第18話 箱庭に迎え入れる為の面接と、身体を癒すレモン水
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始まった面接。
それはある意味、お互いの意見のぶつけ合いと言うべきか、お互い一歩も引かぬというべきか……。お互いの主張のぶつかり合いと言うべきじゃろうか。
雇い主であるマリリンは、ごく当たり前の優遇を伝えるが、雇って欲しい側は、更に上の要求をしてくる。
仕事を探しているという感じではない。まるで「俺がいないと仕事が回らねぇだろう?」と言いたげな様子に、ワシは辟易したのは言う迄も無く、モルーツァ王国ではこういう人種が多いのか? と頭を抱えたくなったのは内緒にしておくとしてじゃ。
「ふむ、鍛冶スキルが3で、これだけの給料が欲しい……と言う事かの?」
「当たり前だろう?俺は鍛冶スキル3もあるんだぜ?」
「……たかだが3でか? たかだか3スキルなんぞ、ワシですらあるぞ?」
「な、なんだと⁉」
「ステータスオープンじゃ」
そう言ってワシのステータスを見せつけて、プライドをへし折っていく。これにはマリリンも最初は驚いておったが、最早口出しせねばどうしようもないくらいの馬鹿も存在しておったわ。
「みての通りじゃ。ワシの鍛冶スキルは幾つじゃ? 文字は読めるかのう?」
「あ……うぁ……」
「たかだか3? たったの3か?」
「も、申し訳ありま……せん」
「ワシですらまだマトモじゃぞ。雇われたいと思うならもう少し低姿勢でこんかい。この大バカ者どもが!」
そうワシに叱られた者たちは、それなりに多かった。たかだか5、6歳にそう怒られるのじゃから溜まったもんじゃないじゃろう。
ましてやワシの喋り口調やオーラが最早子供ではないという事から、事情があって若返っているだけの誰か……と思われておるじゃろうな。そう思って貰った方が簡単でええ。異世界転生してきた等、中々言える事ではないからのう。
半分まで終わって休憩中の最中、不採用を押された者達はギルドから放り出される形となり、ワシはマリアンから文字通り、搾りたてのジュースを貰って飲んでおった。ワシも搾りたてのぬるいジュースには最早慣れたもんじゃわい。
後はうちの箱庭で働ける人材を見るだけじゃが……。正直億劫じゃのう。子供と思うて痛い目を見る輩が多そうじゃ。
相手が強気に出るならプライドをへし折る。それでええ。こうして、箱庭で雇う為の面接が始まったのじゃ。
まぁ、大体予想して負った通り、ワシが子供じゃからと良いようにしてやろうという魂胆が見え見えの輩が多かったのう。そう言う輩はトコトンまで言葉とスキルボードでプライドをへし折って捨ててやったが、一部はやはり違った。
本当に困っているという者達じゃ。
必死にお願いして来る者、老いた両親を何とか守ってやりたい者。
家族を守って欲しい者。そう言う者達は丁重にワシは扱った。
無論、若い連中とて一緒じゃ。
幼い弟妹を連れてやってきた者達は、弟妹を護れる場所を探しておった。避難所でも妹が危険な目に遭いそうになったと泣きながら語る者もおった。そう言う者達は一様にワシの箱庭で保護する事を決めた。
「俺は生産スキルが一切ないから冒険者になるしかない……。それでも良ければ……俺達家族を守って欲しい」
「冒険者ならば、レディーマッスルが保護して強くすると言っておったから安心するとええ。その代わり、弟妹達の衣食住は必ず守ろう。もし弟妹達にスキルがあるというのなら、コツコツお手伝い程度にして貰えればそれでええぞ」
「――有難うございます!」
そう言う者達もかなり多かったのじゃ。お陰でかなりの数に膨れてしまったが、それは問題ない。ただ、本当に【守られなくてはならない】人々が多かったというだけの事じゃ。
老いて足がうまく動かぬ老人も多かった。
老いて手がうまく動かせぬ老人も多かった。
目が、腰が、耳が、そう言うのを差別するつもりは一切ない。
