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老成転生~少年ボディで箱庭スローライフ~  作者: 寿明結未(旧・うどん五段)
第一章 伝説の箱庭師の箱庭を受け継ぐ

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第20話 問題児はペナルティ2を貰い、マリアンの念願は一部叶うのじゃ

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 よもや、マリリンが来る日に限って、これとはのう。

 早急に問題を片づけるべく、仕事を途中で切り上げ、異世界テレビの置いてある池へ向かったのじゃ。

 そこでは数名の若者たちが、調理場から飲み物を持ち込んで盛り上がっておった。


 

「主ら、仕事はどうした?」

「あ――。まぁ、ボチボチです」

「息抜きも必要っていうか、なぁ?」

「そうそう」

「宝石のなる木を独占しているという話も来ておるが?」

「それは……まぁ、外の世界が観たいっていうか、それが強くて……」

「なら、外の世界に戻って貰って結構じゃよ」

「え、仕事の斡旋してくれるんすか?」

「する訳ないじゃろう。自力で働く場所を探すことじゃな」

「え――? それって保護した意味なくね?」

「うむ、ワシも、仕事をせぬ者を保護した意味はないと思うておる」

「ッチ」


 

 これである。

 深く溜息を吐き、さてどうしたものかと悩んでおると、マリリンとカズマが箱庭に入ってきた。

 途端に背筋を伸ばして挨拶を始める若者たち。

 ワシらの様子を見たマリリンとカズマは、何かを察したらしく、笑顔でワシとマリアンの元へと歩み寄ってきた。


 

「どうした? しかめっ面をして!」

「うむ、ここにいる者達が外に出たがっておる。箱庭での生活が窮屈だったようじゃ」

「いえいえ、そんな……楽な生活で助かってて……」

「そうそう!」

「あらあら? 先ほど外の世界が観たい、その気持ちが強くて異世界テレビを独占し、宝石のなる木を我が物顔で扱い、挙句この箱庭の主であるハヤトさんに舌打ちしたのは、どちら様でしたかしら?」


 

 マリアンの怒りを含んだ微笑みに、マリリンが「ほう?」と目を細め、カズマは「まぁ、一部にはこういう奴らは出るよね」と苦笑いしていた。


 

「真面目に仕事もせず、ましてや箱庭の主にその態度。感心せんなぁ……?」

「「「ヒッ」」」

「どうする? ハヤトよ」

「そうじゃな。今から真面目に働くというのなら、ペナルティ1で様子を見よう。しかしペナルティ3となった場合は、この箱庭から追い出すつもりじゃ」

「優しいねぇ、ハヤトは。私なら速攻でモルーツァ王国に送り返すがね」

「そんな……モルーツァ王国に戻ったら俺たち……」

「ならば真面目に働け、バカ者共」

「バカ者共って……年下のお前に、」

「その感情が出た時点でペナルティ2じゃ」

「「「う……」」」

「この箱庭はワシの物じゃ。仕事をせぬなら、モルーツァ王国へ戻ってもらう。次はないぞ」


 

 そう告げると、若者たちは不満そうな顔をしながらも、事の重大さを理解したのか、持ち場へと戻っていった。

 真面目に働くかどうかはさておき、そこはナースリスがしっかり見ておるじゃろう。


 

「彼らの情報はナースリス様から頂きました。この箱庭には向かない者たちが集まってきているようで」

「なるほどのう。ワシが仕事に集中しておったから、マリアンの方に連絡が行ったか」

「アンジュ様も見回りをしておられるけれど、どうしても後手になりますから」

「真面目に働いてくれれば、それで問題ないのじゃが……できぬ者は出ていってもらうまでじゃな」

「彼らの親御さんにも、一応、苦言を伝えておきます」

「うむ、マリアン、すまんのう」

「いえ、これも私の務めです。ハヤト様の憂いは、私の憂いでもありますから」


 

 そう言い、マリアンは深々とお辞儀をしてから、若者たちの親へ事情を伝えに向かった。

 恐らく追放の可能性についても知らせるつもりじゃろうが、全くもって困ったものじゃわい。



「マリアンがしっかり仕事をしてくれていて助かるな! 母として、あの気の弱かったマリアンが自ら動く姿を見ると……感慨深い!」

「ただ、問題が起きていてな」

「む? マリアンにか?」


 

 思わぬ言葉に、ワシはすぐさま反応してしまったが、カズマは苦笑しながら続けた。


 

