワシの年齢ではまだ飲めぬ。
渋々、炭酸水かジュースを作ることを決意するワシであった。