第15話 国民と貴族の混乱の中、ワシはそれよりマリアンの不登校を気にする
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【レディー・マッスルが本当にムギーラ王国から消えた!】
と、いうセンセーショナルな出来事に、国民は狼狽え、貴族は困惑した。
それもそうじゃろう。
何かあれば彼らが何とかしてくれると胡坐を掻いておったのだから、いざいなくなればそれは自分達に問題があると、国王は常々言っておったのじゃから。
それが現実となった今、国民は、貴族はどう動くのか。
その動向は、異世界テレビで外の光景を見つめるマリリン達、レディー・マッスルの面々にはどう映っているのかは分からんがの。
「凄い混乱事態だな」
「そうなるくらいなら、もう少し我々を敬って欲しかったものだな!」
「このまま一応1カ月は様子をみるが、果たして彼らはどう動いて、どう反省するのかにもよるな」
「その間ハヤトには迷惑を掛けるが、すまないね」
「構わんよ。誰かの犠牲のもとで平和があったという事を嫌でも気づかされた国民と貴族が反省をするなら、それでよしじゃ。そうでないのなら、愚かしいがな」
「確かにその通りだがな」
レディー・マッスルの拠点があった場所を訪れては愕然とする貴族。
レディー・マッスルの拠点があった場所を見ては言葉をなくす国民たち。
こうして、ワカラセ作戦はスタートしたのである。
幸いにして、レディー・マッスルの錬金部門だの彫金部門だの、各種部門に関してはワシの持つ拠点のアイテムを提供する事で、いつも通りの業務は行えた。
無論料金は貰うが「これほど箱庭に全てが揃っている場所は見たことがない」と驚いておったので、本当に必要な物が全て揃っておる箱庭なのじゃろう。
それもその筈、何せここは、伝説の箱庭師、リディア・ダンノージュの遺した箱庭じゃ。
その事を知る人は今のところいないが、アンジュはワシにピッタリくっついて護衛をしてくれておるし、ナースリスもワシの肩に止まって様子を伺っておるようじゃ。
『しかし、誰かの犠牲の上で成り立つ平和など危険極まりないというのに、人間とは愚かしいものですね』
「ナースリス、そう言うでないわ。人間とは失敗から学んでも、また同じ失敗を繰り返す生き物なんじゃよ」
「主が言うと説得力ありますにゃーん♡」
「平和とは何時までも続かぬもんじゃ。これがあるから大丈夫、と思っていても、その前提が崩れた時……人間の本性も垣間見ることが出来る。ワシはレディー・マッスルの面々が心配でならんよ」
そう口にしつつワシは肌着を延々と作っておる。
彼らに提供する為でもあるが、この箱庭では鎧を脱いで楽に生活して欲しいというのもあり、彼らは鎧を脱いでラフな姿で色々と箱庭の中の事を手分けしてしてくれておる。
薬草園を綺麗にしてくれたり。
畑を綺麗にて、皆が食べられる分だけを収穫してくれたり。
畑に関してはとても広い為、人数をかなり動員してやってくれておるようじゃ。
古傷が痛む者達は温泉に入って湯治し。
料理人たちは収穫した野菜を受け取り、見慣れぬ台所ではあったようじゃが、驚き感動しながらも料理をして旨い飯を1日3回提供してくれる。
レディー・マッスルの面々はかなり人数が多いが、それでも彼らを賄えるほどの、魔法の様な作物だらけで助かった。
『過去、リディアがこの箱庭を使っていた時は、大人数の箱庭の人員プラス、料理系のお店への食材提供、及び、孤児院への食材提供までしていたんです。まだまだ大丈夫ですよ』
「そいつは凄いのう……。しかし飲食店か、ワシがそこまで達するにはまだまだスキルが足らんな」
「今の主は肌着制作だけで手一杯ですにゃーん♡」
『コツコツ出来る事を増やしていけばいいのです。レディー・マッスルの面々も手伝ってくれる方は手伝ってくれるでしょうしね』
「とは言え、取り敢えずは1カ月の様子見じゃ。この関係も1カ月程度で終わるじゃろうな」
「寂しい事仰りますにゃーん……」
『まだ先の事は分かりませんよ……。冒険者だったけれど、自分は冒険者に向いていないという方々もいるかもしれませんからね』
確かに新人冒険者達や、ランクがもう上がらない冒険者達はそう思うのやもしれんが、彼らもあってのレディー・マッスルじゃとワシは思っておる。
それに、ワシも戸籍上はカズマとマリリンの養子じゃしな。
ワシも一応、レディー・マッスルの一員と言う事じゃ。
異世界テレビにくぎ付けの者も多いが、やはり外では混乱が続いておる様で、今後どこに依頼を出せばいいのか分からぬ者達や、本当にレディー・マッスルはムギーラ王国から消えたのかと困惑する者が多数でておるようじゃ。
「何時までもあると思うな、親と金。という言葉があるが、それに似た状態が、今のムギーラ王国の国民たちに圧し掛かっただけじゃ」
「一番頼りにしていた我々が消えたことで、本当に何が大事だったのかを理解させるという点では、彼らにはいい薬だろうね」
「カズマも1カ月は仕事を休ませて貰えたから、私と一緒に居られるな!」
「そうだねマリリン!」
「砂糖を吐く様な甘いのはワシのおらん所でしてくれよ? ワシには少々刺激が重いぞい?」
「「ははは!」」
異世界テレビを見ながら笑い合うマリリンとカズマ。
ワシは小さく溜息を吐いて「全く、仲の良い事じゃ」と口にして仕事をしておると、ワシの様子をジッと見つめてくるマリリンの子供たちの目線は興味津々と言う感じじゃ。
「ロストテクノロジーなんて、そうみられるものじゃないからな」
「こうやって作られていくんだな……」
「光の玉の中がみれないのは残念だが、アイテムが出来上がった途端パンッという音と共にアイテムが出来上がる……。不思議な光景だ」
「俺もそんな超激レアスキルがあればなぁ……」
「お兄様、お姉様、ハヤト様の邪魔ですわ!」
「「「「マリアン!」」」」
「さっさと散ってくださいまし!」
そうマリアンが口にすると、妹には弱い兄弟たちは「つい見いてしまい悪かったな!」「頑張れよ!」「応援しておりますわ!」と去って行った。
「すまんなマリアン。助かったぞい」
「皆さんハヤト様に近すぎでしたもの。あれでは集中できませんわ」
「その通りじゃがな……」
「それと、少し休憩に為さいませんか?」
「おっと、もうそんな時間かの? では少し休憩をはさむとしよう」
「定期的に主を休憩させてくれて、ありがとにゃーん♡」
「アンジュ様……。私に出来る事はなんだってやりますわ!」
こうしてアンジュと共に休憩所で本当の意味での搾りたてジュース、ただし生温いを飲みつつ過ごすことになるのじゃが、マリアンは小さく溜息を吐いて少し遠い目をしておる。
何か気がかりなことでもあるんじゃろうか?
「どうしたマリアン。少し元気が無いように見えるが?」
「そう……ですわね。なんと答えていいやら……。実は私、不登校なんです」
「不登校?」
「学園に馴染めなかったんですの」
思わぬ言葉にワシは目を見引くと、マリアンの事情を聞くことになった。
このマリアンが、気立ての優しいマリアンが不登校……。
一体何があったというのじゃろうか……?