「マリアンがいじめを受けていたのは知っているか? 今日も、謝罪したいという女子生徒が馬車でやってきたが、どうにも本気で謝るつもりではなさそうでな。

 今はマリアンも、ハヤトの右腕として立派に働いている。正直、もう学園に籍を置いておく必要はないと思っているんだが」

「なんじゃ、まだ籍を置いておったのか? マリアンには必要ないぞ。籍など抜いてしまえばよい」

「うん、俺もそう思っていたところでね。

 毎回、『申し訳ありません』と棒読みで謝りに来るご令嬢たちの相手も面倒だし、何よりマリアン自身がもう別の道を歩んでいる。籍を抜かせようと思っている」

「マリアンから一応、許可を取った方が良いじゃろうが……たぶん『まだ抜いていませんでしたの?』と言われる気がするのう」


 

 マリアンはかつては気が弱かった。

 いや、正確には――元々は気弱な少女であった。

 だが今では、ワシの右腕として働き始めてから、優しさの中にしっかりとした芯を持つ令嬢へと成長しておる。

 その成長を頼もしく思うと同時に、ワシ自身も負けておれんと身が引き締まる思いじゃ。

 まこと、互いにとって良い循環になっておるのう。


 

「まぁそれはさておき、今日は商談に来たんだったな」

「そうであったな。ワシの仕事場で詳しく話を聞こうか」

「すまないね。君が作る製品があまりに人気でね。今月分の売り上げだけで、箱庭にいる皆の給料を二ヵ月分は賄えそうだよ」

「それは嬉しい知らせじゃ! 新商品も考えたし、どんどん作るぞい!」

「ハヤトはどんどん新しい物を考えて、どんどん作ってくれ! 我がレディー・マッスルが責任を持って売り出そう!」


 こうして、ワシらは仕事場に移動し、今後の展望について話し合うことになった。

 しかし、まだモルーツァ王国の内乱は収まっておらぬらしい。

 一刻も早く、内乱が終息して皆が平和に暮らせるよう祈るしかない。

 まずは、必要な人数だけを再び保護することを決めた矢先――マリアンが戻ってきた。


 カズマ殿がマリアンに学園の籍について尋ねると、マリアンはにっこりと笑い、


 

「あそこは必要ありませんわ」


 

 と、きっぱり答えたのじゃった。



「私、思いましたの。私がいるべき場所はハヤト様の隣。彼の傍で働くことこそが、私の使命であると」

「ワシもマリアンが居てくれるおかげで助かっておる。マリアンが頑張ってくれるからこそ、ワシも頑張ろうと思えるのじゃ。まさに、良い相乗効果というやつじゃな」

「そう言っていただけると嬉しいですわ! それならば、私もこの箱庭に住むべきではありませんこと⁉」

「それは助かるのう。ただ……カズマ殿次第じゃな」

「お父様、いい加減に諦めてくださいませ」

「ははは! マリアンはカズマに似て頑固じゃからなぁ。カズマ、いい加減に子離れせんと、マリアンに嫌われるぞ!」

「うう……マリアンが本当にそれで幸せなら、いいんだけどな……。ハヤト、責任取れるかい?」

「何の責任じゃ?」

「お父様ったら気が早いですわ‼」


 

 そのマリアンの一言と共に、カズマの腹に見事なボディーブローが炸裂した!

 カズマは吹き飛ばされ、床に転がって動かなくなったが、すぐにマリリンが回復アイテムを飲ませていたので、大事には至らなかったじゃろう。

 ……あのパンチは、できればワシも食らいたくないのう。


 

「まったくもう、お父様ったら、乙女心を理解してくださいませ!」

「す、すまない、マリアン……」

「私は今、ハヤト様の隣にいることが一番の幸せなのです! これ以上を望んでは罰が当たりますわ!」

「ワシも、マリアンが隣に居てくれると安心できる。今後ともよろしく頼むぞい」

「はわわ♡ お任せくださいませ!」


 

 こうして、マリアンが箱庭に住むことが正式に決定した。

 後日、マリアンの荷物は、姉たちによって運び込まれることになったのじゃ。

 マリアンの部屋はワシの隣にすることにした。

 何かと便利じゃし、それがよかろう。


 さて、ワシもまたロストテクノロジーを活かした商品開発に励むとするか。

 まずは市場調査のため、異世界テレビでも覗きに行こう。

 こうしてワシは、ダンノージュ領のサルビアの店を映す番組を眺めることにしたのじゃが――。


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