第16話 レディー・マッスルの面々と過ごす時間は濃厚じゃったわい
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マリアンの不登校の理由は、その見た目にあるのじゃと言う。
母親譲りの筋肉質な身体。それなのに控えめな性格が災いして、所謂イジメ令嬢……あちらの世界で言う所の、悪役令嬢に相当いじめを受けたらしい。
その上、実家が冒険者と言うだけで高い宝石などを要求。それを断ると、虐めはエスカレートしていったという。
「お母様たちに相談して……自分のしたい事が見つかるまでは好きにして良いと言われましたわ。その時始めたのが小説だったのです」
「そうじゃったのか……」
「今はハヤト様の身の回りの世話もありますから、学園に通っている時よりずっと有意義な時間を過ごせていますわ。学園の勉強は私がするところは勉強し終わってしまっていて退屈でしたし、かといって貴族との顔の繋がりを……と言われても、冒険者家業をしている実家には、貴族は挙ってやってきますから……」
「確かに、いく必要はないのう」
「行く必要ないのでしょうか?」
「そもそも、学園に何をしに行きたいか……ではないのか?」
それこそ、勉学がしたいから。友達を作りたいから。友達といたいから。そう言う理由で行っている者達だっておるじゃろうが、マリアンはその系統はなさそうじゃ。
貴族らしく顔繋がりを作らねば……と言うのも、マリアンの場合家がレディー・マッスルでは、貴族の方が頼みに来るレベルじゃ。
「そもそも、マリアンをいじめても、何の意味もない上に、下手をすればマリリン達がその家の依頼を蹴る事になるじゃろう?」
「はい、実際そうなってしまっていて、数名の貴族は、我がレディー・マッスルへの依頼が出来ない状態にあります。謝れても私が困りますので、謝罪は結構です。と伝えてありますし」
「なら、それこそが相手にとってはザマァじゃろうしな。貴族がレディー・マッスルに依頼が出来ぬというのは、それだけで家の恥じゃろう?」
「確かに、言われてみればそうですね」
「まぁ、放って置けばええ。その内、鼻水と涙を流しながら打音付きで謝罪にくるまで放置じゃ放置」
「まぁ。ふふふっ!」
「ま、今はそれすらも出来ない状態になっておるから、全貴族も、全国民も、猛省中じゃろうよ」
レディー・マッスルが消えたことによる混乱は、想像以上の恐怖を国民と貴族に与えたようじゃ。
なんでも、カズマとマリリンが婚姻したばかりの頃にレディー・マッスルがいた国は、ギルドが無くなってから程なくして他国に攻め入られ滅んだのじゃと言う。
それがジワジワと国民と貴族の間に広がっており、混乱を招いている……と言う訳じゃ。
「猛省すればええんじゃ。誰かの犠牲の上で何かがあるのなら、その誰かの犠牲と言うものを尊く思う事も、大事に思い直していくことも大切じゃ」
「はい!」
「まずは1カ月。何時通りワシの手助けを頼むぞマリアン」
「お任せくださいませ」
それからのマリアンは、ワシの世話をこれまで以上に焼いてくれた。
箱庭の見回りがある為、冒険者達が問題を起こさぬようにとナースリスとアンジェが見回りに行っている間、マリアンがワシの護衛と言う立ち位置になったのじゃ。
実際イライラして突っかかってくる冒険者もいたが、マリアンの拳1つでノックアウトしている姿には、なんとも戦う女性の美しさというか、何かを感じたのう。
いかんいかん。
これではカズマと同じ【筋肉女子しか愛せない症候群】になってしまうやもしれん。
しかし、頼り甲斐がありつつも控えめで優しいマリアンに助けられる日々は楽しかった。
半月もすれば、箱庭に居る面子全員の肌着が出来上がり、マリアンと2人移動しながら販売も行った。
行商とはこういうのを言うんじゃろうなと思いつつも、肌着は飛ぶように売れた。
箱庭の中で暫く生活する彼らには申し訳なかったが、箱庭の手入れが行き届いていない箇所まで綺麗にして貰えて、ワシとしては大助かりじゃったし、何より彼らは温泉を愛した。
古傷をも癒す温泉は大人気で、マリリンに「是非レディー・マッスルで使用許可を取って欲しい」と懇願する者達が後をたたなかったそうじゃ。
その為、今後も使う前に箱庭であちらこちら手の足りておらぬ場所を整えてくれるのならば安く貸し出す事を告げると、マリリンは直ぐに了承してくれた。
「でも、静かな温泉とはお別れですわね……」
「なに、静かな温泉でなくとも、ゆったりと入れればそれでええじゃろう」
