第14話 温泉での悪だくみと、国民と貴族へのワカラセ作戦
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どうしてこうなったんじゃろうか。
ワシは現在、筋肉に囲まれて温泉に浸かっておる。
筋肉に囲まれてと言うと語弊があるかの?
取り敢えず、物凄い筋肉のマリリンの兄、ジャックと【レディー・マッスル】の経理などを束ねておるマイケル、そして……。
「あ――。昔家族でいった温泉より気持ちがいいですねぇ……」
「カズラルもそう思ったかい? 炭酸風呂って言うんだよ」
「シュワシュワしてるのがなんとも堪らないな……」
「こう、全身がリラックスして筋肉すらもリラックスしているというべきか」
「「「「あ゛――……」」」」
と、カズマとその息子のカズラルまでやってきて、大きな温泉とは言え、筋肉が2人大きいと、5人でも若干狭さを感じなくもないのう。
しかし……気持ちがいい。
温泉は最高じゃぁ……。
「ふむ、あらゆる効能があると聞いて居たが古傷が治ったな」
「マイケルもか? 俺もなんだ」
「俺は万年肩こりと眼精疲労が治りましたね」
「僕には良く分かりませんが、身体が元気になった気がします」
「ふぇっふぇっふぇ……。これが温泉の凄さの1つじゃよ。古傷も治る。持病も治る。湯治を強くした感じと言えばええのかのう……。取り敢えず体に兎に角ええんじゃわ」
「この温泉を貸し出すだけでも巨万の富を築けるぞ?」
「ワシは巨万の富が欲しい訳でもないからのう。この温泉は……本当に困っている人が使うべきじゃと思っておるわい」
そうじゃとも。
金持ちに食い物になんぞされてたまるか。
この温泉を使う時は、本当に身体が不自由な人や、治したくても治す事が出来ない古傷を持つ者など、生活や冒険者家業に支障が出る者達になら、貸してもええと思っておる。
それを伝えると「何だかんだと、ハヤトは優しい子だな」と頭を撫でられ、思わず「子ども扱いをするでないわい」と言ってしまったが、ワシの見た目は現在幼いのは間違いなく、子ども扱いされるのは仕方ないんじゃがのう。
隣の女風呂からはマリリンとマリアンの乙女トークも聞こえてくるが、馬の耳に念仏じゃ。女の秘密話を聞いて居たとして、碌な事はないからのう。
「しかし、この温泉に入れば不治の病と言われている【MP欠乏症】が治るんじゃないか?」
「ああ、確かにそうだな」
「MP欠乏症とは?」
「体からMPが常に流れて止まらない病気だよ。突発的に掛かる病気でもあって、高いアイテムを使わないと治らない病気なんだ」
「しかも、その値段がバカ高いアイテムを最低でも5年は使わないといけない。金持ちですら子供を諦める家もあると聞く」
「なるほどのう……」
「少なくとも、温泉に入ればその速度は弱まると研究結果が出ている。だから我がレディー・マッスルは治癒目的の為にも温泉街を作ったんだ」
なんと、レディー・マッスルは自分たちで温泉街まで作ったのか。
本当に凄いのう……。
しかも、自分たちが使うという目的ではなく、正に湯治の為の温泉か。
「力ある者は、力なき民の為に何かを用意しなくてはならない。貴族のアレコレではないけど、それに近しいものは世界最強ギルドには圧し掛かるんだ」
「カズラルの言い分じゃと、余り納得はしておらん様子じゃな?」
「そりゃね。自己本位の貴族がわんさか来たら、本当に湯治で来ている人たちの迷惑になるし、実際問題になってる。僕もお父様も頭を抱える問題なんだ」
ワシとあまり年の変わらぬカズラルが此処まで考えるとは。
いや、年が変わらぬと言っても、カズラルは10歳じゃがな。
随分と大人びた考えをしているものじゃ。
しかし貴族とはやはり好き勝手しておるようじゃの。
世界第一の冒険者ギルドをもってしても、貴族問題とは頭の痛い事じゃろうな。
「貴族問題は今に始まった事ではないが……。最近特に目に余る」
「それだけ平和になったという事だろうが、その平和の上に胡坐をかいていては、いつ何が起きても可笑しくはない」
「それは国民にも言える事だがな。なんでもうちのギルドが何とかしてくれると思って貰うのは……些かな」
「無論頼られるのが悪い事ではない。だが、全ての責任をも押し付けてくるのは割に合わんぞ」
「なら、いっそ一時でもレディー・マッスル自体が国から消えたとなったらどうなるじゃろうな? 平和の上に胡坐をかいていた者達は、どうでるじゃろうなぁ?」
クスクスと笑いながらそう告げると、それは思わぬ事じゃった様でジャックとマイケルは顔を見合わせておる。
「平和なんぞ直ぐに崩れるもんじゃ。それを理解してない国民と貴族は大慌てじゃろうな」
「それは面白い事かもしれんぞ?」
「ああ、ハヤトの箱庭があれば出来る事かも知れん」
「ワシのか?」
「一時的に、箱庭にレディー・マッスルを保護してみないか? 礼金は弾むぞ?」
「陛下も巻き込んだ、国民と貴族へのワカラセと言う奴ですね」
「ふむ……。それは中々に刺激がありそうじゃわい」
レディー・マッスルに依存していた彼らがいなくなったら、国民はどうでるのか。
暴動か? それとも混乱か?
「反省して理解して貰えれば戻る。しかし、そうでないのなら?」
「暫くはハヤトの箱庭に籠って……様子見だな」
「店はどうする」
「店は臨時休業さ」
「中々に面白そうじゃ。そう言うやり方で協力を願うのならば、国王の許可があればワシは構わんぞ」
――こうして、ムギーラ王国の国民たちが【レディー・マッスル】に全てを依存している事をワカラセる為に、国民と貴族を反省させる為に、動くことになった。
事態を聞いたマリリンは「それは面白そうだな! 広い土地があれば助かる!」と言うので、1か所ポカンと空いた広場を使う事になり、カズマは国王に相談。
国王もレディー・マッスルに依存する貴族と国民をワカラセル為で、ちゃんと戻ってくるのならと言う約束付きで、レディー・マッスル達を我が箱庭に入れる事へなった。
そして運命の日。
散々国王からも「このまま国民と貴族がレディー・マッスルに依存し続ければ、彼らは国から居なくなる」と浸透させてからの――皆が寝静まった時に、マリリンのレアスキルで、レディー・マッスルの拠点を収納した。
そのまま城の一部を借りて箱庭を展開しているワシの元へと戻ってくると、広場に拠点を出し……冒険者含むレディー・マッスルに所属する全員が箱庭で暫く生活する事になる。
――さて、平和ボケした国民と貴族は、この事態をどう見て動くのか……実に楽しみだのう?