第13話 ムギーラ王国における、レディー・マッスルの立場
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レディー・マッスルの冒険者の者達には色々世話になるようになった。
しかし、彼らは時折憂いの表情を見せている時がある。
酒場から出ない冒険者もたまにいるらしく、一体どうしたのかとマリアンに聞いてみた所、意外な答えが返ってきた。
「なに? 住人や貴族が、レディー・マッスルを侮辱しておる?」
「侮辱……とは若干違うのですが、ていのいい便利屋……と言う扱いでしょうか」
「ふむ」
「金さえ出せばなんでも言う事を聞く冒険者……と言うのもあるのかも知れません。確かに冒険者は金を支払って貰い依頼を受けますが、それは住民や貴族にしてみれば、いい道具のような扱いになるのかも知れないですね。感謝は確かにされど、失敗した時の違約金の高さには私もどうかと思いますし、かといって『レディー・マッスルがいるからこの国は安泰』と胡坐を掻いている部分もあるんです」
そう答えたマリアンにワシは暫し考え込んだ。
確かに昨日まで元気いっぱいじゃったのに、何があったのか翌日イライラしておったり、憂いを見せた顔をしながら冒険にいく者達を何度か見た為、可笑しいとは思っておったのじゃ。
本当にそこまで住民や貴族たちはマリリン達冒険者を、ていのいい道具とでも思っておるのか?
「その、いて貰えば国は安泰……と言うのはどういう事じゃろうか?」
「はい。以前レディー・マッスルはお父様とお母様がご結婚されて直ぐの時、別の国にあったそうなのです。ところがそこの王族と揉めまして、その国からレディー・マッスルは撤退し、今のムギーラ王国に根付きました。ところが……その後、元ギルドがあった国は滅んだと言われています」
「滅んだのか……」
「元々他国に狙われていた小国だったそうですが、世界第一位の我がギルドがあったからこそ、保てていた平和と言うのはあったそうなのです。その為、レディー・マッスルがいる国は安泰だと言われていて」
「しかし、国民も貴族も、その安泰に胡坐を掻いてしまっている訳じゃな?」
「ええ。お兄様やお姉様達も、たまに貴族の方とも言い合いになる事もあるみたいで」
そう言って溜息を吐くマリアンに、ワシは実施の所どうなっておるのか、それから数日異世界テレビにてレディー・マッスルの冒険者がどう生活をおくっておるのか。
また、どんな事を言われておるのか調べる事にした。
別段そこまでしなくとも……とは思ったが、気になると調べないと気が済まない。
難儀な性格じゃと思いつつも、異世界テレビの前に座りアイテムを作りつつ見聞きしておると――。
『いやー。レディー・マッスルの冒険者達は質も良いが礼儀もシッカリしている。他の冒険者ギルドとはやはり違うよ』
『そうだな。それに冒険者ってのは金させ払えば何でもして貰える。楽なもんだよ』
『世界第一位のギルド面々を兼ね1つで動かせる。偉くなった気分だよなぁ』
『寧ろ、奴らは金さえ貰えれば尻尾を振って仕事をするだろ? 金を払えば仕事をしてくれる冒険者は、ていのいい奴隷だよ』
その一言に眉を寄せた。
そんな言い方をする者達がいるとは思ってもいなかったからじゃ。
冒険者達は確かに依頼を受けるが、街を護る為に、国を守る為に魔物を間引いたり、倒したりと命がけの事をしておるのじゃ。
それを、ていのいい奴隷等と……良く言えたものじゃな!
『滅多な事をおおいでないよ。レディー・マッスルの冒険者が聞いたらなんていわれるか』
『そうだよ。今でこそムギーラ王国に根付いてくれているけれど、亡国みたいにレディー・マッスルが拠点を移動してムギーラ王国が亡くなったりしたらどうするのさ!』
『カズマ様もいらっしゃるし問題ないだろう』
『そうそう、好きなように俺達が顎で使ってやるんだよ。金をちらつかせてな』
『はははははは!』
――下劣共めが。
思わず握っていた拳に力が入る。
ワシの為思って色々と持ってきてくれる冒険者や、マリリン達を思えば、どうしても許せる言葉の数々ではなかった。
確かに、この言葉を我慢しながらも冒険者として仕事をしておるのは、相当なストレスじゃろう。
いい事があっても、このような悪意を受ければ笑顔さえも消え失せる。
今まで見てみたアニメや漫画や小説では、冒険者とは有難がられるモノじゃと思っておった。
しかし、このように冒険者であるが故に、下に観られ馬鹿にされ……そんな事がある事を初めて知ったのじゃ。
虚しさと怒り。これは言いようのない物でもあった。
そんなある日、温泉に浸かりに行こうかとしていると、冒険者の兄者たちから声を掛けられた。
なんでも「今から俺達も風呂に入るから一緒に」と言うお誘いじゃった。
「俺も故郷にお前くらいの弟がいてさ。たまに懐かしく兄貴面させてくれよ」
「俺もこれくらいの年の弟を残して、他国からレディー・マッスルに入ったんだよな」
「元気にしてっかなぁ」
そう語る兄者たちの願いを断るのも気が引ける。
幼い弟を想う心は大事じゃと思うし、何よりそれで気がまぎれるのならばと、了承した。
「兄者たちは、家族の元に仕送りとかしておるのか?」
「してるぜぇ? 冒険者に憧れたってのもあるけど、大半の奴らは生きる為に、もしくは、仕送りの為に冒険者になった……って奴の方が多いんじゃないかな」
「俺もその口だな」
「なるほどのう」
そう語っておると――。
「お、お前等も今から温泉か! 俺達もなんだ!」
「ジャ、ジャック様にマイケルさん!」
「お疲れ様っす!」
「おう! ハヤトも今からだったか、よし! 一緒に入ろうぜ!」
「う、うむ?」
「男同士、ゆっくり裸の付き合い……。やっぱ最高だよなぁ‼」
そう言うとジャックはワシを米俵抱きすると、そのまま皆と温泉へと歩いていく。
「ワシは一人で歩けるわい!」
「歩幅の問題だ! 俺が担いでいった方が早い! ははははは!」
「ぐぬぬ……」
「あ、今から温泉かい? 俺とカズラルも入るよ」
「いいねぇ! 全員一緒にお楽しみタイムだぜ!」
「温泉はゆっくり入って下されよ……」
そう言いつつも、マリリンの家族及び冒険者達と一緒に風呂に入る事になるのじゃった。
しかし――。