第10話 誰の箱庭を受け継いだのかは教えられぬがの?
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ワシの熱は三日で収まり、ようやく城へ赴く前に……マリリンとカズマに、ワシの受け継し箱庭を見せる時がやってきた。
ミセス・マッチョスの三人は別件があるとかで、今回この二人だけという訳じゃ。
空いた一つの部屋を借りて、そこにドアノブを回す感じで箱庭へと続く扉を開く。
金色に溢れる光に二人は驚いておったが、ワシが中に入ると続いてアンジュが、そしてマリリンに続きカズマが入ってきた。
「ここが、ワシの受け継し箱庭じゃよ」
「これは……凄いな」
「聖なる聖域という奴だな……。私も早々入る事の出来ないエリアだ」
「聖域?」
「ここには神が住んでいるのだろう?」
その言葉に、ワシの首に巻き付いておったナースリスが光の玉に戻り、ふわふわとワシの回りを飛んでから肩に降り立った。
『賢い人の子よ。良くぞ解りましたね』
「ハヤト君、これは……」
『私はテリサバース女神に仕える神の一人、ナースリス。ハヤトの守護者でもあります』
「「ハヤトの⁉」」
『そして、そこの猫なる者は、神より賜りし卵から生まれたハヤトの一部。いうなれば、神獣と呼んでいいでしょう』
「そうじゃったのか⁉」
「そうだったのにゃーん♡ ハヤトの為に生まれた唯一無二にゃーん♡」
ワシすら知らない事実がまだあったようじゃ。
そうか、アンジュはワシの一部、ワシの神獣じゃったか。
だから巨大化した上に暗黒竜の腕を爪でスパーンと切り落とせるわけじゃ……。
『この度は、目が溶けそうになっているハヤトを助けて下さり有難うございます。流石レディー・マッスルのギルドマスター、マリリンですね。破損部位修復ポーションをお持ちとは流石です』
「ワシ、目が溶けそうになっておったんか……」
初めて知る事実。
これは流石にマリリンには足を向けて眠れんぞ!
『そしてカズマ。貴方はムギーラ王国の相談役として、この地に根付きし異世界人。いわばハヤトの先輩です。そのハヤトの願いは一つ……一人でのんびりスローライフを送りたいという慎ましいものですが、この箱庭を見ての通り、一人では到底無理でしょうね』
「確かに、ここは誰かから受け継いだと少し聞いたけれど、誰から受け着いたのかは教えて貰えるのかな?」
『それを言えば、間違いなく他国との争になりますよ?』
「そうですか……。では、そこは敢えて聞かない方が良さそうですね。我が国に火の粉が降りかかるのは良しとしません」
「降りかかる火の粉があれば、アンジュが暗黒竜の腕みたいにズバーンと切っちゃうにゃーん♡」
「はは、沢山人が死にそうだ!」
「カズマ、笑顔で言うべき事ではないぞ? 暗黒竜のなかった腕はもしや……」
「アンジュがズバーンしちゃったにゃん♡ 主のアイテムボックスの中に宝珠と一緒に入ってるにゃん♡」
「おお、それは凄いな! 陛下にハヤトから献上するといい! 何かしら便宜は図ってくれるだろう!」
確かにワシが生きていくには多少の便宜は必要か。
何よりスローライフを一人味わいたいのに、一々人を増やせ等面倒じゃのう。
人を増やしたらワシのスローライフがヘビーライフになじゃろうがい!
『ちなみに、ハヤトは【ロストテクノロジー】持ちです』
「「なっ⁉」」
「何故それを言うんじゃ!」
『貴方を助けてくれたマリリンさんとカズマさんに恩返しすべきです! 困っている事等ありましたら、是非ハヤトに言ってみてください。きっと力にさせて見せます!』
「嗚呼……ワシのスローライフ……」
「スローライフが出来ないと諦める事はない! 異世界ファンタジーの王道では、自重なんて言葉を無視して好き勝手している転生者も多いのを日本にある本で学んだ!
