第20話 問題児はペナルティ2を貰い、マリアンの念願は一部叶うのじゃ
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よもや、マリリンが来る日に限って、これとはのう。
早急に問題を片づけるべく、仕事を途中で切り上げ、異世界テレビの置いてある池へ向かったのじゃ。
そこでは数名の若者たちが、調理場から飲み物を持ち込んで盛り上がっておった。
「主ら、仕事はどうした?」
「あ――。まぁ、ボチボチです」
「息抜きも必要っていうか、なぁ?」
「そうそう」
「宝石のなる木を独占しているという話も来ておるが?」
「それは……まぁ、外の世界が観たいっていうか、それが強くて……」
「なら、外の世界に戻って貰って結構じゃよ」
「え、仕事の斡旋してくれるんすか?」
「する訳ないじゃろう。自力で働く場所を探すことじゃな」
「え――? それって保護した意味なくね?」
「うむ、ワシも、仕事をせぬ者を保護した意味はないと思うておる」
「ッチ」
これである。
深く溜息を吐き、さてどうしたものかと悩んでおると、マリリンとカズマが箱庭に入ってきた。
途端に背筋を伸ばして挨拶を始める若者たち。
ワシらの様子を見たマリリンとカズマは、何かを察したらしく、笑顔でワシとマリアンの元へと歩み寄ってきた。
「どうした? しかめっ面をして!」
「うむ、ここにいる者達が外に出たがっておる。箱庭での生活が窮屈だったようじゃ」
「いえいえ、そんな……楽な生活で助かってて……」
「そうそう!」
「あらあら? 先ほど外の世界が観たい、その気持ちが強くて異世界テレビを独占し、宝石のなる木を我が物顔で扱い、挙句この箱庭の主であるハヤトさんに舌打ちしたのは、どちら様でしたかしら?」
マリアンの怒りを含んだ微笑みに、マリリンが「ほう?」と目を細め、カズマは「まぁ、一部にはこういう奴らは出るよね」と苦笑いしていた。
「真面目に仕事もせず、ましてや箱庭の主にその態度。感心せんなぁ……?」
「「「ヒッ」」」
「どうする? ハヤトよ」
「そうじゃな。今から真面目に働くというのなら、ペナルティ1で様子を見よう。しかしペナルティ3となった場合は、この箱庭から追い出すつもりじゃ」
「優しいねぇ、ハヤトは。私なら速攻でモルーツァ王国に送り返すがね」
「そんな……モルーツァ王国に戻ったら俺たち……」
「ならば真面目に働け、バカ者共」
「バカ者共って……年下のお前に、」
「その感情が出た時点でペナルティ2じゃ」
「「「う……」」」
「この箱庭はワシの物じゃ。仕事をせぬなら、モルーツァ王国へ戻ってもらう。次はないぞ」
そう告げると、若者たちは不満そうな顔をしながらも、事の重大さを理解したのか、持ち場へと戻っていった。
真面目に働くかどうかはさておき、そこはナースリスがしっかり見ておるじゃろう。
「彼らの情報はナースリス様から頂きました。この箱庭には向かない者たちが集まってきているようで」
「なるほどのう。ワシが仕事に集中しておったから、マリアンの方に連絡が行ったか」
「アンジュ様も見回りをしておられるけれど、どうしても後手になりますから」
「真面目に働いてくれれば、それで問題ないのじゃが……できぬ者は出ていってもらうまでじゃな」
「彼らの親御さんにも、一応、苦言を伝えておきます」
「うむ、マリアン、すまんのう」
「いえ、これも私の務めです。ハヤト様の憂いは、私の憂いでもありますから」
そう言い、マリアンは深々とお辞儀をしてから、若者たちの親へ事情を伝えに向かった。
恐らく追放の可能性についても知らせるつもりじゃろうが、全くもって困ったものじゃわい。
「マリアンがしっかり仕事をしてくれていて助かるな! 母として、あの気の弱かったマリアンが自ら動く姿を見ると……感慨深い!」
「ただ、問題が起きていてな」
「む? マリアンにか?」
思わぬ言葉に、ワシはすぐさま反応してしまったが、カズマは苦笑しながら続けた。
