第19話 保護した面々に指示をだしたが、問題はやはりでるようじゃな……
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箱庭での生活についての説明は、大きく分けて三つじゃ。
一つ、箱庭とその中にある物はすべてハヤトの所有物である。勝手に持ち去る事はならぬ。
一つ、給与については、仕事を与えるので、その際にムギーラ王国の定める賃金で支払う事。
一つ、外に出る際は、箱庭に関する事を外部に漏らしてはならぬ。
以上である。
簡単な事ではあるが、必ず守ってもらわねばならぬ事でもあった。
「別にお主らが、他の者――ワシや箱庭を害する者と繋がっておった場合は、即座に追い出す。ムギーラ王国にも居られぬと思っておけばええじゃろうな」
「そこまで秘匿にしなければならない箱庭に、なぜ俺たちを……?」
「ワシが放っておけば、ここにおる面子はモルーツァ王国に返される事になったじゃろう。その場合、待っておるのは何じゃ?」
問いかけると、皆は沈黙した。
戻ったところで地獄しか待っておらぬ事を、嫌というほど知っておるからじゃろう。
良くて奴隷、悪ければ処刑。
そのどちらかしかない事を思えば、秘匿を守るなど造作もない事じゃな。
「さて、この箱庭には、それぞれのスキルに応じた働き場所も用意してある。明日はそこに案内するが、今日はまずゆっくり休むがよかろう。……それと、ワシが子供に見えるからとて手籠めにして主の座に就こうなどという考えは捨てる事じゃ。ワシはこう見えて老成しておるのでな」
「ハヤト様を害する行為は、我がレディー・マッスルへの反逆とみなします。皆様、その点はゆめゆめお忘れなきよう、気を付けてくださいね」
「仕事をサボって金だけ貰おうだなんて思っちゃだめにゃーん♡ この箱庭には【箱庭の神様】がいるにゃん♡ 虚偽報告した者は、しっかり罰せられるにゃーん♡」
その言葉と共に、光の玉――ナースリスが現れ、フワフワと揺れながらワシの肩に止まった。
住民たちの前にその姿を現すと、「おお……っ」と感嘆の声があがる。
これで【この箱庭には神様がいる】という事が理解できたじゃろう。
「この箱庭の神、ナースリスじゃ。虚偽申告はせぬ事じゃな」
「神が存在する箱庭……一体ここは……」
「特別な箱庭じゃ。それ以上は今は語れん。ただ、箱庭内の事はナースリスがすべて見通しておる。下手な嘘はつかぬ方が身のためじゃて」
ワシの言葉に、住民たちは強く頷いた。
こうして説明会は無事に終わった。
住む場所については、少し休憩を挟んでからの移動となり、レモン水を飲んでホッとする者も多かった。
その前に、スキル持ちで集まって貰わねばならぬ者たちが二組いたのを思い出し、呼び出す事にする。
「まずは『調理師』と『生活魔法』が使える者たちじゃが」
「「「「「はい!」」」」」
「台所は休憩所の隣にあるから、そこを使って欲しい。調味料などは自由に使って構わん。ワシのスキルで補充しておるからの。青い宝石がついた冷蔵庫は中身が腐らぬ冷蔵庫、赤い宝石がついた方は普通の冷蔵庫じゃ。間違えぬように使ってくだされ。氷製造機は、水を入れるだけで自動で氷を作るぞい。必要な時に水を足すんじゃ」
この冷蔵庫や台所、氷製造機は、リディアがいた頃に使っていた贅沢な品々じゃ。
驚きつつも、面々は使い勝手を確かめておった。
包丁に菜箸、どれもこれも質の良い物で、ワシでも問題なく使えた。
「箱庭にいる者たちの腹を満たすのが務めじゃ。朝昼晩の食事を頼むぞ。
畑には【ロクサーヌの雫】の面々が手伝いに来とる。出来れば彼らと共に畑や麦畑も見てきてくれると助かる」
「「「「「承知しました!」」」」」
「生活魔法だけが使える者たちは、住人たちの生活サポートじゃ。洗濯、掃除、施設の清掃……なかなか大変じゃろうが、頼んだぞ」
「「「「かしこまりました!」」」」
こうして簡単に仕事の内容を伝えると、調理師たちは【ロクサーヌの雫】と畑へ行く段取りを決めたようじゃ。
この箱庭の畑は不思議なもので、トマトに限らず、収穫してから十分もすれば新たに実が成るのじゃ。
食べ物に困らぬゆえ、人々の保護が成り立つ。
……まあ、追い出さねばならぬ者が出ぬ事を祈りたいものじゃが。
さて、その他にワシの元に集まったスキル持ちと言えば、『採掘師』『植物師』『彫金師』『付与師』『漁師』『裁縫師』『革細工師』『陶芸師』『木材師』『炭師』といった面々じゃ。
そして、以前保護したイサークの『薬師』もおったな。
箱庭内でも商店を作らねばならぬが、幸いリディアがかつて開いていた店舗が健在であった。
そこを利用するのが手じゃろう。
生活に必要な物――洗剤やらシャンプーやら、最初こそタダで配る必要があるが、ゆくゆくはコツコツと商品を用意し、売り出していかねばならん。
服やタオルといったものも必須じゃな。
「さて、ワシは仕事に戻るが……後のことはマリアン達に頼んでいいかのう?」
「はい、お任せくださいませ」
「体を洗う物など、急いで作ってくるぞい」
こうして、人数分のシャンプー、ボディーソープ、身体を洗うタオルやバスタオルなどを、ワシは延々と作り続けた。
仕事場は、元リディアの使っていた場所じゃな。
夜までコツコツ作り続け、風呂セットとしてまとめあげ、後は配るだけじゃ。
着替えも今後揃えていかねばならん。
肌着や服は必須じゃ。
そこは裁縫師たちに頼る事にしよう。
「綿100%の布地だけでも、先に作っておくかのう」
流石にあの人数分の肌着を、ワシ一人で作るのは無理がある。
裁縫師たちに手伝ってもらうため、ロール巻きの布を五本ほど用意し、裁縫師たちの作業机に置いていった。
糸の在庫もあるし、型紙も、雑誌も、リディアが残しておる。
後は裁縫師たちの腕に任せるしかあるまい。
「ワシのスキルをもってしても、MPを増やしつつ一からのスタートじゃ。気合を入れねばならんな」
『ですが、一部悪い気を持つ者もいますが、概ね良い気を持つ者ばかりです。悪い気の者達は私が監視しましょう』
「やはり、上手くはいかんものじゃな」
『それが人間というものですよ』
「確かにのう」
マリリン達の手助けもあり、ワシは一つずつ、生活基盤の整備に邁進することとなった。
無論、指示を出すべき所には出し、各所を一日一回は巡回した。
特に冒険者に人気の『帰路の護符』『身代わりの護符』『帰路の指輪』『身代わりの華』などは、彫金師と付与師に頼み、マリリンの店で売れるように整えた。
こうしてコツコツと生活を整えていった矢先、問題は起こるものである。
事の発端は、マリアンからの報告であった。
「宝石のなる木を、自分の物のように扱う者が出てきております」
「なぬ?」
「仕事もせず、異世界テレビを独占していて……どうしましょう?」
「ふむ、様子を見に行くか」