「それはそうですけど」
「それより、掃除個所を増やしてしまってもし訳ないのう」
「いえ、この程度たいしたことありませんわ。私、可能ならこのまま箱庭に住みたいくらいですもの」
「ははははは! カズマ殿が許すかのう!」
「説得してみせましてよ!」
そう気合を入れるマリアンにワシは笑いつつも、次なる商品を作っていく。
冒険者とは、生活魔法が使える者達が多い事が分かった。
しかし、水洗いだけでは汚れは落ちぬのは道理で、ワシは肌に優しい【洗濯用洗剤】を作り出したのじゃ。
まぁ、ワシの作っておる自然に優しい洗剤と同じやつじゃな。
それを大量に作り、マリアンと一緒に使い方を説明して回り、洗って貰う事3日。
「汚れが薄くなった」「いい香りがする」「汚れ落ちが凄い」等と言う声を頂き、洗濯用洗剤は今後、レディー・マッスルに卸すことになり、尚且つ店でも売る事が決定したのじゃ。
肌着に洗濯用洗剤。
こう来ると、後はやはり……食器用洗剤じゃな。
あの人数が食べる食器用洗剤となると大変じゃ。
油汚れも酷いじゃろう。
こちらも、自然に優しく油汚れが直ぐ落ちるモノを改良して作り上げ、【食器用洗剤】を作り出した。
使い勝手はその道のプロに聞くのが良いと、台所を仕切る調理人たちに手渡し、使い心地を教えて欲しいと伝えてから直ぐじゃった。
「是非、レディー・マッスルに卸してください。後は店でも販売してください」
「これは革命だぞ!」
こうしてマリリンにも相談し、【肌着】【洗濯用洗剤】【食器用洗剤】の3つが、ワシの仕事と言う事になった。
とはいえ、これらは生活に根付いた物。
問題は……冒険者向けじゃった。
色々リサーチさせて貰ったが、一番欲しいものは【アイテムボックス】や【付与付きアクセサリー】と言ったもので、最も欲しい付与付きは【身代わりの護符】【帰路の指輪】【身代わりの華】と呼ばれるものじゃ。
【帰路の護符】は銅貨10枚。
【身代わりの護符】は銅貨50枚で取引されていて【帰路の指輪】の使用回数は50回と制限がある。
【身代わりの華】もまた、使用回数は30回で、金貨1枚で売られておるそうじゃ。
冒険者の必須アイテムでもあり、特に【身代わりの華】を持つ冒険者は上級ランカーじゃと言われているらしい。
作れんことはなかったが、コツコツと最初の【帰路の護符】から作り出し、やはり体1つでは出来る範囲が限られておる事を痛感していた矢先――国内の混乱は徐々に落ち着きを取り戻しておったが、国自体はお通夜状態じゃった。
どれだけ自分たちがレディー・マッスルに依存してきたか。
そして、どれだけ自分体がレディー・マッスルの面々に助けられてきたか。
どれだけ馬鹿にしてきたかを知った彼らは、ある意味充分反省したと言えるじゃろう。
なんとも愚かしいものじゃな。
それが人間の性と言えばそれまでじゃが。
「国民と貴族の様子をみると、1カ月もせず国外に脱出しようとする者達も現れそうだな」
「何故じゃ?」
「以前レディー・マッスルがあった国は滅んでしまったからね。ムギーラ王国もそうなるんじゃないかと国民も貴族も気が気ではないんだ」
「馬鹿じゃのう。じゃったら最初から大事にしておれば良かったものを」
とは言っても、人間とは同じ過ちを繰り返すから人間なのじゃと思い直し、ワシは小さく息を吐いて頭に巻いておいた手ぬぐいを結び直した。
しかし、マリリン達もこの国の状態ならば、そろそろ戻らねばならんじゃろうな。
また1人の時間が戻るだけじゃが、少しだけ物悲しく感じるわい。
「少し早いが、そろそろレディー・マッスルを元の場所に戻そうと思う。どうにも隣国で内部争いがあった様でな」
「キンムギーラ王国か?」
「いや、別の国だな。モルーツァ王国だ」
「ほう……」
「難民が挙ってやってくる可能性もある。我らの出番も増えるだろうからというのが国王からの書状だ」
「なるほどのう。わかった。近々戻られよ」
「すまんな」
こうしてマリリン達は3日後、ムギーラ王国に戻って行った。
また1人寂しく……とは言わんが、残されたワシだけではこの箱庭は広く感じ、アンジュに心配をかけてしまったが……。
「なに、元に戻っただけじゃよ。それに温泉にあの者達はこぞってくるじゃろうからな」
「でも、寂しそうですにゃーん?」
「ははは! 少々喧騒に慣れてしまっただけじゃ!」
そう言って、どこまでも広い箱庭の中の空を見つめ、小さく溜息を吐いたのは内緒にしたい所じゃがな。