老いるというのはそう言う事じゃ。
そう言うのを含めて老いるという事じゃ。
恥じる事は何1つない。
ワシが以前そうであったのじゃから。
「お主たちお年寄りは、ワシの箱庭で衣食住の不安もなく老後を過ごすがええ。最期の時まで心穏やかに過ごせれば、ワシとしては文句言う事はない」
「それでも、ワシ等でもスキル持ちもそれなりにおります。少しずつならお手伝いさせてくださいませ」
「うむ、無理のない範囲でな? また湯治が出来る場所もある。身体の節々じゃったり、身体が痛む者体は遠慮なく温泉に入って湯治するとええ」
「ありがとうございます! ありがとうございます‼」
こうして、お年寄りたち20名が最初に集められ、次に子供を含めた家族や子供だけの家庭。その方々にブレスレットを配り、アンジュとマリアンの指示に従って貰うように頼んで1人ずつ中に入って貰う。
結構な大移動となったが、マリリン達も立ち合い、全員がその日のうちに移動出来たのは奇跡と言えよう。
その時――外が騒がしくなり1人の青年と老人が割り込んできた男性に呼び止められていた。
「あ――! そちらの青年だけは連れて行って貰っては困ります!」
「そなたは何者じゃ?」
「あ、わたくし薬師協会の者でして‼ 薬師協会では薬師を探しているんです! そこの青年……イザーク君‼」
「祖父は要らぬと言った、薬師協会ですね? 老いた薬師は要らないと言って祖父を外に放りだした」
「どういうことか、教えて貰おうかのう?」
「外で話を聞こうか? 事の次第では国王に伝えなくてはならんからな!」
そうマリリンがワシ等の盾になると、薬師協会の男は顔面蒼白で固まった。マリリンの怒りの顔はそれだけで威圧効果抜群じゃろうよ。
「イザーク、お爺様を連れて中に入るとええ。中で休憩が必要じゃろう」
「ありがとうございます」
こうして薬師協会を無視してワシ等は箱庭の中へと入って行った。 そして有難い事に、レディー・マッスルから冒険者を借りる事が出来たのじゃ。
箱庭内が落ち着きを取り戻すまで、農作物を取ってきてくれたりと、色々手を貸してくれる方々で、冒険者ランクは低いが若さと体力のある【ロクサーヌの雫】と言うPTが手伝いに来てくれていた。冒険者ランクはまだFランクらしい。
中にいた面々に関しては、お年寄りは数日かけて、若い人々は一日かけて後日箱庭を知って貰う事にしておいたので問題はないが、まずは休憩所と住処のある場所にと移動して貰った。
休憩所は元々大きかった為、全員は無理じゃが若い者達は数名別に用意した椅子へ座って貰い、後は何とか休憩所に座る事が出来た。
皆にレモン水を配り、各場所に氷の入ったレモン水が置かれると大変驚かれたが、ワシは気にせず「まずは水分補給じゃよ」と微笑むと、皆飲み始めた。
随分緊張していた筈じゃ。ここらで一息は大事じゃろう。
「さて、ワシがこの箱庭の主人であるハヤトじゃ。これから皆はこの箱庭で過ごして貰うが、分からぬことはワシや隣にいるマリリンの娘、マリアンや、大きな猫のアンジュに聞いて貰えたら助かるぞい」
「レディー・マッスルのギルドマスターマリリンの娘。マリアンと申します。皆様の生活のサポートも出来たらいいと思っておりますので、是非気兼ねなくお声掛けくださいませ」
「アンジュにゃーん♡ よろしくにゃーん♡」
喋る猫に驚きを隠せない者達も多かったが、それはそれ。
慣れて貰わねば困るというものじゃ。
ここにいる面子のファイルは貰ってきている。あらゆるスキル持ちが揃ったものじゃと感心しながらレモン水を飲んでおると、若い女性から声が上がった。
「私たちは、争いにはほとほと疲れました……。平和に過ごしたいと思っています。でも、お金稼ぎは大事だと思っているんです。たまには外にも出てみたい……。その辺りはどうなのでしょうか?」
「それについては、今から説明しようかのう」
そう言うと、ワシはこの箱庭について等の説明をし始めるのじゃった――。