つまり、本能の赴くままに作品をまずは作るんだ! 商品でもなんでもいい! 自分で稼いだ金があれば人生楽しくなる! そうだとも‼ ここは異世界‼ ハヤトよ! 貴様の好きにやってみるがいい! 物と言う物を作ってみるがいい! 品物チェックは私とカズマ、そして私の子供達のメンツでやろう!」
確かに一番納得できる人選じゃ。
カズラルとマリアンは子供じゃし、子供視点の物が色々作れるやもしれん。
問題は……。
「どの商品をまず作るか悩んでおるのじゃよ。冒険者をしていて困る事は何かあるじゃろうか?」
「そうだな……。まず、ダンノージュ領にあるサルビアと言う店から肌着を取り寄せて買っているのだが、私達のようなSランク冒険者筆頭ともなると、戦う相手も強くてな……。サルビアの店で買う肌着では1日も耐え切れないのが問題だ。発熱性、発汗性は確かにいいのだろうが、耐久性がないのなら意味がない」
「なるほど。やはり耐久性じゃな。一般市民ならまだしもとは思っておったんじゃ」
「かと言って、この世界で流通している肌着では脆い。
故に私はカズマにおねだりしてあちらの世界の肌着を購入しているのだが」
「綿100%じゃな?」
「良くぞ解ったな! だが問題がある。私のサイズが本当に無いのだよ……」
じゃろうな……。
とは流石に言えなかったが、他のマリリンの子供達もまた、肌着には困っておるようで……。
それならばと、身体のサイズを測ったメモ帳を貰えば、こちらで肌着くらいは作ろうと約束した。
そもそも、この世界の身体の大きさの基準が、最初に出くわしたのがマリリン達の所為で分からんのじゃ。
それをカズマに零すと、カズマは笑ってサイズを教えてくれた。
「そうだね。この世界の住人は海外サイズのS、M、Lが普通かな。たまにもっと大きい人もいるけど、本当にそれくらいだよ」
「なるほどのう。その為にもまずはマリリンとカズマの血縁者及び、ミセス・マッチョスの面々のサイズもお願いしたいのう」
「分かった。マリリン、いいかい?」
「うむ。だがミセス・マッチョスの面々にも、君が【ロストテクノロジー】持ちだとバレるが、それはいいのかね?」
「この際、どうしようもないじゃろうて」
諦めの境地……とは、こういう事を言うんじゃな。
取り敢えず物づくりは楽しいし、やろうとしていた所に暗黒竜の襲来があったからのう。
少しずつでも物づくりをして形にしていきたいわい。
「もし綿100%の肌着がサイズ合わせてかなりの数出来たなら、我がレディー・マッスルの持っている店で売ってやろう。無論、肌着だけじゃなく、私達の目を通して了承が出た物に関しては売ってお金を手渡そう!」
「ほう、これまた偉く破格の待遇じゃが」
「ロストテクノロジー持ちだ。囲いもするさ!」
なるほど。
余程この【ロストテクノロジー】は持っているだけで危険なものなんじゃろう。
故に、元の持ち主であったリディアも引き籠っていたと……。
「あい、分かった。そう言う事なら守って頂こうかの」
「それに、君は見た目が5歳か6歳。まだまだ大人が保護するべき年齢だ」
「むう、それもあったな」
「安心して守られるといい。俺もマリリンには守られているからね。何だったらマリアンに守って貰うかい?」
「マリアンに?」
「あの子は気立ても良いし料理も出来るし生活魔法も使える。ただ、他の兄弟たちに比べて攻撃に向いていないというだけで。その辺の雑魚ならマリアンの拳とスピードで一撃ノックアウトさ!」
他の兄弟……。
嗚呼、あの脳みそ筋肉共か。
確かにあの者達と比べたらマリアンとカズラルは理性的じゃ。
それにマリアンの強さは知っておる。
何せ林檎を片手で搾ってくれる握力ある令嬢じゃ……。
なんとも生温かいリンゴジュースは忘れられんのう……。
「そうじゃな、マリアン……くらいなら、まだ……うん」
『それなら、ムギーラ王に暗黒竜の宝珠付きの腕を献上してから、マリリン達に何時でも箱庭に入れるブレスレットを作って差し上げればいいわ』
「そうじゃな……。うん、そうじゃな」
「極力君の邪魔はしない。が……温泉の独り占めは良くない」
圧のある笑顔でカズマに言われてしまった……。
く……。1人ゆっくりのんびりの温泉が……。
まぁ、カズマと2人で入る分には文句はないが。
「分かった、交渉成立じゃ」
「では、明日の朝陛下に謁見を」
「その後、ブレスレット作りじゃな。やれやれ、部屋は此処の部屋を借りるぞい」
「ここはハヤトの部屋にしてしまえばいい。入れるのはブレスレットを持つ者のみ」
「それでお願いしたいのう」
こうして翌朝、ムギーラ王国の城へと赴き、暗黒竜の宝珠付きの腕を献上し、ワシはレディー・マッスルが一番の保護者と言う事になった。
ミセス・マッチョスは他の仕事が忙しい故に、難しいと判断されたらしい。
ともあれ、家に帰ればブレスレットを作り、カズマ達親子4人分を作ると、ワシはやっと一息つくように箱庭に戻った。
「疲れた……。こういう時は温泉じゃな」
「温泉入ってくださいですにゃーん♡」
『温泉入り終わったら早速肌着を作りましょう! 貴方の力があれば数百枚なんてあっという間です!』
「~~頑張るぞい‼」