「マリアンがいじめを受けていたのは知っているか? 今日も、謝罪したいという女子生徒が馬車でやってきたが、どうにも本気で謝るつもりではなさそうでな。
今はマリアンも、ハヤトの右腕として立派に働いている。正直、もう学園に籍を置いておく必要はないと思っているんだが」
「なんじゃ、まだ籍を置いておったのか? マリアンには必要ないぞ。籍など抜いてしまえばよい」
「うん、俺もそう思っていたところでね。
毎回、『申し訳ありません』と棒読みで謝りに来るご令嬢たちの相手も面倒だし、何よりマリアン自身がもう別の道を歩んでいる。籍を抜かせようと思っている」
「マリアンから一応、許可を取った方が良いじゃろうが……たぶん『まだ抜いていませんでしたの?』と言われる気がするのう」
マリアンはかつては気が弱かった。
いや、正確には――元々は気弱な少女であった。
だが今では、ワシの右腕として働き始めてから、優しさの中にしっかりとした芯を持つ令嬢へと成長しておる。
その成長を頼もしく思うと同時に、ワシ自身も負けておれんと身が引き締まる思いじゃ。
まこと、互いにとって良い循環になっておるのう。
「まぁそれはさておき、今日は商談に来たんだったな」
「そうであったな。ワシの仕事場で詳しく話を聞こうか」
「すまないね。君が作る製品があまりに人気でね。今月分の売り上げだけで、箱庭にいる皆の給料を二ヵ月分は賄えそうだよ」
「それは嬉しい知らせじゃ! 新商品も考えたし、どんどん作るぞい!」
「ハヤトはどんどん新しい物を考えて、どんどん作ってくれ! 我がレディー・マッスルが責任を持って売り出そう!」
こうして、ワシらは仕事場に移動し、今後の展望について話し合うことになった。
しかし、まだモルーツァ王国の内乱は収まっておらぬらしい。
一刻も早く、内乱が終息して皆が平和に暮らせるよう祈るしかない。
まずは、必要な人数だけを再び保護することを決めた矢先――マリアンが戻ってきた。
カズマ殿がマリアンに学園の籍について尋ねると、マリアンはにっこりと笑い、
「あそこは必要ありませんわ」
と、きっぱり答えたのじゃった。
「私、思いましたの。私がいるべき場所はハヤト様の隣。彼の傍で働くことこそが、私の使命であると」
「ワシもマリアンが居てくれるおかげで助かっておる。マリアンが頑張ってくれるからこそ、ワシも頑張ろうと思えるのじゃ。まさに、良い相乗効果というやつじゃな」
「そう言っていただけると嬉しいですわ! それならば、私もこの箱庭に住むべきではありませんこと⁉」
「それは助かるのう。ただ……カズマ殿次第じゃな」
「お父様、いい加減に諦めてくださいませ」
「ははは! マリアンはカズマに似て頑固じゃからなぁ。カズマ、いい加減に子離れせんと、マリアンに嫌われるぞ!」
「うう……マリアンが本当にそれで幸せなら、いいんだけどな……。ハヤト、責任取れるかい?」
「何の責任じゃ?」
「お父様ったら気が早いですわ‼」
そのマリアンの一言と共に、カズマの腹に見事なボディーブローが炸裂した!
カズマは吹き飛ばされ、床に転がって動かなくなったが、すぐにマリリンが回復アイテムを飲ませていたので、大事には至らなかったじゃろう。
……あのパンチは、できればワシも食らいたくないのう。
「まったくもう、お父様ったら、乙女心を理解してくださいませ!」
「す、すまない、マリアン……」
「私は今、ハヤト様の隣にいることが一番の幸せなのです! これ以上を望んでは罰が当たりますわ!」
「ワシも、マリアンが隣に居てくれると安心できる。今後ともよろしく頼むぞい」
「はわわ♡ お任せくださいませ!」
こうして、マリアンが箱庭に住むことが正式に決定した。
後日、マリアンの荷物は、姉たちによって運び込まれることになったのじゃ。
マリアンの部屋はワシの隣にすることにした。
何かと便利じゃし、それがよかろう。
さて、ワシもまたロストテクノロジーを活かした商品開発に励むとするか。
まずは市場調査のため、異世界テレビでも覗きに行こう。
こうしてワシは、ダンノージュ領のサルビアの店を映す番組を眺めることにしたのじゃが――。




